1.著者紹介 アイザック・アシモフ
ハインライン,クラークと並んでSF界の御三家の一人。後のSFに大きな影響を与えたロボット三原則の生みの親でもある。また,SFの他にも化学のノンフィクションや推理小説など著作のジャンルは多岐にわたっている。
1920年1月2日にソビエトで生まれる。3歳の時に両親とともにニューヨークへ移住し1992年4月6日にエイズで亡くなるまでアメリカで暮らした。飛び級して1936年に15歳でコロンビア大学に入学,その後は同大大学院に進学し化学を専攻する。博士号を取得後ボストン大学で生化学教授の職を得る。
作家としては1939年「アメージング」誌に「真空漂流」でデビューを果たす。ヒューゴー賞を7回,ネビュラ賞を2回,ローカス賞を4回受賞している。
「バイセンテニアル・マン」と「われはロボット」は,それぞれ1999年「アンドリュー NDR114」と2004年「アイ、ロボット」というタイトルで映画化されている。
以上wikiより。
受賞作
「知識人のための科学入門」全米図書館賞ノンフィクション部門にノミネート(1961) ジェイムズ・T・グラディー賞(1964)
「ファウンデーションの彼方へ」ヒューゴー賞(1966) ヒューゴー賞・ネビュラ賞長編小説部門(1972)
「神々自身」ヒューゴー賞・ネビュラ賞(1972)
中編「バイセンテニアル・マン」ネビュラ賞ローカス賞(1976)ヒューゴー賞(1977)
「ゴールド-黄金」ヒューゴー賞(1992)
自伝「I. Asimov」ヒューゴー賞(1995)
2.本作について
1950年出版。これと短編集「ロボットの時代」によりロボット工学三原則が世に広められ,後のSFに大きな影響を与えた。
内容は,2057年,「インタープラネタリ・プレス」記者がUSロボット社のロボ心理学者スーザン・キャルヴィン博士の引退記念特集の記事のため彼女を訪れ,USロボット社の歴史を語りきく,というスタイルをとっている。ロボットが社会にあらわれ,人間が彼らをどのように受け入れてきたかの50年間の変化が彼女の口を通して連作短編と言う形で語られる。
2004年にウィル・スミス主演で[アイ、ロボット]として映画化されたが実際はオリジナルの原作を監督のアレックス・プロヤスが「われはロボット」風に練り直したもの。
3.登場人物
- スーザン・キャルヴィン……USロボット社の主任ロボ心理学者 死後はロボット工学者の守護聖人としてUSロボット社に立体肖像画がおかれる (1982-2064)
- マイク・ドノヴァン&グレゴリイ・パウエル……USロボット社の新型ロボット実地テスト担当員 人類初の星間ジャンプの経験者でもある
- アルフレッド・ラニング……USロボット社研究所の所長
- ピーター・ボガート……USロボット社の数学主任研究官
- ミルトン・アッシュ……USロボット社の技術主任
- ジェラルド・ブラック……ハイパー基地で働くエーテル物理学者(「ロボットの時代」に収録されている短編『危険』にも登場する)
- スティーヴン・バイアリイ……地方検事 市長,地区の統監を経た後 初代世界統監の地位に就く
4.各話あらすじ
ロビイ Robbie
8歳の女のこ,グローリアの子守ロボットの話。無声ロボットが一般的であり,まだ地球でのロボットの活動が許されていたロボット時代初期の状況が描かれている。
登場するロボット:ロビイ
子守用に作られた無声ロボット。当時はまだロボットの個人所有が許されていたので,グローリアの遊び相手としてウェストン氏に買われた。
堂々巡り Runaround
水星基地にパウエルとドノヴァン,それに最新のロボットSPD13号(通称スピーディ)が派遣された。基地で使われている太陽電池層を維持するため,ふたりはスピーディにセレンを採りに行かせるのだがスピーディはどこかおかしくなってしまい,セレンのプールの周りをぐるぐると回っている。ふたりは原因をスピーディに組み込まれているロボット3原則からだとつきとめる。
以下,「証拠」までロボットの3原則をめぐった混乱と解決といった,ミステリ仕立ての作品となっている。
登場するロボット:スピーディ
水星での作業に専門化された最新型のロボット。そのため第三条が強化されている。
初期のロボット
水星の第一次探検隊に使われた,大型で旧式のロボット。ロボット排斥運動をうけて,人間がその背に乗っていないと動けないように設定されている。
われ思う、ゆえに…… Reason
パウエルたちは次にソーラー・ステーション5号(
用語集)に配属された。中継ステーションの管理のための新型ロボットQT1号(キューティ)の実地テストをするためだったが, キューティがとつぜん宗教にめざめてしまう。
登場するロボット:キューティ
自分の存在について好奇心を示した最初のロボット。太陽エネルギーを地球に供給する中継ステーションの管理のため作られた。
野うさぎを追って Catch that Rabbit
新型ロボットの実地テストを任されたパウエルたちだったが,またもやロボットをめぐってやっかい事が起きる。複合ロボットDV5号(デイブ)が,人間の監督下にないとき仕事をしなくなるのだ。デイブをテストしても異常は見つからず,ふたりはデイブが複数のロボットをひとりで監督せねばならず,自律性が大きく必要とされるからだろうと推測する。
登場するロボット:デイブ
小惑星鉱山用に開発されたロボット。親ロボット(デイブ)が6台のサブロボットを監督・指揮し,作業にあたる。そのためデイブの自律性が大きく必要となり,サブロボットが6台だと緊急時に対処する際彼の陽電子頭脳に混乱が生じてしまう。
うそつき Liar!
