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官僚の話

組織

彼は役所で働いている人間である。
そんな彼の主張である。

「官僚のどこが悪い」

世間としてはこの意見には反感を抱くような気もする。
が、彼の主張は単なる開き直りではないようだ。

「いや、全部を肯定するつもりは俺には無い」
その言葉自体にそのような印象が付いてしまったんだ。報道の媒体が右といえば-特にその分野に知識がない場合、見ている人間は-不安を持っていたりすればなおさら-右だと信じ込んでしまうんだろう?
「それなんだよ。ある司会者が『これは健康にいいですよ』なんていえば次の日に売り切れるのと一緒だ。というか、それ以上に性質が悪い」
司会者も評論家も、一人の人間に過ぎないし、常に正しい、なんて事は無いと言って構わない。その人間も、自分の意見を主張したいに過ぎない場合だってあるだろう。というか、意見で無い真実は存在するか?完全はありえるのか?
「それはまあ、放って置いてくれ。でもまあ、その上、自分の危険とか自分の利益に関する情報に、飛びつくのは生き物として当たり前だろう。官僚が良くない、生活に影響が出る、つまり官僚は悪だってな。考えてみろよ。本当に危険な人物と裏を牛耳ってる奴は表には出てこないんだ」
本当にすばらしい人物もそうだと思う。
「そうか?まあいい。でもこう考えてみてくれないか」

そう彼は続ける。彼らの旗色は限りなく悪い。

「官僚が無かったら、民主的な政府は成り立つのかい、と。あるいは官僚組織が無かったらどうなるかを、でもいい」
どうなるだろうな。
「今日の発展は官僚のおかげだって言ってもいいだぜ。そりゃ、他にも必要な人間や組織はほかにもたくさんある。でも、官僚も大事なんだ。考えてみてくれ。組織が無くてばらばらな国を。災害があっても、右往左往。つながりが無いんだ」
そうだろうか。
「でも、官僚があれば違う。手続き主義とか事なかれ主義なんて良くないさ。たしかに、ややこしくなり過ぎた。でも、逆に言えば手続きさえ踏めば何でもできる。手続きさえ踏めば、正当な権利は守られる。基礎がたとえあっても、それを実行していく場が無けりゃ、規則なんて意味が無い」
別に官僚が無くたって、やっていった時代はあるだろうに。
「そうだな。でもそれは小規模での話だ。少なくとも集団がでかくなれば、統一した規則とか手続きが必要になる。ある地方ではA語、別の地方ではB語、他はC語なんてやってたら、国に成らないだろう。官僚は手段をまとめて、国にするのに必要でかつそれを執行する機関だ」

確かに、無ければ困るだろうな、とは思う。

ああそうか。だったらある経営者の言う、官僚組織は小さいほうがいい、についてはあるのかい。
「じゃあこのような話でどうだ。1人でやったとして、物理的にどうしても、1024時間かかる仕事がある。2人でやれば508。それを毎日やるのがその部署の仕事だとしよう」
半端だな。
「まあいいさ。7人でやればどうだ。1人当たり8時間、妥当な数字だろう。で、組織を無闇に小さくして、この部署も2人減ったとする。1人当たり毎日32時間分の仕事なんてできるか。1日24時間だ、無理がある」
業務内容によって変えろと。
「そういうことだ。人数をただ減らせばいいのか?そんなはずは無い。大体、国民だってメディアの言葉に踊らされているだけかもしれないんだぜ」

知らない分野、自分の持っている知識が無い方面については、私もそうだろうか。
いや、知っている、と思い込んでいるだけか。

そうだな。大臣が代わりになって、事務次官を廃止してみたり。それでいいことはあるのかい。
「人気取りだけで-もちろん駄目な官僚もいるが-使えない政治家が上にいても、逆に有害だろ。政治家が何を知っているのさ。素人が大臣やってるなんてざらだ。使えない官僚に任せていた方がましな場合すらある。大体、選挙で選ばれた人間だけが国の全てを決められるなら、そいつは立ち回りが巧いだけで何の知識が無かろうと、全てを決めることができる。今の問題だって、お国の一番上は軍事の事をご存知ですか?って聞きたくなる有様だ」
民意は幻想だと。マスメディアの操作に過ぎないと?
「そうではないのかい?人間は感情の生き物だ。カントも言っている。どんな有能な人間がいようと、見た目や上辺だけで判断したがる。有名なだけで、中身はとんでもない人物が政治をしようと、見た目だけよければそれでいいんだ」
政治家は人気取りに必死で、官僚は教えないし、国民は代替案を出さずに不平ばかり言う、とでも言いたげだな。
「加えるなら、その上、一部が全部のいいものを持っていく、という訳だ。まあ確かに、大臣が素人でも、官僚が好意的に物事を教えてやればいいだけの話だ。そんなに上手くは行かないがな」
仮に、そのようにできたとしても、下手をすれば、癒着にしか見えない、といって叩かれる、というのもある。
「癒着か。官僚も悪いものといいものがある。癒着も同じだ。言葉の印象が悪いなら、いいものについて新しい言葉でも作ればいいのにな」
言葉と表情で騙される、か。案外そんなものかもな。表面上で無いものなんてあるのか?無いと切ないが。

とにかく、と彼は続ける。

「官僚は全てが悪いわけじゃない。悪いと思ったら、具体的にその、見て悪いと思った場所については、とするべきなんだ。大体、国の直属なら、知識としては申し分ない連中がいるはずだろう?官僚は全てが駄目、なんて決め付けてないで、その知識をいいほうに使わせればいいじゃないか。そいつが欲しいのが、物質的じゃなきゃ、なおさらだろ?どうして初めから決め付けるんだい。何かを知っているのかい。軽くとも、罪を犯したら、一生悪人ですか、って聞きたいよ、全く。名前は同じでも中身は変わっていくんだ。個人だって同じだろうに。初めから悪いとか良いとか、どうしても決め付けたいのかね?」
決め付けは楽だから。特に議論はそれから始まる、なんて面もあるんだろう?
「そうかね。だとしても、他人から借りた、借り物の意見だけで論ずるのはいかがなものか、とは思うね。似ているのは構わないが、丸写しの意見じゃなあ。でしかも、自分の意見を出さないでおいて、後で愚痴をこぼすとは」
ははは。耳が痛い。

当て嵌まる節を思い出した。実に耳が痛い。私は、借り物で無い意見を持っているだろうか。
どうだろうか。言い方を変えただけで、何も実は言っていないような気になる。

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最終更新:2010年04月30日 19:44
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