いにしへの すまのうらわに もしほたれ……

いにしへの すまのうらわに もしほたれ あまのなはたぎ いさりせし そのことのはは ききしかど 身のたぐひには なぎさなる いはうつなみの かけてだに おもはぬほかの 名をとめて しづみはてぬる われぶねの われにもあらず とし月も むなしくすぎの いたぶきの ならはぬとこに めもあはで おもひしとけば さきのよに つくれる罪の たねならで かかるなげきと なることは あらしの風の はげしさに みだれしのべの いとすすき はずゑにかかる 露の身の おきとめがたく 見えしかば その呉竹の よをこめて おもひ立ちにし あさごろも 袖もわが身も くちぬれど さすがにむかし わすれねば 雲井の月を もてあそび 山ぢのきくを たをるとて 時につけつつ まとゐして 春秋おほく すぎにしを いまはちさとを へだてきて はつかりがねも ことづてず なれにしかたは おとたえぬ もとの心し かはらずは ことにつけつつ 君はなほ ことばのいづみ わくらめど 見しばかりだに くみてしる 人もまれにや なりぬらむ さらにもいはず かなしきは ことのをたちし からくにの むかしの跡に ならひにき ふかきうきぬに ねもたえぬ かつみのほどを いとへども 心のみづし あさければ むねのはちすも いつしかに ひらけんことは かたけれど たどるたどるも くらき世を いづべき道に いりぬれば ひとたびなもと いふ人を すてぬ光に さそはれて 玉をつらぬる このしたに 花ふりしかん 時にあはば 契おなじき 身となりて むなしき色に そめおきし ことのはごとに ひるがへし まことの法と なさんまで あひかたらはむ ことをのみ おもふこころを しるやしらずや

【出典】
  • 『長秋詠藻』下581

【詞書】
  • 『長秋詠藻』崇徳院讃州にしてかくれさせ給ひてのち御ともなりける人のへんよりつたへて、かかることなんありしとて、折紙に御宸筆なりけるものをつたへおくられたりしなり

【反歌】
夢の世になれこし契くちずしてさめむ朝にあふこともがな

【返歌】
俊成「(詞書)みやこにおはしましし時、かやうの道にもつかうまつりし人はおほかりしを、とりわきおぼしめし出でけんこともいとかなしくて、人しれず御返しをかきておたぎのへんになんやらせける
(長歌)すまのうらや 藻しほたれけん 人もなほ 今をみるには うきなみの うきためしには なほあさし あはれうき身の そのかみを おもふにつけて かなしきは あれにし宿の かべにおふる みなしごぐさと なりしより ふるすにのこる あしたづの さはべにのみぞ としへしを はじめて君が 御代にこそ 雲のかけはし ふみかよひ たつの御かほに ちかづきて 時につけつつ むなしくは すぐさず見えし あづさゆみ まとゐの末に つらなりて 花のはるより ほととぎす まつあかつきも 秋のよの 月をみるにも ここのへに 降りつむ雪の あしたまで 物おもふことも なぐさめし ここのかさねを いでしだに そでのこほりは いかがありし あまのはごろも ぬぎかへて はこやの山に うつりても 山ぢのきくを たをりつつ 過ぐるよはいも わすれしを いかにふきにし はつ秋の あらしなりけん やましろの とばの田のもに ひかげくれ もりの松風 かなしみて 夕の雲と なりしとき 人のこころも おしなべて のべのかやはら みだれつつ まよひしほどは うばたまの 夢のうつつも わかざりき さらにもいはず わたのはら むなしき舟を こぎはなれ 浪ぢはるかに へだてつと ききし別の かなしさは たとへんかたも むなしき空を あふげども こころばかりや まつやまの 嶺の雲にも まじりけん ただかたみとは とどめおきし やまとみことの ことのはを 見ればなみだも もろともに 玉のこゑごゑ つらなりて にしきいろいろ たちなせり かかるたぐひは いにしへも いまゆくすゑも いかがあらむ さてもとし月 うつりゆき しきしまの道 たちかへり 雲井の月に さそはるる よなよなまれに ありしかど 月のまへには むかしおぼえ 花のもとにも 君をおもふ ただとことはに なげきつつ いつもかはらぬ むもれ木の しづめることは ことのねを むかしたちけん をによせて たちてし道と のがれつつ こころひとつの かなしさは あゆくくさばに 袖ぬれて ことばの露は おのづから 玉ににせよる 時もあれど あさぢがしたに たちかへる なみもやあると あもひしを つひに千里の ほかにして 秋の御空に 月かくれ たびのみそらに 露けぬと しほぢへだてて ふくかぜの つてにきこえし ゆふべより いまははかなき 夢の中に あひ見んことは なくなくも のちの世にだに ちぎりありて はちすの池に むまれあはば むかしもいまも このみちに こころをひかん もろ人は このことのはを えにしとして おなじ御国に さそはざらめや
(反歌)さきだたむ人はたがひに尋ね見よ蓮のうへにさとりひらけて

【補記】
反歌「夢の世に」は後に『玉葉集』にとられたが、この長歌は載されなかった。

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最終更新:2011年06月14日 01:20
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