殺し合いの話 ◆EPyDv9DKJs
休日だったら、多くの人がスクリーンに釘付けになるであろう映画館。
スクリーンは煌く剣から光を放ち、空を舞う敵を倒す金髪の麗人を映している。
多数横並びにされた中央の席に座っているが、スクリーンではなく参加者の名簿を閲覧している人がいた。
その姿は十代中頃で、短い黒髪に精悍な顔を持つ。
黒いジャケットを着て腰を太いベルトで締めており、
そして隣の座席には、デイバッグがおかれている。
(───また、か。)
名簿を見終えた後、スクリーンを軽く眺めながら、人間───キノは少し呆れた。
またと言うのは、以前キノは似たような国を訪れたことがあるからだ。
一対一のトーナメントのような命がけの戦いを行い、優勝者には褒美を与える。
今起きてやらされている事は、あのコロシアムと内容は殆ど変わっていない。
否、むしろあちらの方がマシだったかもしれないと、体験したキノでさえ思えてくる。
あちらは相手が認める必要があれども、降参と言う形で負けながら生きることが出来るが、
これは降参もなければ、参加拒否することで奴隷として生きる道もなく、『死』だけなのでなお質が悪い。
(戦闘不能に追い込む形以外で降参を認めるような人間がいたかと言われれば、ほぼいなかったのだが。)
キノは人を殺した経験は、一人や二人ではない。
相棒を奪還するためにかなりの人数を撃った事もあるぐらいに人を撃てる。
しかし、理由は基本的に旅に支障が出る場合か、自衛以外では人を撃たない。
たとえ先のコロシアムのような場合でも、キノは対戦相手は殺さないで勝ち進む程だ。
・・・・・もっとも、事故と言う形でその国の王を射殺している上に
その国の奴隷を対象にしないと言うルールを付け加えたとは言え、
今の殺し合いのような法律を作って住人同士を争わせたりと、容赦がないこともある。
前者は暴君であり、後者は住人もノリノリだったので、外道や非道かと言われるとそうでもないが。
この状況においてもキノはそのスタンスを変えるつもりはなく、
相手が殺し合いに乗るつもりがないのならば協力する。
この殺し合いと言う舞台に錯乱してるだけの相手なら気絶に追い込む。
ただし、コロシアムと違って優勝のために躊躇いがない相手ならば、
戦闘不能に追い込もうとは一切考えず、そのまま引き金を引く。
コロシアムはただ戦うだけでなんとかなったが、今回は首輪やこの島の調査が必要だ。
手がかりになるかもしれない人物を、優勝のために喜々として殺し回る相手を放っておく理由はない。
無論、脱出が出来ないなら優勝を狙うことも考える。『優勝者の願いを叶える』は当てにならないが、
少なくとも生存の道に繋がる以上、最後の手段として考慮しておく必要はある。
方針を決めながらジャケットに隠れた腰のホルスターに手を当てるが、
(流石に没収されたか。)
そこにあるはずのハンド・パースエイダー(銃器のこと。この場合は拳銃)はない。
万が一の時にしか使わない、銃の機能を備えたナイフもなかった。
銃器があれば殺し合いを是とする連中を相手にしても有利に立ち回れるが、
流石に都合よく武器を残してくれてると思ってはなかったので、それほど落胆はしてない。
寧ろ見方を変えれば、武器になりうるものは全員が没収されていると言う裏返しでもあるだろう。
徒手空拳のような、武器を使わない人物でもない限り、今すぐ十全の力を発揮する人は限られてくる。
勿論、キノも十全の実力が発揮できない状況であり、不利にこそなりにくいが有利になったわけでもない。
コトミネと呼ばれた神父の発言を思い返し、武器があるとされる隣の座席のデイバッグの中身を調べる。
大半は特に何の変哲もない、キノでも見知ったものだから特に気には留めない。
そんな中見つけた、筆記用具に注目する。
『指定された禁止エリアの侵入、その他我々にとって無視できない言動が確認された場合起爆する仕組みになっている。』
神父は説明でそう言っており、首輪やゲームの打破を画策するのも、無視できないものになるだろう。
一方で、この言葉に語弊がなければ、『言動以外で此方の行動を把握する手段がない』と受け取ることも出来る。
ならば言葉を解さず意思の疎通が出来る手段が最初からあるのならば、脱出についても円滑に進められるだろう。
無論、これがミスリードという可能性を秘めているので、確信を持ったわけではないが。
バッグを漁ると、剣の鞘らしきものがある。
蒼と金を基調とした鞘は詳しいわけではないキノでも高価な代物だと感じ取れた。
一応武器ではあるのだが、これはキノにとっては余りありがたいとはいえない。
キノは細身の身体なので、長剣や大剣よりも短剣と言った小回りの利く武器の方が有用だ。
他に武器がなければ使おうと言う気持ち程度にとどめておいて、他を探す。
探すと何か物々しい雰囲気の宝箱のような箱があり、その中身を特にためらいもなく開ける。
中に入っていたのは十本程収納されている、調理用のナイフで、中に入っていた紙を手に取る。
『DIOのナイフ十本セット』
紙にはそう書かれており、数が多いのは単純にセットだから、特に疑問は持たない。
一方で、DIOと言う名前にキノは注目し、先ほど軽く見た名簿にも同じ名前が書かれている。
このナイフのDIOが名簿のDIOを指すのであれば、参加者に縁のある物が支給されてるかもしれない。
