鍛えよ、守るために ◆JxdRxpQZ3o



「二人の容態はどうだ?」
「ダイヤ君は頭部からの傷の出血が派手だけどそれ自体は浅い。軽い貧血状態だ。
 すぐに目を覚ますとは思う。彼女の方は――」
「なにか問題があるのか!?」

言いかけて口ごもる万丈の態度にドモンの顔から血相が失われていく。

「僕も医療に関しては素人だ。はっきりとした診断が下せるわけじゃない。疑問に思うことがあってね。
 かすり傷が体中にある。だがどれも長く意識を失う程の外傷じゃない。
 原因がわからなければどうなるかも見当が付かないってことさ。
 体の内側に問題があるなら、ここではなく病院に連れていって診なければ原因も特定できない」

一息で言い切った万丈が一拍置いてドモンに尋ねる。

「ドモン、君がダイヤ君を発見したときになにか言っていなかったか?」

ドモンは首を横に振った。ダイヤはドモンと出会った瞬間に安心感からか気絶したのだ。

「そうか。ともかくそれなら一度病院へ行ってみよう」
「心当りがあるのか?」
「ここに来る途中、A-5の方で赤十字の入った建物を見てね。」


ジャイアントロボを目印に、街中でテッサ達を捜索していたがなかなか見つからない。
嫌な予感がする。そう感じたドモンはよく見ていなかった地面を中心に探索を再開した。
その後、ボロ雑巾のようになった彼ら二人を発見したのは放送が過ぎてからだった。
ドモンはすぐさま万丈たちに連絡を取り、万丈が率先して近場で医療用品がある程度あるだろう小学校へ移動した。
そして現在に至るというわけだ。
二人はお互いに気絶した子供たちを背負い、保健室から退室した。


「俺があの時、一緒に行動していれば……テッサも、こいつらも」
「言うな、ドモン。後悔しても始まらない。今は残されたこの子達を守ることを第一に考えよう。
 テッサという人のためにもね」
「そうか――そうだな」

バニングが言っていたドモンに対する心配が自分にも垣間見えたことを万丈は確認した。
弱いものを守るために、導き手となるために行動するドモンの気負いは並大抵のものではない。
だがその弱いものや導くものを突かれたときに彼自身もグラついてしまう。

(なら、僕やバニング大尉で彼をサポートするべきだろうな。しかし――)

万丈がふと笑みを見せる。8時間で26人が死亡したこの殺し合いに不安を感じていた。
この蟲毒の坩堝の中にはバニングが出会った二人組やカヲルのような殺し合いに乗った参加者ばかりなのだろうか、と。
だがドモンやシーブック、死んでしまったがショウやテッサなど抗おうとする立場の人間がこれだけ居ることに安心したのだ。

「どうかしたのか、万丈?」

そんな万丈の笑みを見たドモンが声をかけた。
表情を見ればその笑いに他意が無いことはわかってはいるが確認のつもりだ。

「君たちに出会えて良かったと思えたのさ」
「俺も……正直そう思っている。万丈。俺とシーブックだけではこいつらも今頃どうなっていたか。
 ――そういえばあの二人を見張りに頼んで良かったのか?
 シーブックはバニング大尉にあまり良い印象を持っていないようだったが」
「大丈夫さ。いや大丈夫でなきゃ困る。僕たちは仲間なんだから」


◆ ◇ ◆


春風小学校のグラウンドにドモンと万丈が乗っていた2機の機動兵器が鎮座する。
その二機を守るためにデスティニーが上空で静止している。
学校の周囲を警戒してながらストライクノワールだ。
敵機が出現すればすぐに対応ができるように音声回線を開いているが二機の間に会話は無い。

