945 :yukikaze:2012/01/22(日) 16:21:21
帝国歴476年。フリードリッヒ四世在位20周年になるこの年。
帝国は表面上は繁栄を築いていた。
帝国にとって病巣となっていた、気位だけが高い無能な門閥貴族層は潰され
20年に渡る投資の末、中央と辺境の経済格差も大分縮まるとともに、帝国全体で
開発に伴う好況が続いていた。
外憂である同盟軍の攻勢も、イゼルローン要塞と駐留艦隊によって阻まれ、兵員の損失も
最小限に抑えられ、どこにも問題がないように思えた。
しかしながら、そうした表面的な部分の裏では、相変わらず問題が蟠っていた。
最大の問題は、貴族の独立性の高さである。
帝国は、貴族達に領土を与えることで、その地域の安全保障や流通を委任していた。
これは、開祖ルドルフ大帝の「銀河帝国の根幹は貴族」というスタンスによるものであったのだが
だが、こうしたことで、中央政府の権力が貴族領土に中々反映されなくなったという
弊害を持つことになった。
一連の反乱騒ぎにより、反乱を起こした貴族領土を帝国の直轄領にし、辺境地域の投資の条件として
遺産相続税、固定資産税、累進所得税等の適用を飲ませたことで、ある程度は緩和されたものの、
中央に領地を持つ有力貴族達については手つかずのままである。
そして彼らは、これまでの
夢幻会側の行動に対して、徐々にではあるが不信感を抱きつつあった。
夢幻会側も可能な限り彼らに不信感を抱かれないように細心の行動をしていたものの、
彼らとて無能ではないのである。そして彼らの力は侮れるものではない。
もう一つの問題は皇太子の無能さである。
現帝のフリードリッヒ四世はしたたかさと先見性を持っている名君なのではあるが、
ルードヴィヒは、その才能を欠片も受け継いではいなかった。
しかも性質が悪いことに、猜疑心だけは人一倍あり、皇帝の女婿であり夢幻会の一員である
ブラウンシュバイク・リッテンハイム両貴族のことを陰で嫌ってもいた。
仮に皇太子と反夢幻会派の貴族が結託した場合のことを考えると、夢幻会ならずとも
頭を抱えたくなっていた。
このように繁栄を謳いながらも、内実は危ういバランスの上に保っているというのが
帝国の実際の姿であった。
そしてそうした危ういバランスを突き崩すことになったのが、リヒテンラーデ侯爵の
国務尚書就任問題であった。
489 :yukikaze:2012/01/25(水) 23:27:30
銀河帝国における官僚省庁で双璧を成すのは2つある。
一つは財務省である。何を成すにしても金は必要。
そして財布を握っている所が強いのも世の常である。
もう一つは内務省。
ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが、「行政組織の効率化」という名目の元
財務、司法、軍事を除いた行政全てを司っている巨大省庁。
故に、閣僚首座である国務尚書になるものは、財務尚書か内務尚書どちらかにか
就任しているということが慣例となっていた。
裏を返せば、帝国という巨大な統治機構を治めるには、両組織のどちらか一方の
バックアップがなければ全く動かせないという事でもあった。
故に帝国歴476年に、前任の国務尚書が老齢を理由に引退を申し出た時、その後継として
リヒテンラーデ財務尚書が名乗りを上げるのは別に何にも問題はないはずだった。
しかしながら、少なくない数の門閥貴族が、リヒテンラーデの就任に異を唱えた。
彼の能力に問題があったのではない。実績は十分にだしていた。
身分も同様である。彼は帝国でも有数の名門なのだ。
だがそうであるが故に、彼らはリヒテンラーデ就任を認められなかった。
そう。彼らも薄々とではあるが、夢幻会の真意について気づいたのである。
「辺境地域への投資」を理由に、辺境地域の貴族に対しての課税処置並びに、
旧来の門閥貴族の息のかからない官僚達の育成。
無能な門閥貴族を一掃したことで帝国の直轄地を増やすことでの国家権力の増大。
ここまで生き残っていた者たちは、それを「辺境地域であるから」「無能であるから」と、
自分は関係のないことのように考えていたのだが、しかし時が経つにつれ、
彼らはある事実を否応なしに理解することになる。
「我らの力はかつてと比べると弱まっている」
辺境地域の発展に伴い、従来栄えていた地域との経済格差は減少の傾向にあった。
これはつまり、中央にいる門閥貴族と、辺境にいる門閥貴族との、少なくとも経済的な差の減少という事にもなっていた。
また、辺境地域の開発に従事した官僚層が、順次、中央に帰還したことによって、これまで門閥貴族の意見が通りやすかった
中央官界において、彼らの意見が通りにくい状況を産み出していた。
更に、無能な門閥貴族であっても、彼らはそれぞれの門閥貴族の一門として存在していたのである。
そして彼らが不名誉なる理由を以て反乱を起こしたことで、その領地を没収をされても文句は言えず、一門の総合的な力を
弱めることになった。
そしてそのことを理解した時、彼らは主導的な役割を示しいたリヒテンラーデを、そして彼をバックアップする貴族層に対し
恐怖と反感を抱いた。
門閥貴族でありながら、彼らは門閥貴族を排除しようとしているのである。
それはすなわち、グールデンバウム王朝の否定に他ならなかった。
だからこそ、彼らはリヒテンラーデの就任を断固として拒絶した。
彼らは、リヒテンラーデの対抗馬として内務尚書を推し(彼はリヒテンラーデの行動に終始批判的であった)、そして
自らの一門への締め付けだけでなく、リヒテンラーデやブラウンシュバイク達一門の切り崩し、更には辺境地域の貴族に対して
課税措置の廃止というアメを用いての取り込み、そして最後に、無能な皇太子までも自分達の側に引き寄せることで、
政治的優位性を確保しようとしたのである。
夢幻会にとってまさしく恐れた事態になろうとしていた。
こうした事態に夢幻会側は、一時は武力を持っての解決を視野にも入れるが、そうなった場合、原作よりは規模は低いとはいえ
先に起こった反乱とは比べ物にならない規模の反乱になるのは必定であった。
いや・・・原作では、両貴族の牽制により、エルヴィン・ヨーゼフ2世の対抗馬となる皇帝は立てられなかったが、今回の場合は
皇太子が帝位につく可能性も十分考えられるのである。そうなった場合どうなるか・・・
徐々に重苦しくなる空気に対し、リヒテンラーデは思い切った策をとることになる。
帝国歴476年。リヒテンラーデ候は、病気を理由に財務尚書を辞任し、後任にカストロプ公爵を推薦し許されることになる。
そして彼は領地には戻らず、オーディンで静養をすることになる。
この事態に、反リヒテンラーデ側は、突然の彼の行動に驚愕するも、彼が政治的劣勢を悟ったものと解釈し、
予定通り内務尚書を国務尚書につけ、国政の掌握を図ろうとする。
彼らはこの好機を逃すつもりはさらさらなかったのだ。
だが、そんな彼らに冷や水を浴びせる一報が舞い込んでくる。
『リヒテンラーデ候。静養先の病院でテロに会い重傷を負う』
最終更新:2012年02月10日 06:40