canestro.

Birthday Letter for you.

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tfei

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執筆日 2008年9月12日
備考 2008年度・岩崎みなみバースデイ企画。




 前略 我が親愛なる友、岩崎みなみへ。

 やっぱりこの書き出しはやめます。改めて。


 私の大事な親友、岩崎みなみちゃんへ。


 お元気ですか?たぶん元気だよね!今日だってみなみちゃんと出会ったはずだから。風邪なんかひいてたらごめんなさい。きっと心配はいらないはずだよ。
 8月27日、私は実家の自分の部屋でこの手紙を書いてます。夏休み前にちょっと話したと思うけど、今年の夏休みはずっと実家にいます。宿題は何とか……終わりそう。実はまだ小論文書いてないんだ。大丈夫かな、私。
 書けないわけじゃなくて、お楽しみはあとにとってあるんだよ。文章を書くのは好きだもん。課題図書はあまり面白くなかったけれど、とりあえず読み切ってしまいました。文系志望だから読める本が限られてくるんだよね。

 みなみちゃんは文系だったっけ?どんな教科だってできるから、みなみちゃんは理系でもやって行けそうだと思います。確か文系だって言ってくれてたような記憶があるんだけれど……気が変わったかもしれないしね。もしも私が忘れてなかったら、また聞くね。

 さて、そろそろ本題。
 私がなんでこんな手紙を書いてるのか、だよね。その気になればパソコンからメールで連絡できるし、電話もかけられるけど……今は自分でペンを執って書くことにしました。夏目漱石の『こころ』みたいだよね。いや、遺書にするつもりはないよ?そういう意味合いじゃない。
 私が手紙を出したのは単純な理由。みなみちゃんの17歳の誕生日を祝いたかったからなんだ。たぶん(来ていれば!)、学校でも何かしらお祝いの言葉+αをかけたと思います。今のところ、いくつか言いたいことは考えてるんだけれど、まだ何を言うか決めてないんだ。まだ時間はあるしね。

 17歳っていうと、何だかすごく大人のような気がします。どうしてかな?16歳だと、お姉ちゃん曰わく“中学生に毛が生えたような”年齢だそうです。私も同じような印象なんだけどね。
 でも12月になって、私が17歳になっても大して変わりやしないんだろうな……なんて考えてみたり。『大人の女性』みなみちゃんがうらやましいけど、あまりうらやんでも私が変わるわけじゃないので、私は地道に頑張っていこうと思います。見かけは相変わらずちっちゃいだろうけど、ね。

 あ、そういえば。
 実家に帰ってる間に、ギター始めました。意外や意外、クラシックギター。
 言うまでもなくエレキギターをギャンギャン鳴らすガラじゃないし、フォークギターでも良かったけど、実はテレビでたまたまクラシックギターを見て一気に惹かれちゃって……私にしては珍しいんだけど、次の日に貯金はたいて衝動買いしちゃいました。
 実を言うと、まだまだ上手くなってないんだ。だからしばらくは秘密にしておこうかとも思ったんだけど……いずれバレちゃうしね。右手の指先だけ(左利き用のギターだからね)硬かったりしたらみなみちゃんも不審に思うじゃない?だからそれもバレないようにしてたけど、ここで書くことにしました。
 身体が小さいうえに手も小さいとなると、やっぱりギターを扱うのは大変なんだ。普通は大人の人向けに設計されてるからね。……でも日に日に、何とか形になってきました。
 いずれまた、みなみちゃんとセッションできたらいいな、と思います。まだ少しはピアノ弾けるよね?去年見せてもらったんだっけ。すごく上手だったことを覚えてます。もうやめちゃったなんて勿体ないよ……でも確か指が動くようにだけはしてるって言ってたかな?
 ダメだ、何だか物忘れが激しいや。一応まだ十代なんだけどなぁ。
 ギターについては当面の間、田村さんたちに話すつもりはないです。それなりに腕前が上がったら話そうと思ってる。たぶん今年中は話さないんじゃないかな。