つまり、他の参加者にハンド・パースエイダー『カノン』を筆頭とした武器も存在する可能性が出てくる。
中でも、キノが愛用するパースエイダーのカノンは銃としては低性能で、普通の銃器よりも不便な部分が多く、
説明書があったところで、素人では弾丸の装填すら出来るか怪しいほどに使い勝手が悪い代物だ。
殺し合いを否定する者からならその性能の低さから譲渡されやすく、是とする者なら不便さゆえに有利に立ち回れる。
一方で威力はともかく、性能はカノンよりもはるかに高い『森の人』、ライフルである『フルート』、
ならびに仕込み銃のナイフの方も、意表をつくのに優秀であり、否定する者でも譲ってもらうのは難しいだろう
また、武器以外もあると明言されているので、もしかしたらエルメスもどこかにいるのかもしれない。
ありがたいことではあるが、脱出の前に回収しておきたいものが増えて、遠回りになる可能性もある。
出来ることならないことを願いつつあさるが、他に武器と言えるものはなく、
これ以上は時間の無駄と判断してナイフを数本程懐にしまい、背後の映像は特に気にせず動き出す。
広い上に静寂のせいで、扉を開ける音でも、足音でも響く。
デイバッグの中身を調べる際に時間を費やしたので、
敵が潜んでいるかもしれない可能性があるとなると、あまり好ましいことではなかった。
とは言え、廊下には観葉植物すらない、赤を基調とした廊下だけなので身を隠す場所はない。
なのでさほど気にすることなく、非常口などのいざと言う時の逃走経路を確認した後、売店に向かう。
食料や水は多めにあるものの、キノという人物は貧乏性で、パースエイダーを用いるにも関わらず、
銃を無闇に使うこともなければ、そもそも銃弾すら買うことをしないこともザラである。
カノンは材料があればその場で弾を作ることが出来るので、キノと相性がいいのが証拠だ。
だから摂取できる可能性があるなら、今すぐデイバッグのを使う必要はないという考えである。
特に何か起きるわけでもなく、キノは売店と受付の場所へとたどり着く。
売店の頭上に明るくライトアップされた、ポップコーンやコーラの看板。
売り子がいない、と言う観点を除けば、キノも何度か見たことのある映画館の受付だ。
「よぉ。」
売店の向かいにある休息用のスペースの席に、一人の男が座っていた。
青いライダースーツのような、体格が分かる青い服に青い髪の男だ。
その格好から鍛えられているというのは、考えずとも理解できる。
(あの人は・・・・・・)
キノは彼のことを知っている。この催しの主催者の神父をコトミネと呼んだ一人だと。
「こんにちは、でいいのでしょうか。僕はキノ、
こっちは・・・・・・ああ、エルメスはいないんだった。」
少なくとも、神父に反発していた以上、協力が見込める人物な方であることは察しており、
殺し合いの場であるので何時も通りでいいか悩んだが、普段と余り変わらない挨拶を交わす。
「俺はランサーだ。変な名前って思うかもしれねえが、
名簿にはそう表記されてるからそう名乗らせてもらう。」
ランサーは席を立ちながら自己紹介をする。
立った後、横においてあったデイバッグを拾い上げ、キノと距離を置きながら向かい合う。
友好的な発言をしているが、相手の視線は突き刺すように鋭く、
修羅場をくぐった経験のあるキノでなく、普通の人間ならすくみあがるだろう。
距離もそこそこ開けており、敵か味方かの判断をしていることが察せられる状態だ。
「早速だが質問させてもらう。てめーはこの殺し合い、どう動くつもりだ?」
『返答次第では殺す』。暗にそういわれてるような気がする質問だ。
「・・・・・・進んで殺すつもりはありません。ただ、自衛のためなら躊躇いません。
もっと正確に言えば、錯乱せず、喜々として殺し合いに乗る人だけ、と言った所しょうか。」
キノは特に動じるわけでもなく、自分の方針を軽く相手に伝える。
淡々と答えては嘘と疑われるのも困るので、顎に手をあて、考えて数秒の沈黙の後に答えた。
「ただの坊主だと思ってたが、えらい達観してんな、おい。」
返答にランサーは呆気に取られたが、直後に呆れてるような顔へと変わった。
彼からすれば、聖杯戦争に参加していた志郎や遠坂よりもキノは年下に見える。
だが、キノの方針は殺し合いと言う現実から逃避することなく現実を受け入れて、
一方で脱出不可能だから殺し合いに乗る、と自棄になっているわけでもない。
理解した上で必要であるなら人を殺すことを、初対面の相手に明言する事が出来る。
大人よりもこの状況を理解しているかのようだと、ランサーは思えたのだ。
「そちらの方針を伺っても、構いませんか?」
「俺か? 二度も言峰に従うつもりなんざねえが、
この先何処を目指すとかの方は決めてなかったな。
そうだな、何人か俺の知り合いが此処に参加している。
まずはそいつらに当たってみる、ってのが俺の考えだな。
ああ、そうだ。そっちは誰かにあったか? 俺は会ってねえが。」
「いえ、貴方が最初の人です。」
「ま、そう都合よくはねえよな。
んじゃま、此処には用はないし次の場所にいくとすっか・・・・・・」
ランサーの知る知り合いが、篭城と言う待ちに徹する性格を持つ人物はいない。
となれば、先ほどのキノの足音を聞いてこの場に姿を見せるはずなので、
それがないのだから、知り合いが此処にはいないのが察せられる。
「良かったら、同行させてもらえますか?
