月夜の邂逅 ◆wIGwbeMIJg
「――殺し合い、かぁ」
青年、五代雄介が夜空を見上げ煩悶とした様子で溢す。
実感が湧かない、という訳ではない。命の奪い合いには慣れている。
いや、慣れてしまったというべきか。本来五代雄介という人間は、進んで命を奪う人間ではないのだ。
そしてそれはこの場でも変わらない。ホールでの惨劇を思い出し、白々とした空虚感が強い怒りに変わる。
嵐のように波立つ黒い感情を抑え込むように、拳を強く握り締めた。
あの神父のような服装の男は、何の躊躇いもなく一人の少女を惨殺した。
それは最早人間の所業ではない。感情という必要不可欠なものを失くした、人間とは呼べぬ存在。
五代はそれを許せなかった。命の重さをこれ以上ない程に知っている五代だからこそ。
固く握られた拳が行き先を失くし、傍のビル壁を殴り付けた。
拳にじわりと滲む熱が遅れて痛みとなる。
しかしそれを意に介さず、五代は悲哀の表情を崩さなかった。
「……悲しむのはこれまでだ。
これからは、皆の笑顔を守るために動かないと」
苦い憂愁を忘れぬまま、両頬を勢い良く叩き気持ちを切り替える。
そんな五代を迎えるように、視界を覆い尽くすのは切紙細工のような都会の夜景。
星屑のような煌びやかな灯りが街を彩り、ほんの少しだけ欠けた白い月が一層景色を際立たせる。
それでも拭えない侘しさは、やはり人が居ないせいか。
絢爛な景色とは裏腹に、世界に一人だけ取り残されたような寂寥感が胸を突く。
自分以外にもこの寂しさに苛まれている存在が居ると考えれば、それさえも彼を動かす動力源となった。
視界の端に瞬く夜景を気にも留めず、五代は大地を蹴り出す。
左右の灯が瞬く間に流れて行き、徐々にそのスピードは早まる。
アマダムの力によって上昇した身体能力をフルに使い、我武者羅に疾走した。
行く先も決めていないし、当てもない。ただ彼を動かすのは、人を助けたいという信念のみ。
「……!」
その最中、不意に五代は足を止めた。
止めざるを得なかった、という方が適切だろう。
猛烈な勢いで疾駆する自身の前に、突如少女が立ちはだかったのだから。
何時から立っていたのだろう? 五代が浮かべる疑問を振り払うかのように、少女は悠然と一歩踏み出した。
ふわりと冷たい風が吹き、少女の絹糸のように艶やかな茶髪が揺れる。
思わず五代がそれを目で追う。当の少女は依然余裕を崩さず、気が付けば五代の目前にまで迫っていた。
不意を突かれた五代がはっとする。同時に少女は腕に巻かれた腕章を、見せ付けるように横に引っ張った。
「――ジャッジメントですのっ!」
「へっ……?」
高らかな宣言と、間の抜けた声が響く。
その反応が気に入らなかったのか、少女は怪訝な表情で首を傾げた。
一方の五代は、未だ呆気にとられた様子で少女の瞳を覗いている。
しかし少女はそんな五代を置いていくように、一人溜息混じりにブツブツと呟き始めた。
「ジャッジメントを知らない……となると、学園都市外の人間?
……うん、確かに服装も少し昔っぽいし……そう判断して良さそうですわね」
「えっと、……君は?」
ジャッジメント、学園都市――続け様に耳を流れる自分の知らない単語。
巡り巡る疑問を抑え切れず、ついに五代は少女へと質問をぶつけた。
すると少女は自慢の栗色の髪を靡かせ、真っ直ぐに五代と向き合う。
とはいえ身長差は拭えず、五代を見詰める瞳は若干上目気味になっているが。
「申し遅れましたわ、わたくしは白井黒子。
ジャッジメントという治安維持組織に属していますの」
「治安維持組織……へぇ~! すごい立派だね!
