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第8話「ジャハンナムの天使 Ⅰ」


 ―― 一日目 AM0:00――

「突入!」
 部隊長・八神はやての号令一下、4人の騎士と魔導師は一気にトップスピードまで加速した。
 一切の光源が排された暗闇の中を風切り音が駆け抜ける。
「フォトンランサー……!」
 先陣を切る白い外套の魔導師が槍状の魔力弾を放つ。
 それは暗闇に閉ざされた地下道を直線的に飛翔し、唐突に弾けた。
 消失の瞬間、二色の魔力光が微かに散った。
 後を追う騎士が口の端を上げる。
「バリアか。やはり簡単には通してくれないようだな」
 フォトンランサーがバリアに阻まれた瞬間は、後方で待機するはやてにも見えていた。
「なのはちゃん、お願い!」
「オッケー!」
 はやての位置から遥か後方に、桃色の魔力光が輝く。
 部隊の最後方でデバイスを構えるは、エース・オブ・エース高町なのは。
 シューティングモードを取ったレイジングハートの周囲を、4つの環状魔法陣が取り巻いた。
 魔法陣によって膨大な魔力が加速され、更に一点へと収束していく。
「みんな、当たらないでね! ……いっけぇ!」
《Divine Buster》
 解放される魔力。
 大河のごとき光の塊が大気を揺るがし、暗闇を貫く。
 眩い魔力光が先行する魔導師達を追い抜き、地下道を隅々まで照らし上げる。
 発射から秒の間も置かず、地下道を塞ぐ魔力の壁と衝突。
 拮抗は一瞬。
 障壁は容易く砕かれ、閃光と爆音が地下道を埋め尽くした。
 破壊の余波も収まらないうちに、フェイトとシグナムが地下道の最奥へ突入する。
「――!」
 瞬間、大量の魔力弾が二人を半球状に取り囲んだ。
 恐らくは、地下道を突破した侵入者に対する迎撃機構。
 視界に収まるだけでも百を超える魔力弾が、津波のように押し寄せる。
 非殺傷設定など成されていないだろう。
 二人の思考回路が、全速突撃から回避と防御へと切り替わりかける。
 その瞬間。
「止まるな!」
 響き渡る獣の咆哮。
 魔力の軛が地下道の床を貫く。
 幾重にも折り重なった軛は鉄壁の守りとなり、無数の魔力弾を受け止めていく。
 シグナムはザフィーラと一瞬だけ視線を交わし、即座に加速した。
 立ち止まるなと叱咤されたのだ。
 礼を言うために止まるなど、選択肢にも上がらない。

「広い……」
 フェイトが小さく零した。
 彼女の言うとおり、地下道の奥には異様に広大な空間が広がっていた。
 ちょっとしたビルディングならば容易く収まってしまうだろう。
 いくら郊外とはいえ、ミッドチルダの地下にこんな空間があったとは。
 シグナムは脳裏を過ぎる違和感に暫し意識を傾けた。
「――来る!」
 先を行くフェイトが急角度で上昇した。
 間髪入れずシグナムも右手へ急旋回する。
 数瞬遅れて、直前まで彼女らがいた空間を、数十発もの魔力弾が引き裂いた。
 掃射を構成する魔力光は四種類。
「四人か。テスタロッサ、半分は任せるぞ!」
 例え暗闇に紛れようとも、敵意が剥き出しでは意味がない。
 ましてやこちらには、状況に則した一手があった。
 レヴァンテインを構え直すと同時に、カートリッジロード。
 刀身が瞬時に分裂し、シュランゲフォルムへと変形する。
「はあぁっ!」
 振り抜かれるレヴァンテイン。
 大蛇のごとく無数に連なる刃が、襲撃者のいるであろう地点を一気に薙ぎ払う。
 視認できようとできまいと関係ない。
 居場所さえ分かるならば事足りる。
 だが――
「――っ!」
 暗闇に火花が散る。
 腕に伝わる予想外の衝撃と、鈍い金属音。
 シグナムは思考を挟む間もなく刀身を引き戻した。
 レヴァンテインがシュベルトフォルムへ再変形すると同時に、虚空を袈裟懸けに斬り付ける。
 凄まじい音と共に、大気が爆ぜる。
 咄嗟の判断で放たれたレヴァンテインの一撃は。
 それを上回る速さで繰り出された黒い剣に弾かれていた。
 即座に後方へ飛び退き、距離を離す。
 剣戟の閃光に照らし出されたのは、紛れもなく騎士の鎧であった。
「シグナ――」
 フェイトの背筋に悪寒が走る。
 本能のレベルで発せられる危険信号。
 即座に身を引くと、鼻先を鋭いナニかが掠めた。
 闇に奔る紅い魔力の残光。
 地下空間の暗さに慣れてきたフェイトの眼は、それの形状を僅かながらも捉えた。
 魔槍と呼ぶに相応しい、禍々しさに満ちた紅の槍だ。
 フェイトは胴体を護る盾のように、ザンバーモードのバルディッシュを構え直した。
 刹那、魔槍が消える。
 一瞬の間も置かず、フェイトの身体を凄まじい衝撃が襲う。
 視覚の限界を超えて繰り出された槍の一撃がバルディッシュの刀身を打ち据えていた。

