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少年よ、大志を抱け。 ◆wIGwbeMIJg





“―――問おう。貴方が、私のマスターか”




あの時、あの場所で。
セイバーは、俺の剣になると誓った。
同時に、俺も彼女の助けになると誓ったのだ。

丁度今日のような、綺麗で淡白な月光が彼女を濡らしていたと思う。
それから俺とセイバーの物語は始まった。一言や二言じゃ、言い表せない程の記憶。
セイバーは笑っていた。怒っていた。だけど、泣き顔だけは見た事がなかった。
そんな希望は、もう二度と戻る事はない。
走馬灯のように浮かんでは消えるそれが、俺の心を深く抉る。


――許される訳がなかった。


俺は彼女を、セイバーを。
この手で、血に塗れた手で。
思い出ごと、殺めることを決めたのだ。

”正義の味方”という理想を捨ててまで、桜という一人の少女を救う事を決意した。
その為に立ち塞がったセイバーをライダーと共に打倒し、殺すことを選んだ。
桜を助けるために、親しい人を、最期まで俺を守ってくれた少女を――

だから、許されない。
後悔も懺悔も、許されない。

刻まれた記憶(おもいで)と決別して、俺はセイバーの胸に刃を突き立てた。



――はず、だった。



短剣を振り下ろした瞬間、俺はあの白い空間に佇んでいた。
そして、言峰から告げられる殺し合い。無慈悲に、なんの脈絡もなく、衛宮士郎(おれ)の意思は奪われたのだ。
狼狽するよりも先に、俺の頭を埋め尽くしたのは疑問だ。何故、言峰が殺し合いなどを開いたのか。
俺の知る言峰は、理解し合える事は出来ずとも、共に桜を救うことに協力出来た人間だった。
桜を生かす理由がどうあれ、刻印虫を摘出したのは紛れもない言峰本人。
言峰の素性はよく知らない。だが、こんな酔狂な真似をするとは到底思えなかった。
だからこそ、言峰が殺し合いの説明をしていた時には何者かに操られているのではないか、とさえ疑った。

女の子の首輪が、爆発するまでは。


「――っ、――!」

込み上げる吐き気を、烈しい怒りが抑え込む。

虫を潰すかのように殺されたあの子は、最後まで”お姉ちゃん”と、”助けて”と叫んでいた。
だがあいつは、言峰綺礼という邪悪は、表情一つ変えずに彼女の命を奪い去ったのだ。
その瞬間、俺は確信した。


言峰綺礼は、自分の意思で殺し合いを開いたのだ、と。


わけのわからない力で肉体の自由を封じられた俺は、怒りのままに言峰の名を叫んだ。
だが、それさえも許されない。大量の空気を吐き出せど、その名を口にする事さえ出来なかった。
――あの場で衛宮士郎という男は、どうしようもなく無力だったのだ。

その事実を認めてしまった自分が、嫌になる。
言峰綺礼は確かに憎いし、殺意さえ覚えたのも事実。
だが結局のところ、俺が一番憤りを覚えているのは俺自身に対してだった。
救えたかもしれない命を取り零し、それを見ている事しか出来なかった自分に対して。



「――――さく、ら……」

名前を、呼んだ。
俺にとって一番大切な、理想を捨ててまで救うと誓った女の子。
今まで自分が支えにしてきた信念を捨て、道徳を捨て、衛宮士郎たる所以だった想いを捨て、救う事を決めた女の子。
”この世、すべての悪(アンリマユ)”だとか、自分が知っている桜じゃないとか、関係ない。
間桐桜という存在を、救うのだ。
それは、この場においても変わらない。

――本当に救えるのか?

俺の声が、俺に訊ねる。

――救ってみせるさ、必ず。

俺の声が、俺に答えた。


「……迷ってる暇なんか、ない」

そうだ、救えるか救えないかじゃない。
悩んでいる時間があるのならば、一秒でも行動に移すべきだ。
吹っ切れた訳ではない。まだ俺の心には、迷いも疑問もある。
だけどそれ以上に、桜を救いたい――その気持ちが、俺を突き動かした。

「桜、俺はお前がどんな姿になって救ってみせる。
 だからお前も、俺が行くまで……死ぬんじゃないぞ」

最後の言葉は、懇願に近かった。
俺の手の届く限りは桜の事を守れる。けど、届かない場合は?
勿論桜との再会は急ぐつもりだが、すぐに出会えるかどうかと聞かれれば首を横に振るしかない。
願わくば、桜が彼女を守れる人物と出会える事を。優しい人物と出会える事を。

