ZEST SEVEN
カラン……
疲労も落ち着き、B-3の地点に戻ってきたディス・アストラナガンは落していたZ・Oサイズを拾う。
ガンスレイブの補充には至っていないものの、竜王機に受けたダメージはもうほとんど再生している。
「さて、これからどうするかな……」
フム、と独り言をこぼすクルーゼ。彼は
狂気の男でもあるが、同時に冷静な男でもある。
「南に、いたような気もするが……」
彼は潜伏していたときに、南に機体の反応のようなものを見つけていた。
薬の時間をチェック。あと20時間は服用しないでいい。
「行ってみないことにはなんともいえんな」
バサリ、と大きな翼を広げ、ディス・アストラナガンは悪意を撒き散らすために空に浮き上がった。
「これは!?」
「ん……ブンちゃん一体どうしたの?」
見張りのためレーダーを見ていたブンタにうつらうつらしていたミオが話しかける。
「レーダーに反応があります!しかもこの辺一帯にまっすぐ凄いスピードで飛んできています!」
「まっすぐ、だと?それは相手がおそらく気付いているな」
マシュマーが経験に基づいて説明する。
「相当の素人ならともかく、それほどのスピードでまっすぐ迫るとなったら、相手に気付いている場合だけだ。しかし、この戦いに乗っているのか、それとも助けを求めているのか……」
「マシュマーさん、どうするの!?」
「最悪の事態を心がけて動くのがジオン兵の基本。相手が襲い掛かってくる場合、私とミオ・サスガの機体では……残念だが危険だ。隠れるしかない」
「ということは僕が上に出て接近する機体の相手をするんですか?」
「そうなるな……すまない」
「で、でも私たちにもできることがあるんじゃ……」
おじおずとミオが進言するが、マシュマーはそれを却下。
「隊において弱者は悪。なぜならば戦いにおいて一人の愚者が隊全体を死に追いやることがよくあるからだ。私たちが手を出すことで余計危険になることはさけねばならん。」
「わ、分かったわ……」
「分かったのなら急いで隠れろ!いつも行動は迅速にを心がけるんだ。そちらはエンジンを温めていつでも行動できるようにして川の上3mくらいにいるのがベストだ。聞いて答えなかったらすぐに避ける準備をしろ」
司令官さながらにマシュマーが命令を飛ばす。
そして魔の時が訪れる。
「やはりまっすぐ飛んできますか……」
それを見てブンタが静かにつばを飲む。緊張が体に広がっているのがよく分かった。
もう目視できる。黒い機体が翼を広げこちらに向かってきていた。
「そちらの機体にご質問させていただきます!そちらは戦いをどう思ってますか!」
ブンタが呼びかけるものの、まったく答えが返ってこない。
突然黒い機体は銃のようなものを取り出し、ドッゴーラに銃を打ち込んでいた。
「危ない!マシュマーさんの言うとおりしておかなければ危険でしたね……」
ギリギリのところでドッゴーラはそれをかわす。
「マシュマーさんの言っていたことを思い出しましょう……!」
そう言って静かに目をつぶる。
(打ってきたら……残念だが躊躇するな。全力でかからねば勝てる敵も勝てなくなる。)
「いきますよ!」
ビームガンを相手に打つが、あっさり相手もそれをかわす。
「まだまだ!」
ひたすらビームガンの連射。基本的をドッゴーラにはそれしかない。しかし、これは巨体の割りにEN効率もいい。
これか繰り返しつつ、気付かれないようにじょじょに接近、一気に撒きつきで動きを止める。
これがブンタの考えた戦い方だった。後ろに下がれば2人が見つかったり、流れ弾でダメージを受けるかもしれない。前進に主眼を置き、かつ殺さない戦い方。これ以上はないだろう。
「…………」
クルーゼも無言。うすうす作戦には気付いているが、引っかかる所があるからだ。
あえて相手の作戦に乗り、ラアムショットガンのみを使い、牽制するかのように戦う。
ガァン!
