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オープニング ◆wIGwbeMIJg



「……っ、なんだ……?」

鉛のように重い体を起こし、俺は目覚めた。
いや、目覚めさせられたって言った方が正しいかもしれない。
周囲のざわめきを鬱陶しく感じながら、無意識に疑問の言葉を漏らした。
当然その疑問に答えは返らない。気を取り直すように溜息を一つ吐いて、辺りを見渡す。
目に入ったのは一面の人だかりだった。数える気にはなれないが、ざっと50以上は居るだろう。
その中の多数は、目覚めたばかりの時の俺と同じような反応をしている。
ということは皆俺と同じで、突然ここに連れてこられたって事だろう。

(……どういう事だ?俺はさっきまで、あの土手で寝っ転がって……)

そうだ、ここはあの土手じゃない。
啓太郎と、真理と、三人で日向ぼっこをしていた――あの土手じゃない。

燦然と輝く太陽の代わりに俺たちを照らすのは、無機質に肌を刺す照明の光だった。
見渡す限りの白。まるででっかいダンスホールから色彩を奪ったような場所だ。
妙な居心地の悪さを感じる。それに、何故か全身の鳥肌がおさまらなかった。

まるで、何かを予感しているように――


「――みな、目覚めたようだな」


突然響いたその声に、全員が一斉に視線を向ける。
そこに居たのは、神父服に身を包んだ男だった。が、あいつの雰囲気はとても神父のものとは思えない。
俺達を見下すような冷たい目。喩えようのない、悪意のような何か。
そして何よりも、その男の表情はこれ以上ない程の"無"だった。

「お前っ……言峰!!」
「言峰テメェ、どういうつもりだ?」

集団の中から、二人の男が神父に向かって声を上げた。
一人は赤色の短髪が特徴の、高校生くらいの男。もう一人はそれより少し大人っぽい青髪の男だ。
あの神父と知り合いなんだろう。言峰ってのは、あの神父の名前らしい。
だがどうやら、青髪から伝わる尋常じゃない殺気からするといい知り合いって訳じゃなさそうだ。

「それについては今から説明するつもりだ。
 二度は説明しない。聞くか聞かないかは自由だが、それによる不都合は全て自己責任だ」

言峰の言葉に、赤髪と青髪は険しい表情で言葉を呑んだ。
そいつらだけじゃない。ほぼ全員が、言峰の威圧に声を上げる事が出来なかった。
相変わらず表情の見えない顔で、会場の全員を見渡す。そして遂に、言峰は口を開いた。



「今から君達には、殺し合いをしてもらう」


「なっ……」

その瞬間、会場がざわめいた。
殺し合い――確かに、確かにこの神父はそう口にしやがった。
訳が分からねぇ。視線を逸らせば、さっきの青髪の男が鬼の形相で言峰を睨んでいるのが見える。
人を殺せそうな程に殺意が乗せられた睨みを、言峰は眉一つ動かさずに受け流していた。

「殺し合い……って!どういう事だよッ!」

赤髪の方の男が、俺達の疑問を代弁する。
それを皮切りに、同じ疑問をぶつける奴らが一人、また一人と増えていった。

「言葉通りの意味だよ、諸君。
 二度とは言わないと言ったはずだ、これから殺し合いのルールについて説明する」
「待てよッ!勝手に進めんじゃ――」
「衛宮士郎」

衛宮士郎、そう呼ばれた赤髪の男の動きが止まった。
いや――止まったんじゃない。止められたんだ。
赤髪の体は見えない糸で張り付けられたように、指一本動かない。
勢い良く声を上げたそのままの姿勢、そのままの表情で、衛宮士郎の時間は奪われた。
そして、俺たちの時間さえも。

「……失礼、説明を続けよう。
 ルールは非常に簡単だ。最後の一人になるまで殺し合う、ただそれだけだ。
 最後の一人、すなわちこのゲームの優勝者となった者には……どのような願いも叶える権利を与えよう」

そう口にしたところで、言峰は全員の顔を見渡す。
願いを叶える権利。その言葉に俺は思わず声を上げようとしたが、さっきの赤髪の姿が浮かんでそれを止めた。
こいつは、スマートブレインなんかよりもよっぽど脅威だ――脳内に響く警告音が、嫌と言うほどにそれを知らせてる。