「……よし」

覚悟はとうに決めた。
もう、立ち止まる必要はない。
一通り目を通した名簿をバッグに詰め込み、月を見上げた。
綺麗な月だった。儚く、淡く――それでいて、力強く俺を照らしている。
その光と決別するように、俺は勢い良く振り返った。


「――そこの者ぉぉぉぉおおおおおおおッ!!」
「……へ?」


その直後に、目に飛び込んできたのは。


「私のっ!仲間にぃっ!!」
「え、えっ……ちょ、待っ――」


目にも止まらぬ速さで駆け抜ける。


「なってくれぇぇぇえええええええッ!!!」
「ごふ”ぅっ――!?」


金色の砲弾だった。



◇ ◆ ◇


ガッシュ・ベルに迷いはなかった。
もはや説明するまでもないだろうが、彼にゲームに乗るつもりなど毛頭ない。
言峰の説明を聞いた時から、見せしめとして平沢憂が殺された時から、殺し合いの場に放り出された時から。
ガッシュの方針はただ一つ。仲間を集め、”やさしい王様”としてこの殺し合いを破壊する事だけだ。
その為ロクに支給品の確認もせず(単に忘れていただけだが)、周囲を駆け回り徹底的に人探しに没頭した。

そして見つけたのが、赤毛の少年だった。

迷う事なくガッシュは少年へと疾駆し、その胸へと飛び込んだ。
悪い人間かも知れないと、そんな可能性は微塵も考えずに。
ガッシュ自身に見る目があったとか、少年が良い人そうだったとか、そういう訳ではない。
人の姿を見つけたから飛び込んだ。ただ、それだけだった。
その結果、勢い余って少年を吹っ飛ばす事になってしまったのだが。

「あっ……」

錐揉み回転し吹っ飛んでゆく少年。その行く先は、静かに波を立てる海だった。

――びちゃーんっ!

盛大な水音と共に顔面から海に突っ込む少年。
その体はピクピクと二、三度震えた後、ぐったりと海に沈み込んでしまった。
今さっき自分のしでかした事を数秒遅れて理解したガッシュは、口と目を大きく開き冷や汗を大量に落とす。
だがそれは一瞬で消失し、晴れやかな、開き直るような笑顔に戻った。


「……まぁ、よいかっ!」
「よくなぁぁぁぁいっ!!」


水飛沫を上げながら勢いよく立ち上がる少年に、ガッシュはひっ、と後退る。
しかし少年はガッシュの腕をがっちりと掴んでおり、引き攣った笑顔を浮かべていた。
かつての清麿と同等かそれ以上の悪寒を感じたガッシュは咄嗟に両手を地に付け、土下座の体勢に。

「ご、……ごめんなさいなのだぁっ!!」
「……よろしい」

びしょ濡れの少年、衛宮士郎はガッシュの姿を見下ろしながら満足気に頷く。
無論士郎に子供に土下座させて悦ぶ趣味などはないが、いきなり突撃をかまされれば話は別だ。
まぁそれでもいつまでも頭を下げさせているのは何となく居心地が悪いらしく、すぐに頭を上げさせる。
その際にガッシュは”清麿よりも優しいっ!”と感激していたが、それは結果的に清麿は意地悪な人間だと言っているようなものだ。
だが士郎は、その清麿という人間も苦労しているのだろう。という、どこかお節介に似た感情を募らせていた。

「で、なんで突然突っ込んできたりしたんだ?」
「ウヌ!お主が最初に見つけた人間だったからつい勢い余っての!」
「……それで、ダイブしちゃったと?」
「ウヌッ!」

はぁ、と思わず溜息が漏れた。
思った通り、この子供は無茶苦茶な奴だった。
こういうタイプは死んでも治らないタイプだと、士郎は知っている。

衛宮士郎自身が、そうであるように。

「お前、もしも俺が危ない奴だったら……どうするつもりだったんだ?」

だからこそ、こんな質問をしたのだろう。
そして、その回答は――


「それならば私が更生させるまでだっ!そして友達になればよいっ!」



――あまりにも、予想通りだった。



「……ぷっ、はは……ははははっ!」

気が付けば士郎は、腹を抱えて吹き出していた。
その様子にガッシュは首を傾げる。何かおかしいことでも言ったか、そう問い掛けるように。

そう、この少年は――同じだった。

一度捨てたはずの”正義の味方”を目指していた自分と。
アーチャーがそうであったように、自分も今、古い鏡を見せつけられている。
その道がどんな修羅の道であっても、突き進んでやるという揺るぎない決意。

士郎はガッシュという少年を知らない。
魔物も、魔界も、戦いも、知らないことが多すぎた。
だけど、それでも、たった一言二言会話を交わしただけでも、分かった事がある。
この少年は、自分が捨てた理想を本気で叶えようとしているのだと。

