- 2. 名無しモドキ 2011/12/30(金) 22:57:51
- {−「中・長編SS投稿スレ その2」よりのつづきです。− その2の→911以降
- 「アステカの星10」 −奇跡の谷− New Shangri-La PART3 Prisoner of the Appalachia
ジョーとロジャーは三日ほど森の中の村を二人でうろついて、少し村人に顔を売った。向こうから声をかけてき
たり挨拶をしてくることは少なかったが、こちらからの呼びかけや挨拶は丁寧に返答してくれた。
初日にすぐに気づいたことがる。ヴァージニアといえばタバコなどのプランテーションで発展した南部の大州の
一つである。むき出しの人種差別もある。ただ、テラビシアと呼ばれるこの村ではヨーロッパ系が多数派ではある
が、インディアン系やアフリカ系の住民がみな同じような生活をしていた。共同食堂でも異なる人種が同じテーブル
で談笑している。
「人種の融和という意味ではここは天国に違いないな。」ロジャーが感心したように言う。
「ああ、本物の天国もそうだといいがな。」ジョーの皮肉っぽい口調も心なしか軽い。
ジョーとロジャーは相談で、木樵の仕事をすることにした。何軒かの家を建てたり、納屋をつくるという話を聞
いたからだ。一応、木樵をしている人物に断りの話をしてみると、この仕事は人出が足りないため時々共同作業に
指定されていたから、みんな喜ぶだろうと言ってくれた。
次の日から木樵に要領を聞いて仕事を始めた。木を伐採する地域は範囲が決められており、また、森による村の
カモフラージュ効果を守るために五本に一本の割でしか伐採できなかった。ジョー達には二頭の馬というアドバン
テージがあっても、余程切り倒す木と順番を考えないと運びだすことが至難のワザになる。
また、切り株は掘り起こすかノミで砕くか、それでも手に余れば埋めてしまうことが求められた。万が一に外部
からの侵入者があっても伐採の痕跡を残さないためである。
このような手順のため一日に切り出して村の小川の側にある製材所にはせいぜい二本ほどの丸太しか運び込めな
かった。それでも、労働の対価として十食分前後の共同食堂での食券になった。余った食券は村の万屋で下着やタ
バコと交換できた。
三日に一回くらいは、クローイが自家製のソーセージを挟んだホットドッグといった、その日の食堂のメニュー
にない昼飯を持ってきてくれた。話を聞くと彼女とドナファーの家にはまともな台所があり食堂で分割された食材
を調理できると言った。
伐採した木々の間にはリンゴやアプリコット、ネクタリンなどの若木が植えられており、それらは保存食用に取
り込まない限りはいつでも食べてよいと言われていたので初夏のデザートにも不自由しなかった。クローイとの昼
食は楽しかったが彼女が、暗に見張りを命じられていることはロジャーでも薄々感じていた。
その日、クローイは午後も大分たって、雲が広がり霧が立ちこめだした頃に馬に乗って伐採現場に現れた。
「クローイ、今日はくるのが遅かったね。」単にクローイの姿を見たいロジャーが嬉しそうに聞いた。
}
- 3. 名無しモドキ 2011/12/30(金) 22:58:36
- 「外に買い出しに行っていたの。どうしても自分たちでは作れない物があるから。最初に会った時も荷物を運んで
いたでしょう。わたしはこの村の運び屋なのよ。」昼食を乗ってきた馬から降ろしながらクローイが言う。
「あの時は、お客さんを連れて急いで村に戻る必要があったから一人だったの。いつもは三四人くらいで行動するの。」
「で、あの撃たれたおっさんはどうなったの。」ロジャーが聞いた。
「言ってなかったわね。死んだわ。ここについて三日目に傷口から腹膜炎をおこしたの。三日は大丈夫だったけど
四日目はだめよ。でも、彼もようやくここを離れて私たちの知らない国へ行くの。」一寸考えてクローイが言った。
