――ずっと忘れるな





屍があった。
うつ伏せに壊れた魔術師だった燃え盛る成れの果てが。
蒼炎に焼かれ朽ち果てようとしている骸から、つまらなく背を向け、息を吐く。

「と、まあ。こんな所か」

それは、少年の姿をした怪物だった。
屍を燃やす炎の色と同じ瞳をした英霊だった。
本来ならば英霊のカタチに収まらぬ"それは"、己が要石(マスター)である青年に目を向ける。

「まあ俺がこういう奴だって事だ」

単刀直入に言えってしまえば、自分という英霊のスタンスの説明だ。
襲いかかってきた英霊とその主たる魔術師を、一蹴した。燃やした。
殺した、と言うやつだが。この行為の意味はそういうことではない。

「要するに、お前のスタンスだとか知ったこっちゃないってことさ」

傍若無人、天我独尊。己以外の事など知ったこっちゃない。
だが、呼ばれた以上、契約は契約だ。
しかし、勝手に呼び出された挙げ句マスターがこれとは如何ほどか。
不快、というわけではないのだが、余りいい気分ではない。
最悪、マスターを殺してさっさと帰る、なんてのも考えた。

「それでも、俺とこの聖杯戦争(バカ騒ぎ)を戦うと大口叩ける理由があるのか?」

詰まる所、善人ではなく悪人、要するに外道の中の外道と言えなくもない少年のカタチをした怪物が。
現状ハズレと認識しているマスターに対して、仮に反りが合わないとして。
それでもその瞳に宿る光を見過ごさなかった怪物にとって、それだけが気になっていたことなのだから。
怪物は、その瞳の持ち主を殺す気にはなれなかったのだから。

「それで――改めて聞くけど、お前は、何だ?」

故に、怪物は問う。
マスターの価値を、その意思を。
曲がりなりにも自分を使い魔として召喚した人物。
少なくともそれを、この目で確かめんが為。


「俺は、呪術師だ。それ以外の何者でもない」

マスターが、怪物を見た。
怪物を見据えるその眼の奥には闇があった。淀んだ闇の空。

「確かに、俺じゃあんたのマスターには力不足かもしれない」

マスターには、呪術師・虎杖悠仁は分かっていた。
眼の前の少年は呪霊どころか英霊という枠組みで抑えられるような代物ではない。
なにかの気まぐれで召喚され、何故かここに呼ばれただけの領域外のなにかに過ぎない。

「素直だな」
「素直じゃなくて、何度も思い知らされた事実だよ。……俺が弱いせいで、人がいっぱい死んだ」

「お前は強いから人を助けろ」
かつて虎杖悠仁が生前の祖父に言われた言葉である。
何の因果か最強の呪いである宿儺の指を食してしまい、そのまま呪術師となって、呪いを祓い続けて。
結果、渋谷で大虐殺を引き起こした。
それは虎杖悠仁ではなくその内に宿っていた両面宿儺の所業であるとしても。
虎杖悠仁はそれを他人がやったと思わず、自分のせいだと背負い込んだ。

「誰かが俺のことを悪くないと言ってくれても、俺は俺自身のことが許せない」

それは、正しく業火に焼かれると同義の旅路だ。
背負わなくても良いものを、自分の体がやったことだと背負い込み。
罪も罰も抱え込んで、言い訳すらせず苦しみ続ける。

「だったら俺は、意味も理由もいらない。俺は死ぬまで、呪いを祓い続ける」

だからもう、逃げないと誓ったのだ。
それは時には死者への冒涜だとしても、託され背負ったものに報いるために。
その答えが見つからずとも、無限の果てにそれを探すことになって。