必要が無い会話はしなくても良い。自由とはそういうことだがシーブックは居心地の悪さを感じていた。
自分は万丈やバニング、ドモンにすら先ほどのことを謝ってはいない。
先ほど一人きりになったときは精神的に立て込みすぎていて、そこまで頭が回らなかった。
冷静になれた今なら自分の発言は謝ればならないことだと痛感できる。だが切欠が掴めない。
放送があり、ドモンが戻り合流し見張りは自分たちが頼まれた。まだ四人は戻ってこない。時間は幾らでもあるはずなのに。
相手が連邦軍人であると思っているからなのだろうか。一緒にいたのが万丈ならまた別だったのだろうか。

そんなことを考えているとふと開いていた筈の音声回線が切れていることに気づいた。
自分では何も弄ってはいないはずだ。バニングに何かあったのかと急いで通信を開く。

「ウラキ、なぜお前が死ななきゃならないんだ」

漏れ聞こえた音声はシーブックも考えていなかったバニングの呟き。
ウラキというのは先ほどの放送で流れた死亡者の名前だ。そしてバニングの部下であるとも聞いている。

「あのバニング――大尉」
「ん。なんだ聞こていたのか」

結果的に盗み聞きしてしまっていることも気づかずに思わずバニングに声をかけてしまったことに焦る。

「す、すみません。聞くつもりは無かったんですが回線が切れていて、心配になって……その」
「気にするな。なに、一人きりになれたときに部下に弔いでもと思っただけだ。
 万丈たちやお前さんに聞かれて心配はかけられんからな。それと無理に大尉とは呼ばなくても構わん。
 こんな所じゃ階級なんてお飾りもいいところだからな」
「わかりました。あの、ウラキさんってどんな方だったんですか」

純粋に興味から聞いてしまう。
バニングは思っていた連邦の軍人とは違うように感じられたからだ。
あの呟きも全て嘘ではないとシーブックにはそう思える。

「元々俺は奴の教官だった。ヒヨッ子もいい所のパイロットさ。だが腕は悪くなかった。
 少なくともこんな所で死んでよかった奴じゃない。あいつには未来があったんだ。
 ――アノー、お前は死ぬなよ」
「はい。――バニングさん、さっきはあんなこと言ってしまって……すみませんでした」
「ああ、万丈も俺も気にしちゃいないさ。こんな状況じゃ仕方が無い。
 学生のお前がそこで妙に分別があったら逆に気味が悪いくらいだ。
 少なくとも俺はお前が人間らしい反応をしてくれて安心したよ。」
「バニングさん、僕は――」
「ここで起きたことは一人で抱えきれることじゃないだろう。
 辛いときは俺や万丈にも頼ってくれて構わん。少しは楽になるだろう。さ、見張りに戻るぞ」

バニングとのやりとりはそこで途切れた。
僕もバニングさんと話せて良かった。口には出さずともシーブックはそう思う。
自分が何をすればいいのか、答えは未だ出ては来ない。
だが仲間という存在が心強いものであると認識できたのは確かだった。


◆ ◇ ◆


「……ここは?」

ドモンに背負われていたダイヤが声をかけてきた。

「目を覚ましたか――ここはB-4にある学校だ。」

説明を始めるドモン。同時に少年にどこまで真実を伝えるべきか、迷う。
一方でダイヤはドモンの説明を聞きながら隣の見知らぬ男を見つめる。

「僕は破嵐万丈。ここで彼らと出会って行動をともにしている。
 今は彼女を背負っているからすまないけど今は握手は出来ない」

自己紹介をする万丈の背に負ぶさっているイルイを見つめ良かったと安堵する。
少しずつ思考能力は覚醒していき、自分が気絶する前の記憶が蘇る。
ドモンに出会う直前に流れた放送。
フラフラの状態だったにも関らずダイヤの耳に確かに届いた剣児、五飛、テッサの名前。
思わず、擦り切れるほどの勢いで上下の歯を食いしばる。

「ドモンさん、テッサさんは――」

重い沈黙。最初に口を開いたのは万丈だった。

「亡くなった。そう考えて間違いない。」
「万丈!」
「ドモン、こういったことは隠していても仕方がない」
「だがだからと言って――」
「良いよ、ドモンさん。俺も放送で聞いていたし。」
「ダイヤ……」