「……衛宮士郎だ」
「ム……?」

散々甘いと、理想を捨てろと言われ続けてきた。
士郎自身、正義の味方という理想が高すぎるものだと理解していた。
その道は果てしなく地獄であり、辿り着く先もまた地獄。
士郎もそれを知って尚、正義の味方で在りたいと願っていた。

「ガッシュ!!私の名は、ガッシュ・ベルだっ!!」

そんな自分よりも、甘い存在が居たのだ。
皮肉なものだと思う。理想を捨てた直後に、その理想を拾い上げるように少年が姿を見せたのだから。
もう二度と、振り返らないと決めた。だがこの瞬間、衛宮士郎は――隔絶された記憶を、呼び覚ます。
無謀でも、無様でも、ひたすらに誰かの為に在りたいと願った少年の姿を。




「なるほどな、ガッシュにはパートナーが必要なのか」
「ウヌ、ここに来る前は清麿と一緒だったのだが……今は離れ離れになってしまっているからのう」

衝撃的な出会いから約30分。
士郎とガッシュは互いの情報を交換し終えていた。
互いに最初に出会った参加者であること、互いに知り合いがこの殺し合いに参加させられていること。
その知り合いというのがまた、士郎にとっては頭を抱える要因となっていた。

ガッシュは清麿とブラゴの二人であるのに、士郎は五人も名前に心当たりがあるのも原因だ。
だがそれ以前にアーチャーとランサーは士郎の知る限りでは闇に取り込まれ、命を落としているはずだった。
同名の人物が参加させられているとも考えられるが、その可能性は限りなく薄いだろうと士郎は理解している。
考えられるのは言峰が何らかの細工を仕掛け、二人の命を蘇らせたことだ。
あの時の言峰の言葉、”優勝すればどんな願いも叶える”というのが本当なら、その程度造作もないだろう。
しかし、それはあまりにも――命というものを、冒涜しているように思えた。
それが殺し合いをさせる為だというのだから、尚更に――


そして、これはガッシュが一方的に持ちかけた事だが、簡単に互いの境遇を打ち明けた。
それは先程のアーチャーとランサーの件で沈んでいた士郎を少しでも元気づける為にと、彼なりに気を使って提案した話題だ。
結果、情報交換の時間の2/3ほどがその話題だったので、どうやら効果は望めたらしい。

「……魔界だとか、王を決める戦いだとか……正直、容易に信じられるものじゃない」
「ウヌゥ……だが本当なのだ」

当然、士郎は魔術師や聖杯戦争の事は話すつもりはなかった。何しろ余りに非現実的な内容だから。
しかし、ガッシュの話はそれを優に超えていた。現実性の無さにおいては、聖杯戦争の上を行くだろう。

「ああ、知ってるさ。……ガッシュは俺の話、信じるか?
 正直言って、ガッシュの話と同じくらい信じられるものじゃないぞ」

だからこそ、ガッシュがそうしたように士郎も嘘偽りなく話した。
と言っても聖杯戦争、英霊、魔術師などの根本的な内容を大まかに説明しただけだが。

「当然だっ!士郎は魔法使い?なのだなっ!」
「魔法……うーん、ちょっと違うけどそんな感じだな」

ガッシュの話が真実かどうかは士郎には分からない。
だが、ガッシュは士郎の話を信じて疑わなかった。
本来ならば笑われてもおかしくないような、途方もない話だというのに。

「なら俺も信じるさ、ガッシュの事を」
「なにっ!?本当か士郎っ!?」
「ああ、本当だ」

だがそれはきっと、お互い様なのだろう。
”やさしい王様”という理想を語るガッシュの姿があまりにも無邪気で、眩しくて。
自分が捨ててしまった理想を、この少年なら叶えられる――そう、衛宮士郎は思ってしまった。
それが意味する事がどんなに罪深く、許されることがなくても。
士郎にとってガッシュ・ベルは、一つの”希望”だったのだ。

「ウヌ……?」

だから士郎は自然と、手を伸ばす。
かつて衛宮切嗣という男が、正義の味方になりたかった男がそうしたように。
笑ってしまうほど不器用な手付きで、金色の髪を乱雑に撫でた。


