東北大学SF小説研究会読書会 
三雲岳斗「M.G.H. 楽園の鏡像」


1 作者紹介 三雲岳斗

 1970年大分県生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒。1998年「コールド・ゲヘナ」が第五回電撃ゲーム小説大賞で銀賞を受賞し、デビュー。1999年「M.G.H.」で第一回日本SF新人賞を受賞、「アース・リバース」で第五回スニーカー大賞特別賞を受賞。
日本SF新人賞 1999年創設。後援は徳間書店。選考委員は小松左京、笠井潔、神林長平、山田正紀、林譲治等。この小の受賞者は三雲学斗の他、坂本康宏「歩兵型戦闘車両OO」(第3回佳作)、三島浩司「ルナ Orphan's trouble」(第4回)、八杉将司「夢見る猫は、宇宙に眠る」(第5回)、北國浩二「ルドルフ・カイヨワの憂鬱」(第5回佳作)、樺山三英「ジャン=ジャックの自意識の場合」(第8回)など。

2 登場人物

  • 鷲見崎凌 大学助手。専門は材料工学
  • 森鷹舞衣 凌の従妹。医学生。護身術の心得がある。
  • 森鷹雛奈 舞衣の母親
  • 朱鷺任数馬 宇宙ステーション「白鳳」の研究施設所長
  • 加藤優香 新婚さん
  • 加藤浩一郎 宇宙開発公社の職員。優香の夫
  • 水縞つぐみ 女優
  • 瀧本拓也 ミュージシャン
  • 瀧本芳治 白鳳の研究施設副所長。拓也の父親
  • 遠山都 芳治の助手
  • 葛城千鶴 宇宙開発公社職員
  • ヴェルダ 凌のアプリカント

3 ストーリー

伏線等拾ってきます。ページは文庫版に拠っています

序章


 P9 宇宙ステーションの中の無重力空間に墜落死体

第1章  花嫁は周回軌道を目指す

1 P15 アプリカントとミラーワールド
  P23 新婚カップルに抽選で宇宙旅行プレゼント
  P27 舞衣が勝手に送って当選してました
2 P31 アプリカントを用いて朱鷺任博士に面会を申し入れる
  P32 博士の通常のアプリカントではない?
  P33 凌のアプリカントも通常のものとは異なっている
  P38 加藤優香の前歴は職業プログラマーか理工系の研究者
  P40 加藤浩一郎は宇宙開発公社の職員
3 P48 水縞つぐみと瀧本拓也。
4 P55 地球の中心まで行くと体重はどうなるか
5 P59 宇宙ステーション「白鳳」について
  P64 エアロックの方が気圧が高い
  P65 ベルトコンベアと免振装置
  P66 ベルトコンベアで200メートル移動するのにかかる時間は2分ちょっと
  P67 居住ブロックには人口重力がかかっている
  P69 加藤優香はスキューバ・ダイビングの経験がある
  P70 部屋のドアは無重力合金で数気圧の圧力差にも耐える。ベッドカバーやソファは頑丈な難燃性の素材。

第2章 博士たちは虚空を漂う

1 P77 展望ドームとは反対側の動力部にいた優香
  P80 優香たちは知りあって三カ月のスピード結婚
  P82 優香は元理学部化学科の学生
  P84 舞衣の姉について
2 P87 エレベーターが外周に到達するまで1分。
  P89 瀧本と彼の父親との口論。
3 P94 叔母からの電話。
4 P103 ミラーワールドについて
  P105 朱鷺任博士によるハッキング
  P106 朱鷺任数馬のアプリカントはエミュレーション・モードによって動いている
  P111 凌のアプリカントも朱鷺任のものと同じ発想で作られている
  P113 朱鷺任博士はSF作家。
5 P117 白鳳の本体の素材はアルミ合金。
  P119 瀧本芳治について。還元性自己修復型高分子材料の研究で有名に。拓也の父親。
  P120 一緒に食事している女性は彼の愛人?
6 P125 無重力ホールにて
  P130 研究モジュールにて実験の見学。
7 P137 朱鷺任博士と面会。
  P140 朱鷺任が小説を書く理由。
8 P148 突然の停電。
  P149 エレベーターは本体に戻る。
  P150 原因は動力部のショート?
  P151 何かが無重力ホールの方へ。
  P152 無重力ホールには無数の血の球
9 P154 無重力ホールの真ん中に与圧服を着た瀧本博士の死体
  P156 死因は上半身全体への強い衝撃。墜落死体のような傷

