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111 :ensemble ◆NN1orQGDus :2008/10/05(日) 17:44:17 ID:KQ/bF66s

#8

 秋の夕日は釣瓶落とし。夕日が校舎を朱色に照らしている。風は涼しく、山の木々の葉を赤、或いは黄色に塗りつぶしながらそよいでいる。

「あれ? 二宮さんの足が違ってら」

「何言ってんの、遠矢」

 校庭の片隅に佇んでいる二宮金治郎像の影が細長く伸びている。
 その影を踏み荒しながら二宮さんの足元に座り込んだ遠矢を見て由良は、はあ、と溜め息を吐く。

「んー。この前はさ、右足を踏み出してたのに今日は左足を踏み出してんだよ、この人」

「そんなはずないよ。遠矢の見間違いじゃない? それよりもさ、早く行かないと」

 由良は携帯を取り出してディスプレイを開いて時間を確認する。
 四時半の少し前。早くしないとマクガフィンのお気に入りの窓際の席が埋まってしまう、と遠矢を急かす。

「紛らわしい事するなよ、二宮さん」

 遠矢は像の頭をパシンと叩く。

「そんな事するとバチが当たるよ」

「大丈夫だって。二宮さんってバチ当てるケチな神様じゃないって」

 口ではバチを否定するものの、目を泳がせながら叩いた頭を撫でる遠矢を見て、由良は手を口許に寄せてプッと吹き出す。

「二宮尊徳って神様じゃないよ? 確か学者とかそんな感じの人だよ」

「金治郎じゃなくて損得? 商売人? やっぱしケチなのかな?」

「うーん、ケチ……なのかな。質素倹約の人だし」

 微妙な意思のスレ違いを感じながら由良は腕を組んで考え込む。が、ハッとして遠矢の手を引いた。

「だからマクガフィンなんだよ。早く行かないと、ね」

「ちょ、由良! 引っ張るなよ、転ぶ転ぶ! 足の長さが違うんだよ!」

「大丈夫だよ、遠矢の方が回転が早いんたから」

 由良は振り向かずに走り出す。遠慮なしの本気のスピードだ。遠矢も由良に負けじとダッシュする。
 体格の差はあるけれど、遠矢と由良を比べれば走る速さは遠矢の方が速い。
 だけど遠矢は由良の速さに併せている。
 ――子供の頃なら私を置いて行ったのに、今は私に併せる。小さいけれどオトナなんだな。

 由良の呟きは密かに心に秘められて遠矢に届く事はない。
 遠矢はそれを知ってか知らずか、由良に振り向いて子供のように無邪気に微笑む。そんな笑顔に由良は弱い。

「全く……厄介なんだから」

「ん、何か言った?」

「何でもない」


――To be continued on the next time.





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最終更新:2008年10月06日 22:17