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564 :ストレイシープ 1/3 ◆WtRerEDlHI :2008/09/20(土) 01:45:35 ID:a6KhspK7

佐藤 雅之がいつもと変わらずに学食で昼食を取っていると、ずかずかと横に男が座ってきた。
中学からの悪友、池上 明である。
高校生になってからはクラスが離れてしまったが、休み時間の折にはこうやって会う事もある。
スプーンでカレーを描き回しながら、池上は佐藤の方をむいて笑う。
「よう佐藤、長い休みは楽しめたかい?」
「何わけのわからない事を。夏休みも一緒に遊んでただろ」
顔をむけずに、佐藤は呆れながら箸を動かした。
寝言につき合っているとせっかくのソバがのびてしまう。
麺をずるずるとかき込み汁をすする。
池上は、つっけんどんな返しにも気にせず話を続けた。
「そうだったな、へへ。実はよー俺っち、今すげーウキウキしてるんだよ!」
佐藤はちらりと池上へ視線をかわした。
……いつもじゃないか。
年がら年中陽気な奴だ。落ち込んでいるところを見たことがない。
「君がしんみりしているところなんて、あったかな?」
「さあ? へへ、実はよ、クラスに転校生が来たのよ、これが!」
「女の人?」
おう! と池上は力強くうなづく。
やっぱり、と佐藤は思った。
この男が変に元気なのは、おおかたその人が綺麗だったとか可愛かったとか、
きっとそんなたぐいなのだろう。
「何ていうかな、ほっそりとしてキレーなの! 和美ちゃんみてーなボン、キュッ、バン!
とかじゃなくて、柳みたいに折れそうな、でもそこがいいんだよ!」
ふう、と佐藤は溜め息をついた。この男は、実に予想通りで、逆に感心する。
この情熱を学業にむければ、かなり上位にいけるかもしれない。
「……で、告白するの? 花火大会の時みたいに?」
「……あれは、タイミングが悪かった」
彼氏持ちという事に、タイミングは関係あるのだろうか。
ああそうだ。
あの時はさすがに落ち込んでいたが、次の日には元気だったな。
今度はあさっての日にでも元気になるのだろうか。
佐藤は生暖かい目で、池上に話しかけた。
「でも、転校してきたばっかりだろ? タイミング悪くないか?」
「何言ってんだよ、唾つけた奴がいないって事だぜ! 先手必勝、あたって砕けろって奴さ!」
「前の学校で彼氏がいたりしたら?」
「それは……そん時だろ」
やれやれ、これは玉砕だな。
まあ、この裏表のない性格が好感が持てる訳だが。
適当に話をあわして食事をすませ、佐藤は席を立った。
食器を返却口へ持っていこうとするとざわざわと話し声が聞こえる。
どうやら食堂の一角で騒ぎがあったようだ。
だが、自分には関係ないことだ。
購買でラスクとコーヒーを買うと、佐藤は自分のクラスへと戻った。


食後の睡魔を耐えきり、佐藤は放課後をむかえた。
鞄をかかげ部室へむかう事にする。
教室を出る際にクラスメイトに声をかけ、階段を降りた。
学園に施設がたくさんあるのは良い事なのだが、その分移動に時間がかかる。
佐藤が部室につく頃には、うっすらと汗をかいていた。

『卓上遊戯同好会』

プレート名を一瞥して、佐藤は扉を開けた。
中に入った佐藤を涼しい空気が迎え入れる。
全ての部屋に空調が用意されているとは、便利な世の中になったものだ。
すでに中にいた男子にむかって挨拶する。
「こんにちは菊池先輩。清水先輩や時田達はまだみたいですね」
「ああ、そうみたいだね」
菊池は気だるそうに返事をかえした。
サイコロを手に持って、ときおり机の上で転がす。
「今日は麻雀ですか?」
「いや、ボードゲームが良いな。バトルテックでもしようか」
「わかりました」
佐藤が所属する部活は卓上遊戯、テーブルの上でやるゲーム全てを網羅する。
囲碁から将棋、チェスに麻雀、ボードゲームやTRPG、色々な物で部活を楽しむのだ。
ただ遊ぶだけじゃないかと、申請したときに嫌味を言われたらしい。
「世界の様々な遊戯に対する理解を深め、社交性を養う」
そんな建前を寛大な学園長は認め、部室を手に入れた訳だ。
部長である菊池先輩が大物なのか、学園がおおらかなのか。
どちらなのかは佐藤にはわからなかったが、楽な部活なのは確かだった。
もっとも、実績と呼べる物が作れないから同好会のままな訳だが。
しばらく先輩と雑談していると、他のみんなも部屋に入ってきた。
適当に椅子に座り、部活動という名目の暇つぶしを楽しむ。
部室を出る頃には、すっかり日が暮れていた。
そのままみんなと別れ、佐藤は帰る事にした。

