アットウィキロゴ
ギャアアア!


じりじりと……


グオオオオ!?


じりじりと、都庁の魔物は押され始めていた。
如何なドラゴンハートの恩恵といえども、それはあくまで『強者』に対しての恩恵。
死線を潜り抜け、それでもなお歩みを止めずに戦いに身を置くものに送られる一種の祝福。

「ヒャッハー!」

今は亡き雷竜や裁断者に劣らぬほどの、強い想いがあったとしても。
名前も書かれない魔物は、そもそもの基礎の力に限界がある。
対して、狂信者の駆る兵器は機械である故に、確実に均等な強化ができるのだ。
ただの人間と魔物の皮膚を比べれば、魔物に軍配があがる。
しかしこれが兵器とであれば、今度は兵器の勝ちとなる。

そんな条件下で、人質を救いながら、数で劣る魔物が、勝てるかと言えば……無理なのだ。

「クラウザーさんの為の生贄になるのだぁ!」

ぐしゃりと、また魔物が潰される。
これでも魔物は遥かに善戦してはいるのだ。
指揮官であるドリスコルはともかく、その配下の兵達よりも魔物達は統率と連携がしっかりとしている。
逆に言えば、それのおかげで急速な瓦解を防いでいるだけとも言えてしまうのだが。



「くっ……!!!」



ダオスは、それだけで人を殺せそうな程の殺意を込めた視線を狂信者へと向ける。
人質さえいなければ、いますぐこの馬鹿な群れを消し飛ばしてやると言うのに。
雷竜、赤竜、そして氷竜……
魔物を統べていた長は、とうとう全員が命を落としてしまった。
もはやこの世界樹が抱える戦力は当初とは比較にならないほど減衰している。
それでも、退くわけにはいかない。退けないのだ。
もはや魔物達のためだけでなく、世界の命運を自分達が担ってしまっているのだから。


それなのに……


「私は、なんのために……!」
「ダオスさん、堪えて……!」

震えるダオスを小鳥が窘めるが、小鳥とて腸は煮えくり返っている。
このままでは待つのは――緩やかな死だ。

――そんな時、ある転機が訪れる。


「……」

「レスト?」


転移の魔法でやってきたのは、前線の最後の壁とも言えるレスト。
押されてはいるが、彼自身には怪我はない。
夥しい量の狂信者の血を浴び、その表情を窺い知ることはできない。


「ダオスさん。このままでは……」
「わかっている! だが……!」


「――、――。――――。――!―――!!!」


「「!?」


彼の口から出た言葉に、ダオスも小鳥も、避難していた魔物も全てが面食らう。
怒号と激しい戦闘音にかき消され、狂信者には聞こえていないだろう。


「――の件がある以上、ここだけは絶対に素早く勝たなければなりません」

「そして――の為にも、一刻も早く――するしかない」


提案された案。
それはすぐに承認できるものではなかった。

だが……彼らは多くの者と約束をかわしている。
みんなが帰るべきこの場所を、守り抜くのだと。
今も戦い続けている影薄と聖帝、散っていった多くの魔物のためにも。
そして、最後に希望を託してくれたノーデンスの為にも。


「……わかった」
「ここにいない、他の魔物にも伝達しておきます……」

やがてダオスと小鳥は頷いた。
遅れて、魔物達も。


「ありがとうございます。それじゃあ――いきますね」


タンと勢いをつけ、レストは世界樹の天辺から飛び降りた。


――

ピイイイイイイィィィィィィィ!




突然、戦場に高い音が鳴り響く。
その音に一瞬だけ狂信者の動きも止まるが、本当に一瞬だけだ。
大勢に影響はない。


「――総員、退却!!!」


しかし、その音を聞いた瞬間に最前線で奮戦していたアルルーナが全ての魔物に退避の指示を出した。
今のは鳴き声。世界樹内にいるワイバーンの、緊急退却を報せる鳴き声だ。


