[43:パンサーブロンズ (05/03/02 01:37:27 ID:BxEmCCLs) AA]
途中だけど、置いとく。
(ヤバイ、エロそっちのけだ)
暗闇だけによって構成された暗闇に、二つ。金色の瞳が不機嫌な刃のように輝き、赤色の円らな瞳は淡々としていた。その双方の輝きには孤高の戦意など含まれておらず、ただ漠然とした不満によって淀んでいた。
ウルフ・オドネル本来の鋭利な印象など残っておらず、疲労さえ感じるほどだ。
「ったく、狼も楽じゃねえ。暗闇ってものを覚えねぇ」
この暗闇も、ウルフの眼中には暗闇というほどには映らない。一般的な感覚で言えば、豆電球に照らされているような状態程度には視界が保たれていた。
それに加えて、ウルフの右目はサイボーグ化されている。暗視など、いくらだって可能だ。匂いにしても、耳にしても、感度が良すぎて暗闇の暗闇たる楽しみさえ無かった。
「それにしても……」
他に観る対象が無い、というだけの理由により彼が眺めている存在——フォックス・マクラウド——が悩ましい。この空間、二人きりというのに悠長にも寝息まで忘れず寝転がっている。
それも寝心地が悪いのか、何度も転がっている。その度、両足の位置や交差が入れ替わり組み替わりした。どうにも攻撃的でならない。
ふと、微笑む。少なくとも悪夢ではないのだろうか。
「——ふふ、父さん——」
その内容を考えると、ウルフの倦怠感は口元に歪みが生じるほど膨れ上がった。
「……だまれキツネ」
自分も無機質な床に横となり、ウルフは眼中から彼を消し去った。
この奇異な状況が生まれたのは、パンサーのせいだった。
とある惑星の資源衛星でアパロイド戦役により奪われたここは消滅後、無人となった。そこに闇の利権が動き、小競り合いとなった。スターウルフも雇われ仕事が主であり、一流であるのは言うまでも無い。
当然、依頼主には勝利が約束されることになり、相手には敗北が…凄惨なまでの敗北が待ち構え、それは現実となった。だが突如、スクラップの墓場に白い先鋭が…グレートフォックスが出現した。
それは偶然の遭遇であり、向こうには報奨金も用意されていなかった。だが理由など無くとも、お互いの存在は宿敵に違いない。フォックスのいつの日かより風格を帯びた掛け声に合わせ、ドッグファイトを繰り広げることになった。
ウルフ側には戦闘後の補給が行われていないなど、多数のハンデが存在していた。だがそこは、実力差により二機(ファルコ・スリッピー)の撤退という結果になり、燃料ギリギリの戦いは有利な展開になっていた。
パンサーだ、恨めしいのは。
腕前は確かなのだが、性格ゆえか残っているクリスタルに攻撃が出来ず、クリスタルの追撃から逃げる為にエネルギーだけ切らせる寸前になり、最後には撃墜される寸前にまで陥っていた。その援護に回り、クリスタルは追い返せたがレオンまで…だ。
馴れ合いしか覚えていないようなパンサーの根性には、分かっていたとはいえウルフも失望させられた。苦笑するしか残されていなかった。
いや、まだ残っている。
スターフォックスの隊長機が、それに駆る宿敵が、戦いが。
「フォックス、名前通りに星明りに照らされながら死にやがれ! 」
「ウルフ、お前だって同じだということ忘れるな! 」
三百六十度、星明りに照らされた決戦は激しく、紙一重など当然のようにして銃撃が交わされ、尾翼が触れるほど接近戦に入り、かと思えば息一つ自由にならない物陰に隠れての攻防も行われた。
確実に減っていくエネルギー、時間と宿敵と死と隣り合わせのドッグファイト。そこには、快感さえ浜辺の白波の如く自然なものとして存在していた。
だが楽しい時間は、そうそう長々と続いてくれない。邪魔者、依頼者の戦艦だ。それに加え、新型のはずの人型戦闘機まで五機ほど展開されていた。
苦笑した。ウルフェンにはもう、一機足りとも落とせない。射撃に回すエネルギーなど無く、もはや最低限の移動に使う予備ストックしかなかった。
「借りにするよ、ウルフ」
一瞬だ。敵の戦力など、始めから消される為に存在していると錯覚させられた。五機の新型も、戦艦の主砲が沈黙するのも、一瞬だった。
これには歴戦のウルフでさえ、驚きによって沈黙させられた。フォックスはもはや、新米時代の面影もないほど成長していた。それこそ、雑魚など立ち向かってくるだけでも報奨金の上乗せに一役買うだけだった。
しかし相手にだって意地があるということは、忘れるべきではなかった。
闇夜に広がる閃光。
それは正しく自爆であった。
現在の状況は、パンサーの責任とするしかウルフには納得する理論がなかった。
