462 :ストレイシープ 1/3 ◆WtRerEDlHI :2008/09/15(月) 14:01:06 ID:Ma7VwtSt
「土見 ゆり子です。これからよろしくお願いします」
転校生の存在が珍しいのか、ざわざわと生徒が騒いでいる。
まあ仕方がない、最初はそんなものだ。
じきにクラスの一人として馴染むだろう。
事が運ぶまではあまり目立ってはいけない、平凡な人物を演じなければ。
「じゃあ、あそこの窓際の席に座って」
「はい」
教師に促されて、自分の席へとむかった。
私は筆記用具を広げ、窓の外を何となく眺める。
他のクラス生徒が体育の授業なのか、グラウンドで何かやっている。
窓から入ってくる風が心地良い。悪くない席だ。
教室へと目を戻すと、数人の生徒がこちらを見ているのに気づいた。
私と視線が合うと、慌てて視線をそらす。
そんな雰囲気を気にもせず、私は授業に集中した。
案の定、一時限目が終わると周りから質問攻めにあった。
クラスの女子が私を取り囲み矢継ぎ早に質問する。
「土見さんてどこからきたの?」
「バスで一緒だったよね!どこに住んでるの?」
「髪長くてキレー!何使ってるの?」
適当にそれらの言葉をかわしながら、私は教室を見回した。
男子がちらちらと私を見て、ひそひそと話している。
ふむ。
あまり良くはない。
軽薄そうな奴等がいっぱいだ。贄の対象としてはよろしくない。
別にクラスが一つだけという事もない。
探せば対象者がたくさん見つかるだろう。
最後の最後の妥協案。焦らず、ゆっくりと、探すか。
「土見さんて、前の学校どんな部活入っていたの?」
「部活、ですか?」
「そ、部活。見た所文化部っぽいけど、なんか運動もできそうだよねー」
部活、か。
「部活には入ってませんでしたね」
「あら意外、帰宅部なんだ」
「田舎の学校だったもので、人数が集まりませんでした」
ただしくは、人がいないのではなく、人が近づけないだが。
「そうなんだー、でもこの学校いっぱい部活あるから大丈夫だよ」
「そうなんですか」
「うん、中には訳わかんないのもあるけどねー」
そうだね、と周りの女子もつられて笑う。
生徒は部活に入っているのが当たり前なのだろうか。
少しは考えた方がいいかもしれない。
とはいっても、何をすればいいのだろうか。
まあ、そのうちに見つかるだろう。
私は適当に周りをいなしながら外の景色を眺めた。
午前の授業も終了して、昼休みとなった。
各々の場所で、昼食を取っている。
転校生の私には、一緒に食べる友人も見つからず、学食へむかう事にした。
ここに来た時に一度みたが、やはり広い。
いや、生徒数を考えると妥当というべきか。
弁当もいいが、やはり温かい食べ物の方が美味しい。
食券を購入して、私は適当に座った。
食事を取っていると何やら騒がしい。
ふと見ると、一組の男女が食堂へと入ってきた様だった。
何やら喋っているが、私を見つけると一直線にずかずかとむかってくる。
男女は私の前までくると、いきなり話し始めた。
「あなたが噂の転校生ね?私は新聞部部長、雨宮つばき!そしてこっちはメガネ!」
「雨宮さん、メガネじゃなくて東雲って立派な名前があるんですが……」
「そんな事どうでもいいじゃない!今大事なのはアナタ!」
雨宮と名乗った女性は、私を指さして言った。
一体、何だというのだろうか。
状況がつかめず、箸をおいて見つめ返す私に、彼女は続けた。
「夏が終わった高杜にひっそりと転校してきた一人の女性!これは、スクープね!」
「いや雨宮さん、転校生ってのはそう珍しくないから」
男性は、すまないといった顔で私を見ている。
辺りでは災難だな、と遠巻きに見ている人がいる。
はて、どうしたものか。
対応に困っている私にかまわず、雨宮はまくしたてる。
「謎の転校生の秘密を新聞部が暴く!さあ観念して洗いざらいぶちまけなさい!」