「お客さんていうのは?」今度はジョーが聞いた。
「この村に住みたい志願者のことよ。忠告しておくわ。あんたたちこの村から出たいならあまり村のことに詳しく
ならない方がいいわよ。だからあまり質問しないで。」クローイは人差し指を立てて口の前に持っていった。
「そりゃ、理屈だな。わかったよ。でもクローイ、君のことはもっとよく知ってもいいだろう。」昼食を受け取っ
たロジャーが言う。
「ロジャー、もう出掛ける時間だから、そのうちにね。」昼食を渡し終えたクローイは急いで馬に乗った。
「この間の山道か。」ジョーがベーコンとタマネギをはさんだサンドウィッチをほおばって聞いた。
「そうよ。」
「馬を貸そうか。」ジョーは最初の一切れを嚥下すると何気ないかのように言った。
「それは助かるけどいいの?」クローイは素直な驚きの声を上げた。
「ああ、昼食をご馳走になって食券が相当たまったから、今週は最初に木ばかり切って週末にまとめて運びだすつ
もりだ。馬は金曜日に返してくれればいいさ。」ジョーはそう言うとまたサンドウィッチをほおばった。
「ねえ、この馬なんて名前?」ジョーの馬の手綱を持ってクローイが聞いた。
「名前はないよ。」ジョーは素っ気なく返事する。
「どうして?」
「こっちが困れば売り飛ばす。置いて逃げる。殺して食うってことも考えられるからな。名前なんぞつけたら妙に
情が移るだろう。」ジョーは相も変わらず愛想なくしゃべり続けた。
「それじゃ、わたしがつけてあげる。ジョーの馬は”双子”(twins)、ロジャーの馬は”広い道”(Broadway)よ。」
「なんか両方とも変な名前だな。」ロジャーが首をかしげる。
「ねえ、あなたちわたしを助けてくれた時に、民兵相手に立ち向かったわよね。手弱女のわたしならどうするかな
って考えたの。」唐突に、クローイが話題を変えた。
「どうするんだい。」
- 4. 名無しモドキ 2011/12/30(金) 22:59:11
- 「相手の力が大きくてどうしようもなかったら、その力を分散させればいいのよ。あなたたちもそんな方法もある
って憶えておいてね。」クローイは妙にゆくっり言った。
「わかった。」ジョーがクローイの目を見て返事する。
「じゃあね。明日は食堂でお弁当を作ってもらいなさいよ。」クローイはそう言うとジョー達の馬を連れて霧がか
かり始めた山道の方へ消えていった。
「クローイは三日間はこない。」クローイがすっかり見えなくなってからジョーがぽつりと言った。
「なんでわかる。」
「クローイはお前に興味を持ってる。ただし、ロジャーが期待している興味ではないだろううが、お前に三日は大
丈夫って言っていただろう。」ジョーまだ霧の彼方を見つめたまま言った。
「謎かけかい。なんで素直に言わないんだ。」ロジャーはジョーの見つめている方向を見ながら聞いた。
「オレたちを見張るクローイをさらに見張る奴がいたからさ。さあ、明日は天気が更にもう一つのようだ。」
ジョーの言うように、次の日の昼から小雨が時々降る天候になった。
標高が高いためか雨模様になると、霧とも雲ともつかないモヤで視界が著しく落ちた。ジョーとロジャーは木の枝
を組み合わせて人の大きさくらいの十字を作ると、ジョーの上着と帽子を被せた。簡単な案山子だが霧の中では遠
目には人に見えないこともない。近くを村人が通った時の用意だ。
ジョーは案山子が完成すると夕方には帰ると言って森の奥へ入って行った。ロジャーは小雨の中なんとか二人分
に近い仕事をしようと躍起になった。いいかげんヘトヘトになったころにジョーが涼しげな顔で帰ってきた。
「さあ、帰って熱いシャワーを浴びよう。」ジョーは道具を片づけると、宿舎になっている村の共同食堂の二階に
帰るまではそれ以上は何も言わなかった。
シャワーと言っても食堂で5ガロン缶一杯のお湯を貰って、二階のシャワー室の上部にあるタンクにそのお湯を