「――ただの歯車で、構わない。できるだけ多くの人を助け、呪いを祓う」

ただの歯車。部品(パーツ)の一つ。少年は数多の呪いに揉まれ塗れながら一つの答えを握りしめた。

「自分が幸せになろうだなんて、もう思わない。だけどせめて、自分が選んだ生き様で後悔なんてしたくはない」

闇を祓いながら、戯言など吐き捨てて。
先の見えぬ永遠をあるき続けるとしても。
いつか命を終えるその刻に、答えへ辿り着くまで。
呪術師に悔いのある死は一部例外を除いてありえない。
虎杖悠仁はそれを知った上で、その生き様で後悔なんてしたくはなかった、もう二度と。
その選択(呪い)を、命尽きる日が訪れるまで未来永劫背負い続けると。


「……ああ、そうかよ」

その少年は、怪物は、何か納得したのような、低い声で呟く。
嗚呼そうか、そういうやつかと。
虎杖悠仁の罪は選択の余地すらなかった代物、選択以前の強制されたものだろう。
だが、それを己の罪として背負うことを選択した。
それは、単純明快な自己満足なのだろうか。いや、この少年に限ってはそうではないと言うだろう。
間違いなく、虎杖悠仁の言った通りに歯車だろう。ただ意味も理由もなく、そう決めた事の為に動き続ける。
錆付き壊れるその日まで、ただ動き続ける。
だが、虎杖悠仁の秘めたそれはただの部品には似合わぬ"熱"があった。
昏い瞳の奥に一点の光があった。それはか細いながらも、はっきりと輝いているものだった。
――あいつと同じ目だった。怪物は回顧する。

絶望の中で、一点の光に向かい突き進む。
こいつは"あいつ"と方向性は違えどその手の類か、と。

「……昔話だ、俺を殺せるはずなのに殺しはしなかったガキがいた。お前よりも背の小さな、な」

そう虎杖に語る怪物は、心なしか微笑んでいるようだった。
なんともつまらなく、頬が緩んでしまいそうな思い出話。

「そしたらそいつは、「そうかもしれないけど本当に正しいのかわからないから行きてる限り考え続ける」ってほざいたさ」

『今度君に会う時はもっと マシな答えが返せるように』
あの義眼保持者は、かの崩落の再現を乗り越え、自分に向けてそう告げた。
自分(ぜつぼう)から、絶望に身を委ねた俺(ブラック)を取り返した。

「くだらなくて、面白い話だろ」
「……」
「お前とある意味同じだよ」

そんな数万ページに及ぶ書籍の本の一ページに満たないような思い出を、少年はほんの僅かばかり愉快そうに。
それは、方向性の差異の程度だ。あいつが希望を諦めなかった。こいつは存在しないかもしれない輝きにたどり着くまで歩き続ける。
最も、このマスターは、虎杖悠仁という男は誘蛾灯に向かおうとする蛾に等しいとして、それは自棄というわけでもない一切の濁りのない覚悟だろう。

「あるはずのないかもしれない希望に辿り着こうとしてる」
「呪いを祓い続けた先の終わりがそうだってなら、お前の言う通りかもしれない」

それを肯定も否定もしない。
未来だなんて曖昧なものは誰にも分からない、それは超越者たる少年にして怪物も同じ。
中には未来を視る怪物もいるにもいるかも知れないが、それが確約された未来を約束できる保証はない。
その悔いのない生き様の果てで、たどり着く何かが希望の光なのか、絶望の闇なのか。

「でも、その答えは役目を終わった後にしかわからないだろ。尚更止まる理由にならねぇよ」
「……だろうな」

マスターのことは理解した。どうしようもない大馬鹿野郎だ。
方向性は違えど、あのガキやあいつと同類だと。
背負い込む必要のないものを背負い込んだ難儀な人間だ。
それでいてまだ光を無くしていないのだから、つくづく人間という生き物は。
少年は、怪物は、それを己の手で摘み取ることは出来なかった。
これは、そういう宿痾に苛まれる存在だから。