「雨宮さん、犯罪者じゃないんだから」
なるほど、そういうことか。
記事になる物が欲しくて、私に白羽の矢を立てた訳か。
転校初日によくよく嗅ぎつけるものだ。
しかも新聞部とは。色々な部活がここにはあるらしい。
「すみません食事中ですので。質問には後で答えますので静かにしてもらえますか?」
「あ、じゃあいつでもいいので俺達の部室にでも……」
「ちょっとメガネ、何勝手な事してるのよ!」
騒がしい二人を前に器を平らげると、私は早々にその場を後にした。
まったく、ゆっくりと食事も取る事も出来はしない。
まあ一月もすれば馴れるだろう。
私は自分のクラスへと戻る事にした。。
九月といえどもまだまだ暑い。廊下の窓から入る風が心地良かった。
午後の授業も終わって放課後となった。クラスの生徒も、帰路や部活へとむかう。
私も鞄に荷物を詰め込んで帰る事にした。
下駄箱で靴を履き替えて帰ろうとしたが、ふと思い直した。
昼の一件を思い出す。色々な部活もあったものだ。
少し寄り道するのも悪くない。私は、部室棟へとむかう事にした。
廊下に連なって様々な部屋がある。
扉の上にはプレートが立てかけてある。私はそれを眺めなら先へと進んだ。
『
崖っぷち同好会』、『
早明浦観測会』、etcetc……
名前を見ただけではどういったものかはわからない。
数多くの部室が並んでいる。
そんな中、私は一つの部屋の前で足を止めた。
『新聞部 ! 』
新聞部という文字の後に、マジックか何かで『!』を書き足してある。
私はその力強い文字に、誰が書き足したか何となく想像できた。
そういえば、後で行くという約束をしていたのだった。
まあ、本当の事を喋る訳にもいかないし、適当に合わせておこう。
私はノックをして中に入った。
中には一人の女性がいた。他には人は見えない。
昼に会った二人組みは、今はいないようだ。
「こんにちは、土見 ゆり子といいます。雨宮…さんはいますか?」
「氷川 雹子です。すいません今は出かけているみたいですね」
「どちらに行かれたかはわかりますか?」
「さあ……多分、スクープになるような物を探しに行ったと思うんですけど……」
一足違いというわけか。
まあいいか、次あった時に話せばいい。
「そうですか、では土見が来たと伝えてもらえますか?」
「ええ、伝えておきますね」
ありがとうございますと、いって私は彼女を一瞥した。
「……なにか?」
「いえ、何も。それでは失礼します」
一礼して私はその場を去った。
廊下に出るとしばらくしてから振り返った。
「人外の者が平気で居るとはね……この学園、侮れないわ」
人間だけかと思っていたが、人外もいるとは、都会という物は恐ろしい。
やはり慎重に運ぶ必要がある。
焦らず、じっくり、慎重に、
「……まあ何とかなる、わ」
私は学園から出る事にした。
校舎の塀から出てバス停へとむかう。
備えられた椅子に座ってバスを待っていると、何か視線を感じた気がした。
辺りを見回すが、特に怪しい人物はいない。私と同じ生徒が帰路についているだけだ。
きっと転校初日で過敏になっているのだろう。
私は自嘲してバスに乗り込んだ。
ゆり子がバスへと乗り込み、しばらくした後、
バス停近くのポリバケツの蓋が、ゆっくりと開く。
そして、中からスーツ姿の男がゆっくりと現われる。
「フン……勘の良い奴……」
上半身をポリバケツから出し、男はゆっくりと呟いた。
「ママー、あのおじさん!」
「しっ!見ちゃいけません!」
―――続く
465 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 14:04:44 ID:Ma7VwtSt
投下終了です
「
高杜学園たぶろいど!」からキャラをお借りしました
最終更新:2008年09月28日 18:51