「ガッシュならなれるさ、”やさしい王様”ってやつに」
「……ウヌッ!」


ガッシュが、釣られて士郎が笑う。
その笑顔を祝福するように、月の光が二人を濡らした。




「士郎、士郎っ!」
「ん……ガッシュ、どうしたんだ?」

あの後、二人は北にある温泉を目指し歩みを進めていた。
温泉を目指していた理由は体を流したいから、というのもあるが、それ以上に他の参加者が集まりやすいであろうという士郎の判断だ。
もしかすれば互いの知り合いとも出会えるかもしれないという、願望に近い期待を抱いて。
その最中、不意にガッシュが士郎の前へと躍り出てぴょこぴょこと小さな体を跳ねさせる。
彼の両腕には大切そうに赤色の一冊の本が抱き抱えられていた。

「これを預かって欲しいのだ!」
「……いいのか?」
「ウヌ!清麿がいない今、パートナーとなってくれる者が必要だからの」
「パートナー……」

ガッシュから聞いていた情報を、士郎は改めて整理する。
ガッシュの能力は確かに強力だが、自らの意思で術を放つ事が出来ない。
それは即ち術を唱える存在が必要ということだ。彼の言い方に合わせるなら、パートナーの存在が。
士郎にとっては断る理由などはないし、ガッシュも士郎を信頼して魔本を預ける事を提案している。
だが一瞬、ほんの一瞬だが――士郎の脳裏に、ある英霊の姿が過ぎった。




“―――問おう。貴方が、私のマスターか”




「――ああ、俺で良ければ……ならせてくれ」


かつての日の言葉を返すように、力強く士郎は頷く。
その言葉はどうやらガッシュの期待通りだったようで、キラキラと宝石のように瞳を輝かせていた。
そしてすぐさまガッシュは猛烈な勢いで士郎に近づき、ウヌウヌと激しく頷きながら自身の魔本を押し付ける。
余程士郎の言葉と、その決意に満ちた表情が嬉しかったのか、ガッシュの浮かべる表情はあまりにも年相応で。

「ならば士郎よ、我がパートナーとして共に戦おうぞっ!」
「おう!ガッシュ、お互いに頑張ろうなっ!」

こうして、一組のパートナーが誕生した。
その二人は決して心が通じ合っているわけでも、長年付き添った相棒というわけでもない。
ただ、ほんの少し――ほんの少しだけ、似た者同士であるだけ。



◆ ◇ ◆



(……セイバー)

果てしなく続く闇の中に現れた、俺を照らし出す光。
その光には、何度も助けられた。俺と、俺の大切な人を、何度も何度も。
だからこそ彼女は俺の手で、決着を付けたかった。

(お前も、呼ばれてるんだな)

名簿で彼女の名を見た時、俺はどこか安堵していたんだと思う。
だって、セイバーがこの場に居れば俺が止めてやることが出来るから。
自分でも歪んでると思う。こんな場所に連れて来られる事なんて、あっていい訳がないのに。
それでも、彼女と決着を付ける事は――彼女の事を一番知っている、俺でなければならない。

(お前の事は俺が止めてやる、だから――)


――無事でいろよ。


あまりに身勝手で、あまりに残酷な言葉を呑み込んで。
夢から目を覚ますように、柔らかな月光を握り締めた。



【D-7/北部/一日目 深夜】

【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:健康、びしょ濡れ
[装備]:ガッシュ・ベルの魔本@金色のガッシュ!!、アーチャーの左腕(投影可能回数残り5回)@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、ランダム支給品(確認済み)(1~3)
[思考・状況]
基本行動方針:言峰を倒し、このゲームを破壊する。桜を救う。
1.ガッシュと共に互いの仲間の捜索。桜を優先的に探す。
2.ガッシュのパートナーとして相応しい行動をとる。
3.魔物、魔本についてもう少し調べたい。
4.もしもセイバーと出会ったら、決着をつける。
5.アーチャーとランサー……まさか、生きていたのか?

※参戦時期は桜ルートのセイバーオルタにトドメを刺す直前。
※名簿を確認しました。
※アーチャーの腕は未開放です。
※ガッシュのおおまかな呪文、そしてその効果を知りました。
※金色のガッシュ!!の世界の情報を大まかに聞きました。

【ガッシュ・ベル@金色のガッシュ!!】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品(確認済み)(0~2)
[思考・状況]
基本行動方針:”やさしい王様”として皆を導く。
1.士郎と共に互いの仲間の捜索。出来れば清麿優先。
2.清麿が見つかるまで士郎とパートナーになる。
3.士郎が優しい人間で良かった。
4.ブラゴ……。

※参戦時期はファウード戦後。
※名簿を確認しました。
※Fate/stay nightの世界の情報の一部を聞きましたが、理解できているかは不明です。


000:オープニング 投下順に読む 002:夢のかけら
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000:オープニング 衛宮士郎
初登場 ガッシュ・ベル
最終更新:2017年03月27日 09:55