 その狂気染みた攻撃は、ガード越しでもフェイトの意識を揺さぶった。
「くっ……」
 体勢が大きく崩れる。
 しかも衝撃に耐えかねて、バルディッシュの柄から右手が離れてしまった。
 近接格闘においては致命的な隙だ。
 敵は間違いなく、無防備な身体に第二撃を繰り出すだろう。
 頭では対処しなければならないと分かっていても、四肢が思うように動いてくれない。
 強烈な一撃を受け、意識が肉体の制御を失っているのか。
 初撃より一秒も経たず、魔槍が狂気染みた速度で唸る。
 崩された体勢のまま、フェイトは左腕だけでバルディッシュを振るった。
 轟音。
 バルディッシュはフェイトの手を離れ、高く打ち上げられる。
 片腕の力と、全身の膂力。
 比較にならないほどの差が、明確な結果となって表れた。
 フェイトは奥歯を噛み締めた。
 初手を許した時点で、既に圧倒的に不利な状況に追い込まれていたのだ。
 煌く残光。
 もはや抗する術を失ったフェイトの身体に魔槍が迫る。
「させん!」
 フェイトの前に立ちはだかる長身の影。
 銀色の手甲に覆われた腕が魔槍を握り押さえた。
「ザフィーラ!?」
「うおおおおっ!」
 腕の筋肉が膨れ上がる。
 粗暴に槍を引き寄せ、魔槍の騎士めがけて拳を繰り出した。
 騎士の拳がそれを迎え撃つ。
 剣戟とは違う鈍い音が鳴り響く。
 直後、騎士の片足がザフィーラの胴に当てられる。
「ぐぉっ!」
 騎士はザフィーラを蹴り、その反動で槍ごと後方へ飛び退いた。
 猫科動物のように身をしならせ、虚空に着地する。
 まるで見えない壁でもあるかのように。
 ――結界。
 フェイトは直感した。
 地下空間の奥には何かを覆い隠す結界がある。
 恐らくそれこそが、作戦目標。
 結界を足場に身を屈め、跳躍の力を溜める魔槍の騎士。
 フェイトは落下してきたバルディッシュの柄を受け止めた。
 そのとき、地下空間全体をかき混ぜるような風が吹いた。
「ギガントハンマーッ!」
 巨大な体積が高速で振り下ろされる。
 ギガントフォルムのグラーフアイゼンがフェイトの眼前を横切った。