「……これがきたということは、そういうことなのかしら……?」

僅かに悲しげな表情を浮かべるアルルーナ。
そんな彼女の傍に、空よりレストがやってきた。

正しくは、降ってきているというべきか。


「アルルーナ、念の為衝撃に備えて!」
「りょ、了解ですの!」

ぐぐっとアルルーナは耐ショック体勢を取る。
今の一言で、彼女は全てを理解した。





「 グ ラ ン ド イ ン パ ク ト ! 」





天辺からの落下速度も上乗せされた、かつて狂信者の一団をまとめて封殺した大震撃が辺り一帯を襲う。
その破壊力はかつての比ではなく、範囲もより広くなっている。



当然、直後に吹き上がる衝撃波――破壊の力も、段違いに。
そしてこの技は――味方以外の視界に入る生物を無差別に襲うのだ。
それはつまり……

「ひ、人質がいるのにぎゃぼぉ!?」

ある狂信者は言葉を言い切る前に、機体ごとバラバラに吹き飛んだ。
当然、機体に張り付けていた人質も同じく。



「く……ま、まさか連中が……!?」


ゼオライマーに乗るドリスコルは射程外にいたため無傷。
しかし離れていたからこそ、今の一撃で着弾地点からの円範囲がごっそり吹き飛んだのだということはわかった。
まさか、こうもはやく仲間を切り捨てる様な真似をしてくるとは流石のドリスコルも想定外であった。

「ふん、所詮は獣か。自分達の命と仲間の命を天秤にかければ当然なのかもしれないがな……」

敵の選択を嘲るドリスコル。
しかし、彼の頬には冷や汗が流れていた。
今回の作戦は、人質を用いての高火力技を封じるもの。
本来の殲滅担当でない男の一撃でアレなのだ。問題のダオスやフォレストセル達も同様に動くとなるとゼオライマーも流石に危ない。
元より人質は防御のための時間稼ぎでしかなかったが、ここまで早く破られてはゼロの計画も実行しきれないだろう。

「ん?」

そんな時、ドリスコルは目の前の惨状に僅かな違和感を感じた。
吹き飛んだ狂信者と人質の中から、無数の淡い光が立ち昇ったかと思えば空に吸い込まれるようにして消え去ったのだ。

「なんだ? あれは――」

「……!? まさか――」

そして違和感を覚えたのは、大震撃を放ったレストも同じくであった。
追撃を取るはずであった彼は、その違和感から大きく動きが鈍る。
そして彼は――その場から退いた。
ドリスコルのスキル程万能ではないが、拠点への即時帰還魔法『エスケープ』

「奴め、再び落下速度を上乗せした攻撃をしかけるつもりか……?」

ドリスコルは、僅かに警戒の色を強める。
敵が人質も気にせず、広範囲の攻撃技を使うとなると少々攻めがたくなる。
いくら自分と天龍がいるとはいえ、敵もまた規格外な連中が何人もいるのだ。
人質(潜入員)をもう少し活用しなければ、策は完全には機能しない。

狙うは、転移帰還からの攻撃への動作にある程度の時間を要するという点。
そして世界樹からの落下攻撃である以上、距離を置けば被弾はしないということ。
冷静に、そして冷徹にドリスコルは部下達に次の指示を出していくのであった。




――まさか人質作戦の裏の目的に薄く感づかれたとは、夢にも思わずに



――

「――人質にされた魔物の中に、人間が混ざっているだと!?」
「!!」

「ええ……天に還ったルーンの数が少ないことに加え、半数はバラバラになった『死体』が残っていましたから恐らくは」


再び世界樹の天辺に戻ったレストは感じた違和感をダオス達に伝えた。
何故そんなことがわかるのか。それはそもそも彼が持ち出した攻略手段に起因する。


「……先程もお伝えしましたが、僕らアースマイトの扱う『タミタヤ』の魔法は不殺の魔法です。
 これを宿した武器で倒された魔物は死体を遺さず、その全てを生命のルーンへと変えて一度天に還る。
 やがて魔物の魂は楽園とされる始まりの森ですごした後、いずれまたその姿で転生して現世に再臨する。
 正直、蒼に歪められたこの世界じゃこのサイクルが今も完全に機能しているかは怪しくて使いたくなかったんですが……」

渋った表情のレストに対して、ダオスはまだ言葉を返さない。
こと大地の生命の扱いに長けた彼らの一族の魔法は、自分の専門外でありこの状況下では指図もできない。
苦痛を与えずに楽園に送り、同様の姿で転生……一時的にこの世を離れる不殺といったことなのだろう。
しかし確かに黒き獣の攻撃がある今、魂とて安心はできないのも間違いない。

