焦点が定まらない。
それは球体が地面に落下したときの衝撃のせいでもあったが…それはコーディネイターの身。頑丈な体であったためたいしたことは無い。
なによりの原因は精神的なものだ。
そのせいで脱出ポッドから出れずにいる
まだこの殺し合いが始まって数時間だというのに色々なことがあった。
最初はジュドーとガトーとかいうおっさんが戦っているのを傍から見ていただけだった。
それで、俺は悪い奴じゃなさそうなジュドーに手を貸してそいつを追い払った。
と思ったら今度はレーベンとか言う獅子の機体に乗った奴に遭遇して、まあそいつは急に発狂してどっかに行っちまったんだが。
その後は思い出したくも無い。あのイカれた騎士に遭遇して―――――

ディアッカはその時自分が涙を流していることに気づいた。
拭っても拭ってもどんどん零れ落ちてくる。これはテッカマンブレードへの恐怖からではなかった。

涙が流れてきたというのは俺はあいつの死を悲しんでいるのだろうか?
俺はコーディネイター、あいつはナチュラルだというのに。
最初はただ利用するため。あいつと共にいることで生存確率を高めるために一緒にいただけなのに。
奴は最後までそれに気づかぬまま、知り合いを頼むという言葉を残し死んでいった
結果的に奴のおかげで俺は命を拾うことができた。狙い通りだ。
だがなぜ俺の気持ちは晴れないんだ。
あんな奴は元の世界の仲間と違い、その場限りのどうなろうと知ったことでは無い奴。
だというのに、割り切れない。どれほど自分を納得させようとしても割り切れない。
クソッ、自分はまだまだ青臭いのかもしれない。
こんな気持ちで人を殺すことなどできそうにはない。

「ディアッカ」

そんなことを思っていたときだった。誰かが脳天気な声で俺を呼ぶ。真っ先にジュドーじゃないかと思った。
あの騎士はきっとジュドーを殺してから俺のほうに来ただろうから違うと思った。
でも、同時にジュドーだったらいいなとも思ったんだ。そしたら助けてくれた礼を言って俺に心配させたことを謝らせてやろうと思って。
ああ、そんなことを考えていたら今の声がどんな声だったか、分からなくなった。
もう一度、声を聞きたい



「ディアッカ。聞こえていたら応答しろ」



なんだ、聞きなれた隊長の声だ。
こんな声をジュドーと間違えるなんて本当にどうかしている。




予想以上に遠くへ投げてしまい、草原地帯まで飛んでいった白い球体を見つけたとき、
ディアッカに応答を試みたが初めは反応が無かった。
無理も無い。緊張からやっと解放されたのだ。力が抜けてしまうのも仕方が無かった。
次に呼びかけたとき、ディアッカは反応してくれた。
体にどこか悪いところは無いかと聞くと目がぼやけているといった。
私は心配したが、彼は一時的なものであるといった。
その根拠を考えればすぐに彼が今どういった心境に至っているのか察することはできた
しかし彼が立ち直るまでずっとそこで待っているわけにもいかなかった。
兄を止めようとした相羽ミユキが一瞬で殺されこちらへ向かっている可能性もあったからだ
私がそこを出て、こちらのコクピットへ移って欲しいというと彼は素直に従ってくれた。私を困らせてはいけないと思ったのだろう。

球体から外へ出たディアッカにターンAの右手を差し出し乗るように示すと、
ディアッカはその通りにし、ようやく彼をコクピットの中に保護することができた。
ミユキを乗せているときよりも若干窮屈であったが、仕方あるまい。
彼の顔は見ないようにした。いま、顔を見られるのはディアッカにとって何よりも恥だろう。隊長として部下へのせめてもの情けだった

「ディアッカ。猶予は無い。すぐにこの場を離れるぞ」
「あの…隊長。さっきの女の子は?」
「残してきたよ。兄を説得したいといったのでな」

嘘偽りの無い言葉。
だがテッカマンブレードの恐怖を刻み込まれたディアッカからすればクルーゼの正気を疑わずにはいられなかった。

「そんな…あいつは話が通じるような奴じゃないですよ!!」
「だろうな」
「だろうなって…」
「だが他に手は無かった…。あの状況でこのMSであの者を倒すよりも、
同じテッカマンで妹である彼女に任せたほうが皆が納得できたのだ。そうしなければ後々面倒が生じたはずだ」
「……」

返答は無い。
コクピットの中で剣呑な空気が流れる。
正論だ。いつものディアッカならば問題なく受け入れる正論。
しかしアスラン、イザーク、二コルと比べて一番大人びていると思っていた彼もまだ若かったのだ.

