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ある会社員の話

先の事を

彼は自称、会社員である。
まあ、おそらくは当たっているが、職種を明らかにしようとしない。
であるから、今回の話も、仕事上の事か私事か、あるいは両方の事か見当がつかない。
まあ、どちらでもいいのだが。


「なんでも指示を乞う奴とプログラムって似てるよな」
どんな意味で?
「指示しなきゃ動かない。指示が間違ってると、動かない。いや、人の方が失敗するから逆に面倒だな。プログラムの方は大抵はエラーで済むけど」
そんな人間がいるのか。君の話だと、全く何も考えないみたいじゃないか。
「いなくもないんだなこれが。一部『言われたからやりました』でうまく済ます奴もいるが、口上はもっとうまい」
後者はいると思うが、前者のような人はいるのか?そこまで考えないって事はありえるのかい。
「いる。『仕事だからな』って悪い意味で言って、まともに取り組もうとしないんだ。そうだな、例えるなら『五時から男』だな」
仕事より家の方が楽しい人もいるさ。でも、だからと言って、手を抜くのはどうなんだ。
「あいつらにすれば、仕事は『金貰えさえすればいい』んじゃないの。で、その会社が潰れそうになると真っ先に不満を言う」
たぶん彼らは先が見えていない。自分がさぼろうと手を抜こうと契約が減るとか会社が潰れるなんて考えもしない。
「浅いんだよ、考え方が。いや、俺も深く考えているわけじゃない。全く。でも、あいつらは更に浅い。塵が積もれば実際に山ができるとは微塵も思っちゃいない。全体でさぼったらどうなるかだけでも考えりゃいいのに」

実際、彼の話では、『そんなこと』と思われるような事でも削れば結構浮くらしい。
彼の会社がいままで放置していた事が多いだけかもしれないが。
話は続く。

「他にもさあ、考えてない奴っている気がするんだ。例えば子供産んでも結局虐待する奴とか」
事情はあるだろう。ないとは言わないが浅はかだな。
「なんでだろうな、感情抜きに理屈で考える事をしない。産んで殺せば困るのはそいつだ。刑務所にも入る。下手すりゃ、一生罪人扱い。何の利点もない。非合理的だ」
確かにね。リスクを冒すなら分かるが、それじゃただの自殺行為だな。感情抜きに考えれば。
「産まなきゃいいのに」
子供は『授かる』から『作る』になったからな。理屈で言えば『できる』であって『作る』ではありえないのに。
「所有物と勘違いしてるのもいるだろうな、悪い意味で」
何を考えているか、どうであったかが分からないから、なんともいえない所はあるが。

どうも彼は、利や理を好むようだ。現代の考え方としてはありなのかもしれない。
しかし、それだけでは、少しさみしい気がするが。

「他人を考えなくとも、倫理道徳がどうであろうとも、保身を考える奴は、いや、自分の利益しか考えないのなら気付くはずだろう?」
文字通り、『自分の事しか考えない』から気付かないんじゃないのかね。
「だとしても、おかしい。罰される事はわかっているであろうに。何故彼らは、いや彼もしくは彼女は、そんな事も考えずに捕まりにいくんだ?社会復帰だって相当のはずだ。他の場合でも、どんな事情があれ、かなりの努力と年月を要すると思うんだが。」
あるいは、場合によるが、刑務所に入る事で、ただ飯と寝床が手に入るとか。
「そこまで貧しくない人もいるし、第一貧しいという理由で犯罪を犯すなら、殺人とか虐待とか重い罪を犯さずとも、刑務所に入るだけならできる。どうしようもなければ。しかし、それとは違う。そこまで悪質にする理由がない。突き詰めると利己的でなくなる、というより本当に何も見えていないのかね。私には分からんよ。あんな事をする理由が。極めて不合理だ。利益も何もない。君に合わせて言えば、誰もいい事はない、のだろう?」
確かに。宗教的に見ても明らかにおかしいが―まあたぶんここの国ではもうまともな意味で熱心な人間もすくないだろうし、件の人物たちもそんな人物には見えないからな―君の話を聞くには理屈でもそうらしい。
「全く解せないよ。どう見たって理にかなわない。君の好きなニーチェは、人類は最後の人間に近づいてゆくのだろう?最後の人間というのはもっと悧巧で狡猾なはずだ。最後の人間よりもひどいのか?それとも私達には到底理解できない何かがあるのか。とても気になるし、不思議だな」


最後に、短絡的な行動だったのだろうか、という一番簡単な、しかし味気のないところに落ち着いた。説明ができなかったのだ。おそらく、思考のやり方が違いすぎ、理解できないのだろう、というところでこの話は一旦終わりにした。

たまには、考えの異なる奴とも話すべきだろうか。
いや、できれば、なるべく、そうしておきたいが。
疲れない、疲れすぎない範囲で。


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最終更新:2010年03月16日 23:16
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