入れてポンプを動かして適量の水を入れる。シャワーの栓をひねってそのお湯を浴びるだけである。ただ、ロジャ
ーは初夏とはいえ一日雨に濡れていたのでその程度の湯でも心地よかった。
次の日も朝から小雨模様だったが、ジョー達は伐採に出掛け、昼過ぎになるとジョーは森の中に入り、昨日のよ
うに夕方に帰ったきた。翌日は晴れ上がったため、案山子が機能しないとして、ジョーは森には入らずに一日伐採
の作業を行った。
次の日はまた雨模様になり、クローイが熱いコーヒーを持って昼前にやってきた。ひとしきり、クローイはロジ
ャーとたわいもないおしゃべりをすると帰って言った。ジョーはその後、森の探索に出掛けた。こんな日が数日続
いた。
- 5. 名無しモドキ 2011/12/30(金) 22:59:45
- 「おれたち何時まで此処で、こんなことしてるんだろう。」雨が酷くなったので早めに仕事を切り上げて帰ってき
た日に、ベットに寝て天井を見ていたロジャーが独り言のように言った。
「オレはお前がてっきりここに骨を埋めるつもりかと思っていたぜ。」ジョーはタバコを吸いながら言った。
「バカにするない。放浪はオレの生き甲斐だ。いつまでもこんなことをしてたんじゃ、だんだん普通の奴になっち
まうぜ。」ロジャーはベットから起き上がりながら反論した。
「なんかおかしくねえか?」一息置いてロジャーが言った。
「何がだい。」
「今日、畑仕事をしている奴に聞いたんだが、畑仕事はしている奴は農家じゃなくて、畑の仕事をしてるって言う
んだ。だから収穫はすべて、この食堂の食材になる。まあ、共同生活ということでこれは納得するよ。」ここでロ
ジャーは言葉を句切った。
「ここには二百人かそこらの人間がいると思うんだ。で、なにかしらの仕事をして、食券を手に入れてこの食堂で
食べるか、家に持ち帰って食べる。食券を使ってここでは衣服や道具と交換もする。なんでそんことするんだ。上
手く言えないけど、この食堂が生活を仕切ってないか。」ロジャーはわかりかけているのに、答えが出てこないと
いいた感じで質問する。
「統治するためさ。」今更というようにジョーが答えた。
「統治?」
「ここで一人だけ昼間、仕事をしているのを見かけない奴がいる。」ジョーはそう言うと、斧を数回振るった。木
っ端がはでに飛ぶ。
「ドナファーか?でもドナファーは長老で・・。」
「そう、奴は仕事をしてないわけじゃない。」ジョーは斧を置くとロジャーを見やった。
「奴の仕事は統治だ。ただドナファーが絶対的な権力を握っているわけじゃない。」
「そのドナファーがここを統治のためのシステムの一つがこの食堂さ。で、どう考えてもここの耕地の広さや家畜
では俺たちの食べてる食事を維持したりできない。外から運び込まれた物資がある。それもかなりの量だ。」
「俺たちが入ってきたルートでクローイらの運び屋が運んでるんだろう。」ロジャーが聞いた。
「物資を手に入れるには対価がいる。その対価がここの畑で取れてものや手作りの製品とは思えないな。おれは以前
山村で自給自足の生活をしたことがあるからよくわかる。オレたちに内緒の価値あるものを売っているんだ。それ
もこの混乱した社会のなかでも値打ちあるものだ。」
ジョーはまた降り出した雨を見上げて言った。
- 6. 名無しモドキ 2011/12/30(金) 23:00:31
- {{オカルトルート}
これはリアルなストーリーではなくオカルティックな内容です。このような内容を求められない方は
- →9
- へ。
−ジョー視点− Crouch End in Appalachia
ジョーはタバコの煙を目で追いながら考える。南の方向は警備が厳しいためまだ未踏査だ。しかし、昼間に無理
をして一度でも警戒されるようなことがあれば著しく脱出は困難になる。チャンスは一度だけだ。