「とりあえず、ルーンが天に還った……タミタヤそのものは機能したのは間違いありません。ビッグサイトに吸収もされていない。
 それなのに、死体が残ったものもある……つまり、魔物じゃない存在がいたということになります」
「ど、どういうことなの?」
「タミタヤの不殺の効果があるのは、あくまで魔物やそれに準ずる存在だけ。人間相手には全く効果がないんですよ」

ぞっとするような言葉を聞き、小鳥は震えあがる。
魔物のフリをした人間がいる。つまりそれは……

「しかし、魔物達も馬鹿ではない。いくら皮を被り偽装したところで人間の臭いはごまかせないのではないか?」
「はい。だから僕も気になって、こうして戻ってきたんですが……」
「あっ……!?」
「ど、どうした小鳥!?」

そんな時、今度は小鳥が叫び声をあげる。
嗅覚に魔物に気付かれないほどの偽装――自分達も使ったではないか。


「――オーバーボディ! スニゲーターさんが言ってた……オーバーボディさえあれば都庁でも姿を偽れるって……!」
「っ! フェイが着ていたあれか!」


今は亡き悪魔騎士スニゲーター。
彼は最初、都庁に向かうための策としてオーバーボディを提案していた。
事実フェイが機械であることは脱ぎ捨てるまで、氷竜にすら気がつかれなかったほどの高性能っぷりだ。

「……敵に超人がいれば、あるいは超人から奪えば可能性はかなり高いな」
「で、でもそれだと……」
「おのれ……デスマンティスとラージャンと同じく内部工作をするつもりか……」

ダオスは小さく舌打つ。
この件を伝えれば、少なからず魔物間にも動揺が奔るのは間違いない。
まさか世界樹内の魔物にまでグランドインパクトを撃ちこむわけにもいかないだろう。
既に救助と言う名の潜入を許しているとなると、取れる対策は限られてくる。

「……まずは救助者全員を固めて見張るべきだな」
「そうですね。魔物から恨まれる覚悟は決めていましたがこれは……それと、さっきのもう一件の方ですが……」
「……気になるところではあるが、おおよその察しはついた。件の敵は――被害が広がる前に処理して問題ないだろう」
「わかりました……!」

――

……


「死にたくなければ、お下がりなさいな!」
『うるさい羽虫どもだ!』

華の女王アルルーナは、そのしなる蔓で次々に狂信者を蹴散らしていく。
叫帝ウォークライはその牙と爪でヨロイを砕き、できた残骸を敵パイロットに投げつけてさらに倒して行く。
地上は彼女が、空中はウォークライが。
たとえ彼女らの主と離れていても、しっかりとした連携で狂信者の進軍は阻まれていた。


『おいアルルーナ、さっきの主のあの様子は……』
「何かあったのでしょう。……盾にされていたあの子達が穏やかな顔で天に還って行く中で……苦悶の表情で息絶えた子もいた……」
『主の魔法は、ゲートリジェクト以外は完璧に機能する筈だ。そこに何かありそうだが……』
「考えるのは私達のすべきことではありませんわ。レストさんが戻られるまで、私達でこいつらを蹴散らすわよ!」
『おうっ!」



「やるじゃねえか。だが、世界水準軽く超えている俺を止められるかな……!?」



しかしそんな二人の前に、天龍が凄まじい速度で駆けよってくる。

「くっ……!?」

僅かな水でも、水上であればその機動力を格段に向上させる艦むす。
対する守りの要であるアルルーナとウォークライは、能力こそ極めて高いがそれは攻撃と防御面の話。
機動力という面では、水を得た天龍には遠く及ばない。

『おのれっ!』
「ふふ、欠伸がでちまうな。どうだ、俺が怖いか?」

振り下ろされる爪もなんなくかわし、翻した刀でウォークライを切りつける天龍。
強固な鱗ではあるが、天龍の刀はそれにさえも傷をつけていく。




「ふむ、これであの二体は始末できそうだが……」



離れた場所で、ドリスコルはなおも戦場を見渡していた。
あの大型の竜と植物女さえ葬れば、もはや都庁が抱えている戦力たる魔物は全滅したと言っても過言ではない。
最後の壁としてあの巨大な触手と蕾の化け物がいるが、連中も恐らくは速度に難がある。
魔王は雷が弱点であるというし、プロトンサンダーで処理が可能だろう。
それでなくとも、戦局を見誤りさえしなければ烈メイオウで勝ててしまう。