ああ、俺は五代雄介。2000の技を持つ冒険家だよ」
「2000の技……?」
互いに名乗りを上げた結果、今度は少女、黒子が疑問を抱く番だ。
2000の技を持つ冒険家。何の躊躇も無く、初対面の相手に向かってそう名乗ったのだ。
そのあまりにも堂々とした言葉に、黒子の頭に疑問符が浮かぶのも無理はないだろう。
もしかしたら、何かの超能力を持っているのか? 一瞬でも、そう思ってしまった程だ。
「五代さん、2000の技というのは……?」
「おっ、聞きたい? えっとね、まず1番目の技が笑顔で――」
「ああ、いえっ! ……もう大丈夫ですわ」
「そう? 遠慮しなくていいのに」
黒子は思わず頭が痛くなるのを感じた。
彼女が五代の言葉を遮った理由は二つある。
一つ目は、このままでは本当に2000個の技全てを聞かされるような気がしたから。
そしてもう一つは、”笑顔”という言葉で彼がどのような人間かを大体察したからだ。
「……はぁ」
黒子が五代雄介という人間に抱いたのは、”呑気で危機感のない青年”という印象だった。
争い事に疎い都市外の人間だから、というのもあるだろうが、それを加味しても五代からはまるで緊張感が感じられない。
黒子からすれば、変に勇敢なよりも臆病で居てもらいたいのが本音だ。
勇敢な事は悪い事ではない。だが、それが無能力者であるとすれば別の話になってくる。
勇気を持っている人間は守る事が難しいのだ。ジャッジメントという職業柄、黒子はそれをよく知っていた。
彼女の能力はレベル4の空間移動(テレポート)能力。
その名の通り自分を含め、限界質量である130.7kg以内の物ならば一瞬で転移させる事が出来る。
自分が触れているもの、という制限はあるが、それでも強力な能力に変わりはないだろう。
それこそ、レベル4でありながらレベル5の能力者も相手取れる程に。
黒子はそれを自覚している。
言い方は悪いが、目の前の五代よりはよっぽど戦えると確信していた。
だからこそ、五代雄介という”無能力者”を”能力者”である自分が守らなければならない。
黒子自身それを当然の事だと思っているし、その事に抵抗はない。
ただ、贅沢を言えば――五代にはもう少し危機感を持って欲しかった。
「五代さん、貴方は今の状況を理解していますの?」
だから、つい呆れ気味にそう溢してしまう。
少し冷たい言い方になってしまった事を、黒子はほんの少しだけ後悔した。
「うん、分かってるつもりだよ」
「……なら、もう少し慌てても良いのでは?」
それに対し五代はきっぱりと、面と向かって返答した。
曖昧な返事が返ってくると予想していた黒子は一瞬だけ沈黙し、また質問を変える。
今度はすぐに返事が返ってくる事はなく、五代は暫し考え込む動作を見せた。
「確かに、慌てるのが普通なのかもしれない。
でもさ、俺の他にこの状況に戸惑ってる人や、不安になってる人が居ると思うと、そうも言ってられないんだ」
「――――」
「俺も突然こんな事になって驚いてるし、不安にもなってるよ。
けどそれって伝染しちゃうんだよね。誰かが不安だと、周りの人も不安になる。
そんな時、一人でも笑顔の人が居ると……大分その気持ちも解れると思うんだ」
断言するように語る五代の揺るぎない瞳を見て、黒子は口を噤んだ。
五代の言葉を、考え無しのものだと流す事が出来なかったのだ。
そして、その言葉に納得している自分が居るのも事実。
「……つまり貴方は、わたくしに気遣ってそんな態度を取っていると?」
だが、返せた言葉はそんな捻くれたものだった。
なんとも子供じみた返答をしているものだ、と黒子は自嘲する。
五代の言う事は間違っていないし、彼が緊張感を持っていないというのも訂正しなければならない。
しかし、自分の考えが否定されているような気がして――黒子は素直に認める気になれなかった。
彼女の些細な反発心に、五代は困ったように苦い笑いを浮かべる。
本来安心出来るその笑顔に、黒子はチクリと胸が痛むのを感じた
慌てて先程の言葉を訂正しようと口を開くが、その前に五代が言葉を紡ぐ。
「うーん、俺って元からこういう感じなんだよ。
だから気遣ってるってよりも、黒子ちゃんにも笑顔で居て欲しいっていうわがままかな」
「わがまま……ですか」
「そそ、わがまま。そんなに重く捉えなくて良いよ」
「……わかりましたわ」
上手く返されてしまったものだと、黒子は思う。
自分は中学一年生という年の中では、大人びた思考をしている方だと思っていた。
だからこそジャッジメントという組織でも上手くやっていけているのだろう。
しかしそれも、五代のような本物の大人には及ばなかったという事だ。
いや、そもそも五代雄介を本物の大人として見る事自体が間違っている。
黒子はまだ知る由もないが、五代は到底普通とは呼びがたい人生を送っているのだから。
なんにせよ、黒子は心の内で何処かわだかまりを残したまま引かざるを得なかった。
そして、黒子は密かに五代雄介の事を苦手な人間だと評した。
先程の言葉が嘘でなければ、五代雄介は相当なお人好しだ。
そのお人好しさが、あの上条当麻という男を思い浮かばせるから。
「――――、っ」
頭を振り、邪念を振り払う。
あのような男がこの世に二人も居ては、堪ったものではない。
