BACK INDEX NEXT


590 :Brightness Falls from the Air ◆ghfcFjWOoc :2008/09/21(日) 21:15:17 ID:kcjm1igP

 白一色の通路に二人分の足音が反響する。
 一人は白衣に眼鏡をかけた痩せ型の男で、身振り手振りを交えながら隣を歩く男に何やら説明を行っている。
 もう一人の男は通路とは正反対の黒い外套を羽織っている。
 髪の毛も黒だが、病的に青白い肌と血のように真っ赤な瞳のお陰でとても日本人には見えない。

「いやぁ、助かりました。何分、この手の方面では欧州に遅れをとっているのが現状で」
「どこも一緒さ。成る方法は見付けたのに戻す方法は未だ見付かっていない」

 外套の男の言葉に白衣の男の顔が曇る。
 微かな希望を砕かれた、そんな表情だ。

「やはり、そうですか」
「で、保護された女性の容体はどうなんだ?」
「脳波も脈拍も安定しています。意識が回復するのも時間の問題かと」
「そうか。意識が戻ったら一報をくれ。どうせ、アフターケアは俺の担当だろうから」

 喋っている間に二人は分厚い鉄扉の前に来る。
 白衣の男がカードを取り出し、鉄扉横の機械に通すとそれが本物だという事を意味する電子音が鳴り、自動的に扉が開く。



 部屋の中もまた白一色だった。
 白は清潔な印象を与える色だが、ここではむしろ、無機質で冷たい印象を与えている。

 そこには輸血製剤を含む点滴セットや何台もの機器が並び、そこから伸びるチューブは全て部屋の中央に置かれたベッドに集まっている。
 そのベッドには一人の女性の姿があった。
 顔からは血の気が失せ、一見すると死んでいるようにも見えるが、注意深く観察すれば胸が小さいながらも上下しているのが分かる。

 ゆっくり近付いた外套の男は、それぞれの手で女性の上唇と下唇を摘むとそのまま上下に開く。
 そして、口の中を覗き込むと不愉快げに舌打ちする。

 続いて、首に巻かれた包帯に目を向け、後ろに控える白衣の男に振り向く。
 それだけで意図を察したのか、白衣の男は軽く頷きを返す。

 外套の男は女性の頭をそっと持ち上げ、包帯を解いていく。
 解き終えた時、男は再び不愉快げに舌を鳴らす。

「保護した時はもっと酷かったようで」
「だろうな。まあ、これだけ派手だとすぐに意識を失っただろうから、ある意味幸いだな」

 答えながら、白衣の男から手渡しされた新品の包帯を丁寧に巻いていく。

「さっさとけりを付けないと犠牲者はもっと増える。死人も時間の問題だな」

 包帯を巻き終えると、女性を静かにベッドに寝かせ、乱れていた患者衣も整える。

「そういう訳だから、俺はもう行く。さっきも言ったが、彼女が意識を取り戻したら連絡をくれ。それと、間違っても外に出すなよ」
「それは心得ていますが、お一人で大丈夫ですか?」

 白衣の男の懸念を外套の男は笑い飛ばした。

「戦力はこっちで確保するし、事情を知れば頼まなくても勝手に動いてくれる奴が現地には大勢いる」

 だから、解決自体は容易だと、男は言い、やはり問題は時間だと溜息を吐く。

「それで、潜伏先の推測は正しいんですか?」
「発見から夜明けまでの時間を考えるとまず間違いないだろう」

 そこで、外套の男は一度言葉を切る。
 強く噛み締められた歯がぎりぎりと悲鳴にも似た音を上げる。
 そして、彼は忌々しげに一つの名前を言い放った。

「高杜だ」



BACK INDEX NEXT


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年09月29日 00:31