爆発によりバリアに干渉が起こり、弱まったところに四散した残骸がアーウィンの美しいフォルムを削り取っていった。
Gフェンサー、主翼、本体にまで小さな損傷が及ぶ。それは機動性、いや全ての機能を奪おうとした。
それが致命傷に至らずとも、伏兵への手向けには十二分の攻撃であった。岩陰に隠されていた一体による、狙撃だ。照準に狂いなどない。
威力としては、今のほぼ無力化されたバリアなど紙切れに等しいはずだった。
発光、着弾、発光。だがバリアは健在だった。だがアーウィンのではなく、ウルフェンのであった。
それも消え去り、消耗し切ったウルフェンは通信機器までも頼りなく途切れて繋がり、繋がり途切れていた。それは回数につれ、沈黙の方向に流されていた。
「借り——作—のは趣味に合—ない—でな、利子—無しだ—」
ウルフの記憶は、この不確かな通信が境となって存在せず、今に至っていた。
フォックスが暗闇の—彼にも見える—中、目覚めると後頭部には冷たい金属の感触があった。通常仕様よりやや大口径なダーク色調のブラスター、ウルフのだ。
「ご自慢の白いトサカ、寝癖になっているぞ」
「早々、冗談か。俺のをアイツと一緒にするのはやめてくれ」
「女意識してヘルメット外したのが失敗だったな」
正面に対峙して冗談でも言っているように、フォックスは背後の視界に揺らめく二色の眼差しに話し掛け、応えられた。
ブラスターという一枚の障壁が用意されているのに、滞りなく会話が成立する。日々、戦闘中にまで喋っている根性せいだろうか。
「アーウィンに残っていたデータを観た。隠れていた奴のも撃墜記録があったな。あの後、ウルフェンを牽引してコロニーに逃げ込み、アーウィンも限界に達してウルフェンより使い物にならなくなっていた。よくやる奴だ」
「お互い様だろ」
「それはともかくこの状況下では、どっちも役立たずでしかない。パンサーの馬鹿が迎えに来るまでに打てる次善策でも考えるか」
「意見が合ったところで、次善策より食料探しに行きたいんだけどね」
いつまでも離れない銃口に、余裕じみた注文が飛ぶ。それに答える結果、ブラスターはウルフの腰元に戻された。フォックスは振り返ると対応の礼とばかりに、笑顔した。
「それじゃ行くよ」
心許して後ろ背向けて、彼は駆け出そうとした。
「……貴様、なぜ俺を撃たなかった? 」
ウルフの問いに足が止まり、少しばかりの沈黙が生まれた。一際大きく愛嬌となっている尻尾が、穏やかに波打っている。
小さな、鼻に掛かったような笑いが浮かぶ。
「……おいおい、それじゃ悪役だろ。助けて貰って裏切るほど、キツネと言っても俺は狡猾じゃない」
「だが利巧でもないのは確かだ」
銃口の射線上には未だ、頭部の白毛から外されていない。
「……なぜ撃たない? 」
「貴様が死ぬのは星明りの下だ。アーウィンに乗っていない生身のお前など殺す価値も無いんだよ、フォックス・マクラウド」
「ウルフ、雰囲気が丸くなったな」
満足げにフォックスは笑んでいた。これは皮肉であり、好意の表現であった。
「……言うな」
微苦笑した。
アーウィンのサバイバルキットに用意されていた少量の固形食料を、黙々とウルフは牙の向こう側に放り込んでいた。
味覚的に満足が得られるものではないが、栄養価だけは確保されているという代物だ。
時刻に関わらず暗澹に包まれたここでは分かりにくいが、作戦開始時から計ると三食では足りないほど経過しているはずだ。
ウルフの疲労にまで反映される空腹感は、もはや餓えているに近かった。
数個食べると次第に間に合ってくるのだが、他にすることもないウルフは少しずつ暇つぶしに近い食べ方をしていた。
一方のフォックスと言えば、堅実にも必要最低限しか減らしていなかった。というより、不味くて食べたくなかっただけでもあった。
だと言うのにウルフは黙々モクモクと食べている。どうにも不思議で仕方ない。
「……好きなのか?」
「変な目で眺めるな。落ち着かない」
「あ、ごめん」
「……強いて言うならば、俺にとって懐かしい味だというだけの話だ。ガキの頃、残骸の中から非常食を探し出して食べることも多かったからな」
どこかを見上げて、ウルフは語る。二色の瞳は、穏やかだが寂しそうだ。
「そ、そうかい」
少々唖然としつつ、フォックスは何度か意味も無く頷いた。
そのまま暫く、沈黙が続く。
「なあウルフ、アパロイドの時に助けてくれた理由、まだ分からないだけど、教えてくれないか? 」
「……どうしてだ」
