「SF研レジュメ『閉鎖都市 巴里』」
担当:刺身
著者
川上稔
1975年1月3日生まれ。城西大学経済学部卒業後、ゲーム制作会社TENKYに所属。ゲーム作家としての代表作は『奏(騒)楽都市OSAKA』『Twelve〜戦国封神伝〜』など。1996年、『パンツァーポリス1935』で第三回電撃ゲーム小説大賞・金賞を受賞し作家デビュー、以後兼業作家として活動を続ける。作家としての代表作は共通の世界観「都市世界」上の出来事をまとめた、『都市シリーズ』『AHEADシリーズ』。現在はGENESIS時代を取り扱った『境界線上のホライゾン』を執筆中。「先生」という呼称を嫌がっていて、ネットではもっぱら「氏」と呼ばれる。あと鈍器職人とか
ツイッターアカウントは「kawakamiminoru」 ピクシブIDは「VIRTUALCITY-Ex.」
イラスト
さとやす
川上第三作、香港以後挿絵を担当。通称やっさん。ゲーム制作会社TENKYに所属。すなわち川上の同僚。なので一般的なラノベよりいろいろと挿絵で無茶してたりもする。
登場人物
主人公。米国生まれの重騎師。アティゾール計画を調べるため1998年から1944年の巴里へと留学してくる。実家は自動人形の工房。
主人公その2。バルロワ家の自動人形であるが必要以上の進化をしていない状態だった。ベレッタと出会うことで人へと進化したいと願うようになる。
ベレッタの恋人。史実ではレジスタンス蜂起の際にハインツと交戦し戦死する。
独逸軍1の重騎師。パンツァーリッター計画により全身の義体化を進めていて、戦闘関連以外の記憶が消えている。
ロゼッタの主人。実はレジスタンスのリーダーであり、過去にA計画にも参加していた。
”主人公”であるベレッタの曾祖母。風水により連環のなか記憶を引き継いでいる。
ベレッタの親友。ユダヤ人であるが親が多額の税を納めているため独逸軍から見逃されている。泥酔女王。
あらすじ
曾祖父の残したアティゾール計画を探るため九九年の世界から四四年の巴里へと留学してきたベレッタはレジスタンスの活動に参加し、逃げる際に見つけた、九九年の地図には載っていない屋敷に逃れる。そこで出会った自動人形であるロゼッタと交流を深める。
学園祭における重騎戦において最強重騎師であるハインツからフィリップに守られ、重騎師としての自分に悩む。一方ロゼッタは人になりたいと願うようになる。
夏休みに入り、ベレッタはロゼッタを連れ、ブルゴーニュへと向かう。ロゼの家に泊まりながらアティゾール計画について調べるベレッタであったが、歴史にはないハインツのヘルデ村訪問が起き、歴史がずれていく。
ベレッタ達をレジスタンスの反乱に間に合うように帰そうとするロゼであったが間に合わず、反乱は失敗し、フィリップは戦死してしまう。またベレッタは妊娠していることが判明する。
暴れだした黒竜から村人が逃げる時間を稼ぐべくベレッタは“楽”に乗り込むが自信のなさにより押される。そこにやってきたロゼッタによって重騎師であるということについて気づき、黒竜を撃退することに成功する。
仏蘭西を開放する決意を固めたベレッタは巴里へと戻りバルロワ邸に逃げこむ。そこでジャン・ミゼールからの電信を見たベレッタはジャンに会いに行き、レジスタンスとの理解を得る。ベレッタが巴里開放のために動く中、一方ロゼッタはギヨームから自分がアティゾール計画の成果である、重騎に乗るための自動人形であることを知らされる。
巴里を開放し、言詞爆弾の奪取にも成功するベレッタだったがハインツとの戦いで苦戦する。そこへ助けるべく重騎に乗ったロゼッタが現れる。 凌駕紋章を進化させることのできるというアティゾール式自動人形の力によりハインツに勝利する。
用語
【自動人形(;ザインフラウ:Sein Frau;ベル・デ・マリオネッタ:Belle de Marionette)】
川上作品にはかかせないものの一つ。コッペリア効果により人へと進化することができる。詳しくは2作目「エアリアルシティ」にて描かれる。
【加詞筆(;ポイント:Point;アジュデ:Ajoter;フェアベッセリング:Verbesserung)】