ダイヤがドモンの背から降りる。
まだ少しふらつくがこの程度なら歩くのにも支障はない。
そしてドモンの前に回り込み、しっかりとドモンの目を見据えた。

「それでドモンさんに頼みがあるんだ。俺を鍛えてくれ!
 どんな奴が来ても戦えるように強くなりたいんだ。お願いだよ」
「ダイヤ。それは――」
「わかってる。でもこれは復讐のためなんかじゃないんだ。
 剣児さんも、五飛さんも、テッサさんも、みんな俺やイルイを守ろうとして死んでいった。
 イルイだって俺のためにこんなに苦しんでる。そんなのもう嫌なんだ!
 ドモンさんたちの足手纏いにならないように、俺はイルイを守るための力が欲しい!」

ドモンを見つめるダイヤの瞳は濁りも無く、迷いも無い。
これほどの苦境に立たされながら、この瞳を保てるのは子供ゆえか彼本来の性格のためか。
ダイヤの熱意は万丈もドモンも止めることは出来ないと強く感じさせるだけのものがあった。

「わかった。お前に教えられるだけのことを教えよう。良いか?万丈」
「僕に止める権利は無いさ。ダイヤ、彼女のことは僕に任せておいてくれ」

ダイヤは目を覚まさぬイルイへと目線を移す。

(俺が絶対に守るからそれまでゆっくり休んでてくれよ)


◆ ◇ ◆


「――というわけで僕はこれから病院に向かい、ドモンとダイヤは荒野の方で訓練を行ってもらう。
 最低一人は護衛のために僕たちと行動してもらいたいんだが」
「僕が行きます。あとダイヤ君の機体はどうするんです?」
「俺のキングゲイナーを譲ることにした」
「おいおい、お前さんがいくらガンダムファイターとかいう奴でも気ぐるみ1つでは無茶だろう」
「大丈夫だ。バニング大尉。ボン太くんは見た目ほど軟じゃない」

ドモンに対しては常識というものが通用しないのだろうかとバニングは顔を顰める。
自分以外の人間があまりそこら辺を気にしていないというのも気にはかかるが。

「そういうことならダイヤ、僕のデスティニーとキングゲイナーを交換しよう」
「えっ?どうしてさ」
「バニングさんは元々MSの教官でしたよね?」
「ん?まあそうだが。もしかしてお前?」
「へえ。それならこれで決まりですねバニング大尉。操作技術を学ぶならその道のプロに習ったほうがいい」
「しかし、俺の扱っていたMSとノワールやデスティニーは基本的には別物でだな」
「だが、根本的には同じものでしょう。」
「万丈、それはそうだが。そもそもアノー。お前はキングゲイナーを動かせるのか」
「えっ?キングゲイナーは元々僕に支給されたものですけど言っていませんでしたっけ?」

こともなげにいうシーブックにまたもやバニングの顔が歪む。
ということはキングゲイナーに乗り、操縦系統も違うだろうデスティニーに難なく乗り換えたということになる。
いくらマニュアルが常備されているとはいえ8時間でこれだけの順応を見せるのは異常と言ってもいい。
自分でさえMS乗りの経験を生かせる機体だったのが幸運だったと思っているほどなのにだ。
ドモンや万丈含めこんな規格外の連中ばかりが集まるとはバニングは思ってもいなかった。

「わかった。俺の負けだ。それで良いかダイヤ?」
「俺は構わないよ。よろしくバニングさん」



機体の交換を行い、それぞれが向かうべき場所へと動き出す。

「それじゃあ行って来るよ。こちらが一段落したら学校へ戻ってくる。
 17時までに戻ってこなければ独自行動を開始してくれ」
「わかった。気をつけてろよ万丈、シーブック」
「イルイを頼んだぜシーブック兄ちゃん」
「ああ、わかってるよ」
「ツワブキ。他人の心配の前にまずその機体を浮かせるようにしろ」