しかしここで、彼は再び予想外のものを目撃することとなった。

「なにっ!?」

世界樹を護衛する形で立ち塞がる歪みし豊穣の神樹。
彼は徐にその蔓を動かしたかと思えば『何か』を投擲したのだ。
そしてそれの正体はすぐにわかった。
先程撤退した筈のあの男。
今度は『落下』ではなく仲間の援護を借りてより強力な『弾丸』として放たれたのだ。
圧倒的な巨体かつ精密な投擲が可能な神樹ならば、視界内の狙った場所に確実にその弾丸を撃ちこめる。
神樹が狙った場所、それはゼオライマーに乗るドリスコルではなく……


「ウォークライ! 全力で上に飛んで!」
『こ、心得た!』


一瞬のやり取り。高速飛来する主人の命を受けてウォークライは上空へ飛び上がる。

――狙われたのは天龍だ。


「はっ! 対空能力が無いと思って油断したか!? 多少はマシだが、その速さじゃまだ俺は――」


驚異的な能力で即座に飛来してきたレストに照準を合わせる天龍。
しかしその瞬間、突然彼女はがくりと膝から崩れ落ちた。

「――え? なん、でだ……?」

攻撃は受けていない。
それなのに突然、動きが鈍った。世界水準を超えている筈の自分の機能が……オシリスの能力さえもが、機能しなくなっている。

「……天龍。そして、氷竜さんが亡くなる直前に呟いた名……君に『混ぜられた』命は……」

「一度眠れ『オシリスの天空竜』。その想いは僕らが、君の仲間であるイチリュウチームが引き継ぐ……!」


レストが振りかざしたのは、世界樹の剣にあらず。
――絶対の竜殺兵器『天羽々斬』に自身の持つ竜殺の禁術『ドラグキャリバー』を上乗せしたもの。
上位神であるアイオトやノーデンスすら、この力の前には対峙も許されない、対竜の極致攻撃。
オシリスの力を継いでいるからこそ、天龍はその凶悪な破壊力と特殊能力を封殺する光に晒されてしまったのだ。


「お、俺はロリに――」


青く光り輝く巨大な刃は、天龍に触れると同時に彼女を硝子細工のように粉々にしてみせた。
そこから天へと昇って行く二つの魂を見つめながら、レストは天羽々斬を仕舞い、元の世界樹の剣を握りしめる。
切り札をいつまでも敵の目に晒すわけにもいかない。

【天龍(元オシリス)@艦隊これくしょん】消滅確認
※肉体が消滅し、天龍とオシリスの魂がそれぞれ還りました。その後どうなるかは不明


――

「く……! おのれサーフ、やはりあてにならぬ男だ……!」

ゼオライマーの中で、ドリスコルは拳を叩きつける。
折角回収したオシリスを使った天龍が、ああも容易く破壊されるとは。
だが無理もないかと、同時に理解も示す。
ドリスコルはそれほど詳しいわけでもないが、竜殺剣に対する知識もあった。
というよりも既に過去に目にしている。そう、サーフがセルベリアに手渡したあれだ。
あの剣も奴が作ったのだとして、それほど深い知識を持つわけでもない自分でも一目でわかる圧倒的な武器性能差。
この二点から、ドリスコルはサーフに対する信頼を下の下まで下げていた。
やはり、自分の方がオシリスを有効活用できたのではないか。

(いや、今考えるべきことはそれではない……)

しかし苛立ちはすぐに抑え、残された彼は再度戦況を把握する。
天龍が敗れたのは予想外ではあったが、彼女は既に厄介な氷竜を奇襲し抹殺する任務は遂行している。
確かに敵の竜殺剣は想像を絶する威力の様ではあるが、その効果は竜の類を相手にして初めて真価を発揮する。
つまりはあれも竜以外であれば、ただのでかいよく斬れる頑丈な剣止まり。
フットワークと分身があれば、かわせないことはないのだ。
ここまできたのであれば仕方がない。
最も厄介なフォレスト・セル達の処理はゼロに任せるとして。
前線を維持するあの三人だけはこの手で始末するしかない。
下手に世界樹内に引っ込まれては、ゼロ達も動きにくくなり作戦成功率が低下する。
物理攻撃をメインに据えている連中であれば、自分とゼオライマーにとっては相性がいいのだから。


