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73 :ensemble ◆rTnJeRmLss :2008/09/02(火) 21:06:47 ID:xTXWW7F6

#0 prologue

 夜更けに降った雨は夜明け前に止み、雲間から顔を覗かせた太陽が夏の日差しを投げつけてくる。
 濡れた地面が照りつけられて、生ぬるい湿った空気を作り出して朝のひんやりと冷たい空気を追い出しにかかっている。
 街の中心部から離れた高杜山の麓の閑散としたしたバス亭に一人、二人と学生服に身を包んだ少年少女が集まってくる。
「げ、由良、アンタどうしちゃったのさ」 頭の両側でキュッと結んだ髪を上下に揺らせて驚きながら、早川葉菜子は幼馴染みの岩波由良をまじましと見つめた。
つい数日前までは腰までさらりと伸びていた黒髪が、首のところでばっさりと切り落とされていた。
 しかもボブカットの様に切り揃えた髪型ではなく、毛先を無造作に、乱暴にカットした様な感じだ。
「見りゃわかるでしょ」
 女子にしては高過ぎる170cmという身長の由良の見下ろした時の凄みは、以前にもましてキツくなっている。
 あまりの威圧感に葉菜子は首を竦めてしまった。
「た、確かに見ればわかるけどさ、なんで切ったのかってさ」
「暑いし、うざいし、手入れがめんどい。好きなの選んで」
 ぶっきらぼうに答えると、由良は息せき走って来る少年に視線を移した。
「お、遠矢、今日は早いじゃん」
「おはよ、富士見」
「え、お前……由良だよな?」
「…………そのパターンはもう飽きた」
 由良は苦笑いしながら走ってきた少年――富士見遠矢の頭の上に手を置いて撫でる。
 遠矢の身長は由良よりも低く、背の順で並ぶとクラスの最前列の常連だ。そして、その低い身長に見合う位に容姿が幼い。
 由良との身長の差は手のひら
「びっくりしたけどかっこいいじゃん、それ」
 撫でられるのが気持ち良いのか、遠矢は目を細める。由良も気持ち良さそうに遠矢の坊主頭を撫でる。
 葉菜子はそれを見て、年の離れた姉弟――下手をすれば年の近い母子みたいだな、と思う。

「真っ黒に焼けてるけど、毎日ラジオ体操に行ってたみたいね。お姉さん、安心したわぁ」
 からかう様な口調の葉菜子に、遠矢は口を尖らせる。
「違うわ! 親父の仕事の手伝いをしたんだよ! だいたい、ハナん家にだって行ったじゃんか!」
 遠矢の家は造園会社を営んでいて、遠矢は休日に小遣い稼ぎがてらに手伝う亊がある。


 夏休みは小遣い稼ぎに精をだしたのか、見事なまでに日焼けしている。
「あーら、遠矢ん家のおじさんは見たけど遠矢は小さすぎて見えなかったよ」
 遠矢と葉菜子のやり取りを見かねた由良が声を荒げる。
「二人とも恥ずかしいからやめな」
 と、子供じゃないんだから、と付け足して溜め息を吐き、まだ小声で言い合っている二人を尻目に空を見上げた。

 雲は山の向こうに消え去り、日差しが本格的になり始めてる。喧しい程に五月蝿い蝉時雨、草の青臭い匂い。汗がじんわりと滲むくらいに暑くなってきた。
「あ、バスが来た」
 遠矢は伸び上がるように背伸びをして、バスが此方に向かって来るのを見る。
 葉菜子は手でパタパタと顔を扇いでいる。
 由良はさっぱりと切り落とした髪がを名残惜しいのか、軽く涼しくなったうなじをかきあげる。

 バスが止まると生徒達は座席を求めて我先にと乗り込む。

 バスは走る。
 流れる景色は一つだけど幾通りもある。 時には早く、時にはゆっくり。
 幾つもの物語を乗せて
――向かう先は物語の舞台の学舎――。

――To be continued on the next time.


75 :ensemble ◆rTnJeRmLss :2008/09/02(火) 21:10:24 ID:xTXWW7F6
恥ずかしながらも投下終了。
自分はこんな感じでラブコメ目指します。


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最終更新:2008年09月04日 23:37