冥府の邪神
「やっぱり僕、ガルドさんのところに戻ります!(さて…時間としては30分。ククク…もういいだろう…)」
町へ向かう途中、唐突にマサキがそんなことを言い出した。
「ええ!?マサキさん一体どうしたんですか!?」
プレシアも驚くが、すぐにそれに正確な指摘を入れる。
「彼は今、命を懸けて戦っている!僕には戦える力があるのに、放っておくなんてできない!(予想通りの回答だ。ここまで単細胞とはな。)」
内心嘲笑うマサキ。ドス黒い心をおくびにも出さず、演技を続ける。
「そうかもしれないですけど、美久さんをどうするんですか!」
「分かっています!でも僕は!どうすればいいんだ!(もう少し、さぁもう一歩踏み込んでこい!)」
「私だってどうにかしたいです!けど…」
プレシアも心にしこりのような思いがあるのか、声をすこし荒げた後、か細い声で「けど」と付け加えた。
「……君にお願いがある(よーし、いいクズだ。そのまま来いよ…)」
「え?な、なんですか?」
どこか重々しい口調で告げるマサキに、どこか恐る恐る答えるプレシア。
「美久をそちらのコクピットに移して欲しい(さぁて、どうでる?)」
「ええ!?」
完全に動揺が口調に現れる。
「方法があるなら、君もそれを選ぶだろう!?僕はガルドさんを助ける。君は美久とチーフさんを救ってくれ!(キーワードは『救う』『助ける』。語感は強く。方法の限定化。完璧だ…!)」
「…わかりました。けど、マサキさんもかならず帰ってきてください。」
どこか懇願する口調でプレシアが告げる。
「ああ、かならず戻るよ。だから、頼む…!(キャラが変わりすぎか?まぁ怪しまれてはいないな。……お前に次などない!)」
右手に乗ったマサキは、左手を風除けの様に右手のそばに添え、グランゾンのコクピットの前に出る。
コクピットを開くため、チーフを下に置いた。
そして、ついにコクピットが開く。
マサキが手の上をゆっくり歩いてくる。それを迎えるようにプレシアも身を乗り出してきて…
(全身が出たな。終わりだ。)
「レイ、いけ」
マサキがヘルメットでレイに命じた。
『READY』
「え?」
グランゾンのコクピットすぐ前に添えていた左腕がうなり、止まらぬスピードでプレシアを握りこむ。
「あ、ぐっ!?」
苦悶の声を上げるプレシア。10mの巨人からすれば、プレシアなど15cm程度の人形同然。すっぽりと握りこむ。
「マサキさん、これは…?一体何をする気ですか!?」
完全に混乱するプレシア。まったくマサキの行動を予測できなかったのだろう
「レイ、親指の負荷を強くしろ」
『READY』
レイズナーの親指が首の上のほう、首輪のすこし上に負担をかける。
「どうしてこんなことをするんです!?」
「強くしろ」
『READY』
「どうして!?…どうして!?」
「強くしろ」
『READY』
「どう…し……て」
「強くしろ」
『READY』
「お父…さん……お…兄…ちゃ………」
「強くしろ」
『READY』
ポキン。ついに首の折れる音。
「爆発しなかったようだな。さて」
ルリをレイズナーの手にルリを放り、グランゾンのコクピットに入る。計器などを一切触らないように注意し、
なかを見回すと、道具を入れたものが見つかった。
それをあさり、グランゾンの仕様書を見つけ、目を通していく。
「!…ククク、ハハハ、ハァーハッハッハッハ!!」
高く高く、マサキが笑う。
「ハハハハ、まさかこれほどとはな!」
見た目はゼオライマーのようないわゆる特機タイプ。レイズナーに比べ、どの分野がどの程度の性能かチェックしていき、どちらに乗るか決めようと思っていた。
しかし、そんな必要はもうない。
「空間操作(ワームホール生成)、ベクトル修正による多目的攻撃(ブラックホールクラスター)、広範囲兵器(グラビトロンカノン)、
ピンポイント兵器搭載(ワームスマッシャー)、高速移動可能(ネオドライブ)。防御フィールドあり(歪曲フィールド)近接兵器もしっかりある(グランワームソード)。異常なほどの機動性、堅牢な装甲。」
悩む必要など、一切ない。
「レイ、頭と手をここに寄せろ。」
『READY』
レイズナーが頭を寄せる。バックをとりだし、グランゾンのコクピットへ。
レイズナーの左手には、金髪の少女の死体。
レイズナーの右手には、銀髪の少女の死体。
それらも、やや広いグランゾンのコクピットへ。
「レイ、最後の命令だ。俺がこちらのコクピットに入ったら、あのそばの機体にカーフミサイル。爆発は接触の2秒後。その3時間後はこのグランゾンを除き、全対象攻撃の無差別戦闘モードに移行しろ。」
(AI操作のレイズナーに負ける程度のクズは必要ない)
『READY』
ついに、グランゾンの操縦者が変わる。それと同時に、カーフミサイルをテムジンに。
