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71 :早明浦観測会 ◆ghfcFjWOoc :2008/10/01(水) 23:06:23 ID:c79PPXju

「私、幽霊と会った事ないんですよねー」
「唐突に何の話だ」
「何って、今日は心霊スポット巡りって聞きましたけど」
「あ? ああ……ああ」

 そういえば、そう言う会話をした気もする。
 あの時は上手く誤魔化したつもりだったが所詮小細工だったか。

 程なくして綾嶺が部室にやって来て会議が始まった。

「まずはこの学園のプール……女子生徒の霊が出るみたい」
「あっ、私も雨宮さんから聞いた事あります」
「生徒の霊ねえ……」

 そういえば、七不思議の中にも幽霊の存在を匂わせるのがあった。
 ってか七不思議の一番の不思議は七つ以上ある事なんだよな。

「次は港……何年か前に入水自殺した人がいるみたい」

 年間の自殺者が三万人を超えているので、この付近でもそれなりの数がいるだろう。
 全員が全員、この世に未練を残して留まっていられても困るが。

 それからというもの、何処から調べたのか、高杜市の心霊スポットを次々に挙げていく。
 なんて暇な奴。

創発女学院でも目撃例があるみたいだけど……あそこはちょっと無理ね」

 創発女学院は生徒の親族でも敷地に入るのに許可が必要な徹底ぶりなので、心霊スポット巡りと言って許可が下りる訳がない。
 夜中なら尚更だし、警備も厳重なので忍び込むのも不可能だ。

 御上としても、あそこの無駄に荘厳な空気は苦手なので願ったり叶ったりである。


「流石に制服は拙そうだし……一度私服に着替えてまた集合しましょう」
「はーい」
「……」

 なんか、雰囲気に流されて話に乗っている内に行くのは確定してしまった。
 別に幽霊が怖い訳ではないが、面倒そうだし、御上としてはさっさと帰りたいがたいが、それは可哀想な気がしてしまう。
 かくなる上は手段は一つ。

「まあ、ちょっと待て」

 御上は制服の内ポケットに入れていた携帯を取り出し、登録してある番号に電話をかける。
 数回のコール音すらもどかしい。
 やっと相手が電話に出たと思えば無機質な電子音で伝言を残すよう促される。

「俺だ。このメッセージを聞いたらすぐに折り返せ」

 軽く舌打ちして最低限の内容を喋ると携帯を折り畳んで内ポケットに仕舞う。

「この大事な時に何をやってやがる」
「部活じゃないですかー?」
「……予定を煮詰めないといけないから多少の猶予をあげる」

 部長の寛大さには涙が出てくる。
 後輩さえいなければキスの一つでもしてやりたいくらいだ。

『何か用か?』

 三十分程経った頃に待望の折り返しが来た。

「捷護、海に行かないか?」
『突然だな。まあ、構わないが、何時だ?』
「今日、これからだ」

 電話の向こうが言葉に詰まり、数秒の沈黙が生まれる。

『流石に今日は無理だ。まだ部活も終わってないし、それに』
「それに?」
『水着がない』

 思わず携帯を床に叩きつけたくなる衝動を御上はやっとの事で堪えた。

「誰もてめえの水着なんざ見ねえし、そもそも泳がねえよ!」
『そうか。だが、どっちみち無理だ』
「無理か」
『無理だ。今日は父親の従姉妹の旦那の遊び相手をしなくちゃならない』
「知るか!」

 電話口に怒鳴り散らしてから携帯を切る。
 他に来てくれそうな相手を考えていると、がしりと肩を掴まれた。
 意外に強い力だ。

「御上君……ハルカちゃんもいるからあまり遅いと困る」

 ハイライトの消えた目でじっと見詰められ、御上は額に汗を浮かせた。
 自分本意な部長に振り回されている気の毒な役回りの筈だが、こうしていると悪い事をした気分になってくる。

「……分かったよ! 行けばいいんだろ、行けば!」

 御上は殆んど自棄っぱちだった。


 ……この決断が後年……御上君に深い苦悩を強いる一端になるのだが……本人はまだ知るよしはなかった。







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最終更新:2008年10月04日 21:25