136 :ensemble ◆rTnJeRmLss :2008/09/03(水) 21:59:08 ID:pBCCkTam

#1
 始業前の教室の雰囲気は、未だに夏休みの余韻を引きずって浮わついている。
 仲間から夏休みの宿題を借りて写している生徒もちらほら見える。
「で、葉菜子は進路は決めた?」
 錆色の髪の少年――辻安武が隣の席の葉菜子に、にやけたしまりのない顔で話しかけた。
 葉菜子も安武も高等部2年だから進路を考えるのは決して早くない。むしろ遅い方だ。
「私は看護学校にいくよ。やっさんの場合は……進路を考えるよりも留年しない亊を考えるべきじゃない?」
 何をいまさら、と心で呟きながら葉菜子はからかうような口調で返す。
「俺はそこまで馬鹿じゃねえっての!」
 あらそう、と葉菜子に揶揄されると安武は白旗をあげて話題を変える。
「そう言やぁさ、ちらっと見ただけだけど、由良って髪切ったろ? なんかあったんかな」
「聞いたけどスカされちゃった。何かあったと思うんだけど」
「じゃあさ、遠矢に聞いてみたらどうだ?最近アイツら仲良いから」
 葉菜子はムムム、と口ごもると記憶の糸を依り戻す。

 朝のやり取りの限りでは、あまり変わった事はない。でも、少し違和感がある。

「……由良、珍しく笑ってた。由良ってなんかすました所があるじゃない? だけど遠矢の頭を撫でながら笑ってた」
「って亊は、由良と遠矢の間にに何かあったんだな? 俺にはなんもなかったのに……」
 安武は肩をがっかりと落として葉菜子を恨みがましく見た。
 その視線に生理的な嫌悪感を抱いたのか葉菜子は眉をひそめる。
「な、なにみてんのよ。」
「別にぃ。どっかの誰かさんのお陰で遠矢に先を越されちまったよ」
 アンタねえ、と握り拳を安武に落とすと、葉菜子はふぅっと溜め息を吐く。
 遠矢も由良も小さい頃からの親友だ。もし、二人の仲がそういう仲になったとしたら一言申告して欲しかったという気持ちがある。
 私だけ仲間外れはなんだか嫌、と葉菜子は小声で呟く。
「でもさぁ、遠矢と由良かヤっちゃったんなら、由良って犯罪者っぽくね? どう見たって遠矢って中学生じゃん」
 下手すりゃ小学生、と続けた所で本日二回目のげんこつが安武の頭に落ちた。
「アンタの方が遠矢よりガキよ」

 ――アンタがそんなだから私達の仲も進展しないのよ

 頭を押さえて痛がる安武の横顔を見ながら葉菜子は心の中で呟いた。

――To be continued on the next time.




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最終更新:2008年09月04日 23:37