夢のかけら ◆wIGwbeMIJg


とある世界、とある場所に海堂直也という男がいた。
男には夢があった。だが、その夢はとある心無い人間によって奪われてしまった。
ギタリスト人生を絶たれ、男は叶えきれなかった夢に押し潰されるような日々を送っていたのだ。

そう、まるで”呪い”のように。

そんな男はようやく、自分の才能を継ぐ人間と出会い夢という呪いから解放されたのだ。
散々人間を嫌いと言っていた彼が選んだのは、やはり人間だった。
あるいは、海堂直也は木場勇治よりも、長田結花よりも、人間が好きだったのかもしれない。
だからこそ、彼は正当防衛を除き一人たりとも人間を殺さなかった。いや、殺せなかったのだろう。
オルフェノクという人間を遥かに超越した存在なのに、その力を人間に向けなかった――それだけで、海堂直也がどのような人物なのかが伺える。


「――ちゅーか、さ」


海堂の脳裏に浮かぶのは、あの白いホールで首輪を爆破された少女の姿。
人集りの中でも大分後ろの方だったためよく見る事は出来なかったが、彼女の最後の叫びは海堂の鼓膜に張り付いて離れなかった。
人間が死ぬところを見るのに慣れていなかった訳ではない。
だが、あんなにも呆気なく、残虐に殺されたのは、海堂の知る限りでは初めてだった。

「まぁな? 殺し合いたいやつを片っ端から集めて開くのはいーさ。
 けどよ、あの子は……ただの女の子じゃねぇか。それに木場や長田、乾のやつだってそういうタイプじゃねぇ」

名簿に被った土をパッパッと払い、怪訝な視線でそれを見詰める。
海堂の関心が向けられる名前は、”乾巧”、”草加雅人”、”木場勇治”、”長田結花”、”村上峡児”の五つだ。
それら五つの共通点は、自身が知っている名前だという事。そして、もう一つの共通点がある。
その共通点というのは、乾巧を除いた四人は既に”死亡”している、という事だ。

本来ならばそれは疑問を抱くべきだが、海堂はその名前を見て驚きこそすれど疑うことはなかった。
何故ならば、草加雅人も、長田結花も、村上峡児も、実際にこの目で死を確認した訳ではないからだ。
木場勇治に関したって、クリムゾンスマッシュの余波に巻き込まれただけで、実はしぶとく生き残っていたかもしれない。
なによりあの木場たちがそう簡単に死ぬなんて、海堂には到底思えなかった。

いや、それは海堂の願望だったのかもしれない。

木場も、長田も、草加だって、決して死んでいい人間ではなかった。
村上については良い印象はないが、だからといって死ぬべきだとは海堂も思ってはいない。
だからこそ、会ってその真実を確かめたいと思っていた。もしも生きていれば、それが何より。
なんだかんだ言って、海堂直也という男はどうしようもなくお人好しだったのだ。


「――何が言いたいかっちゅーと、あのエセ神父の思い通りになってたまるかってんだ」


一人結論づけた海堂は、ふと自身のデイパックに目をやった。
そう言えば名簿を確認しただけで支給品とやらを見ていなかったなと、今頃になって気付く。
気持ちを切り替えるのも含めて、海堂は意気揚々とデイパックへと手を伸ばした。

「さーって、ロクでもないもん入ってたらタダじゃおかねぇぞ……」

誰に言うわけでもない呟きを一つ、手探り気味に中身を漁る。
一見するとコソ泥のように見えてしまうのは海堂の胡散臭さからか、にやりとした表情が更にそれを加速させる。
ご満悦な表情で海堂が取り出したのは、ちゃりちゃりと軽い音を鳴らす一つの手錠だった。
さすがの海堂でも玩具と本物の見分けはつくようで、その手触りが金属のものである事を確認すればうそれでもんうんと頷く。
強力とは言い難いが、ハズレというわけではない。持っていて損はないといったところだろう。

次に海堂が取り出したのは、透明な袋に入れられた三つの黄色いグミ。
正直これを手にした時にはとんでもないハズレ品だと思ったが、付属されていた説明紙を見て目の色を変えた。



          『レモングミ』

   食べればHPを大幅に回復するグミ。
   具体的な回復値は最大HPの60%程。



「HP……って、体力って事か? なんか胡散臭ぇなぁ……」

説明書に記されていたのは、あまりに簡潔で胡散臭い説明だった。
まるでゲームの世界から持ってきたような、それこそスマートブレイン社でも開発できるか怪しい品物。
馬鹿にしているかと叫びそうになったが、現状本物かどうか確かめる手段がないので保留にしておく。
もしも本物だった場合無闇に消費するわけにもいかない。と、海堂らしからぬ冷静な思考で判断したのだ。