第3章 素人探偵は閉鎖系を彷徨う

1 P161 加藤優香が無重力ホールに来る。
  P168 ホールには博士がぶつかった跡はない
2 P170 博士の与圧服に加わった衝撃は地上10階から落下した程度。
3 P179 博士の死の原因は不明
  P182 博士は白鳳の外に出ていない
  P187 凌に調査を依頼。
4 P193 ドッキングポートまでの所要時間は2分20秒。殺害場所は無重力ホールじゃない。
  P194  犯人は博士の遺体を無重力ホールまで運んだ?
  P198 博士を白鳳の外に放り出して白鳳にぶつけた?
  P199 移動時間が足りないためこの仮説は没
5 P200 居住ブロックのリングの回転を利用した?
  P201 殺害は可能かもしれないが、死体の運搬は不可能。
  P205 動力モジュールの外壁はアルミの地肌がむき出し。ねじ止めは行われていない
  P206 停電の原因は動力モジュールじゃない?
  P207 動力モジュールのエアロックは小さすぎて人間は通れない
6 P212 白鳳の事件が報道されている。
  P215 報道には死体が浮いている映像つき
7 P219 加藤夫妻が喧嘩?
  P221 犯人は研究ブロックから宇宙に出て、そこからドッキングポートに戻った?
  P222  その仮説だと、無重力ホールに死体がある理由がない。
  P224 犯人は朱鷺任博士? 実験施設で会った朱鷺任はアプリカント?
  P225 朱鷺任は博士のMMUを改造して白鳳の壁にぶつけた?
  P226 MMUにそこまでの加速があるのか?
  P227 舞の指輪
  P228 居住ブロックから激しい悲鳴が。
  P229 廊下を満たす白い霧。
  P230 加藤浩一郎が吐血をして死亡。優香の悲鳴は長く続いている。

第四章 シュレーディンガーの寡婦は静かに微笑む

1 P234 蒼白な表情で体を震わせる優香
  P235 優香の体温は低い
  P238 浩一郎の死因は生身で圧力の低い空間に出たときにおこる肺胞破裂
  P239 各個室は独立構造になっている
2 P247 動機は何なのか?
3 P254 浩一郎の死因は気圧の急激な低下
  P255 なぜ浩一郎だけが死んだのか?
  P263 運動とは観測者の主観に基づく相対的な概念にすぎない。
  P264 墜落したのは博士ではない
4 P266 加藤夫妻の部屋に霜が降りていた。
  P268 ビールが噴出。
5 P271 犯行方法がわかった。
6 P274 空気漏れの形跡は無し。部屋の気温も正常
  P276 瀧本博士の血液型はO、瀧本拓也はB
  P279 動力モジュールの壁について。内部の圧力隔壁と宇宙空間に露出している外壁の間に緩衝ブロック。内壁ははめ込んであるだけ。
  P280 内壁に取りはずした跡。重さは50キロほど、その裏側に瀧本博士の激突した跡が。
7 P284 犯人の動機は自分の思考を伝えるため
8 P294 加藤優香の部屋に遠山都の襲撃
  P300 舞を優香の部屋に行かせたのは彼女の自殺を防ぐため、犯人は加藤優香。