今の結論は入ってきたルートからしか脱出できない。そして説明のつかないことには対処の方法がないというこ
とだ。ジョーはベットの上で寝転んで今日までの体験を反芻してみた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
初日には出来る限り記憶と感覚を呼び起こして、入ってきたルートを探そうと北へ続く山道を進んだ。その踏み後
は薄く、しばしば立ち止まってよく周囲を凝視しないと見失いそうになる。多分、わざとケモノ道ができることを避
けて通行が困難でも、ある程度の幅をもって往来しているのだろう。
霧雨が降り続いて霧もだんだんと濃くなってくる。滑りやすい斜面をなんとか踏ん張って登っていくと、大きな樫
の大木に突き当たった。このような物は次に来るときのポイントになるので出発点からの時間、辺りの様子を記憶
する。
樫の木のすぐ横に表面を平らに削った人の小牛ほどの石が置いてある。その平らな面には「SEMÄTARY→」と
金属でひっかいたような稚拙な文字と矢印が刻まれていた。違和感があると思ったら文字の綴りも間違っている。
チェロキー族の墓地を示しているのだろうか。薄い踏み後はここから幾つにも分岐しており墓地の方にもつづいて
いる。
墓地の方向だけが高くなってなっている。一度辺りの様子を見るために墓地の方向へ進む。五分ほど歩くと開けた
山の中腹に出た。まばらに木が生えており、人の頭ほどの石が数個積み上げた墓らしきものが一面に見える。
太陽が見えないので方向が定かではないが東のほうに視界が広がっているようだ。
その方向だけは雨が上がっているのか、雲間から太陽が差し込んで遠くまで見える。少しぼやけた感じに見える
が壁のような山が幾重にもつづいており、麓にはかなり大きな道路も見えてる。墓地から明らかな道がその方向へ
伸びているので、その道を下っていく。
所々でヤブこぎをしながら二十分ほど進む。少し開けたテラスのような場所に出た。振り返ると墓地がまだ案外
近くに見える。オレは驚愕した。墓地から見えていた風景が見えないのだ。
霧の合間に見えているのは、陰気くさい三角の明瞭な山頂を持った大きな山だ。その山が目の前に谷をはさんで
そびえ立っている。こんな山などなかった。
}
- 7. 名無しモドキ 2011/12/30(金) 23:01:49
- 訳がわからず、混乱したまま少し進むと道が三叉路になっている。取りあえず左の方へ進んだ。視界が急に開け
て右が谷になっている所に出た。北の方角の霧が薄くなった遠くが見える。
二十マイル以上先のようだが確かに大きな都市が見える。一二分するとまた霧が出てきて視界がふさがった。オ
レは道を急ごうとして石につまずいた。
『いったい、オレは急いで何処に行こうとしたんだ。今のオレは自分を失いかけている。大体、この辺りにあん
な大都会は無いはずだ。』つまずいたおかげで少し冷静になった。懐から”アステカの星”のマスクを取り出して
被った。ようやく平常心が戻ってくる。しばらくじっとして五感を研ぎ澄ます。
神経を苛出せるような、ガラスをひっかくという表現が近いが、それとは異質な嫌な音が何処からか微かに聞こ
える。ヴァニラと腐敗臭が混じったような微かな匂いがする。空気の質感も違和感を感じる。
道の先の方から気配がした。左の斜面を急いで登り、手近な岩に身を隠して様子をうかがう。
霧の中から十人ばかりの男が歩いてきた。先頭の男は房だけになった軍旗を木の枝に結びつけて前に掲げている。
全員がケピ帽のような帽子を被り、ぼろぼろの軍服らしき物を着ている。中には半分服がすり切れてしまって、皮膚
がところどころ見えている者もいる。
ズボンは裾から下がぼろぼろで七分のパンツのようだ。ほとんどの者が裸足で、靴の残骸をスリッパのように履
いている者が二三人いた。腰には木製らしい円盤状の水筒、そして、全員がマスケット銃を担っている。木製の銃