「……行くか!」


まずはエスケイプを用いた、ヒット&アウェイで削りつつ――



「――魔物以外には容赦はしないよ。タミタヤ抜きで、ここで土になれ!」
「なっ!?」



いつの間にか、剣を構えたレストがゼオライマーの背後へと回り込んでいた。
敵との間合いを詰め背後に回り込む彼のスキル縮地法の効果なのだが、ドリスコルは知る由も無い。

「『フットワーク』『分身』……っ!」
「ちぃ!」

しかしそれでも冷静にドリスコルは鉄壁の布陣でもって背後からの奇襲を回避する。
千載一遇のチャンスを外したレストは忌々しげに見つめるが、その目はまだ死んではいなかった。

「まだだっ!」
「無駄だ!」

返す刃による連撃。
しかし物理攻撃である以上、通常手段ではゼオライマーに当たることは無い。
再び回避され、ゼオライマーは飛び退いた。



「――かかったね」
「!?」
「――セルちゃん! 『エンタングルレイ』!!!」
「ニシャビーム!」




ゼオライマーが回避した先は、丁度フォレスト・セルと視線がかち合う位置であった。
その瞬間、フォレスト・セルはおぞましい眼を見開き、怪光線をゼオライマー目がけて発射した。
エンタングルレイ……世界樹を旅するボウケンシャ―をもつれさせて雁字搦めにするフォレスト・セルの魔光だ。
常時アクティベイトモードとなっている彼のエンタングルレイを受ければ、頭も腕も脚も、その全身を絡め取られ一切の抵抗ができなくなるだろう。



「うおおおおっ!? ――!」


「「え?」」



予期せぬ奇襲に僅かに焦るドリスコル。
しかしそれは一瞬。即座に冷静にして冷徹な判断を下す。
すなわち――近くを飛んでいたホモ二人を盾にしたのだ!
哀れ、光に絡め取られた二人はホモ団子となり地表へと転がされた。


『――ついに、スキル以外の回避行動をとったな!』
「な、貴様……!」


しかし追撃の魔光をかわしたと思ったところへ、さらに予期せぬ奇襲。
上空高くに退避した筈のウォークライによる急降下攻撃。
ゼオライマーの装甲はそれでも破られることはなかったが、密着を許してしまった。

「う……なんだ、この赤紫色の花は……!?」

やがてゼオライマーの全身に赤い毒花・フロワロが咲き誇る。
世界樹の加護を得ている魔物達には効かないが、そうではないドリスコルには有毒だ。
機内にも無遠慮に咲き誇るそれは、ドリスコルだけでなくゼオライマーの機能を弱体化させる。
だが、これが本命ではない。フロワロはあくまで注意を逸らすための時間稼ぎ。


『……クラウザーなんぞより、俺の『叫び』を聞けえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」


機体を貫通する音の暴力と振動。放たれるは、叫帝最強奥義・タイフーンハウル。
圧倒的なシャウトで聞いた者の全身を痺れさせ――『全てのスキルを使用不可』にさせることができる雄叫びだ。
全ては、この攻撃をゼオライマーに確実に当てるための同盟軍の作戦。
それを悟りこそすれ、今の一撃でドリスコルの耳は完全に破壊されそれどころではない。

(ク、クラウザーさんが……クラウザーさんの歌が聞こえない……?!)