USロボット社で作られたRB34号(ハービィ)に,なんとテレパシー能力があることが判明した。キャルヴィンとラニングらは原因を突きとめようとハービィの調査をはじめるのだが……
登場するロボット:ハービィ
ひとの心を読むロボット。そのため普通のロボットでは判らないような人間の精神的なダメージも感じてしまい,第一条にのっとって精神的に加えられる危害から人間を守ろうとして「相手の望んでいる」嘘を信じこませようとする。人間の心の機微に興味を示す。
迷子のロボット Little Lost Robot
ハイパー宇宙基地でNS2型ロボットが一台,新しく基地に到着したばかりのロボットにまぎれこんで姿を隠してしまった。基地で使われている行方不明のネスター10号は,人間から逃げつづけることで自分が人間より優れていると誇示している。NS2型ロボットは第一条のポテンシャルが極秘に緩和されており,人間に対する優越感を持っているのだ。ネスター10号を見つようと,USロボット社からキャルヴィンとボガートが派遣される。
登場するロボット:改造ネスター
ハイパー基地で使われているロボット。ガンマ線下での人間の作業を円滑に行うため,第一条のアクティブな面だけを保持するよう極秘に改造されている。
逃避 Escape!
USロボット社に合同ロボット社からある取引がもちかけられた。壊れてしまったスーパー思考マシンの代わりに,USロボット社のブレーンに星間航空用エンジンの開発を頼もうというのだ。しかし,これの回答には人間の危険というロボット工学三原則に矛盾する問題をはらんでいるため,ブレーンは軽いヒステリーを起こしてしまい 完成した船のテストにやってきたドノヴァン&パウエルふたり銀河系外へと星間ジャンプさせるという『わるふざけ』をひきおこす。
登場するロボット:USロボット社のブレーン(電子頭脳)
USロボット社の思考マシン。(幼児的)個性を与えられており,与えられた計算のジレンマにもある程度柔軟に対応できる。球体の形をした陽電子頭脳。
証拠 Evidence
市長選に立候補しているスティーヴン・バイアリイは,巧妙に作られたロボットだという主張がUSロボット社に持ち込まれた。バイアリイがロボットであるか否かをめぐって,首都はちょっとした騒ぎになる。バイアリイは大勢の民衆の前で人間を撲りつけ,すべてのロボットに課せられている三原則の第一条を破ってみせて自分が人間だと証拠をつきつけ,キャルヴィンは彼が人間だと証言する。しかし,最終的には彼女自身はバイアリイがロボットであったと思っている。
災厄のとき The Evitable Conflict
『証拠』から20年後,全世界がひとつに統合され,各地区に置かれたマシンによって世界の秩序が保たれる時代がやってきた。マシンは人間と違って誤りを犯すことがなく,ロボット工学三原則に基づいて平和な世界を維持することができると思われた。市長,地区統監を経て初代世界統監に就任したバイアリイは,しかし,ここ最近各地のマシンの指示に不調があることに気づき,これは反ロボット主義者たち<人間同盟>が誤ったデータをわざとマシンに与えて計算を狂わせ,マシンのコントロールする世界に混乱をもたらそうとする試みではないだろうかと危機感をおぼえる。だが,キャルヴィンは反対にマシンの不具合は<人間同盟>がマシンを追放するために行っているのではなく,むしろマシンが彼らの活動を抑えるためにわざと作りだしているのだと指摘する。人間の倫理規範と一致するロボット工学三原則を遵守し,機械の正確さ・公平さでマシンが人間の未来を方向づける時代がやってきたのだ。
用語とか
ロボット工学三原則
「第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
―――『ロボット工学ハンドブック』、第五十六版,西暦二〇五八年」
アシモフのロボットSFの基盤となる3原則。作品に登場するロボットにはこの3原則が安全装置として組み込まれている。
陽電子頭脳
陽電子ロボットに使われている電子頭脳。まず数学者のグループが陽電子頭脳をつくるための計算を行い,類似の計算機能を与えられた陽電子頭脳を用いてより複雑な頭脳をつくり,このできあがった頭脳を用いてまたさらに複雑な頭脳を作る……というステップを10段階経て作られる。
フランケンシュタイン・コンプレックス
創造主に成り代わって生命(ロボット)を創造したいという欲望と,自ら創造した生命に自分が滅ぼされてしまうのではないかという恐怖が入り混じった複雑な感情のこと。ロボット工学三原則はこの人間がロボットに対して抱くコンプレックスから生み出されたとされる。
6.感想
ロボットが喜んだり,脅えたり,シンデレラのお話をききたがったりとまるで心を備えているように描かれているのが面白かった。『災厄のとき』ではロボットが人間の未来を決定するという『メタルダム』など他のSF作品ではディストピアとして描かれそうな未来が示されているが,本作ではそんな未来も肯定的にとられている。それは,本作のロボットたちは『ロビイ』では大切な友人として,その後に続く宇宙開拓の物語では人間の良き(?) 同僚としてと一貫して人間のパートナーとして描かれているからだろうか。
最終更新:2018年04月20日 00:29