さて、ここまで確認した支給品は二つ。
その内一つは手錠という明確に役に立つもので、もう一つはレモングミなる胡散臭い代物。
確か主催は支給品は一つ~三つと言っていた。ならばここらで尽きても良い具合だが、海堂の運はそこそこ良いらしい。
なにかないかとデイパックに突っ込んだ右手は、すぐになにか硬いものに触れた。

「さってと、お次は……おっ、こりゃでっけぇな! もしかして当たりなんじゃ…――っ!!」

その感触に引っ張られるように、海堂は期待に濡れた表情で”それ”を引っ張り出す。
しかしその手は途中で止められる事となった。その理由は、”それ”が何かを海堂が知ってしまった為。
”それ”は、海堂のよく知るものだった。形や種類は違えど、海堂はそれをなんと呼ぶのか知っている。
海堂の手に良く馴染み、視線を離す事を許さないそれは――――




――――ギター、だった。




「……なんだよ」

ぽつりと、掠れた声が溢れる。
体の奥底から燃えるような熱が湧き上がり、思考を支配していくのが分かった。

「そうまでして俺を馬鹿にしたいかよっ!
 夢を諦めることが、そんなに悪いことなのかよっ!」

激情のままに叫び散らし、ギターを振り上げる。
そのままアスファルトに叩きつけようとして――――出来なかった。


「……っ…」

いや、あるいは、そのギターが新品で指紋一つついていなかったのならば、海堂は躊躇なく振り下ろしただろう。
海堂がそうしなかった理由は、そのギターが酷く使い込まれている事に気が付いたからだ。
一見新品に見えたのは、新品だと錯覚する程手入れが行き届いているから。
余程持ち主はこのギターを大切にしていたのだろう。そんな思考が、海堂の行動を阻んだ。
身体の熱を冷やすように、長い溜息を吐き出す。幾分か冷静になれば、丁寧な手付きでギターを降ろした。
その最中、不意に一枚の紙がギターのヘッドに括りつけられているのが海堂の目に入る。

「……中野、梓……?」


『中野梓のギター』

その文字からするに、中野梓というのはこのギターの持ち主の名前なのだろう。
さっき確認した名簿に同じ名前があったのを、ふと思い出した。
思わず海堂の顔は渋る。中野梓という人間がギターを愛しているというのは、痛い程伝わっていた。
そして、こんな殺し合いに連れてこられるべき人間ではないということも。

「――しゃーねぇな」

暫し考え込んだ後、パンッと自身の両膝を叩き立ち上がる。
続けて地面に寝かせておいたエレキギターを持ち上げれば、付属のストラップを肩に掛けた。
本来彼はクラシックギターの専門なのだが、エレキギターを肩に提げる姿は、不思議と様になっていた。


「届けてやるよ、この俺様が」


顔も年齢も分からない、中野梓という誰かへ向けて。
海堂直也は持ち前のニヒルな笑顔を浮かべ、そう宣言した。



【F-2/一日目 深夜】

【海堂直也@仮面ライダー555】
[状態]:健康
[装備]:中野梓のギター@けいおん!
[道具]:支給品一式、レモングミ×3@テイルズ オブ シンフォニア、手錠@古畑任三郎
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らず、人間として生きる。
1.中野梓を探し、ギターを渡す。
2.乾、木場、長田と合流したい。草加は微妙。
3.村上と出会うことは避ける。
4.木場達は生きてた……?

※名簿を確認しました。
※参戦時期は50話、アークオルフェノク撃破後。


【レモングミ】
一口サイズのゼリー状の薬品。レモン味
食べればHPを大幅に回復する。シンフォニアでは最大HPの60%程。

【中野梓のギター】
けいおん!の中野梓が所持しているギター。通称むったん。
モデルはフェンダーJAPANのムスタングMG69で、カラーはキャンディアップルレッド。
ムスタングとは日本語で「じゃじゃ馬」という意味で、これは中野梓のキャラソン『じゃじゃ馬Way To Go』のタイトルにも用いられている。
ちなみにストラップ(肩掛け)付き。


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初登場 海堂直也
最終更新:2017年04月01日 00:26