それは、なによりも大切な死活問題。
敬愛し渇望するクラウザーさんの歌を失うことは耐えがたい。
そしてその狼狽はさらなる隙へと繋がっていく。

「よくもやってくれましたわね、このガラクタが!」
「面倒くさいスキルさえ使われなければ、装甲の程度はきらりんロボ以下だっ!」

アルルーナとレストが怒りの形相で回避能力を失ったゼオライマーを解体しにかかる。
素手に無数の蔓でバキャバキャと豪快な音を立てて破壊されていくが、目的はゼオライマーそのものではない。

「うっ……」
「――太古の呪粉」

引きずり出されたドリスコルの顔面に、世界樹の呪いが吹きかけられる。
与えられた異常は『盲目』
石化や混乱に比べれば遥かにマシなものなのだが、今ばかりは状況が違う。
タイフーンハウルで聴力を破壊され、続けて視力を奪われて。
今のドリスコルは、敵地の中心で『見えないし聞こえない』という恐ろしい状況に追い込まれているのだ。

「よし、とどめを――」
「お待ちになってレストさん。このニンゲンには、最も屈辱的な罰を与えてやりますわ……」

とどめを刺そうとするレストを制し、アルルーナは実に冷酷な笑みを浮かべる。
そして直後、蔓で縛り上げたドリスコルを――投げた。
投げた先には――待ち構えているフォレスト・セル。
当然、ドリスコルはそれが見えない聞こえない。


「にしゃあ……(貴様は――堕ちろ)」


仮に聞こえていたとして、フォレスト・セルの言葉を完全に理解できるのはまどかと同族の神樹のみ。
フォレスト・セルはドリスコルを口に放り込み……

「お? 処刑開始ってか。いいぜ、こいつらの道具も利用させて貰おうじゃないか」

神樹は飛び回っていたマシンから引きはがした拡声器――クラウザーさんの歌を拡散させていたパーツをセルの口元へ添える。


そして――治療ではない。
マーラ様さえ戦慄した『本気のフォレスト・セルのテクニック』が披露されることとなる。


(な、なんだ!?)


闇の中で、ドリスコルは自分の衣服が全て破り捨てられたことを知る。
そして股間部と尻穴に感じる――おぞましい感触。

(ま、まさか――この私をレ○プする気なのか――!?)

恐怖は一瞬。



『あ゛あ゛あ゛あ゛ ?! アアアアアアアアア―――ッ?!?!』

『やめ……耳から脳オッホオオオオォォォォォーッ?!?!』

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ ショクシュッンギモチイィィィィィィ?!?!』

『イギダクナイッ! モウイギタク……イガゼテクレェェェェェェァァァァァァ?!!?!?』

『イイ! クラウザーニレ○プサレルヨリモイイノォォォォォォォォォォ!??!?!?』

フォレスト・セルから漏れ聞こえる断末魔は、神樹の用意した拡声器で大音量となり辺り一帯に響き渡る。
あまりにもおぞましい惨状だが、クラウザーさんに心酔してきた彼が、大衆の前でよがり狂い、快楽の前に屈し
クラウザーさんへの忠義を圧し折られながら死んでいくというのはこれ以上ない屈辱であろう。
フォレスト・セルは迅速にかつ徹底的に、ドリスコルの魂の根底まで凌辱していく。
たとえ転生できたとして、クラウザーさんのことなど二度と思い出せないくらい。転生直後から触手を求める淫乱になるくらいに。

『あ――』

やがて膨大な快楽の中、肉体の限界を超えた射精を続けたドリスコルは何かがぷつりと切れてそのまま動かなくなった。


【ドリスコル@フロントミッション】死亡確認


『な、なんて恐ろしい処刑だ……』
「凄いな、敵部隊も流石にドン引きしたのか統制が乱れている……」
「世界樹の怒り、思い知りまして!?」


前線部隊の三人は、この狂信者の指揮官がこと切れたことを確認して大きく息を吐き出す。
アルルーナのみ勝ち誇った様子であったが、唸る彼女の触手のような蔓をみればなんとなく察することができた。
とにかくこれで、大きな犠牲を払いつつも厄介な相手は倒すことはできたのだ。残るは――



「うわあああぁぁぁぁぁぁぁ!?」


そう考えた彼らの目の前に、ボロボロになったエヴァ初号機が吹き飛んでくる。
飛んできた方角を見れば、ダメージを負ってこそはいるがしっかりと大地を踏みしめるエヴァ4号機の姿がそこにあった。

「シンジ君……」

寂しげなカヲルの声が漏れるが、その眼はしっかりと前を見据えていた。
とても大切な友を、この手で討ちとるという覚悟が既に出来ていた。

「カヲル君……」

換装された初号機とロンギヌスを持たない4号機とでは、本来ならば初号機に分がある。
しかし二人の明暗を分けたのは、心の強さであった。
バサラや多くの者の想いを引き継ぎ、そして先程は小鳥との大切な約束を交わしたカヲル。
カギ爪の男の思想に同調し、同志の為にと戦い続けてきたシンジ。
しかしシンジのそれはいわば盲信。バサラの代わりではなく自分の歌を届けると決め前に進むカヲルとは違う。