2発のカーフミサイルが深く突き刺さり、ワンテンポついて爆発する。そのため、無理な姿勢をしていたレイズナーが倒れる。
「さて、E-1、A-1に行くわけにはいかんな。今見つかるのはすこしまずい。G-6に行くしかないか。しかし、壁を抜けると、特機のクズに会うかもしれん。操作に慣れる意味でも、南下してG-6に行くか」
さて、次は首輪をはずさねばな。
メイオウを乗せた邪神は飛び始めた。
【木原マサキ 搭乗機体: グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状態:絶好調
機体状態:ほぼ損傷なし
現在位置:D-2
第1行動方針:使えるクズを集める
第二行動方針: 首輪の解析
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
【プレシア=ゼノキサス
パイロット状況: 死亡】
【9時30分】
3つ、とても幸運なことがあった。
1つ、下が砂漠であったこと。
2つ、機体が予想以上にボロボロだったこと。
3つ、カーフミサイルの爆発を遅らせたこと。
これがなぜ幸運か?答えはシンプルだ。
カーフミサイルは、本来当たると同時に爆発するはずだった。しかし、遅らせたため、機体の中ほどにぶつかり、爆発するはずだった。
機体の中ほどで止まるはずだったが、ボロボロだったことにより、地面に食い込んだ。
下が砂漠であったため、弾頭が地面に食い込み、回りに撒き散らす破壊を抑えた。
テムジンはバラバラになったが、内部そのものに破壊は回らなかった。よって、
「う……?」
チーフは生きていた。
ぼんやりとした意識ではあるが、チーフが目を覚ます。
コクピットが傾いている。幾ら動かそうとしても動かない。
「そうか、あの機体に攻撃を受け…」
そのあとがいまいち不明瞭だ。時間は9時50分。場所は表示によるとC-1。
よく見れば、コクピットに光が漏れている。
「…?」
ハッチをあけ、外に出る。
「な…んだと」
さっき会った、マサキという人物の機体が横になっている。パイロットもいない。あと、自分の機体が、自分が生きていたことも信じられないくらいに破壊されている。
周りは見通しがつくが、人影もない。
「これは…?」
状況を把握しようと、推論を行うが、いくらなんでも情報が不足しすぎている。
もう一度、整理と推論をゆっくり行う。
自分が気絶したときは、約45分前。そこから、ここへの移動時間を引く。
余りは15分から20分。マサキはどこにいったか?ここから20分では特に遮蔽物のない以上、徒歩では見えない範囲に移動は不可。
死体もなく、機体に損傷もない以上、ほかの機体に乗って移動した。
プレシアとガルドはどこにいったか?一切の証拠がなく、把握不可能。また、何故自分がここにいるのか?この機体は何故あるのか?これもまた把握不能。
「何もわからんも同然か。」
いくら考えても埒が明かない。この状況下で、希望的観測は余りに危険だ。プレシアを疑うわけではないが、極力自力で行動を行うべきだ。チーフはこれからを考えることにした。
歩いて、最も近い町に行く。…NO。マーダーに会ったときの危険が多すぎるし、40km以上を遮蔽物も見当たらない地形を歩けば、熱中症になるか、とにかく体調を大きく崩す恐れが強い。
自分の機体での行動は不可能。
この状況を切り抜けるためには…目の前の機体に乗るしかない。しかし、もし自分の推論が外れていた場合、自分は爆死する。
「しかし、やるしかないか」
はっきりとした期待ができない以上、希望的観測は危険。乗るしかない。意を徹して横になったレイズナーのコクピットに乗り込む。
すると、
「『それも私だ』システム起動。不正な方法により、コマンドCOC(チェンジ・オブ・コマンド)実行。新規の搭乗者の名前と声紋を入力してください」
「チーフだ」
「入力完了」
どうやら、爆死することは避けられたらしい。ほっと胸をなでおろす。
「マニュアルなどは落ちてないか。AI、操作方法の提示と、50分前から記録された映像を表示してくれ」
「本機のAIの呼称はレイです。READY」
2つのウィンドウを淡々と開いた。
「!? な、ん、だと!?」
それには、操作方法と、狂気の映像を映し出していた。
【チーフ 搭乗機体: レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
パイロット状況:驚愕
機体状況: ほぼ損傷無し
現在位置:C-1
第一行動方針:ハッターを捜索する
第二行動方針:ゲームからの脱出(手段は問わない)
備考1:チーフは機体内に存在。
【10時00分】
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最終更新:2009年02月15日 05:12