(この! 大たわけが!)
今までゆっくりと、地を這うような歩んできた速水の足が突然止まった。
「どうしたんだよ? 速水?」
滝川は不思議そうな顔で速水に尋ねた。
「え・・・あ、なんか今芝村さんの声がしたような気がして・・・・・・」
速水はトキワシティの方向を振り返りながら呟いた。
「おいおい、しっかりしてくれよ〜、芝村なんかもういいじゃねえか。どうせ、また会うなんてことにはならないと思うしさ」
そうかな・・・と速水は思った。
なんだか芝村舞と自分はまた会うような気がしてならなかった。
「う、うん。そうだね」
「だろ〜。お! トキワの森が見えてきたぜ〜! 速水! 行くぞ〜!」
そう言うと、滝川はまたもや速水を置いて走っていった。
「ちょ・・・・・・滝川ったら・・・また」
そう言いながらも、滝川のあとを追いかける速水であった・・・・・・
滝川と速水がトキワの森へ向かってから1時間後・・・・・・
(まったく! あの男は! あれでもカントー地方の総責任者なのか!?)
舞は先ほどの準竜師との会話で、からかわれたため、非常に機嫌が悪かった。
いつもの不機嫌そうな顔にさらに拍車をかけた顔になっていた。
こちらに向かって歩いて来る者は、舞の非常に不機嫌な顔に縮こまり、舞を避けながら歩いている。
心の中で、準竜師への悪態をついていた舞だったが、ふと前を見ると、もうトキワの森の入り口が迫っていた。
「ふむ、着いたか」
そう言うと、なにやら木の幹の陰に隠れポケモン図鑑を取り出した。
「何々・・・ここではピカチュウが出るのか・・・ゲットしたいものだ・・・それにしても・・・・・・愛らしい・・・・・・」
そう呟く舞の顔はいつもの不機嫌そうな顔ではなく、同年代の少女のような可愛らしい顔だった。
そして、またいつもの不機嫌そうな顔に戻り、トキワの森へ入っていった舞だった・・・・・・
そして、舞がトキワの森に入ったころ・・・・・
「ねぇ、・・・滝川・・・・・・本当にこの道でいいの?」
速水はこの1時間で思っていたことを、とうとう口に出した。
もう、この道を3回も通っているからである。
「う〜ん、この道で正しいはずなんだけどよ・・・・・・」
滝川の顔は不安そうである。
「もしかしたら・・・・・・迷ったかも」
速水は今日何度目かのため息をついた。
こうなるんだったら、トキワシティで地図でも買ってくればよかった・・・と、速水は思った。
「なぁ、どうすればいいんだよ〜速水ぃ〜」
滝川はまるで母親に捨てられた子供のような目で速水に尋ねた。
僕だって、どうすればいいかって聞きたいよ、と思いながらも口には出さずに、言った。
「とりあえず、テントでも張って人が来るのをまとうよ。もうすぐ夜になるしさ。むやみに動くよりはいいと思うよ」
滝川を安心させようと、知ったかぶった口調で言ったが、正直言葉に自信がなかった。
人が来るといっても、ここまで来る際に数人しか見掛けていなかった。
それでも滝川には、速水の言葉が効いたようだ。
「そ、そうだな。やっぱ速水が居てよかったよ〜 じゃ! 早速組み立てますか!」
滝川はいつもの元気を取り戻すと、背中に背負っていた折りたたみ式テントを取り出すと、速水ともに組み立てていった。
トキワの森 入り口付近
「やはり、ピカチュウはなかなか見つからんな・・・」
速水と滝川がテントを組み立てているころ、芝村舞はトキワの森 入り口付近を歩いていた。
先ほどから草むらを探していたが、出てくるのは虫ポケモンばかりで、さすがの舞もうんざりしていた。
と! その時! 草むらがカサカサッと鳴り、一匹のポケモンが現れた。
「・・・・・・」
そのポケモンを見た瞬間、舞は固まった。
なにせ、そのポケモンこそが舞が探していたピカチュウだったからである。
(稲妻のような尻尾・・・ピンッと立っている耳・・・柔らかそうな赤いほっぺ・・・そして、くりりとした可愛らしい目・・・・・・間違いない! ピカチュウだ!)
舞は拳をギュッと握り締めると、心の中でガッツポーズをした。
そして、一方のピカチュウは、何がなんだか分からず首を傾げていた。
舞はそのピカチュウの仕草に答えたらしく「むむむ・・・」と唸っている。
(ええぃ! こうしてはおれん! ゲットせねば!)
