兄弟の絆には強大な契りが必要だったりする

~ミストラルシティ・果倉部道場~

ライトニング「先生...レイの様子は...」
彼の視線の先には息も絶え絶えな男が横たわっていた。
傍らには白衣を着た女性が,この人が"先生"なのだろう,静かに男の脈を測っている。
はて,ここは道場のはずだが?そんなことを疑問に思うのは仕方のないことだ。しかし事実は小説よりも奇なりなのだ。
武富士道場の主,果倉部鴎(ハテクラベ カモメ)は,ミストラルシティの"先生"と呼ばれる職務を一手に引き受けている。
学校の教鞭をとり,医療を施し,時に代議士として勧善懲悪を謳う。
尤も中心としているのは,ここ道場での果倉部流道術の指導であるのだが。

先生「もう大丈夫ですよ,安心なさい」
易しく微笑む先生の顔を見てライトニングはほっと胸をなでおろす。
遠く離れた国に旅だったはずの兄が体中傷だらけで帰ってきて,それから行き着く暇もなかったのだ。
兄のこと以外考えられなかったのだから当然だろう,ライトニングの緊張の糸は大きく音を立ててキレ落ちた。

ライトニング「ぐがぁぁぁzzzZZZZ....」
その隣にはタオルにくるまったまだ幼い少年が身を寄せている。
手には巷で人気の【ロビン】人形が握られている。
そう,ライトレイが道場の戸を叩いたのは,まさにロビンの活躍真っただ中だったのだ。

イワオ「ぎぃやぁぁぁっぁぁ!!」
玄関先に血まみれの男が倒れていたら,だれでも悲鳴をあげてしまうものだろう。
かけつけた先生とライトニングに抱えられ運ばれていった男を警戒しつつも,睡魔の誘惑には勝てず
夢の国へと旅立って早数時間。
ライトニングもまた夢の国へと旅立ったのであった。

大きないびきをかく,静かに寝入る,そんな息子たちを見つめる先生は母親そのものであった。



~翌日~

昨日瀕死だったのがウソのように,ライトレイは先生お手製の食事をのど深くにかっこんでいた。

おいおい,瀕死設定をもう解除しちゃうのか?兄のために翻弄する弟の活躍を描く予定だろ?
え,予定は未定であって決定ではないって。なるほど一理あるな。
本筋には影響ない,もとより話を加速させる分には問題ないよね。

ライトニング「...天の声が聞こえる気がする...」
イワオ「うんめぇぇっぇぇぇ」
ライトレイ「うんめぇぇっぇえぇぇ」

にぎやかな食卓が一段とにぎやかになった。いやはや先生の腕には頭が下がる。

イワオ「たいかいだぁあぁっぁあ,じゅんびだぁっぁぁっぁぁ」

ライトレイ「トニー,大会って?」
ライトニング(レイにそう呼ばれるのは久しぶりだなw)
ライトング「決闘大会だよ,成り行きで私も参加しているんだ」
そのときライトレイの目が暗くなったのを先生は見逃さなかった。
ライトレイ「トニー,俺はもう決闘はしないんだ」
ライトニング「レイ...」
昨夜の怪我の様子からしてただ事ではないことはだれの目にも明らかであった。
そしてライトレイが命よりも大切にしていたデッキが失われていることに気づいたとき,先生とライトニングは理解したのだ。
ライトレイが大きな敗北により挫折し逃げ帰ってきたことに。

かの国は,古から決闘の研究がなされ,その伝説は海を越え広く知れ渡っていた。
数多くの決闘者がその国を目指し旅立つのだが,かの国にたどり着くまでには,様々な苦行が待ち受けている。
常人ではかの国にたどり着くことすら不可能だろう。
ライトレイはかの国を訪れ,決闘に明け暮れていた。
勝利は格別。敗北は死別。
たとえ遊びであっても,決闘に負ければすべて終わり。
ライトレイの強力なデッキもかの国の決闘者たちのそれに比べれば,まだまだ未熟だったのだ。

しかしライトニングは知っていた。決闘は楽しいものだと。
ロビンが教えてくれた【かっとびんぐ】はそれまでのライトニングの考え方を大きく変えていたのだ。

ライトニング「レイ,とりあえずイワオと闘ってみろ」
ライトレイ「励ましのつもりかもしれないが,今の俺には闘うデッキもな...」
話をさえぎりライトレイの前にはあるデッキが現れた。
遠い過去,兄弟でその力を高め合っていたあの頃。
テレビで活躍していたヒーローそのもののデッキを使って,ライトレイは心の底から楽しんでいた。
忘れていた思い出のふたが開いたそのデッキは,先生が大事に保管していたものである。

先生「どうかしら?イワオくんとの決闘は楽しいわよ」

ライトレイ「先生...イワオ,勝負だ!!」
イワオ「かかってこいぃぃぃい,らいとれいっぃぃいいぃ」
ライトレイ「呼び捨てにするな,俺のことは....ライトレイ・サンダーと呼べ!!」
イワオ「おおおさんだーさんだーらいとれいさんだー!!」

笑顔が一つ増えたクロノヴァイス
どうやらメンバーの途中参加も可能なようだ。
なんて寛大な大会!!

先生「言い忘れてたわ,ライト兄弟の両名に告ぐ。大食いのあなたたちを両方面倒見るのは大変よ。
ただってわけにはいかないわ。掃除・洗濯・ゴミ出しはあなたたち二人の仕事にします」
いたずらそうに笑いながら先生は微笑んだ。
最終更新:2012年08月11日 08:37