「
織田信長殿、
野比のび太殿。お覚悟を」
ポニーテイルの女――例の彼が物干し竿を二人に向ける。
その目には一切の躊躇いも動揺もない。
ただじっと、のび太と信長を見据えている。
「やあみんな、元気に殺しあってるみたいだね」
張り詰めた空気の中、何処からともなく放送が流れ始める。
刹那、放送を合図に信長と例の彼が同時に動いた。
信長が懐に入れていたコルトガバメントを抜き出し、例の彼に弾丸を射出する。
普通の人間ならばこの時点で、動体視力と身体能力が弾の速度に勝てずに死ぬだろう。
しかし例の彼は違った。
「ロウルート『緊急回避』 某は迫り来る弾丸を華麗にかわした」
例の彼が早口に何かを呟く。
次の瞬間、例の彼は人の限界を超える動きで弾丸をかわした。
しかも四回転トゥループで、だ。
「妖術の類か!? 己の肉体を瞬間的に強化させるとは……」
信長は例の彼の呪術に驚きつつ、放送に耳を傾ける。
死者の名前の中に秀吉の配下の黒田官兵衛の名があった。
(官兵衛は逝ったか……。猿はまだ存命のようだがな)
信長が横目でのび太を見る。
「う……マ、ママ……ジャイアン」
どうやら死者の中に知り合いがいたようで、目から大粒の涙を幾つも流していた。
「余所見をしていていいのですか? 織田信長殿」
彼の声にハッとし、すぐさま横に飛ぶ。
ヒュンと風を切る音が聞こえ、先ほどまで信長が居た位置に物干し竿の刃が振り下ろされていた。
信長は地を転がりながらも例の彼にコルトガバメントを三発続けて撃つ。
「ロウルート『緊急回避Ⅱ』 某は織田信長殿の銃撃を再び回避した」
三発の銃弾は例の彼に命中することなくあっさりとかわされる。
「無駄です。あなたたちは某には勝てない。諦めて死んでください」
感情の欠落した声色で淡々と二人に語りかける。
「笑止! 余が天下を目前にこのような場で死ぬを選ぶと思うたか? 無論、敵前逃亡も無しだ」
信長は例の彼の言葉を笑い捨てる。
「敵と戦わずして死するなぞ武士の恥。……貴様も御託を並べていないでさっさと来い」
泣き崩れているのび太の前に立つように、信長は例の彼と対峙する。
「ハァ……仕方がありませんね。連続で力を使用すると命を削りかねないので控えたかったのですが」
例の彼が軽く溜息を吐きながら、初めて感情を表に出す。
だがそれは敵に対する憐れみでも慈悲でもなく、ただただ疲れたようなそんな表情だった。
(彼奴の術は恐らく呪文を唱えることにより、己の身体能力を一時的に向上させるもののはず。ならばまずは喉を潰すべきか)
信長がコルトガバメントを構え照準を例の彼にあわせる。
その姿を例の彼は冷めた瞳で見て、それから物干し竿をバッグに入れた。
「なんの真似だ」
その行動の意図が理解できずに信長は例の彼に疑問の声を投げかける。
「いえ、邪魔になるので片付けただけですが……それがなにか?」
「……ふん!
是非もなし」
くだらない挑発だ。相手を嘗めきっている。
信長はこの時点で勝利を確信した。
戦場での過信慢心は死を招く。
例の彼は自身を過大評価しすぎている。
「後悔するなよ。女」
信長が小さく毒づいて例の彼に肉薄する。
いくら身体能力を向上させようとも、かわせなければ意味がない。
命がけで接近し相手を組み伏せ零距離で銃撃を浴びせる。
単純な作戦ではあるが、離れた距離での攻撃があたらない以上このほかに手段がなかった。
そして驚くほど呆気なくこの作戦は成功した。
例の彼は一切抵抗しなかった。
されるがままに信長にマウントポジションを譲り、冷たい銃口を喉笛に当てられている。
「死ぬがよい」
信長は例の彼の行動に不審を抱きながらも、迷うことなく引き金を引いた。
カチ……カチカチカチ。
弾が出ない。
引き金を絞る音が虚しく響くのみ。
「なっ……!?」
予期せぬ事態に信長は焦りを隠せなかった。
弾はまだ残っている。
(なら何故! 何故不発に終わる!?)
「ロウルート『狂乱歌舞伎』」
混乱する信長の耳に澄んだ声が聞こえてくる。
まずい。
そう思って信長が例の彼の喉を締めようとしたときは既に遅かった。
「
母の死により我を忘れた野比のび太少年は、支給品の火縄銃を使い織田信長を銃殺した」
例の彼が言の葉を神速の速さで詠うように口ずさむ。
轟音が響き、信長の胸に大きな風穴が開いた。
内臓を破壊され口から大量の血を吐く。
間違いなく致命傷。
しかし例の彼は言葉を紡ぐことをやめない。
「野比のび太は銃に弾を込め直す。少年の頭には最早母を生き返らせることしか残っていなかった」
「野比のび太は火縄銃を使い、まだ息のある織田信長に止めを刺した」
例の彼に馬乗りをした状態で固まっていた信長に、再び鉛の弾が撃ち込まれる。
今度は頭部を狙って。
自分に倒れてきた信長を気にもせずに、例の彼はさらに続ける。
「野比のび太は織田信長の下敷きになっている女性は既に死んでいると誤認し、その場を後にした」
のび太は言葉通りにその場から歩いて消えていった。
例の彼はのび太の姿が見えなくなったことを確認して、覆いかぶさる死体を跳ね飛ばして起き上がる。
「くっ……やはり力を使いすぎましたか」
苦しそうに心の臓を押さえながらも信長の支給品を奪い取り、そのまま彼女は何処かへと去っていった。
次の得物を探しに。
織田信長の敗因はただ一つ。
それは彼が例の彼の能力を『身体能力を強化させる術』と勘違いしていたことだ。
彼の能力の真の効力は『自分のシナリオ通りに周囲の環境を操作できる』という能力だったのだ。
能力の制限は3つ。
話のタイトルを必ずつける。
登場人物の名前は例の彼以外、全員フルネームで入力しなければならない。
登場人物は必ず発動者の視覚内に入っていること。
それだけの条件を満たしていれば、彼女は自由に環境を操作できた。
当然、誰にも聞かれぬように小声で呟いても効力は発揮される。
例えば自身の身体能力を強化することも。
例えば敵の銃を不発にすることも。
例えば少年の心を自由に操ることも。
彼女は唱えるだけでそれを叶えることを可能とした。
ゲームを脱出することを除いては。
理不尽能力の暴挙は、まだ始まったばかりである。
【一日目 5時】
【E-2 森の中】
【野比のび太@
ドラえもん】
【状態】:健康 洗脳状態
【装備】:火縄銃
【道具】:支給品一式
【思考】
1:優勝して、母を生き返らせる。
※のび太は玉子が不死身であることを知りません。
※のび太は例の彼が死んだと思い込んでいます。
【例の彼@カオスルート】
[状態]:体力、精神力に疲労が溜まっている。
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式×2、コルトガバメント
[思考]:
1:すぐにでも元の世界に戻り、SSの続きを書く
※例の彼は理不尽な能力を持っています。
【織田信長@歴史 死亡確認】
最終更新:2007年03月29日 13:58