黙る人
面白い会話だった。
今日は結果的に話を勝手に立ち聞き、いや、意識的に人の話に聞き入ってしまった。
荒れていそうな青年とその話を聞いて諭そうとする中年男。親子だろうか。
彼らにはどんな事情があったのだろうか。
「戦争でもおきねえかな」
物騒な事を言うもんじゃない。なにかあったのか。
「なにもねえよ。いいじゃねえか、言うのは自由だろ。どうせ食糧難だってくるんだし、減っといた方がいいんじゃねえの?共通の敵がなきゃ人は駄目だって。安定しねえよ。全体的に見れば、そういっても過言じゃないぜ」
百歩譲って、仮に、それが正しいとしても、何もいい事はない。戦争は悲惨だ。止めておけ。
大体、いつもそんな物騒な事を言いながら、言うだけで君は何かをやった事が無いだろう。だからそんな事を気軽に言えるんだろう。少しは経験をつんでみろ。そうすれば、二度とそんな事は言わなくなるだろう。それにな‥
「わるかったな。でも言うのは自由だろ」
言っていい事にも限度はあるぞ。
「うるせぇなあ、もう。いいじゃねぇかよ。ほっとけよ」
ほっとくわけにはいかんだろう。大体お前は何事も他力本願でやってきたから駄目なんだ!いい加減に‥
しばらく、男の説教めいた主張が続き、青年は黙ってしまった。が、黙りながら彼は何かを考えているようだった。
「‥‥‥」
「一つだけ言わせてもらえば、あんただって虐殺の上に立ってんだろ。わざわざあんたは自分で食うものを屠殺して食うのかよ。そうじゃないだろ。見えないようにして、自分は『動物虐待はいけません』とか『戦争は悪だ』言ってんだろ。でもあんたは肉を食う。殺された動物の。しかもやたらと。それでどうして殺しちゃいけないとか言えんだよ。それこそ説得力ないじゃねえか。最近は『菜食主義だ』とか言い初めて植物ばっか食ってる。あんたが殺すのは動物だけじゃないんだぜ。何で植物は殺してよくて、動物は駄目なんだ。あんたの言う『差別』そのものだろ。しかも、あんたは『生きるために食う』以上に食ってるぜ。『楽しむ為に殺しちゃいけない』んじゃねぇのかよ。」
それはだなあ‥
「それによ、よく考えればおかしいんじゃねえの?どっかで地震が起きたら『救援金を集めて現地の人を助けましょう』なんていいながら、自分達は家でのんびりとしてやがる。ビールでも飲みながら、だぜ。信じらんねぇよな。そんな金があったら、てめぇで募金しろよ。それを『他力本願』っつうんじゃねぇのかよ。なあ、おっさん、答えてみろよ。」
‥‥‥
青年の攻勢は止まらない。彼は見かけより物識りだった様だ。
「大体、あんたらさあ、難民とか食っていく事も出来ない奴らがいるのを知りながら、何やってんだよ。馬鹿高けぇ車買ったり、血統書付のペット買ったりさぁ。『助け合いましょう』とか言ってるくせに、自分の事しか考えてないだろ。なあ、言ってみろよ、『私は食べ物が無くて死んでゆく人々や、貧しい生活を強いられる人々よりも、自分のペットが大事です』って。知ってんだぜ、あんたがペットに何十万も金かけてんの。どうせ口先だけで、そういう人たちとは会った事無いんだろ。金もあって時間もあんのに、自分のやりたい事しかしないんだろ。赤の他人だからどうでもいいんだろ。自分の近くにいなきゃいいんだろ。見えなきゃいいんだろ。」
そして、その中年男はもう、口を開きはしなかった。いや、出来なかった。
私も、あんな勢いで言われたら、反論できる自信は無いし、そんな身分でもないが、聞いていておかしくなってしまった。
しかし、言われている内容は決して笑い飛ばせるものではなかった。
最終更新:2010年02月11日 15:41