それを本音として、今はこんな事を考えている場合ではないと切り捨てる。
見れば、五代は不思議そうな表情で黒子の顔を見つめていた。
途端に胸奥に羞恥心が湧き上がる。
五代を置いて一人盛り上がっていた黒子の姿は、それはもう不思議だっただろう。
そんな彼の視線から逃れるように、ごほんっ! と大きな咳払いを一つ。
びくり、と五代の肩が揺れた。
「ところで五代さん、貴方は名簿と支給品を確認しましたの?」
「えっ? ……あー、そう言えばまだだったな」
出来うる限りの真剣な面持ちで、黒子は五代に問い掛けた。
話題を切り替える為、というのもあるがその疑問は純粋に確認しておきたい事だ。
そしてその反応は予想通り。黒子はすぐさま表情を余裕のある薄笑いを浮かべた。
「やはり、そんな事だろうと思いましたわ。
ちなみにわたくしは全て確認済みですのよ」
「おぉ~……黒子ちゃんってしっかりしてるんだね」
「ま、当然ですわ。……では、ここは一つ情報交換といきましょうか」
「うん、俺もそうしたいと思ってた」
答えながら、五代はキョロキョロと辺りを見渡す。
黒子は怪訝そうな表情を浮かべるが、”あそこ”という五代の声が届くと同時にその疑念は晴れた。
五代が指差す先。そこには質素ではあるが、人二人が座るには十分なベンチが澄んだ月光を浴びている。
特別座り心地は良さそうには見えない。だが、冷たい地べたよりかはずっとマシだ。
5分も歩けば着く場所にホテルがあるが、情報交換を終えたらすぐに移動するつもりなのでその必要はない。
そんな五代の気持ちを汲んだのか、黒子は無言のままベンチへと歩み寄り、洗練された動作で腰を下ろした。
続けて五代はそれを真似るように、ぎこちない動きで黒子の隣に座る。
そんな彼の様子が可笑しかったのか、黒子は少しだけ吹き出した。
「あっ、黒子ちゃん今笑ったでしょ?」
「え? ……ああ、失礼」
「いやいや、全然失礼なんかじゃないよ。
さっきも言ったでしょ? 俺、皆に笑顔でいて欲しいからさ。
やっと笑ってくれたなー……って、ちょっと嬉しかったんだ」
「あら……そうでしたのね、ではこれからは遠慮なく笑わせて頂きますわ」
「うんうん、そうしてっ!」
「……変な方ですわね、本当に」
そんな他愛もない会話が出来る程には、二人の心は落ち着いていた。
滅多に取り乱す事はない二人だが、互いに出会わず一人だったのならばここまで心が和らぐ事はなかった。
人を探し奔走していた五代は言うまでもなく、あくまで冷静な態度を崩さない黒子も例外ではない。
彼女はジャッジメントである前に一人の中学生だ。
殺し合いという訳の分からない状況で孤独であれば、不安になるなという方が無理がある。
五代と違って名簿や支給品の確認こそすれど、いつもと変わりなくとはいかなかった。
特に、御坂美琴の名を名簿で見た時は声を押し殺して涙を流し、お姉様と何度も呟いた程だ。
事実、彼女は五代雄介の足音を聞くまで行動出来ずにいた。
反して五代は、白井黒子の存在のお陰でようやく足を止めた。
互いに知る由もないが、二人の出会いは――まるで歯車が噛み合うように、仕組まれたものだったのかもしれない。
曇りなく笑う青年と花咲くように微笑む少女の遥か上にて、ぽつんと浮かぶ月は氷のように冴え返っていた。
【I-7/ホテル付近ベンチ/一日目 深夜】
【五代雄介@仮面ライダークウガ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品(未確認)(1~3)
[思考・状況]
基本行動方針:皆の笑顔を守る。
1.白井黒子と情報交換。
2.殺し合いに乗っている人は説得する。
3.クウガの力はこの場ではあまり使いたくない。
※参戦時期は48話から49話の間です。
※アルティメットフォームへの変身は現状出来ません。
※アメイジングマイティの変身可能時間は5分間です。
時間を過ぎたら強制的にグローイングフォームへ戻されます。
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:フォーク@メタルギアソリッド3
[道具]:支給品一式、ランダム支給品(確認済み)(0~2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いはせず、ゲームから脱出する。
1.五代雄介と情報交換。
2.御坂美琴の捜索。ついでに上条も。
3.一方通行と出会う事は避ける。
※本編8巻、車椅子生活復帰後以降からの参戦。
※名簿を確認しました。
※能力に制限が掛かっており、生物の中に物を転移させる場合は激しく演算が乱れます。
※五代雄介が学園都市外の人間だと思っています。
| 003:白き闇 |
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| 初登場 |
五代雄介 |
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| 初登場 |
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最終更新:2017年04月11日 18:32