「納得できないかね?それに君のこともあった。君が誰かに襲われるかもしれないということも考慮すればこれが最善だったはずだ」
「…」

やはり返答は無かった。予想以上に彼の心の傷は深いらしい。
だが待てなかった。今後の方針、ダルタニアスを取りに行くとだけ告げ、強引に同意させた。
そしてその時、ターンエーが遠方より熱源を感知した。
その方向を見てみると、ミユキと見たときとは異なる輝きが天を再び貫いていた。
私は、直感的にあれは相羽ミユキが放ったものであると思った。
あの様子からして兄を殺せるとは思えなかったが、それでも兄の責任を取って道連れにでもしてくれたのだろうか?
いずれにせよあれならば、両者共に生きてる可能性は限りなくゼロに近い
ミユキは確実に死んだとして、あのテッカマンも巻き込まれているならば生きていたとしても相当な痛手を被ったはずだ。
あの兄妹愛の末路を見てディアッカに分からぬように笑いを堪える作業は予想以上に大変だった。
ディアッカはボルテッカを見ても、もう何も言わなかった。
肉体と精神のあまりにも大きな疲労がディアッカから一時的に情動を奪っていたのだ。
結局我々はそれには反応したが、言葉を交わすことなく、再び私たちはダルタニアスがあると聞いた場所へと向かうことにした。

それにしても…このターンAは確かに優れたものであるが、どうにも弱点を晒し続けているというのは落ち着かない
あのようなテッカマンと再び戦うことになるならばこのMSではすぐに追い込まれてしまうだろう。
もしもダルタニアスという機体がこれよりも多少スペックが落ちようと戦いやすいというならば乗り換えるのも良いかもしれない…。
そうなればこのターンAはディアッカに譲ってやろう。フフフ、核のことは黙ったままな


【1日目 12:30】

【ラウ・ル・クルーゼ 搭乗機体:∀ガンダム@∀ガンダム
 パイロット状況:良好 仮面喪失 ハリーの眼鏡装備
 機体状況:良好 核装備(1/2)
 現在位置:C-7
 第1行動方針:ダルタニアスを取りに行って、大体でミユキを探す。生きているとは思っていない
 第2行動方針:手駒を集める(レイ、ディアッカ、カナード優先)
 第3行動方針:できれば乗り換えてから、雪原市街地でミストたちと合流する
 第4行動方針:手駒を使い邪魔者を間引き、参加者を減らしていく
 最終行動方針:優勝し再び泥沼の戦争を引き起こす(できれば全ての異世界を滅茶苦茶にしたい)】
※マニュアルには月光蝶システムに関して記載されていません。
※ヴァルシオン内部の核弾頭起爆スイッチを所持。


【ディアッカ・エルスマン 搭乗機体:なし(∀ガンダムに同乗中)
パイロット状況:体力消耗大
機体状況:なし
現在位置:C-7
第一行動方針:ジュドー…
第二行動方針何も考えたくない
第三行動方針:脱出が無理と判断した場合、頃合を見て殺し合いに乗る 】


「魔法が解けてしまったわね…」

その彼女の声は皮肉にも、今命を散らしてしまったDボゥイの妹である相羽ミユキにそっくりであった。
レモンはDボゥイが映るモニターを見つめる.
レイピアの命のエネルギーにあてられブレードは記憶を取り戻し、さらに全てがラダムに見えるという改造すら無効化されてしまった。
呼ぶ前から既に失われていた記憶を取り戻したのはまだ良い。
しかし改造まで無効化されるとは、さすがにご都合主義であり、その改造が不安定なものだったとしても非科学的である。

とまあこう考えたレモンではあったが何もまたDボゥイを呼び出して改造しなおす、と思ったわけではない。
フィクションのように命を賭ければ全てがうまくいくという展開も悪くは無いと思ったのだ。
妹の命を賭けた献身に兄が押しつぶされるのか、それともどうにかして自分を納得させ立ち直ろうとするのか、あるいは…。いずれにせよ楽しみである
また長時間のブラスター化がさらに都合よく無効化されていないのであれば見ない振りをしてやろう。
むしろ今まで手を出しすぎてしまった。彼ばかりに負担を強いるのはフェアとは言えない。そろそろ彼にも自由を与えよう。
そう思いレモンはモニターを切り替えた
個人的な感情は無いと自分に言い聞かせながら。



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最終更新:2010年04月03日 00:53