舞は正気(?)に戻り、モンスターボールを取り出し、自分のポケモンを出した。
「行けい! タッツー!」
舞のモンスターボールから、ドラゴンポケモンタッツーが飛び出してきた。
「ふふ、ピカチュウよ。悪いがこの芝村舞がゲットさせてもらうぞ」
舞は、自分では冷静な口調で話しているつもりだったが、鼻息は荒く、他の人が見たら変質者にしか見えなかった。
ピカチュウの方はというと、目つきが変わり、油断なく身構えていた。
「タッツー! えんま・・・」
舞がタッツーに指示を出そうとする瞬間! ピカチュウが突如、タッツーの目の前まで接近し、両手をパチン! と鳴らした。
「タ・タツー!」
「な・・・なんだと!」
さすがの舞も、ピカチュウの猫だましには驚いた。
タッツーが怯んでる隙に、ピカチュウは背を向けると藪の中に逃げていった。
「ま・・・待て! ・・・こうなったら・・・」
舞はタッツーをモンスターボールに戻すと、ピカチュウの後を追いかけようと、藪の中に入っていくのであった・・・・・・
「う〜ん、やっぱ遠坂食品のカップラーメンは美味いな〜」
「そうだね〜、こんなおいしいもの久しぶりに食べたよ〜」
滝川と速水の声が、静かなトキワの森の夜空に響く。
速水と滝川は談笑しながらカップラーメンを食べていた。
それにしても・・・・・・速水はふと、思った。
今日1日で、僕は色んな事を知ったような気がする。
滝川と芝村さんしか知り合ってないけど、この二人にはとても感謝している。
速水はカップラーメンを食べる手を休めると、芝村舞について思った。
彼女は今、どうしてるだろう?
やっぱり僕たちと同じく旅をしているのかな?
そこまで考えると、速水はふっと笑った。
僕が、他人のことを考えるなんて・・・本当に今日1日で変わったなぁ。
速水は一旦、考えをやめ、食べることに専念しようとした・・・その時。
藪がなり、一人の人間が暗闇から姿を現した。
その人物の姿を確認すると、速水は思わずカップラーメンを落としてしまった。
滝川も「ゲッ」といって口をあんぐりとあけている。
その人物こそが、速水が思っていた芝村舞だったからである。
「し・・・芝村さん・・・?」
「む・・・そなたは今日の・・・こんなところで何をしている?」
いつもの不機嫌そうな顔で舞は尋ねた。
藪の中を移動したためか、服のあちこちに枯葉などが付いていた。
「何・・・って、どう見ても野宿だけど」
口をあんぐりとあけている滝川に代わって速水は答えた。
「たわけ。そんなことは分かっている。なぜ、トキワの森で野宿しているのかと聞いているのだ。入り口から1時間もあればトキワシティに着くはずだが」
「うん・・・そうなんだけどさ・・・実は迷っちゃって」
速水は言葉を濁しながら答えた。
「・・・・・・そうか。私は急ぎの用があるのでこれで失礼する」
そう言うと、舞は背を向けようとした。
「ちょ・・・待てよ。いくら芝村でもひどすぎねえか。俺たちは道に迷っているだぜ? 案内してくれてもいいじゃんか〜」
今まで、口をあんぐりとあけていた滝川が、速水の聞いた中では一番いいことを舞に向けて言った。
すると、舞はなぜか顔を赤らめ、言葉を捜した。
「あ、悪い。トイレか。俺たちはどこでもできるからな〜」
いつもの滝川の能天気な声に速水はため息をついた。
「たわけ。トイレではない・・・・・・実は私も道に迷ったのだ」
そう言うと、舞は耳まで真っ赤になり、顔を引きつらせている。
「「・・・・・・・・・・・・」」
滝川と速水は言葉を失った。
「「・・・・・・・・・・・・」」
「な・なんだその目は! わ・私だって道に迷うことはある! こ・こ・今度こそ失礼する!」
今度こそ、去ろうとした舞の手を速水は掴んだ。
「な・何をする!」
「芝村さん、もう夜になっちゃったし、今日は僕たちと一緒に野宿しようよ。寒くなったし風邪を引いたら大変だよ?」
速水は上目遣いで舞を見ながら言った。
「む・・・・・確かに、その他の心遣いは感謝する。だが、そなたの連れはこの『芝村』の私と野宿をするのを許すとは思えんが」
舞は最初戸惑っていたが、いつもの口調に戻ると速水を突き放すように言った。
「え・・・・・」
多分滝川は許さないだろう。
なにせ、あれだけ「芝村」を嫌っていたんだから。
そこまで考えると、自分の浅はかな考えを悔やんだ。
だが・・・
「俺は別にいいぜ〜」
と、滝川。
これには速水もア然とした。
さっきまで、あれだけ「芝村」を嫌っていたのに・・・なぜ?
舞も目を細めて、滝川の次の言葉を待った。
「あ、別に『芝村』を認めたわけじゃないぜ? ただ、『芝村』の中にも俺たちのようなドジなヤツがいたからさ〜 ま! 仲良くやろうぜ!」
滝川はそう言うと、ニッと人の良い笑みを浮かべた。
「たわけ。そなたらと同じにするではない・・・・・まぁ、心遣いは感謝する」
そう言うと、舞は少し顔を赤らめながら腰を下ろした。
「あ・・・じゃあ、よろしくね。芝村さん・・・ところでお腹減ってない?」
速水は心の中で滝川の優しさに感謝しながら舞に尋ねた。
「む・芝村は腹が減らん。だが・・・・・・」
その時だった。
くぅ〜〜〜〜〜
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
突如、ものすごい可愛らしい音がトキワの森に響いた。
さすがにこれには堪えられなかったのか、滝川と速水は腹を抑えて笑い転げた。
「「あはははははははは!!」」
「な・何を笑っている! お前たち! いますぐ笑うのをやめよ! これは命令だ! ・・・・・・いいかげんに・・・しろ〜〜〜!!!」
舞の叫びもむなしく、こうして3人の夜は更けていくのであった・・・・・
最終更新:2007年01月18日 17:38