673 :yukikaze:2012/01/21(土) 00:34:42

結論から言ってしまえば、夢幻会のメンバーは、門閥貴族を切り捨てる
ことを既定方針としていた。
元々彼らは帝国の藩屏であることを望まれ、そうであるが故に数々の特権を
享受していたわけだが、既に彼らは国家の藩屏どころか、むしろ害悪になっていた。
一例を上げれば、帝国の富の実に1/3近くが、彼らの特権を維持するために使われていたと
いう試算が出ており、当時の財務次官であるカストロプ公が「何たる無駄遣い」と
慨嘆したほどであった。

もっとも、前述したように、彼らは門閥貴族の排除を既定方針としても、
短兵急に事を進めるようなことをしなかった。
何しろ、現在の帝国の統治形態は門閥貴族を中核としてまわっているのである。
そして、あらゆる組織において、門閥貴族とその息のかかった者達が職務に従事している以上、
彼らを一気に排除すれば、組織の機能がマヒする恐れが十分にあった。
夢幻会が、帝国歴471年まで門閥貴族排除よりも辺境地域の開拓に注力したのも、
辺境地域の開拓に従事させることによって、門閥貴族の息のかかっていない官僚層を育て上げると
いう目的もあったからだ。
大抵の門閥貴族にとって、辺境地域は左遷地域でしかなく、何より首都周辺での利権のある地域を
わざと餌としてばらまかれたことに目がくらんでいたことも、夢幻会側の狙いを隠すことに役立っていた。

そして帝国歴471年。夢幻会側は満を持して行動を開始した。
まず口火を切ったのは軍であった。
この年の人事異動において、門閥貴族層に連なっていた面々を、名誉職や「階級上昇→待命」
というコンボによって、第一線から外し、軍内部における門閥貴族層の影響力を激減させることに成功する。
外された面々が、その真意にほとんど気づかない程の鮮やかさであった。

次に手を打ったのが内務省であった。
内務省で警察官僚として実力を蓄えていたハルテンベルク伯爵(田中隆吉)が、
サイオキシン麻薬事件の捜査を極秘裏に押し進め、証拠がそろった所で、
一気に摘発に躍り出たのである。
ハルテンベルクの巧妙だったのは、麻薬密売に絡んでいた門閥貴族のうち、
大物には全く手を出さず、主に下級貴族連中を狙い撃ちにしたことであった。
当初、ハルテンベルクの行動に警戒感を示した門閥貴族達も、自分達に対して全く
手を出さず、おまけに揺するそぶりも見せないハルテンベルクの行動を「物のわかった男」と
評価する有様であった。
無論、夢幻会側は門閥貴族に配慮する為に、ハルテンベルクにそういった行動をさせたわけではかった。
彼らにしてみたら、麻薬摘発事件など、これからの策の為の前振りでしかなかったからだ。

そして、最大の一撃を放ったのは、財務省であった。
財務尚書であったリヒテンラーデと次官のカストロプは、前述した麻薬事件に関連した貴族達が
その密売ルート確立の資金源として、貴族専用の金融機関を利用していたことを受け、
当該金融機関を利用している全ての貴族達に、これまで借りていた資金の使用内容の内訳の提出と
それに対する査察を行う事を通達したのである。
この通達に、遊行費やマネーゲーム用の資金として利用していた門閥貴族は大反発するが、
夢幻会側の貴族陣が進んで資料を提出したことで、もはやにっちもさっちもいかなくなってしまう。
結果として、多くの門閥貴族達が、そのでたらめな資金運用を赤裸々に暴露されてしまい、
当該資金の返済を命じられることになる。

そして経済的に困窮することが明白になった門閥貴族達は、追いつめられた思考の元、
リヒテンラーデ達の排除を決意。ここに内乱の号砲が切って落とされることになる。

731 :yukikaze:2012/01/21(土) 14:29:54

夢幻会の目論見通り暴発した門閥貴族達であったが、その規模は原作のリップシュタット戦役と比べると
多くても1/3程度の規模でしかなかった。
その最大の理由は、反乱を起こすための大義名分であった。
原作では、政権の主流派から落とされたブラウンシュバイク・リッテンハイムの両家が「君側の奸を討つ」
という大義名分を掲げたことで、殆どの門閥貴族達が雪崩を打って参加した訳だが、
今回の反乱の原因は「浪費ばかりしていた貴族が借金棒引きの為に反乱を起こした」という代物。
はっきり言って、「自業自得」としか言いようがない代物である。
少なくとも領地経営を真面目に執り行っている貴族層からは呆れられていたし、比較的裕福な貴族層も
「何で貧乏貴族の連中と一緒になって馬鹿をやらかさないといけないんだ?」という考えが殆どであった。
それでも全貴族の内、1000人近くが反乱に参加していたというのが、当時の門閥貴族の腐敗と
堕落を指し示していたといえる。

さて、反乱を起こした門閥貴族達であるが、参戦をしたのは、「身代を超える贅沢をしていた連中」か
「領地経営がまともにできていない」連中である。
要するに反乱軍の核となるべき存在が全くと言っていいほどいないのである。
無論、探せば家柄がいい貴族は幾人もいたのだが、裏を返せば家柄だけなのである。
原作でも、有数の家柄と実力を誇っていたブラウンシュバイクやリッテンハイムをしても、門閥貴族の
我儘を抑えるのが難しかったことを考えれば、家柄だけの貴族が、統一した指揮を執るなど不可能であった。
必然的に、彼らは自領に籠って、各個ばらばらに反乱を起こさざるを得なくなる。

もっとも、彼らのこうした行動は、夢幻会側にとってはいささか厄介なものでもあった。
敵は分散させて討つのが用兵の常道だが、この場合はむしろ集中させて叩いたほうが効率は良い。
何しろこうした反乱が長引けば、反乱が起きた地方の物流、通商がマヒしてしまうのである。
それは直接的には、その地方にダメージを与えることになるし、まわりまわっては国家にダメージを
与えることになるからだ。
勿論、反乱鎮定にかかる費用についても馬鹿にはならない。

だからこそ夢幻会内部では、首都でのクーデターによって門閥貴族を一網打尽にする案や、貴族に対する累進課税を
発表することでの大規模な暴発、更にはサイオキシン麻薬の一件を大々的に利用することでの失脚と言ったプランも
話し合われたのだが、これらの案を行った場合、帝国は今以上の混乱を誘発する可能性が高く、そうなった場合、同盟が大攻勢に打って出る
危険性を考えれば取ることは出来なかった。
如何に難攻不落のイゼルローン要塞であったとしても、それなりの艦隊がなければ不落ではないのである。
同盟に対する防衛と、貴族の反乱の鎮圧とを天秤にかけての戦力分担を考えれば、これがぎりぎりの妥協点であった。

かくして、門閥貴族の反乱は、原作と比べて小勢力であったが、広範囲でかつ不規則に勃発したために
原作で5ヶ月で終焉したのが、ここでは全てを合わせると2年近い時間をかけての終焉となっている。
やむを得なかったとはいえ、帝国のダメージはそれなりに生じることになったのだが、もう一つの問題として
反乱には加わらなかったが、既得権益の保持を重視している門閥貴族層についても、対応を講じなければ
ならなかったのである。

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最終更新:2012年02月10日 06:40