「話すことが無いからだよ、退屈なのは…ね。それにウルフとは、考えてみれば戦場でしか喋ったことがないだろ。せっかくだしね、キザを決め込まないで聞かせてよ」
ウルフは気だるそうに嫌々と、それでいて満更でもないように語り出した。それはどこか相手に伝えたいという意思が強くて、隠し切れない。
「……狼というのは、群れてこそ強い。マザーが滅びたのもまた、巨大な一人に過ぎなかったからだろ。
一匹狼というのも憧れるところだが、俺も仲間が居なければ成り立たないらしい。
レオン、パンサー、あいつらが居て初めて俺は星空に駈ける狼となれる」
一呼吸置き、少しばかり浸るようにして最後を続ける。
「狼なんて弱いものさ」
それだけ述べるとウルフは、横顔を背けた。
「お前らを利用したと言いたいところだが、奴を倒すには仲間が必要だった。信頼できる本物の、仲間だ。でなければ目的である勝利など得られなかった」
「これだけ聞いていると良い奴だな、ウルフ」
舌打ちが響く。
「勘違いするな。仲間というのは共通の目的とお互いの利益が成立すれば良い。冷淡にあるべきであり、お前の語る仲間みたいな馴れ合いとは違うんだよ」
「なるほど、それでこそウルフ・オドネルだ。疑問が消えたよ。とすれば生存という目的がある訳だし、少しの間なら俺も仲間で良いよな? 」
フォックスの笑みは、相変わらず皮肉と好意が入り混じった素直さに欠けるものだった。
「好きにしろ」
また一つ、噛み締める。
クリスタルに呼び出された場所は、コーネリアの一角に埋もれる小さな寂れたホテルだった。怪しいなどというのも馬鹿らしい印象だ。
大破したグレートフォックスのこともあり、能力の低いレンタル輸送艦による代用も失敗して、今現在は本格的な活動再開の為に新生空母の開発中である。
フォックスチームはスリッピー以外、仕事も無いので思い思いの過ごし方によって滞在していた。
その滞在場所としてクリスタルが一室自分専用に買ってしまったというのが、ここだった。報奨金が多かったとはいえ、少しばかりキリギリスな消費だろう。
フォックスが教えるべきことは訓練だけでは無さそうだ。
壁紙の大半はブルースカイ、一部にアクセントとして薄っすらとピンクという配色。それに加え、センスの感じられる家具選び。レイアウト無関係に置かれるサウリア土産。どことなく微妙だ。
スペアキーが渡されているので勝手に入ったが、どうにも居るのか否か分からない。
「おーい、居るなら出てきてくれ」
投げやり呼びかける。だがそれに反応してか、シャワー室の方よりバスローブに身を包み、少しばかり乱雑に頭をバスタオルで拭き取っているクリスタルが現れた。
バスロ−ブ越しにも程よく目立つ胸。凛として魅力的な首筋。健康的な肉付きの美脚。まだ乾き切っていないフサフサというよりしっとりした黒に近い紫色の毛並み。
——違う。クリスタルは青だ。つまりどういうことなのか。
「お、来たのかフォックス」
なぜかパンサーだった。残念なことに。
唖然として、愕然として、憮然とした。立ち直るまでフォックスは数秒使い、そのまま叫ぶようにして問い詰めた。襟首掴んで。
「パンサーお前、なんでお前がここに居てお前がシャワーなんて浴びているお前が! 」
「お前お前と、動揺し過ぎじゃないか? 」
「せ、説明しろ! 」
女性の声。
「彼氏なのよ、私のね」
物陰からクスクスと笑いつつ、同じくバスローブに包まれて黒幕クリスタルも現れた。彼女はパンサーに劣らず、少女とは名乗れないほどの程よい色気を帯びている。
だが今のフォックスには二の次の事項だ。心密かにチーム公認カップルとして仲良くなっていくだろうと期待していただけに、ショックが大き過ぎたのだ。
「……彼氏、これが」
「失礼な! これでも相性抜群ラブラブカップルだぞv」
「残念だけどそーなのv」
「語尾が甘ったるいよ、語尾が」
ため息。
「……というか、、もう帰っても良いかな? 居場所ない訳だしさ」
それだけ告げるとフォックスは、哀愁漂わせながら去ろうと背を向けた。尻尾には生命感が感じられず、完全に垂れ下がっていた。
「いや、それでは皆さんが面白くないだろ。ほら帰らない」
「こら、やめろ! 第一皆さんって誰だよ!」
パンサーに尻尾を引っ張られ、フォックスは怒り交えに反発した。理不尽には我慢がならない。黒幕であると推測されるクリスタルの青き深き瞳を睨みつけた。瞬間、フォックスの急激に意識が薄まっていく。目が自然と、閉じて——。
「ごめんね、あんまり暴れると大家が困るのよ」
そこにあるクリスタルの表情は、純粋に楽しそうであった。
最終更新:2008年03月24日 00:59