炎のロンリネス


「ふむ……」
もうこの時間では禁止エリア周辺には人はいないだろう
人間とは危機から無意識的、潜在的に離れようとするという習性を知っているマサキは、
ほぼクルーズのスピードでは全速でG-6へと向かう事が出来た。
言うとすれば、レイのセンサーにただ一度もひっかかることもなくすんだのは、予想外の成功であった。
しかし、今回死んだ12名…その中には、トウマ、イングラム、クヴォレー、イサム、アクセルといった名前はない。そこがまぁ不満ではあった。
カチン
目の前のスイッチを踏み込む。
小さい工具の外見のマシンが飛び出し、レイズナーを補給する。
もともと無傷に近かったようなものだ。ほぼスタートのときに戻ったと言ってもいいだろう。
「レイ、自己診断モード。弾薬も含め、チェック」
「READY……ALL OK 装甲表面ヲ除キスベテ最高ノ状態」
「よし……」
先ほど高高度より基地周辺の偵察は行っている。
降りて物を探す。あたりに武器などが転がってはいるが、それは後回し。解析のための道具探しが最優先事項だからだ。
基地内を探せば、意外にそれらは簡単に見つかった。工場だけあって、MSやSPTなどの間接を覆うためのビニール。ノコギリを含めた一般工具から絶縁カッターなど特殊工具まで。装甲のゆがみを直すための修理道具。軍手。間接に使うチューブゴム等…
そして――なかなかに性能がよさそうなPCマシン。整備用だろうが、さすがは工業用、自己診断を含めた分析機能もついている。それを少しばかりいじってからマサキはレイズナーに戻る。
死体を持ち出した彼は、返り血を避けるため死体にビニールをかける。それからそのビニールの下から軍手をし、ノコギリを持った腕を差し込む。
ゴォリ…ゴォリ…
肉と骨を刻み折る異音が無人の工場に響く。
ゴトン…
すこし、何かが転がる音。首が完全に離れた証だ。すこし時間を置いてからビニールをゆっくりとはがす。
血はもう勢いよく噴出すことはなく、子供のおもちゃのようにもれるだけだった。
それを何の感慨もないかのように首を拾い、首輪をはずす。
見つめる視線は、どこまでも冷ややかだった。
軍手をはずし、手を浄化水槽で洗ったあと濡れた布で首の血をとる。そして、ゆっくり、ゆっくりと修理道具で削っていく。ついに表面の薄い膜がはがれ、機械の中が現れる。それをゆっくり広げていく。
30分もしたころには、全てはがれ、完全に機械の輪となっていた。それを専門的な出力機械につなげようとするが、
「ちっ、端子が合わんか。」
しぶしぶマサキは端子を引きちぎり、紐状にしたものを首輪に差し込んでいく。顔に似合わず器用な奴である。
カチカチと機械を操作していくマサキ。
「やはりこれは集音マイクか。盗聴とはやってくれるな」
外を剥いた時点で何か集音マイクかと思ったが、解析してみれば案の定集音マイクであった。しかし、この小型の装置に爆発物も含みこれだけの仕掛けを打ってあるせいか、精度は低い。
マサキは首輪の上に見つけたゴムを切ったものとフィルムを置き、テープでそれを固定した。
「まだ時間がかかるな…レイズナーを奥に誘導させておこう。」
レイズナーを奥から解析装置の近くまで持ってくる途中、何時間か落ちていたものに目を通すが、どれも機体に直結するタイプの武装ばかり。レイズナーでは役に立たないものしかない。
仕方がないので奥の解析装置のすぐそばまでレイズナーを移動させて下りる。
「レイ、何か接近が確認されたら外部マイクで伝えろ」
「READY」
ゆっくりとレイズナーを下り、ディスプレイに目を通す。解析率は46、6%と記されていた。それに目を通したマサキは、
「ふん、マシンなどは異世界から引っ張ってはいるが、爆弾などはそう変わらんか。」
まだまだ解析してないところが多いが、必要だった爆弾回りはできている。もっとも、解析とはいっても不明瞭なところは多かったが…バーストンなどで培った自分の知識を組み合わせれば、そう難しくない
首輪でやるべきことは、爆発の無力化。この一点。これさえ出来れば、首輪を引きちぎることも出来るからだ。
それ以外は、そう重要ではない。この首輪がなんであろうと関係ないし、知らなくても問題ない。
全てを知る必要などないからだ。
信管式。爆薬を凍結した上で、物質が振動する周波数を首輪に伝えて爆発させる。これなら爆破に使われる周波数が読まれる心配もなく、無理に引きちぎれば爆発する…。
マサキの頭で情報が疾走する。
それをまとめ、ルリの首輪で実験する。安全装置などない。もし、解析と推論が間違っていたら…もし手順を失敗したら…
マサキの首に汗がまとわりつく。
様々な工具を使い、ゆっくりと、静かに指が動く。
カシャ…カシャ…
「よし、外れたようだな…」
一息つき、汗をぬぐうマサキ。彼は――賭けに勝ったのだ。
そのまま自分の首輪もはずしていく。
「……しかし、解せんな」
解析し、はずすところまでたどり着いた。あとひとつの手順で自分の首輪も外れる。
なのに、緊張が緩んだ隙を襲う急激な違和感。
なぜさまざまな世界の技術を使い、絶対に解けないようにしない?
このサイズでも、ダミー線は入れられるのに、なぜいれない?
「首輪が無くなってもかまわないとでも言うのか?」
答えはNO、のはずだ。情報の収集と脅し、という圧倒的なアドバンテージが失われるというのは、並みのことではない。
「まさか…」
誰かが首輪がはずすことさえ、考えの及ぶ範囲であり、全ては奴の掌の上とでも言うのか?
「・・・・・・・・・だからどうした」
ガチャン
ゴムをはさまれ、信管を失い、動きを止めた首輪が崩れ、大地に落ちる。軽い爆発。
かまわない。今はまだ奴の掌でも。だが、かならず奴を殺す。俺が掌で踊っていると笑うなら、その笑いをかき消すような…奴の首を吹き飛ばすようなショーを見せてやろうじゃないか。
マサキは薄く笑い、レイズナーに乗り込む。
さぁてクズ集めだ。もう禁止エリアに俺は入ることが出来る。もしものとき、そこに逃げればいい。
暗い工場からでて、顔に当たる日の光がまぶしいが、気持ちいい。
「レイ!行くぞ!」
「READY」
顔は確かに邪悪だったが…どこか晴れ渡った顔でマサキはつげた。


【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
 パイロット状態:絶好調
 機体状態:ほぼ損傷なし
 現在位置:G-6
 第一行動方針:D-3
 第二行動方針:使えるクズを集める
 最終行動方針:ユーゼスを殺す】
 備考:これから接触する相手にはイングラム、クォヴレー、トウマを貶める嘘を吐く
    首輪から開放された

【10時20分】





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最終更新:2009年02月15日 05:01