「フォーリナー」
「は?」
「……俺に充てがわれたクラスだよ。まあ、そういうことだ」

お前をマスターだと認めてやるよ、という遠回しの承認だ。
少なくとも、こいつは退屈しない。
こんな熱を、光を帯びた奴を歯車だと、ただの部品だとは認識しない。
認めてやる、お前という存在だけで、自分がこの馬鹿騒ぎで遊ぶ価値が出来た。

「さっきも言った通りお前のスタンスなんぞ俺は知っちゃこっちゃ無い。だから俺は俺で勝手にやらせてもらう」
「……」
「だが、お前は面白い。だから死なない程度には面倒を見てやるし、お前のやることは黙認してやる」

虎杖悠仁が、少年を見る。
少なくとも少年の最終方針は虎杖悠仁の思想と善心から真っ向から反する崩壊(しゅうえん)だ。
けれど、それでも認め、その行動を黙認するというのはあくまで少年の遊び心。
価値が無くなれば、その時はその時だ。
だがもし仮に、舞台の最終幕にこのマスターが立つことが出来たのなら。

「だったらフォーリナー、俺も俺の好きにやらせてもらう。人を助けて、呪いを祓って、こんな下らないこと終わらせる」
「そうか、だったら精々頑張ることだな。もし終わりまで生き残れたら、その時は俺が直々に相手してやる」

最も、お前がやられても次のお前が俺の相手をするだろうがな、と付け加えて。
なけなしのチップ、カードは癖こそあれど上等、プレイヤーはマスター。バンカーは自分。
賭けに乗った以上、勝負がつくまでは決して降りられない。

「……お前は、一体何なんだ。宿儺と、似ているようで何か違う」

最後まで抗って見せろと言いたげに、不敵に口を歪ませるフォーリナーに対し、虎杖悠仁は一つ問いを投げかける。
これは人間がどうなろうとどっちでもいい類の存在だろう。それこそ不条理の体現者そのもの。
理由もなく人を傷つける、そのような存在にも見えるのに。その瞳は、まるで求めているようにも思えて。

「お前は、何を求めてるんだ」
「――それはお前自身の頭で考えてみるんだな」

それ以上、この場で怪物は虎杖悠仁に内面を話さなかった。
それはまるでそれっきりだと言わんばかりに、答え合わせは約束の時まで取っておくと遮ったかのように。
少なくとも、フォーリナーが虎杖悠仁を多少は認めたというのは、確かな事実であった。








現実と異界が交わる都市、ヘルサレムズ・ロットにて。
かつて大崩落と呼ばれる、都市の全てが崩れ行くその現象に魅入られたものがいた。

それは絶望そのものであった。
曰く、古代より人間を観察し続けたもの。
曰く、気まぐれに人間に取り憑き、絶望を齎してきたもの。
曰く、異界より来た領域外の超越者たる十三王が一人。
曰く、外界からの観察者(ウォッチマン)。

だが、絶望はその在り方故に己が存在にすら絶望している。
故に、彼は無意識に希望を求める。
一切の闇の中で、それでも尚、絶望に抗い光に向かって突き進むことを辞めない人間の、そのあくなき在り方。

ブラック、シャイニング、フォーレン、悪魔、ブルー。彼の者は様々な名を持つが。
それに決まった名は存在しない。故に英霊としては事実真名が存在しないに等しいが。
敢えて彼の名乗った一つからふさわしい名を呼ぶとするならば。


――絶望王、それこそこの異界より来たりし降臨者(フォーリナー)にふさわしい名であろう。


【クラス】
フォーリナー
【真名】
絶望王▓▓▓▓▓▓@血界戦線(アニメ版)
【属性】
混沌・中立
【ステータス】
筋力A++ 耐久C 敏捷A+ 魔力EX 幸運C 宝具EX