 たぶんみなみちゃんがこの手紙を開けるのは9月12日であるはずです。それに合わせて投函したはずだからね。はずだはずだって言いつつ、届くのが遅れてたらごめんなさい。出し忘れたりしたらバカバカしいよね。
 私たちが出会って1年半。“まだ”1年半?それとも“もう”1年半?みなみちゃんにとってはどっちなのかな。
 私は前者だと思うな。だって、17年の人生の中では、1年半なんて1割にも満たないんだよ?本当に、入学から今までだってあっという間だったし。
 でもだからこそ、これから先も長く長く仲良くしていけば、それが10年20年と積み重なると思うんだ。32歳になったら、人生の半分を一緒に過ごしてきたことになるしね。それはきっと素敵じゃないかな?特に私は家族以外に長い付き合いのある人がいないから余計にそう思うのかもしれないね。

 話は変わりますが、みなみちゃんは中学までどんな子供だったの?同じ中学(確か都内の私立だっけ)から来てる人もいるみたいだけど……実のところあんまり仲が良いわけじゃないから、聞いてみたことはないんだ。
 私にとってはみなみちゃんはすごく頼れる人だから、きっとみんなからも信頼が厚かったんじゃないかな、なんて考えてます。今なら田村さんやパティちゃんもみなみちゃんのことはすごく信頼してるし、誰よりも私が未だに一番みなみちゃんにお世話になってるからね。いつまでもおんぶにだっこじゃダメなんだけど、どうしてもみなみちゃんには甘えちゃうみたいで。どうすればいいんだろう、私は?
 また出来れば、楽しい昔話なんか聞かせてください。実は期待してます。プレッシャーになっちゃうかもね。

 高良先輩は元気?さすがにこなたお姉ちゃん達が卒業してからは1回も会ってないんだ。お姉ちゃんはたまーに出会うことがあるらしいけど。
 先輩の大学どこだったっけ?東京女子医大?だとしたらわりと新宿の近くだよね。親戚が昔入院したことがあるって言ってたから何となく覚えてるんだけど……また覚え間違いしてるかも!
 こなたお姉ちゃんは確か、人文何々、ああ忘れちゃった!いつもはここまでボケてないつもりなんだけど……夏休みボケかな。でも一応生活サイクルは戻し始めてるよ。意外と昼まででも平気で寝られるからついつい、ね。ピーク時は週に4日くらいは昼まで寝てたし、12時間睡眠を3回くらいやりました。どれだけ自堕落なんだろ。まったく自慢になりやしないし、ここまで意味のないことを書いてもね……もう少し生産的な話するよ。

 みなみちゃんは読書好きだったよね?私もちっちゃい頃から色々と読んでたんだけど……この夏休みは10冊くらいかな。小説だけじゃなくて、新書もいくつか読んでみたよ。岩波とか中公新書とか。
 最近は中島敦の作品集を買って読んだかな。教科書で『山月記』やったじゃない?最初は難しすぎるかな、なんて思ったんだけど、意外とスルッと入っていけたから思い切って他のも読んでみたんだ。『弟子』『牛人』『名人伝』なんかはどれも面白いから、おすすめしておくね。
 今の若い人の小説ってあんまり読まないなぁ。読んだことがないわけじゃないんだけど、何ていうのかな、通俗小説家というのかな。どうにも性に合わなくて。ケータイ小説なんかも中学の頃に読んだことはあるけど、どうも……ね。古いものを手放しで誉めるわけじゃないけど、明治大正期の文学がやっぱり私は好きかな。
 みなみちゃんの読んでる本って、海外文学のが多いよね。たまに邦訳じゃなくて原書読んでない?何回か英語の本を読んでるのを見たことがあるんだけど、やっぱり大変なんじゃないかな?さすがはみなみちゃん、カッコいい!
 海外の小説だと、『小説家を見つけたら』(原題:Finding )がいちばん好き。わりと新しいし、何年か前に映画にもなったから、ひょっとしてテレビでやってたかもね。
 去年の夏休みの課題になってたO・ヘンリーも短篇集(日本語のね)は読んだことあるよ。みなみちゃんも確か原書読んでたよね……さすがに、あの課題の文章よりは難しかったんじゃない?
 そんなみなみちゃんが羨ましくて、私も最近は英語読むようにしてるんだ。2年生になってからはEnglish Zoneっていう雑誌を買って読んでる。そしたらすごく力がついて、学校のリーディングが一気にラクになっちゃった。

