BACK INDEX NEXT


354 :普通の日常:2008/09/12(金) 01:34:55 ID:rFHHjrwf

終業の鐘が校内に鳴り響く、そのまま教室に残る者、慌しく帰宅する者、部室へと向かう者達の中で
ドアの横からひょっこりと一人の少女が顔を出すといつもの席の前へと近付いてゆく。
お目当ての相手、松田五郎は机に突っ伏し身動きしないまま眠っていた。

「また寝てるよ――ゴロー? 起きれ、帰んぞぉ……」

「ふがッ!?」

五郎は寝ぼけまなこで机から跳ね起き、そのまま椅子に大きくもたれかかり伸びをする。
傍で携帯を弄りながら待機している、長岡梅子と松田五郎は、
互いに中学時代の友人の知り合いを通じて知り合った、
似たもの同士波長であるのか、ウマが合うのか、二人で共に帰宅することが多くなっていた。

「今日もタケちゃん部活って、あたしらだけで帰ろ」

「まぁ、俺ら帰宅部だしな、今日はサテンとバーガーどっちだ?」

「今週ちょい、ピンチなんでバーガーやね」

五郎達は中学からつるんでいた同級生を合わせて数人いるのだが、
皆、二年生になり部活や塾へ向かうことが増えた為、大人数が集まることは珍しくなった、
男が多い時はゲーセン・ハイランダーやボーリング、女が多い時はモールの中を回りカラオケ。
二人の時は喫茶店マクガフィンやバーガーショップで暇を潰し、本屋を巡るのが基本ルートになっている。

「ゴロー、こないだの中間どだった?」

「数学が50点割って危なかったが、まぁ……普通だな」

「あんた、いつも寝てるってタケちゃん聞いてるけど、何でか赤点とらないよね?
なんだアレか!……カンニングか?」

「――睡眠学習の成果」

五郎の寒いギャグを梅子がスルーすると、二人はいきつけのバーガーショップへと辿り着いた。
小奇麗な内装にこじゃれたインテリア、周囲では他の学校の制服を着た学生たちが談笑している。

「いらっしゃいませ! ご注文をどうぞ!」

「アイスコーシーとポテトお願いします」

「俺も飲み物はアイスコーヒーを、Aセットで」

梅子がジャラジャラとポーチの中の小銭をかき集めているのを他所に、五郎が五千円札を店員に預けると、
そそくさとポーチをしまい精算を済ませ、席に着いた梅子に五郎が手を差し出した。

「ポテトとアイスコーヒー、しめてご会計は480円でぇす」

「奢りじゃないの!?」

「男女平等の理念に反するとは思わんかね?」

「やな男ー、やな男ー、悪い噂とか流してやるぅ!」

「冗談はさておき、今日なんか新刊出てたっけかな?」

そういうなり、五郎は携帯で本屋のアドレスに繋ぐと、新刊リストをチェックしていく、
梅子がかたわらに置いたカバンを膝の上に置くとノートと筆記用具を出し始める。

「こんな所で予習か?」

「こないだテストに授業で出てないところの問題が出たのよ、
ちょっとあんたのノートも見せてくれる? 見比べるからさぁ……」

「余裕のない人ってこれだから」

「余裕じゃなくて、ちゃらんぽらんなだけでしょ、あんたの場合……
って、字がちいさっ、読めないわこんなの!」

ノートにみっちりと書かれた字を梅子が頭を抱えつつ解読している内に、
Aセットが運ばれてくると、五郎はもそもそと腹の中に詰め込んでゆく。

「ほれほれ、ポテトがきたぞ」

「ちょっと、これ借りてってもいい?」

「あぁー、うちのクラス、明日ノートの提出日なんすわ」

「うー……」

腹に燃料を詰め込んだ二人は本屋へと向かうとめぼしいものを探し店内を見て回ると、
本屋の入り口で落ち合った。

「おまたー」

「長岡なんか買ったんか?」

「漫画とCDの新譜、へへっ」

「今週ピンチとか言ってなかったか、君」

「ドンマイ、ドンマイ!」

日の傾き始めた長い通学路を二人で歩いて行くと、分かれ道となる橋の元へと辿り着く、
不意に五郎が手を上げ、応じるように梅子が手を上げ、一時の別れを告げる。
何気ない日常の何気ない毎日、そんな日々も、あと2年もすれば終わるだろう。
五郎はオレンジ色に染まった夕日に向かい、ひとつ大きなあくびをした。







BACK INDEX NEXT


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年09月13日 01:15