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335 :高杜学園たぶろいど! ◆IXTcNublQI :2009/02/04(水) 23:41:34 ID:UVUzqZlc

2‐4

 山の頂上からは、町並みが小さく見える……まるで目に見える全てを手に入れたかのような
高揚感に満ち溢れていく。

「風が気持ちいいですね。雹子さん」
「ええ。そうですね」
 見晴らしの良い広場。周りには誰もいない。本当にデートみたいになってきた。でも、ここから
何をしたらいいのかわかんねー……こんな事なら恋愛シミュレーションゲームで予習してこれば
良かった……! いきなり襲うか? それじゃあ鬼畜だ! いやいや相手の気持ちも考えて……

 俺が逡巡していると、氷川先輩が口を開いた。
「ねえ、蔵人君……」
「はい(え? なんだろ)」

「蔵人君の家ってどの辺り?」
「え、ああ。うん。えっと……ほら、あれですよ」
俺が指差した先にあるのは、まあどこと言って特徴の無い賃貸マンションだ。中学二年のときに
この高杜市に引っ越してきた。親の仕事の都合だけどね。
「え、えと、雹子さんの家は……あ、すいません」
 不用意に同じ質問を返そうとしてしまった。そう、氷川先輩には帰る家は無いんだった……
「ん? ああ、気にしないで。そうね。みんなのいる新聞部が私の家だから」

「その"みんな"の中に……俺は入ってるんですか?」
「??? 何言ってるの? 当たり前じゃないですか」
 なんでそんな事訊いたんだろ……でもちょっと嬉しかった。

 それから少しして雪村先輩から電話がかかってきた。3人は先にカラオケボックスに行った
との事。俺達が来ないことに関して雨宮さんはすっかり忘れられているらしい。入室してから
ずっとマイクを離さないそうだ。光景が目に浮かぶ。でもどんな曲を歌うんだろう。俺は誰も
知らないアニソンとかエントリーして引かれるに違いない。光景が目に浮かぶ。

「雹子さんは好きな曲とかあるんですか?」
「曲、ですか。うーん……歌謡曲とかよく知らないんですよね」
 あの、今時歌謡曲って言わないですよ……先輩。

 俺達2人がカラオケボックスの前に着くと同時に建物から出てきた人影が三つ見えた。
「あーっ。どうしたのよっ。二人とも」
 聞き覚えのある声。見覚えのある顔。平らな胸……我らが新聞部の部長である雨宮さんだ。
「あ、雨宮さん……」
 やべえ、勝手に抜け出して怒ってるかな……?
「勿体無い事したわねー」
 はい?
「せっかく私のスペシャルメドレーで盛り上がってたのに~」
 あ、そうなんですか。それは良かったですねえ。って、自分が主役ですかっ。
「じゃあ今度はまたみんなでカラオケ大会しましょうか」
「いいわねーひょこたん。それじゃあ来週の日曜はここに集合よっ」
「じゃあ俺も……」
「もちろんメガネも来てもらわなくちゃ困るわ」
「雨宮さん……」
「とーぜんメガネのおごりなんだから、ねっ☆」
 ふっふっふっ。そのオチは読めてましたよ雨宮さん……。でも、そんな満面の笑みで
言われたら従わざるを得ないじゃないですか。はぁ。

 その日はそれで解散した。なんか今日は色々と疲れたな……。

 翌日、朝。いつもの月曜日。いつものように教室に入る俺。
「おはよーっす」
「あ、おはようございます。あま……」
 あれ?
「どーしたの? 東雲君」
 いつもと声が違うと思ったら。昨日会った綾重さんじゃないか。
「同級生なんだから、そんな言い方しなくていいんだよー?」
「あ。そうだね。いつものクセで……」
「クセ? まあいいや。ところで今日の放課後ってヒマ?」
「えっ……部活があるんだけど」
 俺は雨宮さんのスクープ探しに付き合って学園中を回らねばならないのだ。
「ああ。そうなんだー。部活動の前にちょっとだけ時間無いかな? このメモの部屋に来て
欲しいんだけど……」
 メモを渡され、両手を合わせてお願いされてしまった。え? 何ですか? こんなに頼み
込むって事はもしかして……もしかしちゃったりするんですか?
「うん。ちょっとだけなら良いかな……」
「じゃあ、よろしく。じゃ~ね~」
 そう言うと足早に自分の机に戻る綾重さん。大丈夫かな……うーん。まあ大丈夫だろう。

 その時、俺はまだ自分の身に降りかかる災難に気付いていなかったんだ……とか書くと
小説っぽいかな。多分何も無いけど……いや、何も無いのは寂しすぎるか。うーむ。



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最終更新:2009年02月19日 01:19