 話が二転三転してるね。字もそんなきれいな方じゃないし、読みにくいと思うよ。ごめん。
 1年半前、私達の受験の日は覚えてる?みなみちゃんが私を助けてくれて、私達が初めて会った日。
 私は陵桜に専願出してたから、受かったらそれでおしまいだったんだけど、みなみちゃんが来るかどうか、すごく気になってたんだ。みなみちゃんは専願とは限らないし。
 だから、3月のオリエンテーションでみなみちゃんとまた会った時はすごく嬉しかったんだ!誰も知ってる人がいない陵桜で、少しでも頼りにできる人がいてくれるからホッとした。名前は聞き忘れてたけどね。
 13クラスもある中で同じクラスになれたのも、きっと神様がいるからかな?いや、宗教の勧誘じゃないよ。でももし神様がいるのなら、私はお礼したいな。みなみちゃんと同じクラスにしてくれてありがとう、って。

 今思えば、この時からみなみちゃんに甘える癖が出来てたみたいだね。ずっと迷惑かけ続けだ。本当に、いつもいつもありがとう。みなみちゃんがいてくれるから、今の私はきっと、楽しく学校に行けていると思います。これからも末永く、小早川ゆたかをよろしくお願いしますね。

 みなみちゃんも17歳。初めて出会った時から2つも年齢が上がったんだよね。それを思えばやっぱり“もう”1年半なのかな。私は未だに昨日のことのように覚えてるよ。少なくとも一昨日の晩ご飯のメニューよりは覚えてると思う。いや、意外と一昨日の晩ご飯って思い出せないものなんだよ。それともこれも私だけかも?いや、大丈夫!ゆいお姉ちゃんも覚えてないって言ってたもん!でもゆいお姉ちゃんは昨日の晩ご飯も今日の朝ご飯も覚えてないって言ってたなぁ……。きよたか兄さんが帰ってきたら記憶力も戻ってくるって言ってたけど、本当かな?

 中学までは、私に仲のいい人が多くなかったのはみなみちゃんも知ってるよね。手がかかるから、っていうのもあるし、私自身の歩み寄りが足りなかったのも間違いなくあると思う。
 私自身も頑張ろうとは思うんだけど、その前に身体が根を上げるんだから、私の責任なのに私にはどうしようもない。もちろんもどかしいし……それは今でも変わらない。
 だから未だに心配なんだよ。友達である以上にみなみちゃんに迷惑をかけてしまっていないか。
 友情は損得勘定を超えられる、というのはもちろん分かるけれど、だからといって迷惑をかけ続けてもいいわけじゃない。みなみちゃんは決して不満を口に出すことはないかもしれないけれど、だからといってみなみちゃんに甘え続けていいわけでもない。
 だからみなみちゃんと縁を切る、なんてつもりはないんだ。それはむしろ逃げ道だからね。
 ただ、私は自分の足で歩かなきゃいけないと思うんだ。みなみちゃんと並んで歩くとしても、肩を借りながらじゃダメだし、手を引いてもらうのもダメ。自分の両足の力だけで一歩一歩歩けないままじゃ、何歳になったって私は今の私のまま。
 見かけはともかく、私が一人の人間として一人前になるために残された時間は、もうそんなに長くないはずなんだよ。はっきり言って私には時間がないんだ。
 今の私はひょっとしたらみなみちゃんに冷たいかもしれない。失礼かもしれない。でもそれは、私が自分の足でステップアップするために導き出した苦肉の策なんだ。
 だから、今の私がたとえみなみちゃんと話さなくなっていたって、それには私なりの真意がある、ということを心に留めておいて欲しいんだ。もっと分かりやすく言えば、少しだけ時間が欲しいってこと。

 だから、今の私を、少しの間だけ、温かく見守っていてくれますか?
 たとえ私が、今までの私と違っているとしても。

 そして、17歳の誕生日、おめでとう。
 こころからの祝福をこめて。



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