579 :ensemble ◆NN1orQGDus :2008/09/20(土) 19:11:16 ID:PXJO2KbC

#7

 夜中のコンビニは誘蛾灯に似ている。
 明るい光は暗闇を遠ざけて、夜通し人を誘い続ける。
 葉菜子と安武もその中の一員だ。

「おま、オデンなんて買ってんの? ちょっと早すぎだろ」
「肉まん買ってるアンタに言われたくないわよ」

 ハフハフとちくわぶを頬張る葉菜子に安武は呆れるが、葉菜子も肉まんをがっついている安武に呆れている。
 つまり、どっちもどっちだ。

「おい、真下にカラシが落ちマシタよ?」
「ねえ、面白いと思ってんの?」
「まあ、それなりには」

 口を開けば軽口ばかりの安武に、葉菜子はげんなりとする。だか、食欲は衰えずにがんもどきに口をつける。
 が、安武はそんな葉菜子などお構いなしに喋り続ける。

「そー言えばさ、お前進路決めた?」
「私はこのまま大学部かな。ヤスは……就職?」
「俺は専門学校だよ。何にするか決めてねーけど」
「早く決めなよ? じゃないとアンタはニートに決定だよ」
「んー。まぁ、東京に出ればなんとかなるっしょ。やりたい事が見つかんねーんだわ」

 安武はゴミをビニール袋に詰めるとゴミ箱に捨てた。葉菜子は、オデンの汁をゆっくりすすっている。

「みっちゃんは東京の大学だっけ? 頭良いもんな」
「そ。それで……由良も高杜の大学部で、陸海は料理の専門学校」
「知ってる。みっちゃんが小料理屋でもやったらどうだって言ったらその気になったんだ」

 通泰と陸海。二人は中学生の頃から付き合っていて、今や足掛け5年だ。
 当時、安武は先を越された、等とぼやいていたが、つい昨日のように思える。

「遠矢は就職組で植木屋か」
「らしいね。あの子以外と頭が良いのに」
「『頭が悪くて植木屋が出来るかーっ』なんて言ってたぜ、アイツ」

 葉菜子は食べきって空になったオデンの容器をゴミ箱に捨てると、溜め息を吐く。
「なんかさ、時間が経つのって早いよね。今まで皆一緒だったのに、大人になると皆バラバラだよ」
「仕方ないっしょ。いつかは大人になるもんだし」
「それはそうだけどさ、なんだか割りきれないよ」

 表情が沈んでいく葉菜子の鼻を安武はつまむ。

「ちょっと、何すんのよっ!」
「……元気だせよ。お前らしくないぞ」
「バカッ! 余計なお世話よ」
「あのさ、今度皆で遊びに行かないか? バラバラに別れる前にさ、思い出の1つは作っとこうぜ?」
「……そうだね」

 将来を考えて落ち込んでいた葉菜子は、安武の明るい物言いに相好を崩した。

「でもさ、何処に行く?」
「東京とか。こっちじゃ買えない物とか欲しいし」
「あー、ダメダメ。由良は人混みが嫌いだから。陸海だって乗り物弱いから却下」
「……お前さ、お母さん?」

 返事の代わりに拳骨が落ちた。安武は頭を擦りながら鼻声で非難する。

「グーはやめろ! 女ならパーに……すると掌底になるからパーもやめろ」
「じゃあ、踏む」
「おう。ヒールを履いて踏んでくれ」
「……ヘンタイ」

 互いににらみ合いになるが、笑い声と共にウヤムヤになった。馬鹿馬鹿しいやり取りであるが、それもまた楽しい。

「だったらさ、秋祭りにしない?出店とか色々出るし」
「そーだな。浴衣着てくれるならそれで良い」
「……ばーか」

 夜の空気に葉菜子の声が溶けていく。頭上にはペガサスの大四角形か輝いている。
「……そろそろ帰ろうぜ。一人じゃ危ないから送ってくよ」
「アンタと一緒の方が危ないかもね」
「俺の瞳を見ろっ! 危なくないだろ?」
「そう言えば、アンタ私ん家からの帰り道に側溝にハマって大泣きしたよね」
「ガキん時の話じゃねーか」
「今だってガキでしょ?」

 葉菜子は踵を反して歩き出す。後ろで安武が騒いでいるけど気にしない。

 ――ホントに子供なのは私。だって大人になるのが怖いもん。

 葉菜子は心の中でそっと呟くと、駈けてくる足音をゆっくりと待った。

――To be continued on the next time.







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最終更新:2008年10月06日 22:14