マジカルマリサ2




「また、遊ぼ」
彼女の部屋をひっそりと抜け出るときに投げ掛けられた言葉がからまった痰のように胸にへばりついていた。白く豊満な肢体を思いだし、長く湯に浸かっている熱とはべつに、頭皮の辺りがかっとあつくなる。
いや、俺は化かされたのだ。マジカルな何かに。これでおしまい。彼女との物語は幕を閉じたのだ。悶々とした思考を溶かそうとぶくぶくと湯のなかに沈んだ。
「いってらっしゃい。気を付けてね。」
「ありがとう、いってくるよ。はたて。」
彼女から鞄を受け取ろうとすると、少し手が触れた。瞬間、彼女は俺の手を振り払った。どさりと重い音が玄関で響いた。
黙ってそれを拾い上げると、
「じゃあいってくるよ」
振り向かずに別れを言い残して家を出た。返事はなかった。

出勤する時に、必ず通る近道がある。そこは、家屋と家屋との隙間を通る細道で、大通りの真上から照り付ける朝の日差しから逃げるように逸れると、清涼な風が奥から吹いてくる。
少し歩を進めると奥に誰かが棒立ちになって道を塞いでいる。
誰とは言わない、マリサだ。

「暇なんだよね。遠い昔に家出した猫をようやく見付けたと思えば、にげられちゃって。」
踵を叩いてゆっくりと歩いてくる様は、昔と変わらなかった。
深くかぶったとんがり帽子のせいで、顔は見えない。しかし、彼女がどんな顔をしているのかは分かる。
何かいたずらをしてやろうとするとき、決まって帽子で顔を
隠すのは付き合っていた頃の彼女の合図だったからだ。
「その猫は、新しい飼い主の所へ戻ったんだよ」
「でも、元は私のだから。少しくらい撫でても罰は当たらないと思う。」
「新しい飼い主が怒るかもしれない」
「首輪を着けてない飼い主が悪いのよ」
いつの間にか、俺の首に巻き付いていたマリサはふっと耳に吐息をかけた。
「猫は自由に生きるのが仕事なのよ」








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最終更新:2019年02月09日 20:35