概要

野々原 小春(とりせつ)+春夏冬 穂垂(アルバ)

第一回AJ優勝者のとりせつと準優勝者のアルバ。
その姿はまさに宮本武蔵と佐々木小次郎。
達人同士の超実力派タッグ

エピソード


「いつもよりちょっと長いあるい日の放課後」


放課後の教室に、1つ、影がある。
夕日はすでに沈み始め、校庭に響く部活動の声も少なく鳴り始めている時間帯だ。
理由もなく教室に残るものはいないだろう。では、わざわざ教室に残る理由とは何だろうか。

――キーンコーンカーンコーン

無機質なチャイムの音を合図に影……抱き合っていた二人の生徒が離れる。

「……やっぱ、こんなとこじゃダメだって」
「大丈夫大丈夫、バレやしないって」

女生徒が不満げな言葉を告げるが、男子生徒は意に介す様子がない。
それどころか、手は女生徒から離れずブラウスのボタンを1つづつ外している。

「何度か使ったけどバレたことねーから。見回りだって、こっちに来るのは最後の方だし」
「何度か……って、私初めてだけど」

男子生徒の言葉に、女生徒はピシャりとボタンを外す手を叩き、睨みつける。

「ちゃうちゃう、そーいうんじゃなくて、サボりとか悪い遊びよ。なんなら、今度来る?」

軽く取りつくろおうとする男子生徒にとりあわあず、女生徒はそっぽを向いてブラウスのボタンをつけ直そうとする。
が、後ろから抱きついてきた男子生徒に邪魔され上手くつけなおすことが出来ない。
じゃれあうように振り払っては抱きつきの繰り返しを続ける二人。

「そこまでですよー!」

勢いよく教室の扉が開かれ声が響く。
見ればそこにはフォーマルな服装の女性が立っていた。

「『こらっ君たち何やってるの!』」
「『掟破りの『こらっ君たち何やってるの!』返し』!」

女性と男子生徒が同時に叫ぶ。
そして、静寂、誰一人として身じろぎもしない。

「……小春ちゃん。いきなり能力は酷いんじゃないかな?もっと、会話をしようよ」
「……そうするといつも逃げる子が居ますからね。先生、流石に学習しましたよ」

あと、小春ちゃんじゃなくて野々原先生ですよ、春夏冬君。と女性が付け加える。
そして、再び静寂。
当然である。その場にいる全員が行動不能なのだ。にらみ合いどころでなく誰も動けない。
ちなみに、哀れ女生徒は制約の関係上野々原と春夏冬両者から能力をかけられたため気絶している。

「小春ちゃん、提案があるんだけど」
「……なんですか?」
「能力、解いてくんね?」

春夏冬の言葉に、何を言うかと思えば。と野々原は呆れた声をかえした。

「解いたら逃げるでしょ、春夏冬くん」
「や、今回はにげねーよ。気絶してる女が居るんだぜ?連れて逃げるのは無理だし、置いて逃げたらフラれるじゃん」
「む、そーかもしれませんけど……」
「それにさ、ここ人来ねえぜ?見回りだってまだまだ来ねえし、ずっと動けないのも嫌だろ?」
「そーですねー……」
「や、今回ばっかは俺の負け!反省文ならいくらでも書くし、暫くは真面目に学校来るから」

逡巡する小春に、ここぞとばかりに哀願する春夏冬。
確かに、このまま行動不能で居ても時間の無駄ではあるし、彼の言葉によれば逃げない理由は確かにある。
それに、気絶しているので忘れがちだが女生徒をこのまま放置するのもまずいだろう。

「わかりました」
「さっすが小春ちゃん、話が分かる!」
「野々原先生です!その代わり、君も能力解いて下さいよ」
「モチロンモチロン」
「……じゃあ、いちにのさん、で一緒に解きますよ。いち、にの、さん」

ふっと、小春の体を覆っていた拘束感が無くなり自由が戻ってくる。
教室の中に目を向ければ、気絶した少女が支えるものが無くなり崩れ落ちようとしていた。

「あわわ、大丈夫ですか!?」

あわてて駆け寄ろうとする小春だが、ふと違和感に気づく。なぜ、春夏冬が助けないのか

「さっすが小春ちゃんやさしいー」

その疑問にこたえるかのように、窓の方へと走り去っていく春夏冬が見えた。

「ちょ、逃げたー!?この子どうすんのー!?」
「今回は残念だったけど、女なんて星の数ほど居るから。それじゃ!」

開けはなたれた窓から春夏冬が消えていく。3階は決して低くないはが、魔人の身体能力を持ってすれば着地は可能なのだろう。

「まて、この、女の敵!」

だが、追いかける彼女もまた魔人。美しいフォームで助走をつけると、ハードルでもまたぐかのように窓を越えて飛び出す。

「飛んできた!?気絶してる生徒放置して!?」
「どっちも貴方が先にやったことでしょうがー!」

助走をつけた分、小春は春夏冬を飛び越えている。そのままひねりを加え、道をふさぐように着地しとらえるつもりなのだろう。
だが、そのせいで、小春には見えなかった。下後方ろから迫ってくるバイクと、それを追うように広がってくる亀裂が。

「小春ちゃんうしろー!」
「聞きませんー!もう騙されませんー!」

まあ、見えたからと言って何が出来たわけでもないだろう、重力にしたがい二人は空間の裂け目に飲みこまれていった。


―――


無事に着地できると思っていた小春だが、着地が思ったよりも遅かったためバランスを崩してしまった。


「いたたたた……何したんですか春夏冬くん!?」
「や、俺は何もしてねーよ……」

小春に隙が出来たと言うのに、春夏冬はしりもちをついたまま何やら呆然としている。

「まあ、いいでしょう。今度こそ生徒指導室に連れて行きますよー」
「……どうやって」
「どうやってって……」

呆然としたまま、春夏冬は小春の後方を指さす。
このまま逃げられはしないだろう、と小春は一応注意を払いつつ後ろを向いてみた。

「……校舎って、こんなトーナメント表みたいな形でしたっけ?」
「んなわけあるか……」


――こうして二人は元の世界に戻り春夏冬を生徒指導室に連行するためだったりとりあえず小春ちゃんからにげるためだったりそれぞれの思惑を持ってトーナメントに参加することになったのである。


――ちなみに、気絶していた女生徒ととそれを偶然発見した男子生徒のラブストーリーはまた別の話である
最終更新:2010年12月19日 14:49