 魔槍の騎士が飛び退く。
 大質量の鉄槌が、数瞬前まで騎士のいたところへ叩き付けられる。
 鳴動する大気。
 衝撃が破壊力を帯びた音となり、地下空間全体を震わせた。
 爆発的な打撃を受けた結界に亀裂が走る。
 あっけないほど容易く、結界は砕けた。
「――あ」
 そう漏らしたのは誰だったか。
 突入した起動六課の隊員は、ただの一人も例外なく、動きを止めた。
 紅い光が地下空間を侵す。
 あまりにも禍々しい、闇色の紅。
 莫大な魔力が渦を巻き、呼吸までも圧迫される。
 まるで不可視の手に喉と肺臓を握り締められているかのように。
 魔力にべっとりと染み付いた悪意は知覚すら躊躇われれる。
「なんだ……あれは」
 塔のようにそそり立つ漆黒の祭壇。
 シグナムは瞬きすら忘れ、ソレに目を奪われた。
 質感は濁った臓物を編み上げたかのよう。
 悪意と怨嗟で塗りたくられた光景は、常人であれば眼を覆わずにはいられないだろう。
 ヴォルケンリッターですら言葉を失っているのだから。
 祭壇の元に八つの影が動いた。
 恐らく四つはフェイトとシグナムを迎撃した魔導師のものだ。
 そしてそれぞれの傍らには、明らかに異質な四騎の姿があった。
「待ちやがれ!」
 急加速するヴィータ。
 中央に立つ男が、余裕に満ちた動きで腕を振るう。
「――!!」
 一条の光芒がヴィータの脇腹を掠めた。
 バリアジャケットが焼き切れ、素肌が高温に晒される。
 苦痛の声が漏れる。
 安定を失ったものの、どうにか地面に着地した。
 歯を食いしばり、その男を睨む。
 遠い――
 狂った距離感は、果たして脇腹のダメージだけによるものなのか。
 ヴィータは傷口を押さえた。
 痛みはあるが出血はしていない。
 高温に曝された傷は変質して、血管が焼き潰れていた。
 だが、決して重いダメージではない。
「野郎……!」
 腕を地に突き、立ち上がる。
 確実に奴らは強い。
 エースであるフェイトやヴォルケンリッターのシグナムと互角以上に切り結び。
 たったの一動作でバリアジャケットを貫く攻撃を繰り出してくるのだ。
 その戦闘能力は、紛れもなくオーバーSランクに相当するだろう。
 だが、そんなことで退くわけにはいかない。
「……そこ、動くなよ……」
 ヴィータは目の前の敵を睨み付けた。
 通常状態に戻ったグラーフアイゼンを握り、振り向ける。
 禍き祭壇は依然としてそこにあり、異様な光を放ち続けている。
 口を歪めて、吐き捨てるように呟く。
「詐欺みたいな名前だな――アレのどこが"聖杯"だってんだ――!」


 ―― 三日目 PM3:25――

 モニタールームでは、既に十名近いスタッフが作業を始めていた。
 はやては入り口の近くから部屋の様子を見渡した。
 ここがどのような目的で作られた部屋なのか、一瞥しただけで分かる。
 入り口の向かいの壁はガラス張りで、隣室の様子が目視できた。
 隣のフロアは二階分の高さの吹き抜け構造になっている。
 モニタールームは、ちょうどその二階部分と隣り合う位置関係だ。
 つまり、こちらからは隣室の床を見下ろす形になる。
 その壁に沿って幾つものコンソールが並べられ、それぞれにオペレータが付いている。
 隣室には椅子が一脚。
 座っているのは、赤い合成素材の拘束具に縛られた男。
 ぼさぼさの髪を垂らして俯いているため、表情は見て取れない。
 それどころか、生気の欠片も感じられなかった。
 文字通りの半死人だ。
 本来なら、こんな状態の人間を拘束するなんて考えられないことだろう。
 だがこの男にはこうされる理由があるのだ。
 彼が発見されたのは、スターズ分隊が謎の騎士の襲撃を受けた直後であった。
 帰還途中だった同分隊によって発見され、身元不明の怪我人として収容された。
 そして身元を調べるためデータを照合したところ、とんでもないことが分かったという次第だ。
「八神部隊長、モニタリング準備は完了です」
 オペレータに促され、はやては席に腰を下ろした。
 リインもその傍に着地する。
 白で統一された無機質な部屋の中、男の赤い拘束服はひどく目立っていた。
「あー、次元犯罪者イスト・アベンシス。私の声が聞こえますか」
 はやての呼びかけに、男が僅かに頭を動かす。
 恐らくは肯定の意思表示。
 声を出すことも出来ないのか――
 はやては躊躇いを押し殺して、尋問を続行する。
「貴方は三名の仲間と結託し、第97管理外世界へ不法に侵入。
 とある魔術的儀式で用いられていた"聖杯"の残骸を盗み出した。
 これに間違いはありませんね」
 微かに頷く男。
 二日前、如何なる手段によってか聖杯を再現し、四体のサーヴァントを召喚した次元犯罪者。
 彼はその一員であると目されていた。
 ところが、発見時には魔力を根こそぎ奪われた半死半生の状態だった。
 その上、所持しているとされていた槍型のデバイスすら失っているという有様だ。
 彼に何があったのかは定かではないが、相当悲惨な目に遭ったことは想像に難くない。
 はやてはオペレータに小声で指示を出した。
 数秒の間をおいて、二人分のデータがはやての前に表示される。
「三名のうち二名までは既に身元が分かっています。
 アコード・ホーネット、ランディ・スティングレー……」
 歯切れ悪く、はやては名を読み上げた。