「僕が死んでも、カヲル君の心の中で生き続けられるのかな……」
「……ああ。忘れないよ、シンジ君のこと。いつかまた……」
「……うん」

その瞬間、確かに二人の少年は小さな笑みを浮かべる。
そして直後、未練を断ち切るかの如く4号機の拳は振り下ろされ、踊らされた少年の命を奪い去った。


【碇シンジ@新世紀エヴァンゲリオン】死亡確認

「……どうやら、そちらも片付いたみたいだね。あの男の気色悪い声は嫌でも耳に残ったけど」
「カヲル君、あなた……」
「……僕は大丈夫。まだ、やりたいことが、やらなければならないことがあるからね」
「そうだね。悲しむのは、全てを乗り越えてからだ」
『天龍、ゼオライマー、そしてエヴァ……敵主力はこれで潰せたか?』

都庁の前線組は再度集まり、状況を確認する。
また多くの命が失われた戦い、しかしだからといって立ち止まる猶予はもうない。
悲しみを乗り越え、そして生き残った彼らは辺りを見回し、改めて敵主力の撃破を確認する。




――その安堵の一瞬




「――っ!」


「なっ!? 速い……っ!?」


『黒と白』の影が、高速で彼らの横を過ぎ去っていった。
レストのみその敵影を捕えて剣を振るうが、当たることはない。
その恐ろしい速度は先程倒した天龍に匹敵するほどだったのだ。

『水上移動……!? まだ艦むすがいたのか!?』

剛火球をウォークライが放つが、着弾前に敵は遥かかなた――世界樹へと接近していた。
そして彼らは知る由も無いが、敵は艦むすとは似て非なる者――深海棲艦。
その中でも特に強い力を持つ人型、『姫』と呼ばれる種であった。

「ま、不味い! みんな、乗ってくれ!」

ドリスコルの断末魔で戦場は混乱状態。
レストの転移魔法では全員を運べないため、カヲルはエヴァの手に全員を乗せると全速力で世界樹へと駆け戻る。

しかし、間に合わない。
指揮官を失ったというのに、敵は一直線に世界樹を目指している。
まさかこれも敵の策だったのか。
主力を倒したと油断したところを、奥の手で一気に大将首を取る算段だったのか。

「間に合ってくれ……!」

歌だけでは意味がない。
巫女も器も、そして予言とは関係ないが仲間をこれ以上失うのは嫌だ。
カヲルはただ駆ける。




――

「くっ!?」

「ライオットランスの雨が、掠りもしねぇだと!?」


異変は世界樹を防衛していたダオス達にもすぐ察知できた。
幸いなことに大部隊は先程の攻撃で数を減らし混乱状態。
単騎相手であればダオスも神樹も迎撃ができる。

しかし、彼らを持ってしても深海棲艦は止められない。
敵は単騎、しかし攻撃行動を全て放棄し、ひたすらに直進してきているのだ。
魔物が群がろうとするが、高速進軍で寄せ付けない。
天龍の様に魔物を斬り伏せようともしないため、被害も無いがその分侵攻されるのが早い。

「にしゃ……」

ドリスコルの死体を捕食しながら、フォレスト・セルも迎撃を考える。
かなりの速度、一度セルメンブレンを展開し様子を見るべきか。
しかしまずはまどかの指示を待とう。



「あの人……」



そんな緊迫状態の中、まどかだけは反応が違った。
圧倒的な速度で迫る深海棲艦。その眼を、まどかは離れていながらに見てしまった。


「――泣いて、いるの……?」


身体に纏っているのは重々しい力だと言うのに、その深海棲艦は哀しげな眼をしていた。



「どうして……っ!?」



その時、ずきりとまどかを頭痛が襲う。



『――! ――!』

『―――!』


「何、これ……? セルちゃんの時と同じ――過去の、記憶……っ!?」



――
――――
―――
――

シシャの想い②
最終更新:2019年07月17日 16:55