文に家に泊めてもらい、朝には卵焼きを食べさせてもらった。普段食べている卵と少し味が違う気がしたが、多分朝のせいで味覚が鈍ってたんだろう。文に礼を言ってから俺は外に出た。
妖怪の山から降りていく途中で美しい湖を見つけた。まさかこんな所に湖があったとは・・・。近くになにか乗れる物がないか探す。
運よく小船が近くに置いてあったので少し拝借する事にした。少しの間だけだから大丈夫だろう。多分・・・
小船の中に積んであったオールを使って漕いでいく。小船はそれほど痛んでいなかったこともあり、スイスイと湖の上を進んでいく。小船が湖の中心くらいに来たところで漕ぐのをやめた。ねっころがり空を見上げる。吹き抜ける風、そしてゆっくりと揺らぐ船のリズムが俺の眠気を誘う。目を閉じようとしたところで誰かに声を掛けられ、俺の睡眠は中断された。
「男一人で湖でボート漕ぎなんて・・・変な趣味ね」
○○「!?」
至近距離から誰かの声が聞こえた。だが、おかしいぞ。ここは湖の中心。岸から声を出したとしてもここまではっきりと聞こえるはずがない。俺はおもわず飛び起きた・・・目の前には水兵帽と水兵服を着た少女が座っていた。
○○「村紗!」
村紗「やっほー○○」
村紗とは前のときも別の湖で船を漕いでいた時に会った。その時はいきなり湖の中から出てきて、クラーケンのごとく船の端を掴みひっくり返してきたのだ。最悪な出会いだったが、今では仲が良い友達だ。
村紗「それにしても寂しい奴ねあんたも。一人でボート漕いでなにが楽しいの?」
○○「お前には関係ないだろう!いいから早く降りろ。お前の能力が分かってて、船に乗せてるわけにはいかない」
バキッ、と鈍い音がした。恐る恐る下を見ると、思ったとおり船の底に穴が空いていた。俺は顔をしかめて村紗を見る。村紗は「あれ?私やっちゃた?テヘッ」とでも言うかのように舌をペロッと出していた。船の底を塞ぐ方法は無いので、どんどん沈んでいく。
俺は村紗に抱えられる体勢で岸まで運んでもらい、船は・・・湖の藻屑となってしまった。俺が船の末路を悔やんでいると、村紗がそんな俺を見兼ねてか、話かけてきた。
村紗「誰にだって失敗はあるわよ。元気出して」
こいつ・・・誰のせいだと思ってるんだ。しかも今の言葉は完全に自分をかばってるし。俺は溜息が止まらなかった。
村紗「そんなに船に乗っていたかったの?じゃあ、
星蓮船に乗せてあげようか」
星蓮船?星蓮船と言えば前の異変のときに関わっていた船だと聞いた事がある。確か空を飛べる船だったか。
村紗「あんたの安らぎの時間を潰しちゃった事だし、特別に乗せてあげる」
まったく・・・こいつは謝る気はなさそうだ。だが、次に何処に行こうか迷ってた事もあるし、ちょうどいいかもしれない。俺は村紗の提案を受け入れた。
星蓮船乗り込み中・・・
凄いな・・・普段、俺は飛ぶ事は出来ないからこんなふうに空から何かを見下ろす事はなかった。だが、体験してみるとかなり気持ちが良かった。途中で変な傘を持った女の子に驚かされて腰を抜かしたのは俺とあの女の子だけの秘密だ。
朝にいい日の出が見れる場所まで連れていってやる。と、言われたのでお泊りする事になった。そういえば俺まだ一回も野宿してない。まぁ、泊まれる場所があるならそっちを選んじゃうけど。
俺は眠りについた。
星蓮船の舵をとる部屋で話合う人影が二人いた。一人は水兵の格好をした少女。もう一人は背中から尻尾か羽かよくわからない物を生やした少女。
ぬえ「あんたが私達以外のやつを船に乗せるなんてね。どんな風の吹き回し?」
村紗「いいじゃない。誰を乗せようと」
ぬえ「あいつは特別ってこと?村紗に好かれるとは相当ね」
村紗「・・・」
ぬえ「ねぇ、それ邪魔して(m「だめ」けち~」
村紗「いくらあんたでも許さないよ」
ぬえ「分かったわよ。まったく、恋に狂った船長ね」
村紗「(○○が変な方向に行かないように私が○○の舵をとらないと。それとも○○にはアンカーとして私という船にずっとついて来てもらおうかな?○○を船として私がアンカーになってずっと、とどめとくのもいいかも。まぁ、私の船に乗っちゃった事だし、乗船賃は貰わないとね。○○・・・)」
最終更新:2021年08月12日 04:10