329 :高杜学園たぶろいど! ◆IXTcNublQI :2008/11/19(水) 01:31:42 ID:X4IqAUKP
2‐3
日曜の昼下がりの
高杜モールは人でごった返している。まさか幽霊を連れ歩いているとは
誰も思うまい。人ごみに紛れて気がつけばストーカー連中(嘘)からはぐれてしまったようだ。
「あっれー? 東雲君じゃない?」
「はい?」
聞き覚えのある元気な声。同じクラスの……えーっと、綾重奈美子だ。
「ちぃーす。やっぱそうだね」
「あ、綾重さん? 何で俺の名前を」
「んー? ほら、今時そんな黒縁メガネしてるの君くらいだし」
ああ、やっぱり目立つんだなコレ。ていうか休みの日なのにメガネかけてんのな俺……
「おやー? そっちの人は?」
「ああ、紹介するよ。同じ新聞部の氷川雹子先輩」
「はじめまして。氷川です」
「ふぅーん。ウチの高校の先輩なんだ。はじめましてっす」
先輩といっても十数年先輩なんだけどね。と言っても信じてもらえないだろうけど。
「あ、デートの邪魔しちゃ悪いね。それじゃあまた明日~」
俺と先輩は手を振り、綾重さんと別れる。なんか気を使わせちゃったかなぁ。
「今の人は、お友達?」
「いや、多分はじめて話しかけられた。結構席も離れてるし」
明日になって『まさかあのメガネに彼女が』なんて噂が立ったりして。いやそれは
さすがに無いよなぁ。
ようやく緊張もほぐれてきたかな。次の目的地に向かってしばらく歩いていると二人の
目の前に交通量の多い交差点があらわれた。さすがに休日だ。大小さまざまな車が左右に
流れていく。
「あ……蔵人君……道、変えないかな」
「え? 雹子さん、どうしたんですか」
氷川先輩の様子が、おかしい??
「ちょっと……大丈夫ですかっ」
「う……うん……ごめん」
先輩が小刻みに震えながら後ずさりする。ライオンに睨まれたカエルのように……俺は
その時忘れていた。先輩が車に撥ねられて死んだと言う事を。
「じゃあ、こっちのほうへ……」
俺はとりあえず先輩の体を抱え、人の少ないところへ連れて行くことにした。
二人は交通量の多い表通りを避けて路地裏へ。周りには誰もいない。
「本当に大丈夫ですか?」
「ええ……何とか一命は取り留めたわ」
それはギャグで言っているんですか? いまいちキャラがつかめないなこの人……
「あ……これからどうしましょうか」
「そ、そうだなぁ……そういや雨宮さん達はどうしたんだろう」
ポケットの中からメモを取り出す。ええと次は……カラオケボックス?
「先にカラオケボックスに行ったのかな。じゃあ俺らも……」
「ねぇ……どこか別の所、行かない? 2人だけでさ」
「えっ!? でもそんな事したら雨宮さんが……」
「いいじゃない。私と蔵人君のデートなんですから」
「うーん……そ、そうですね。じゃあ、どこに行きたいですか?」
「それは、蔵人君が決めてよ」
……
「ぜえ、ぜえ、ぜえ……」
「あら……もう息が切れたんですか? じゃあ少し休みますか」
……俺たちは今、
高見山の中腹にいる。この山の頂からは高杜の町が一望できる。
何故、山を登るのか。それはそこに山があるからだ。と、昔のさる登山家が言った
とか言わないとか。もちろん、今の俺たちは登山ではなく舗装された山道をただ歩い
ているだけだけどね。それなのにもう息が上がってきた。普段どんだけ運動してないん
だ俺……。
「この道は水泳部の練習でよく走りました。特に冬場ってプール使えないじゃないですか」
「ああ、そうなんですか」
俺は少し足を止め、先輩の話に耳を傾けた。そういや中学でも冬場は水泳部の連中が陸上
部ばりに校舎の周りとか走り回ってたなぁ。
「そうだ、蔵人君はスポーツとか、しないの?」
え? スポーツですか……記憶を辿っていく。東雲蔵人 スポーツでの検索結果――約2件。
まず、小学生の時の休み時間のドッジボールでは最後まで逃げ切った記憶がある。単に影が
薄かったため標的にならなかったという説が有力だが。それから……これまた小学校の頃だが
50mを全力で走って女の子に負けた記憶。まぁ、こんなものか。
「俺、体動かすのは苦手なんすよ……」
「へぇ。そうなんだ。もったいないなあ。男の子なのに」
「は、はぁ……」
ようやく神社の境内が見えてきた。高見山の頂上にある高見神社だ。
「ほら、もう少しで頂上よ。がんばって」
雨宮さんならこんな時、自分にどんな言葉をかけるだろうか。叱咤だろうか。あるいは無視
して一人で先に進んでいくんだろうか。そして俺はその姿が消えないよう嘆願しつつ追っていく
のだろうか。
最終更新:2009年02月19日 01:19