賑やかになりそうだった大所帯も二つに分かれることになった。
また出会うことが出来るのか。それは今誰にもわかることではなく。



【一日目 14:45】


【ドモン・カッシュ 搭乗機体:ボン太くん(フルメタル・パニック? ふもっふ)
 パイロット状況:健康
 機体状況1(ボン太くん):良好、超強化改造済み、ガーベラ・ストレート装備
 現在位置:B-4 街
 第一行動方針:B-4荒野にてダイヤを鍛える。17時までに万丈たちと合流できなければ別行動
 第二行動方針:他の参加者と協力して主催者打倒の手段を探す
 第三行動方針:シンを助けたい。補給システムからの情報に対しては疑念
 第四行動方針:ダイヤとシーブックに期待。
 最終行動方針:シャドウミラーを討つ】


【サウス・バニング 搭乗機体:ストライクノワール@機動戦士ガンダムSEED C.E.73 STARGAZER
 パイロット状況:健康
 機体状況:良好
 現在位置:B-4 街
 第1行動方針:B-4荒野にてダイヤを鍛える。17時までに万丈たちと合流できなければ別行動
 第2行動方針:シーブックやドモンのポテンシャルに驚いている
 第3行動方針:アナベル・ガトー、イネス・フレサンジュ、遠見真矢、渚カヲルを警戒
 最終行動方針:シャドウミラーを打倒する】


【ツワブキ・ダイヤ 搭乗機体:デスティニーガンダム+ミーティア(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)
 パイロット状態:頭部に包帯。軽い貧血
 機体状況:良好、ミーティア接続中
 現在位置:B-4 街
 第一行動指針:ドモンとバニングに鍛えてもらう。17時までに万丈たちと合流できなければ別行動
 第二行動方針:イルイをもっと強くなって護る。もう誰も失いたくない。
 最終行動方針:皆で帰る】

【ミーティア(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)
 機体状況:右アーム切断
 備考:核以上の出力があり20m前後のモビルスーツ程度の大きさならば、どんな機体でも着脱可能に改造されています】


【シーブック・アノー 搭乗機体:キングゲイナー(OVERMANキングゲイナー)
 パイロット状況:健康。心労
 機体状況:小破、全身の装甲に軽い損傷
 現在位置:B-4 街
 第一行動方針:万丈と共に病院へ
 第二行動方針:仲間と情報を集める
 第三行動方針:ジャミルの遺志を継ぐ
 第四行動方針:北の方角(トビアの死んだ方角)が気になる
 最終行動方針:リィズやセシリー、みんなのところに帰る
 備考:謎のビデオテープを所持】


【破嵐万丈 搭乗機体:トライダーG7(無敵ロボ トライダーG7)
 パイロット状況:健康
 機体状況:装甲を損傷、行動に影響なし
 現在位置:B-4 街
 第一行動方針:病院へ行きイルイの状態を診る
 第二行動方針:弱きを助け強きを挫く。ま、悪党がいたら成敗しときますかね。
 第二行動方針:渚カヲルを必ず倒す
 最終行動方針:ヴィンデル・マウザーの野望を打ち砕く。】


【イルイ(イルイ・ガンエデン) 搭乗機体:なし
 パイロット状態:気絶。極度の消耗。悲しみ
 機体状況:なし
 現在位置:B-4 街の入口
 第一行動指針:ダイヤと一緒にいる
 最終行動方針:ゼンガーの元に帰りたい
 備考:第2次αゼンガールート終了後から参加
    超能力をこれ以上使用した場合、命に関わります】


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095:求める強さは誰がために(後編) ドモン・カッシュ
095:求める強さは誰がために(後編) サウス・バニング
095:求める強さは誰がために(後編) ツワブキ・ダイヤ
095:求める強さは誰がために(後編) シーブック・アノー
095:求める強さは誰がために(後編) 破嵐万丈
095:求める強さは誰がために(後編) イルイ・ガンエデン

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最終更新:2010年05月16日 02:08