 彼らを容疑者として割り出したのは、地球への不可解な渡航が確認できたことが切欠だ。
 元々この三人は共同で犯罪行為に及んでいる容疑が掛かっていた。
 犯人候補としてこれ以上に怪しい人物はいない。
 だが、あまりにも奇妙なことが多すぎた。
 彼らに掛けられていた本来の容疑は、遺跡からの発掘品の密売だった。
 歴史的価値こそあれど、ロストロギアどころか魔術的アイテムですらない品である。
 本来ならば機動六課が関知する類の犯罪者ではない。
 犯罪に等級を付けることが許されるならば、ケチな犯罪者であるといえた。
 それがどうだ。
 秘密裏に行われていた聖杯戦争の存在をキャッチする情報力。
 ほんの半年程度で、高等極まりない理論で編まれた聖杯を再現する技術力。
 そしてそれを起動させるための莫大な魔力の用意。
 どれをとっても、彼らだけで成し得ることでは有り得ない。
 はやては半ば確信していた。
 ――彼らは『手足』に過ぎない。
「まだ分かっていない一名を加えてもたったの四人……。
 端的に言います。他にも、誰か貴方達に手を貸しているんですね」
 ぴくりと、男の肩が動いた。
 力なく垂れていた首が持ち上がる。
 死体のような眼球はまともに焦点を結ばず、虚空を泳いでいる。
「……そうだ……俺達は乗せられたんだ……ダグとかいう野郎が……!」
 搾り出された微かな声が、拡大されてモニタールームに響く。
 はやては手近にいるオペレータに視線を送った。
 頷き返すオペレータ。
 声のみならず、男の全てのバイタルサインは複数の装置によって記録されている。
「ダグ、それが四人目の名前なんやな」
 核心に近付いている感触が、はやての言動に焦燥感を滲ませる。
 男は明らかに錯乱状態にあった。
 どうにか発言を誘導して、情報を引き出さなければならない。
「それで、ダグが黒幕なんか?」
「あいつは俺達を利用したんだ……あの連中に取り入るために……俺達を……」
 男の身体は小刻みに震えていた。
 怒り故か、それとも肉体の限界か。
 かちかちと歯を鳴らし、ここにはいない何かを睨む。
 この様子では、じきに証言を聞くこともできなくなるだろう。
「大丈夫や。あんたを騙した奴らは私達がどうにかしたげる。
 だから教えて欲しいんや、そいつらのこと!」
 ばね仕掛けの人形のように、男が顔を上げる。

 その瞬間、全てが闇に閉ざされた。
 両方の部屋の照明が同時に落ち、数センチ先も見えない暗闇に包まれる。
 一瞬、モニタールームが混乱に支配された。
 即座に非常電源に切り替わることが分かっていても、驚きと戸惑いは抑えることができない。
 監視の目が途切れたほんの僅かな合間に、『それ』は現れた。
 男の眼前に白いものが揺れる。
 嗤っているようにも見える、真っ白な髑髏の仮面。
 ――キキ……キ
 黒衣が音もなくはためく。
 暗黒の中、常人の四倍はあろうかという腕が高々と掲げられた。