【クラススキル】
単独顕現:E+++(EX)
 単体で現世に現れるスキル。単独行動のウルトラ上位版。
 遠い昔より人々を観察し続けた、人類の領域を超越するフォーリナーの存在証明。既存人類の科学・魔術ではフォーリナーの本体を滅ぼすことは不可能。即死・魅了・時間操作系に対しての耐性を備える。
 このスキルを持つものは、すなわち獣の―――

領域外の生命:EX
 外なる宇宙、虚空からの降臨者。人類の領域を遥かに超えた場所からの来訪者。

狂気:B
 不安と恐怖。調和と摂理からの逸脱。人を狂気に陥れる絶望たる彼は、その気になれば言葉巧みに人を絶望へと陥れる。


【保有スキル】
PSI:A+
 フォーリナーがかつて憑依していたブラックという人物の固有能力。
 念動力や空間移動能力が主で、複合させることで任意の場所に遠隔で攻撃することが可能。
 フォーリナーはそのPSI能力をブラックが使用していた時以上の出力で行使できるが、体の縛りもあって必要以上の出力はボディが保たない。

十三王:EX
 ヘルサレムズ・ロットにてその名を知られる埒外の超越存在、その内でとりわけ厄介とされる13人の総称。このスキルを保有するものはA++ランク相応の魔術と対魔力スキルを得る。
 そもそもフォーリナー自身が保有してる魔力の供給源が別次元上に位置するため、事実上魔力切れは起こさない。
 ただしフォーリナーの今の身体は人間相応、前述の通り埒外の出力は容易に出せないし、器が壊れれば退場は決定される。

■■:-
 フォーリナーは絶望を招き寄せるものでありながら、意識的・無意識的に光や希望と言ったものを求めている。
 人間が絶望の末に破滅するのを憑依して促し、観察する存在たるフォーリナーはそうした世界(おのれ)の在り方と言う絶望感に囚われており、絶望の中それに抗って光へと突き進む人間を望んでいる。
 その為、そういう類の人間は自らの手で殺すことは出来ない。

【宝具】
『嗚呼、我が偉景たる大崩壊(ハロー・ワールド・シャイニング)』

ランク:EX 種別:対界・対結界宝具 レンジ:100~ 最大補足:∞
 かつて絶望王を魅了した大崩落、それを再現しようとした彼の所業の再現。世界を崩(こわ)す固有結界。
 発動に長い準備期間を必要とするが、一度発動すれば絶望王を潰さない限りは持続し拡大し続けるラスト・カウントダウン。
 結界内は永遠の虚(うろ)の真上の来たかの如く、汎ゆる物理現象を無視した重力変動の嵐に見舞われ、最終的に行き着く先は汎ゆる全ての崩壊――すなわち世界の終わり。
 ちなみにこれ自体に絶望王は関与はしていないが、結界内の対魔力持ち(及び英霊とのパスが繋がっているマスター)以外の有象無象はグールに変貌し無差別に周囲を襲い始める。
 「エンタメにゾンビ必須ゥ~でしょ?」というのは彼の宝具に干渉した堕落王の言葉。マジで何やってんだあいつ。


【Weapon】
ブラックのPSI能力+自身の能力

【人物背景】

「さあ、俺の名前を言ってみろ」

絶望そのものでありながら、己にすら絶望し、今ある世界を崩壊させた先の答えを求めた超越者。
絶望でありながら、希望に手を伸ばす求道者。

【サーヴァントとしての願い】
「大崩落(おわり)」の続きをまた始めよう



【マスター】
虎杖悠仁@呪術廻戦
【マスターとしての願い】
聖杯戦争を終わらせる。

【能力・技能】
呪力に依らない、常人を遥かに超える身体能力

【人物背景】
かつて両面宿儺の器。最もその宿儺はすでに彼の友人へと依代を変えた。
それを含めても彼の謎は多い。

伏黒恵を乗っ取った宿儺に殴り飛ばされた直後からの参戦

【方針】
できる限り人は助ける。

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最終更新:2023年11月22日 19:22