水面下の情景Ⅲ


 ――“ゲーム”の進行は順調だ。
 仮面の下、ユーゼス・ゴッツォは笑顔を浮かべる。
 ゲームの開始からもうじき丸一日が経過しようとしていたが、参加者たちは予想以上の早さで次々と脱落していっていた。
 このバトルロワイアルを開催した当初は、これほど順調に事が進むとは思っていなかった。
 参加者として集められた人間の大半は、世界を救う為に戦った“勇者”達である。
 殺し合いを始めろと言われても、それを素直に受け入れる人間は少なかろうと思っていた。
 だが、どうだ。結果的に、殺し合いは行われている。
 ゲームを順調に進める為、ユーゼスも幾つかの仕掛けを施してはいた。それは事実だ、認めよう。
 仇敵の情報を餌として、人殺しを強要されたセレーナ・レシタール。
 アルジャーノンに感染し、狂った殺人鬼と化したラッセル・バーグマン。
 己が忠実な下僕である、ラミア・ラヴレス。
 そして……。
(……そういえば、レビに施していた精神操作は無効化されてしまったのだったな)
 あらかじめ参加者の中に仕掛けた、幾つか存在する“爆弾”の一つ。
 それが無効化された事に、ユーゼスは多少の驚きを感じないでもなかった。
 彼女に仕掛けた精神操作が無効化される事には、ある程度の予測が付いてはいた。
 ただし、それはリュウセイ・ダテによっての事だ。
 彼の存在によって、レビの精神が安定する事は想像に難くはなかった。
 だが、まさか見ず知らずの人間の為に命を賭けて、狂気に堕ちかけた彼女の心を救い出す者が居るとは――
(流石の私も予想外ではあったな。だが、それも瑣末な事だ。
 ゲームが順調に進行している現在、駒の一つがどうなろうと関係は無い……)
 そう、関係無い。自分が妙な小細工をしなくとも、ゲームの進行が遅れる事は無かったのだろうから。
「ただ……少し、気に入らなくはあるがな……」
「どうしましたでございますですか、ユーゼス様?」
 ユーゼスの独り言を聞き付けて、ラミアは主に声を掛ける。
 ラミア・ラヴレス。
 このゲームに於いて参加者の為に用意した機動兵器と同じく、彼が作り出したオリジナルのコピー。
 彼女の方に目を向けながら、ユーゼスは落ち着いた声で言った。
「いや、なんでもない。ただ、もうそろそろお前の出番かと思ってな」
「では……」
「うむ。次の放送が終わり次第、お前を会場に転移させる。自分の役目は分かっているな?」
「ゲームを盛り上げる事、でございますですね?」
「その通りだ」
 仮面の下で目を細め、ユーゼスは鷹揚に頷いた。
 確かに、多くの参加者が命を落としていっている。
 だが、まだ足りないのだ。
 恐怖と、絶望と、そして狂気――
 混沌とした“負の感情”が、まだ充分な量に達してはいない。
「勘違いはするな、ラミア・ラヴレス。お前に課せられた作戦内容は、ゲームに勝利する事ではない。
 このゲームを更なる混沌に導く事こそが、お前の為すべき使命なのだ」
「わかっているでございます、ユーゼス様」
「ならば、良い。その働きを期待しているぞ、ラミア」
「は……」
 任務の遂行を第一とする忠実な人形は、主の言葉に頷いた。



【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:???
 パイロット状況:健康(言語回路が不調)
 機体状況:???
 現在位置:ヘルモーズ
 第一行動方針:ユーゼスの命令に従う
 最終行動方針:???
 備考:次の放送後に行動開始】

【時刻:二日目:10:00】





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第154話「Zの鼓動 時系列順 第153話「二人の復讐者

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第156話「疾-hayate- ラミア・ラヴレス 第174話「The Game Must Go on
第156話「疾-hayate- ユーゼス・ゴッツォ 第172話「蠢-ugomeki-



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最終更新:2008年05月31日 11:05