「うっ!ですがまだ負けませんよ!」
後ろにいた2人のことも考え、避けることではなく耐えることに比重を置くブンタ。ショットガンが肩口に当たるが、前進をとめない。
「……なるほど」
しかし、ブンタはクルーゼが薄く笑ったのには気付かなかった。
(よし、このままでしたら……)
しばらく続き、確実に、堅実にドッゴーラがディス・アストラナガンに近づく。ショットガンが肩口に当たってから、なぜかディス・アストラナガンの攻撃は弱まっており、あと10m。
それだけ近づけば巻きついて勝負を決することができるだろう。しかし、不思議に思うことがあった。
相手の力量は機動兵器に乗ったことのないブンタでも一流と分かる。いなすように避け、一瞬の隙を突く。生身でもそれは難しいことだ。
それを目の前の兵器は行っている。
「なぜゲームにそれほど高い腕を持つあなたが乗っているのですか!?力を合わせれば主催者を倒すことも出来るかもしれないというのに!」
「主催者など、どうでもいいのだよ!等しき運命の破滅を人に与えられればそれでいい!」
「あなたって人は!!」
「癇に障るセリフだな!君も、ずいぶんあんまりじゃないかね?一度声をかけて、すぐに応戦してるじゃないかな!?」
「そ、そうですが、」
「いや、それともすぐに応戦しなければならない理由があったのかな!?例えば後ろにいる仲間を守るためかね!?」
「「「!!」」」
3人が同時に凍りつく。
ディス・アストラナガンは森のある一点を狙いラアムショットガンを撃つ。
「え、ええ!?」
何かがいきなりそこを動いた。ボスボロットが森から現れたのだ。
「くっ!」
ドッゴーラが素早く盾になるために割り込もうとすると、
ヒュン……ヒュン……
何か小さいものがドッゴーラの周りを回っている。それは一斉に光を吐き出した。
ガンスレイブを牽制合戦のときにこっそり射出し、闇に紛れ込ませていたのだ。
「うわああああぁぁぁ!!?」
腕を組み、防御の姿勢をつくって耐えるドッゴーラ。
「少し君には眠っていただこうかな?」
いつの間にか後ろに回っていたディス・アストラナガンがZ・Oサイズを抜き出し、先ほどダメージを受けたドッゴーラの肩口に刃を滑りこませる。大きく切り裂かれるドッゴーラ。
「システム異常!?」
小さな爆発を起こし落下するドッゴーラ。それですんだのは幸いだったかもしれない。
「さて……」
ディス・アストラナガンはボスボロットのほうに向きなおし、肩を展開。
「メス・アッシャー、フルシュート!!」
ボスボロットでは避けようとしても、分が悪い。ちょうど進行方向に向けてメスアッシャーが放たれる!
「嘘……そんな……」
威力を見れば食らったときどうなるか分かる。避けられないことも分かる。
ミオは咄嗟に目をつぶる。
閉じた目を通して強い光が分かるが―――
「―――?」
ボスボロットに届かない。ミオが目を開けると―――
「ネッサーバリア、全開!」
なんとあれほどの熱量のビーム砲を小柄なネッサーのバリアが防いでいる。
「マシュマーさん!」
「ミオ・サスガ!急いでここからどけ!」
「で、でも……」
「でも、もない!私は大丈夫だ!急いで離脱しろ!うおおおおおおおおお!!」
ネッサーのエンジンを限界まで回し、すべてのエネルギーをバリアにまわしている。
「…………!」
急いでボスボロットはそこから離脱。
「私はもう大丈夫!マシュマーさんも……ッ!」
ミオが振り返る。そこには無残な姿のネッサーがあった。バリアは押し返され、首はもうバリアの外にあり、どろどろに溶けている。
「マシュマーさん!大丈夫じゃなかったの!?」
泣きそうな声でミオが叫ぶ。
「ミオ・サスガか……ハマーン様に先に逝くことをお許しくださいとお伝えしてくれ……!」
メスアッシャーの熱気のせいか、マシュマーはまるで熱病にでもかかっているかのように凄い量の汗をかいている。
「いやだよ!あれほど言ってたじゃない!ハマーンさんに会うって!どうしてあたしを庇ったの!?」
「子供のようにわめくな、ミオ・サスガ。弱いものを救うのは騎士の役目だろう?」
憔悴しきった顔で笑ってマシュマーが言う。
「では、頼むぞ!」
マシュマーははっきりそう言った。
ジュ……
決壊に耐えていたダムが崩れるように、バリアが溶けると同時に熱線がネッサーを包んだ。
「いやぁぁーーーーー!!」
ミオの叫びがその場に響いた……
「悲しむことなどないのだよ!君も破滅を受け入れたまえ!そうすればすぐに同じところに送ってあげよう!!」
クルーゼはそれを見て興奮しているのか、上擦った声を上げてZ・Oサイズを振り上げ、ボスボロットに迫る!