「次に……君達の首には首輪が付けられている。
 当然だが、この首輪はただの首輪ではない。君達の行動を制限する枷のようなものだ」

そう言われて俺は、はっと首元に手をやる。
指先に伝わるひやりとした感触――間違いない、あいつの言った通り首輪が嵌められていた。

「指定された禁止エリアの侵入、その他我々にとって無視できない言動が確認された場合起爆する仕組みになっている。
 無論この首輪が爆発すればその時点で死亡する。例えそれが人外であろうとも、な」

ばくはつ――爆発、か。
ただの首輪じゃねぇとは思っていたが、まさかそんな物騒なもんだとは思わなかった。
会場の空気が険しくなる。……なんだよ、よく見たら子供だって居るじゃねぇか。

「……言葉だけでは足りん、か。
 いいだろう、この首輪が本物だという事を証明しよう」
「なっ……んだと?」

証明?あいつ、そう言ったのか?
そんな俺の疑問を無視するように、言峰の野郎はパチンッと指を鳴らした。
一瞬の間も置かず、4、5人の黒服の男が言峰を囲うように雪崩込む。
その黒服の内の1人は、高校生くらいの女の子を連れていた。
……目隠しをされて、両腕を縛られた女の子を。

「憂っ!!」
「お姉ちゃんっ!お姉ちゃんなのっ!?」

お姉、ちゃん……?
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で言い表せない熱い感情が渦巻いた。
まさか、おい――やめろ、おい、やめやがれ。そんなこと、許されるわけがねぇ。

「やだ!お姉ちゃんっ!!怖いよ!!助けて!!助けてっ!!」

――やめろ。

「憂!憂ぃっ!!待っててっ!今お姉ちゃんが助けてあげるからっ!!」

――やめろ、やめろ……やめろっ!!

「お姉ちゃん!お姉ちゃんっ!!お姉、ちゃ」



ぼんっ!



軽い爆発音と一緒に、女の子の首から上が弾けた。
肉の焦げる匂いが鼻を突く。白かった会場の一部が、真っ赤に染められる。
ごとり――何かが、落ちた。いや、それは――頭、だった。
姉に助けを求めていた表情のまま、不安そうな表情のまま。
女の子の顔は、俺のすぐ傍に転がった。

「………っ……」
「いやぁぁぁああああああああ!!!!」

絶叫が、響いた。
それを皮切りに、会場にはざわめきと悲鳴が伝染し始める。
だが、俺は悲鳴を上げる事も、騒めく事もできなかった。
ただ俺の胸を支配するのは、悲しみや戸惑いでもない――身を焦がす程の、怒り。

「さて、理解してもらえたようだな。
 このように、この首輪の爆弾は本物だ。生憎実験台は人間だが、生物である限り死は免れない。
 自分が人外の再生能力を持っているから、そんなつまらん慢心は滑稽でしかないぞ」

なんなんだ、こいつは。
目の前で人が死んだのに、子供が死んだってのに。
どうしてこの男は、平気な顔で居られるんだよ。

「最後のルールだ。君達には支給品が配られる。
 中身は武器や道具がランダムに1~3個、加えて地図や食料などもな。
 そして6時間毎に定時放送が報される。死者の情報、禁止エリア等が放送されるので聞き逃さぬように。
 ……これで、ルール説明は終わりだ。では、殺し合いを始める」

言峰が何かを言っているようだったが、その言葉を理解する気にはなれなかった。
精一杯の殺意を込めた視線を言峰に向ける。初めて、言峰と目が合った。
冷や汗がどっと噴き出す。さっきまでの怒りが嘘のように、俺の思考は真っ白に染められる。
そんな俺の心を見透かしているように、言峰は初めて”笑った”。


全てが、終わったはずなのに。
もう、戦う必要はないと思っていたのに。

啓太郎、真理……。
あいつらの笑顔を思い浮かべながら、俺の――乾巧の意識は、奪われた。







――――バトルロワイヤル、開始――――








【平沢憂@けいおん! 死亡確認】
【残り64名】


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最終更新:2017年04月11日 18:35