床が朽ちてなくなり金属部だけの銃もある。
男達はすぐ下を黙って歩いて行く。泥で汚れていない部分の顔色は青黒く目に精気がない。そして、どの男も栄
養失調のように恐ろしく痩せている。すぐ目の前を歩いているはずなのに足音がしない。一言も発せず男達は反対
側の霧の中に消えていった。『あいつら南北戦争の南軍だ。』オレは思わず小声で呟いた。
道に出てきて男達が通過した後をかがんで確かめた。かすかだが足跡がある。あの男達は幻覚や幽霊ではなく実
在しているのだ。
オレはさっきの南軍の連中に追いつかないように、比較的ゆっくりとした足取りで三叉路の方へ戻った。来るとき
はほんの五分ほどだと思ったが行けども行けども三叉路につかない。
立ち止まって、また五感を研ぎ澄ます。まだ嫌な音が聞こえる。妙なことに気がついた。幾ら雨模様とはいえ、
あの音以外には何も聞こえないのだ。
初夏のこの季節に鳥の声までしないとはおかしい。なお、耳を澄ませていると微かに鳥の声が聞こえた。斜面
の上の方からだ。オレは委細かまわずに斜面を登る。結構、登ったが意外なことに別の道に出た。
- 8. 名無しモドキ 2011/12/30(金) 23:02:40
- 道の少し先に先ほどの三叉路が見える。また消えてもらってはこまるので急いでそこに走っていった。降りてき
た坂を見上げる。上手い具合に霧の切れ目に墓地が見えた。しかし、先ほどは案外近くに見えた墓地が霞むほど遠
くに見える。位置もすこしずれているような気がする。また、かすかに鳥の声がした。
オレは少し道から外れてでも墓地を視界におさめながら坂道を登った。小一時間も休まず早足で登るが墓地は存
外に近づかない。オレは少しゆっくり登ることにした。すると今度はゆっくりでも墓地が近づいてくる。
オレは墓地に着くと大きく深呼吸をした。振り返ると低い雲の上にゆったりした山並が続いているという、アパラ
チアならお馴染みの風景が見える。最初に見えた道路はもう見えなかった。
すぐ近くの灌木に数羽のムクドリがいた。ピーピピッピと低く太い声で鳴く。
もどってこれたのはこいつらのおかげだ。オレはマスクを脱ぐと丁寧に会釈した。
時計を見た。墓地を出てから三十分と経っていない。しかし、体は半日ほど山を駆け回ったような疲労感である。
この日はそのままゆっくりとロジャーのいる伐採地に戻った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次の日から、マスクを被り道をしばらく進むと音や匂いの気配を探った。あの嫌な音や匂いのする場所は一日に
一二回遭遇する、チェロキー族の祭祀場のような場所の近くにあった。祭祀場は痕跡がかすかな場所もあって、注意
をしていなければあの形容しがたい場所にまた迷い込む可能性が高い。
盆地の西も東もそんな危険地帯がいくつかあり行く手を遮っていた。丹念に探せば通路は見つかるだろうが、ま
ったく道もなく地形が困難すぎる。やはり、北のルートしかないようだ。だがルートを見つけるための問題は時間
だった。
全て安全地域を進んだが、オレたちがクローエと最初に出会った地点に行き着いて日が暮れる前に伐採地に戻る
には時間がなさ過ぎた。オレがルートの探索に費やせるのはクローエ(とクローエを見張る男)と昼過ぎに別れ、
ロジャーが二人分の仕事をしてヘトヘトになっている夕暮れ前までの四時間弱の時間である。馬で迷わずとも片道
三時間の山道を往復するのは難しい。
最終行程はぶっつけ本番でやるしかない。ただ、例の危険地帯は出発して1時間ほど離れれば遭遇していない。
後は南のルートである。警備が厳重だが夜はどうだろう。
オレはベットから起き上がるとあらためてベットに座ってタバコに火をつけた。そして隣のベッドで寝そべって
いるロジャーを見た。
-
最終更新:2012年02月08日 04:06