肩からメスアッシャーを長時間撃った反動か、煙を上げながらぐんぐん近づくディス・アストラナガン。
「もらっ……」
「やらせませんよ!」
鎌を勢いよく振り上げたとき、システム異常が治り、ドッゴーラが地面をこするように突っ込んでくる。
思い切り肩からドッゴーラがディス・アストラナガンに体当たりを仕掛ける!ぶつかった反動でドッゴーラの肩が砕け、バラバラになる。しかし、そんなことを気にせず、テールラッドを素早く巻きつけた。
「……捕まえ、ましたよ」
疲れた声でブンタが言う。
「捕まえた、か。ハハハ……」
「何がおかしいのよ!あなたのせいでマシュマーさんが……」
「そうだ、その通りだ。だから笑っているのだよ。そのマシュマーを殺した私が憎いのだろう?何故私を殺さないのだ?」
「何を言うんですか……!」
語尾を強くし、テールラッドに加える力も強くするブンタ。しかし、押しつぶすまでは行かない。
「甘い!実に甘いな!!それでは足元をすくわれても仕方がないな!!」
「突然何を!」
「……!!ブンちゃん!胸!」
ミオに指摘され、ブンタがディス・アストラナガンの胸を見る。
そこには紫に近い色の赤が胸からもれている!!
ブゥン!!突然ディス・アストラナガンの体の回りに謎の斥力が発生し、テールラッドを緩ませる。
すかさず機を逃さず逃れ、距離をとるディス・アストラナガン。
「テトラクティス・グラマトン……!!」
クルーゼも意味は分からない。しかし、頭に直接に響く「意思」に従い詠う。
「アイン・ソフ・オウル!!」
ディス・アストラナガンの胸が突然開き、なにかドロドロにかものの塊のような、呪わしい黒い塊が発生し、それが閃光となりドッゴーラを射抜く。瞬間、ドッゴーラは謎の力で固定され、クォヴレーのように20個近くとはいかないが、周りに4つの球体が回り始める。
「ブンちゃん!機体を捨てて逃げて!」
ミオはブンタに通信を開き、そう訴えようとしてたが、
「う、……ああ、ううっ!」
ブンタは何かに強くおびえておりはっきりとした答えを解さない。
「ブンちゃん!ブンちゃん!」
「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
周囲の球体が高速で回転し始めたとき、ブンタは何かに驚愕するように目を見開き、叫び声を上げる。
「さぁ虚無に帰れ!!」
クルーゼのその言葉とともに、4つの球体はドッゴーラの体にぶつかり―――ドッゴーラの体は最初から何もなかったとでも言うように空洞になった後、爆発した。
「ハハハハハハハハハハハ!!!」
クルーゼの狂笑が轟く。
「ブンちゃん!ブンちゃん!」
もはや砂嵐しか写さない通信機にミオは叫ぶ。
「さて、三度目の正直という奴だな。大人しく破滅を受け入れたまえ」
「――――――!」
鎌を構えてゆらりとボスボロットに近づくディス・アストラナガン。
急いでボスボロットも逃げようとするが、
ザクリ
実に軽い音を立ててボスボロットは両断された。両断された機体の中には、白目をむき、ピクピクと痙攣する蒼い髪の少女の死体が左右一対があった。
「幕引きには少し寂しいが、仕方がないな」
そう言ってまたクルーゼは飛び去った…………
マシュマー・セロ 支給機体:ネッサー(大空魔竜ガイキング)
機体状況:消滅
パイロット状態:死亡
現在位置:B-5
【ミオ・サスガ 支給機体:ボスボロット(マジンガーZ)
機体状況:真っ二つ
パイロット状態:死亡
現在位置:B-5
【ハヤミ・ブンタ 支給機体:ドッゴーラ(Vガンダム)
機体状況:爆発
パイロット状態:死亡
現在位置:B-5
【ラウ・ル・クルーゼ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
パイロット状況:絶好調
機体状況:装甲若干破損、、ガン・スレイヴ1/2消耗
第一行動方針:獲物を探す
最終行動方針:あらゆる参加者の抹殺
現在位置:B-5の森から移動中
【時刻 21時30分】
最終更新:2009年02月15日 05:00