片付けを終えたお姉ちゃんが戻ってきた。小走りで居間に向かってくる音が聞こえる。
こうなったら全部話してもらうしかない。


「お待たせ、少しは楽になった?」


「う、うん。まぁ…」

良かった、と微笑みながら対面に座る。
食事中と同じように僕を見つめてきた。


(なんか…僕の顔に付いてるのかな)


いや、どうでもいいと頭を切り替える。
しかしいざ聞こうとするも中々切り出しずらい。
僕はまた恐れているんだ。有り得ないとは思いつつも、豊姫お姉ちゃんが何か僕にするんじゃないかと…。

でも…
でも……聞かなきゃ。


「あ、あのさ、豊姫お姉ちゃん」


「ん?なあに?」


「えっと、色々とさ、話してくれない?」


「色々?」


「というか、全部」


「………」


何を焦ってるんだ僕は。
落ち着いて、最初から順番に話してもらわなきゃ。


「まずは…僕が月に居るわけ。どう考えたって普通じゃ考えられないよ。この状況は」


「それで?」


「お、お姉ちゃんなら何か知ってるかなーと…」


「私が…関わっていると?」


「え!?あ、い…いや……」


「…………」

今ので僕が豊姫お姉ちゃんを疑ってるのがばれた!?
遠回しに言ったつもりだったのに…!

いや、まだ判断できない。でも変に喋りすぎも良くないってことか…。
口が過ぎてお姉ちゃんまで僕に危害を加えてきたら、もう誰も僕を助けてくれないんだ…!
ここは少し冷静に。そして正直にして、様子を見よう。


「う…。ご、ごめんなさい。ちょっと疑ってる…」


「そう…」

さっきまでの明るさは何処かに消えたのか。
顔を伏せ、悄然と俯いていた。

余計に話しづらい。
また話を切り出すタイミングを窺っていると、急にお姉ちゃんの肩が震えだした。


(な、なんだ…?)


「ふ…ふふっ……。うふ、ふふふ…」


肩を震わしながら、くつくつと笑い出した。
一体、何が可笑しいのか。
突然笑い出して気味が悪い。


「ふぅ…。ごめんなさい、君のことを笑った訳じゃないの」
「それなりに君の警戒心解いたつもりだったのに、疑われてる私が可笑しくって…」


……?
自分が可笑しい?何言って…。


「けどまぁ…。そりゃそうか。怪しさ満開だもんね、私」


伏せていた顔を上げてにこりと笑い、僕を見る。
この場面ではその微笑みも不気味だ。


「いいよ、全部教えてあげる」


「!!」
「本当!?」


「これから話すことは、君の今までと、これからに関する話になる」
「そして話を聞いた君はきっと、ある行動に出ようとするでしょう」


ある、行動?
それは一体――


「けどそれは私が許さない。させないし出来ない」
「賢い君なら分かってくれるよね?」


目から光が消えていた。
真っ黒なクレヨンで塗りつぶされたような瞳に引きずり込まれそうだった。
けれどそれから目を逸らすことができず、僕はただ黙って話を聞くことにした。

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最終更新:2017年05月28日 20:02