      ザバーニーヤ
 ――妄想心音――

「電源、回復します!」
 消えていた照明が一気に再点灯する。
 はやては目が眩むのを堪えながら、隣室を見た。
 男は最初にそうしていたように、力なく頭を垂れていた。
「ごめんな、びっくりさせて。大丈夫?」
 返答はない。
 はやてはしばし間を置き、再び語りかけようとした。
 それをオペレータの震えた声が遮る。
「大変です、八神部隊長……バイタルサインが停止しています」
「え……?」
 発言の意味が理解できなかった。
 バイタルサインが停止した?
 きっとさっきの停電で計器が壊れたんだ。
 そんな都合のいい考えは、淡々とした報告によって否定される。
「生存反応、完全に途絶。イスト・アベンシス、死亡を確認」
「嘘……やろ」
 はやてはコンソールに腕を突いた。
 愕然と、拘束された男に視線を落とす。
 男はほんの少し前と同じように、椅子に身を拘束されて項垂れている。
 不可解な現状を処理すべく、はやての思考回路が高速回転する。
 あんな近くで、本当に目と鼻の先で、あっさりと死んでしまったというのか。
 突然の停電のショックで?
 そんな馬鹿な。
 表示されているバイタルサインは、彼が何の前触れもなく死亡したことを示している。
 ショック死の直前に見られるような乱れは発生していない。
 侵入者による殺害?
 それこそありえない。
 あの部屋に入ることができる経路は一つだけ。
 侵入に利用したならば、必ず形跡が残るはずだ。
 何らかの手段で姿を消して、今もあの部屋に潜伏している?
 否、幾通りもの状況を考えて配置された監視装置を完全に騙すことができるとは思えない。

 ならば考えられるのはただ一つ。
 停電で計器が停止したほんの僅かの隙に、何者かが『突如として出現』したのだ。
 そして照明が回復する前に彼を殺害し、現れたときと同様に『突如として消失』した。
「警備部隊に通達! 侵入者が存在する危険性が考えられる!」
 オペレータに指示を飛ばし、はやては踵を返した。
 普通なら一笑に付していたような仮説だった。
 だが、機動六課が相対しようとしている相手は、普通とは程遠い相手に違いない。
 いくらありえないと思えても、可能性があるならば、十二分にありえると考えるべきだ。
「リイン、行くで。他の隊の隊長さんも引っ張って作戦会議や」
「あ、待ってくださいよぉ!」
 慌てて追いかけるリイン。
 早足で駆けるはやてに追いつこうと、思いっきり速度を出して飛んでいく。
「でも、もう機動六課が取り扱うレベルの事件じゃないですよー」
 機動六課は古代遺物管理部の所属として設立されている。
 それ故、活動の内容はロストロギアに関連したものに限られてくる。
 更に、機動六課は『レリック』専任部隊として運用される性質が強かった。
「"聖杯"はロストロギアじゃないんですし、別の部隊に任せられるだけじゃないですか?」
「それがどうした、や」
 はやては不敵に笑ってみせた。
 廊下に人の姿はなく、はやての靴の音だけが鳴り響いている。
「巨大な魔力の供給源を失ったサーヴァントは、新たな供給源としてレリックを狙う恐れがある。
 ……こういう風に言えば、誰も文句は付けられんやろ」
 無論、はやてがこの一件に関わろうとするのには理由があった。
 それは、機動六課設立の真の目的。
 カリムによって予言された『いずれ起こりうる最悪の事態』を回避すること。
「リインも分かってるやろ? 私が機動六課を創ったわけ」
「この事件が引き金になるかもしれないなら、動かないわけにはいかない、ですか……」
 そう呟いて、リインは黙り込んだ。
 はやての少し後ろを、歩くような速さで浮かんでいる。
 正直にいうと怖かったのだ。
 二日前の地下空間での戦いも、今日の廃棄都市区画での戦いも。
 どれも敵の異様な強さを知らされるばかりだった。
 推定オーバーSランク相当の敵が四人というだけならまだマシだ。
 相手は御伽噺に出てくるような英雄なのだ。
 文字通り、掛け値なしの伝説との戦い。
 地球にいたころ、はやての本棚から昔話を引っ張り出して読んでみたことが何度もある。
 その中には地球の伝説や神話について書かれた本もあった。
 勇壮絢爛な武勇伝に、壮絶無比な最期の瞬間。
 すべてが輝かしい幻想の存在。
 そんな相手と戦うなんて、不安で仕方がなかった。
 ついさっきの出来事だってそうだ。
 不可能としか思えない状況で完遂された異様な暗殺。
 あれもサーヴァントの成せる業ではないだろうか。
 二人は会話を交わすこともなく、執務室の前まで辿り着いた。
 扉を開けようとするはやての眼前に、リインが不意に飛び出してきた。
「決めた! わたしも覚悟決めちゃいました! はやてちゃんについていきます!」
 ぐっと拳を握り、高らかに宣言するリイン。
 はやては不意のことに瞬きを繰り返していたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。
 リインフォースの小さな頭を、揃えた手先で優しく撫でる。
「ありがとな。リインが協力してくれたら百人力や」



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最終更新:2009年11月30日 23:01