第五章 咎人の見えざる左手またはmgh

2 P307 凌の謎解き。問題はなぜ彼らがそのような殺され方をされねばならなかったのか。目的はアピール
  P308 博士が殺されたとき、スタッフと舞たち以外でホールにいたのは優香だけ
  P311 与圧服を着たのは博士自身の意思。博士もまた動力部で優香を殺そうとしていた。
  P312 博士は優香を殺して死体を白鳳の外に放り出すつもりだった。
  P313 博士はエアロックに移動する前に殺された。 
  P314 博士が壁にぶつかったのではなく、壁が博士にぶつかった。
  P315 静電誘導によって内壁を射出して博士にぶつけた。
  P316 停電の原因は隔壁に過大な電流が流れたことによるショート
3 P318 つぐみは拓也の妹。
  P320 博士が優香の研究内容を横取りしたことが動機?
  P321 浩一郎の死は圧力の高い空間からいきなり地上に出たことが原因。
  P322 個室のエアコンを使って部屋の気圧を上げた。
       優香が無事だったのは悲鳴を上げ続けて肺の空気を吐き出していたから
  P323 優香の体温が低かったのは気圧の低下によって温度が下がったため。
  P324 浩一郎が殺されたのは犯人が優香だと気づいたため。まあ、よくあることです
  P325 優香が浩一郎と結婚したのは白鳳に来るため?

終章

  P336 朱鷺任博士が死亡。

4 ガジェット

  • 白鳳 
長期滞在型宇宙ステーション。モデルはISS? 
(ちゃあしう追記:清水建設の宇宙ホテル案

  • ミラーワールド
OZの前身のような仮想世界。他の作品では「マトリックス」(THE MATRIX)など

  • アプリカント
自律型電子秘書。使用者からは独立している。
(「模造人間」レプリカント+アプリケーション?)

  • エミュレーション・モード
アプリカントが一つの人格として行動するモード。ネットワーク上では禁止

5 感想

  これぞSFミステリーという感じ。ミステリーとしてもよくできているしSF的なガジェットもよく詰め込まれている。伏線の張り方も上手いし、文章も読みやすい。「無重力の宇宙空間での墜落死体」という謎も魅力的だし、トリックも、詳しい原理はともかくとして、容易にイメージできるという点で分かりやすい。SFミステリーとしては十分傑作の部類に入るのではなかろうか。
 ただ、朱鷺任博士やヴェルダによってあらわされる「人間の存在とは?」というSF的な問いかけがミステリー部分から浮いてしまっているのがちょっと残念。もうちょっと書きこんでいくなり、いっそのことすっぱり消してしまうなりしても良かったのではないか。というわけで、この鷲見崎家シリーズの続編を強く希望します。

6 著作紹介

電撃文庫

  • コールド・ゲヘナ 全4巻+あんぷらぐど 
coldではなく、calledなので注意
  • レベリオン 全5巻
  • .i.d 
レベリオンの3年後が舞台で共通するキャラも登場。3巻まで刊行したが、現在凍結中。続刊を切に希望。
  • 道士さまシリーズ 全2巻。
息抜きに書かれたコメディ物。忘れていい
  • アスラクライン 
14巻まで刊行中。2009年アニメ化。

角川スニーカー文庫

  • ランブル・フィッシュ 全10巻+あんぷらぐど
  • アース・リバース
  • ダンタリアンの書架 4巻まで刊行中

その他

  • M.G.H. 楽園の鏡像 徳間書店
  • 海底密室 徳間書店
  • ワイヤレスハートチャイルド 徳間書店
  • 聖遺の天使 双葉社
  • 絶対可憐チルドレン・THE NOVELS~B.A.B.E.L.崩壊~ ガガガ文庫
  • カーマロカ 将門異聞 双葉社
  • 旧宮殿にて 15世紀末、ミラノ、レオナルドの愉悦 光文社
  • 少女ノイズ 光文社
  • メタルギアソリッド ポータブルOPS(シナリオ)
最終更新:2010年06月07日 12:56