バス停にむかうと、何やらすこし人だかりが出来ていた。
近所の人が口々に話し合っている。
「何かあったんですか?」
佐藤はバス停の座席に腰掛けながら、近くにいた人に聞いてみた。
「それがね、変質者が出たみたいなの」
「変質者、ですか?」
いぶかしげな声をあげる佐藤にその人は、聞いたんだけれど、と話を続ける。
「あそこにバケツあるでしょ?あの中に不審人物がいたみたいよ。警察につれてかれたけどね」
「へぇ、そうなんですか」
訳のわからないことだ。夏の暑さがまだ残っているらしい。
どこもかしこも、陽気な奴らばっかりだ。
「ほんと物騒な世の中ね、田舎だと思ってたんだけど」
「ええ、そうですね」
適当に佐藤は相槌をうつ。自分には関係ない事だ。
目の前に現われた時に考えればいい。
おばさん達の井戸端会議を聞きながら、佐藤はバスを待ち続けた。


学園長室。
夕暮れが部屋を染めるなか、学園長は窓の外の夕日をながめていた。
その後ろで、一人の男が畏まっていた。
こうべを下げたまま、ゆっくりと男は喋りだす。
「御報告します。すでにお気づきかとは思いますが、青田が対象を尾行中、通信を絶ちました」
「土見 ゆり子のしわざかの?」
「それはまだ……ただ、途絶える前の通信では……」
言いにくそうに男は顔をしかめる。
学園長は湯飲みを手にもって、お茶を口に運んだ。
「どうした? 早く申せ」
「……それが、その、……警察に連行されたようです」
「ぶっふ!」
ふきだしそうになり、学園長は咳込んだ。
しばらくして、呆れた声で呟く。
「何をやっておるのじゃ、あいつは……」
「いかがいたしましょうか?」
ふむ、と学園長は腕組みをして考え込む。
「署長とは懇意じゃからの、何とかなると思うが問題は……緑川」
「はっ」
「土見 ゆり子自体の詳細がまだわかっとらん。シロかクロかも判別できとらん。
お前に頼むが、だいじょうぶか?」
学園長の言葉に、男は姿勢を正した。
「ご期待にそえるよう、努力します」
「うむ、早まった行動は取るなよ。ささ、景気づけに飴玉をくれてやろう。ちこうよれ」
男は学園長の机に近づきうやうやしく手を差し出した。
学園長がドロップス缶を振ると、その中に一粒の飴が転がり込む。
「勝利のぱいんじゃ、期待してるぞよ」
「はっ! ありがたき幸せ!」
男は口に飴をふくみ、片手を高々とあげた。
「学び舎は日の光月の光、偉大な理念の名の下に、われら、学園長の為に!」
深々と一礼をして男は部屋を出た。
後には一人、学園長が部屋に残されるだけだった。
背もたれに深々と座りながら、ドロップス缶を振る。
次々に手のひらへ飴玉をのせるが、やがて困惑した表情を浮かべる。
「しもうた……パイン味はあれが最後か……」
窓の外では、夕日がすでに半分ほど地平線に沈もうとしている。
うっすらと暗くなっていく空の色は、学園長の心をあらわしているかのようだった。

―――続く






567 :ストレイシープ  ◆WtRerEDlHI :2008/09/20(土) 01:53:37 ID:a6KhspK7
投下終了です
今回出てきたキャラの簡単な紹介を

佐藤 雅之
高校二年生。落ち着いた性格、池上とは親友

池上 明
高校二年生。前向きな性格、佐藤とは中学からの同級生

菊池先輩・清水先輩・時田
佐藤の部活メンバー、チョイ役

部活メンバーはもし使いたい人がいるなら好きに使ってください
上ですこし話ありましたが、書き手同士の話し合いでスレを潰さないために
避難所を利用するのはアリだと思います



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最終更新:2008年09月28日 18:49