僕は貴方の知り合いが何処を目指すのかわかりませんので。」
二手に分かれたところでエルメスのないキノでは短時間で探す範囲は限られる。
多くの人と出会えばカノンやエルメスを見つかるかもしれないのもあるので、
相手を無力化するための人員も、一先ずは欲しいところだ。
「俺は構わねえが、テメエの知り合いはいねえのか?」
「僕は深く人と関わらないので、いてもいなくても変わりはありません。
相棒のエルメスは、多分支給品で誰かに配られている可能性もあることですから。」
「そうか。んじゃ、行く場所についてだが......」
一先ずは、ランサーと同行することになったキノ。
時間こそ限られたわけではないが、禁止エリアと言う概念がある以上、時間は有限だ。
食料も限られている以上、長居は出来ない。勿論、するつもりもないが。
仕方がないとは言え、キノは一つミスを犯していた。デイバッグに眠る剣の事だ。
否───そもそも、キノのデイバッグに剣などない。あれは『鞘しかない』。
デイバッグを逆さにするか、鞘を引っ張り出すか、奥に眠った説明書を見れば、気づいたかもしれない。
魔術の素養がないキノではその鞘が優秀な支給品と気づくのは、今後も難しいだろう。
納める剣こそ不在だが、その鞘は傷を癒す騎士王の聖剣の鞘だということをキノは知らない。
この殺し合いにおいては有力となりうる、治癒能力を持った宝具。
鞘がその真価を発揮するのは、この三日間に果たしてあるのだろうか。
【キノ@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:DIOのナイフ(懐に三本、後の七本はデイバッグのケース)
[道具]:基本支給品、全て遠き理想郷(アヴァロン)
[思考・状況]
基本行動方針:探し物回収した後、脱出優先。喜々として殺し合いに乗ったものは殺人を優先
1.カノン、森の人、フルート、エルメスを探す。一番入手出来そうなカノン、移動手段からエルメスを優先
2.1は最悪、カノンとエルメスの二つだけも考える。他の二つは危険を冒すリスクと。仕込み銃は機会があれば程度
3.首輪をなんとかしないといけない。機械に精通した人物を探したい
4.万が一脱出が不可能なら、優勝も視野に入れる。考えたくはないけど
5.ランサーさんと同行
※参戦時期は原作からして曖昧なので、
『カノン』『森の人』『フルート』『名称不明の仕込み銃』を所持していて、
少なくとも『コロシアムの国』『宗教の国』を経験しているキノです
※主催者が何かしらの手段で言動だけを把握していると推測してますが、確信は持っていません
※全て遠き理想郷が鞘だけで、剣がないことに気づいていません
※ランサーが性別を間違えてる事に気づいていますが、理由がなければ訂正する気はありません
※志郎など、最初の場で目立った人の顔は覚えてはいます
【ランサー@Fate/stay night】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3(槍に該当しないものか、もしくは未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:言峰の言う通りに従うつもりはない
1.坊主(キノ)と同行
2.槍が欲しい。出来ることならゲイ・ボルグだと尚いい
3.アーチャーはわからねえが、他の連中なら協力は見込めそうか
※参戦時期はUBWルート、少なくとも遠坂と協力~言峰を道連れにする前の間
※キノの性別が女性であることに気づいていません
※ルーンの魔術は特に制限されてませんが、サーヴァントのクラスによる制限は受けてます
※映画館は参加者に縁のある映像が流れています
現在はFate/stay nightですが、一定の時間で変わるかもしれません
DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険
時止めを体得した承太郎に対して使用する前に突っ込んだ店から拝借したナイフ
調理用なのでサバイバルナイフなどよりかは劣るが、店の調理用故にちゃんと研がれている
吸血鬼の腕力もあると思われるが、投げナイフの要領で分厚い雑誌にきっちり刺さるほど
因みにナイフのケースはDIOが眠っていた棺桶に類似した造型
全て遠き理想郷(アヴァロン)@Fate/stay night
セイバーの所持する宝具で、約束された勝利の剣(エクスカリバー)の鞘
鞘を持つ者の傷を、本人が死亡してなければ癒す力がある
効果の制限については
- 真名開放で妖精郷に使用者を隔離することは不可能
- 体内に取り込んでの使用は不可。鞘を押し当てる事で回復
回復速度については後続の書き手にお任せします
最終更新:2017年04月11日 20:32