巴里に於いて客観的な事実を確認する際に用いられる。状況を把握する為には必須だが、加詞筆をしている間、主体である自分は行動することが出来ない。何らかの行動をとるには、自分自身の認識を用いる(詞認筆する)ことが必要である。
【詞認筆(;サイン:Sign;シーニャ:Signe;レルネン:Lernen)】
巴里に於いて、自分が物事を認識する(世界を拡張する)際に用いられる。各人の詞認筆同士がぶつかった場合は、(事実として)正しい方が優先される。
【重騎(;ヘビィ・バレル:Heavy Barrel;ルール・デ・マリオネッタ:Lourd de Marionette;グレーセ・パンツァー:Grossee Panzer)】
いわゆる人型ロボ。しかし川上作品においてはあっさりやられたりすることもしばしば。この作品内でも戦車や飛行機のほうが強いと言及されている。
【凌駕紋章(;オーバーエムブレム:Over Emblem;エクシードアンブレムExceedEmbleme)】
重騎の騎体表面上に彫り込まれている紋章。重騎の有する最大最強の武器。記乗者の意志に反応し、それがある一定値を超えると紋章が周囲の流体と反応を起こし、彫り込まれた紋章にそった特殊な効果を発揮させる。
【連環(;ロンド:Rondo;メタフィジコーズ)】
ある空間内で、定められた期間が延々と繰り返されること。
【流体(;Seele)】
空間を含めあらゆるものを構成する力を持った因子のこと。空気力学の流体とは別物。眼には見えず、空間全体に水のように広がっている。その配列が組み変わることで、物体が生成される。
【遺伝詞(;ライブ:Live)】
物体や感情や行動を形作る流れ。存在を構成する流体を定義するもの。遺伝詞に携わる者以外には聞こえない、流体の持つ音律のこと。
【風水(;チューン:Tune)】
乱れのある遺伝詞を、別の掛詞を経由して整調化させること。
以下はこの作品を読むのには必要ない情報なのでスルー推奨
川上作品世界(仮)について
世界の名称 |
通称 |
世界観 |
既発作品 |
構造 |
FORTH |
前望の時代 |
現代(今、我々がいる世界) |
連射王 |
基礎世界 |
AHEAD |
前進の時代 |
近未来 |
終わりのクロニクル |
基礎世界 |
EDGE |
大先端の時代 |
宇宙 |
無し |
基礎世界 |
GENESIS |
大基盤の時代 |
ファンタジー |
境界線上のホライゾン |
基礎世界 |
ここで一度、世界が滅びる
OBSTACLE |
大障壁(害)の時代 |
無数の(多種多様な)世界が誕生・消滅を繰り返す |
OBSTACLE OVERTURE |
破壊世界 |
大障壁の時代が終わる
CITY |
都市の時代・世界 |
上記全ての世界要素が各都市に分散されて存在している |
都市シリーズ |
(現状では)絶対に壊れない世界 |
この世界観は「現代世界の延長」です。並行現代や並行宇宙ではないので注意。つまり、都市時代はずぅーっと未来の話だということ。
まず、FORTH→AHEAD→EDGE→GENESISの四つの世界は基礎世界と呼ばれ、連続しています(FORTH滅亡→AHEAD誕生~、の様な形ではありません)。そして、GENESISに於いて基礎世界が滅び、OBSTACLEの時代が終わった後、CITY時代がやってくる、という流れです。
前望の時代。基礎四大世界では最もおとなしい世界。いくらか戦争などあったものの、巨視的には概ね安定していました。無個性ゆえに、個人へと視線が向けられる時代であったようです。この世界で発生・発展した技術を旧技術と呼びます。
前進の時代。どのような経緯でFORTHより移ったかは不明。
二足歩行の機械
大型航空機
電気世界と他の星へと至る技術
異族と人体改造
これらの四大技術はこの世界の時代にて誕生しました。しかしこれらの技術は他の概念世界よりもたらされたものであり、借り物としての使用に限定されていました。FORTHの旧技術に対し、AHEADで生まれた技術を新技術と呼びます。
大先端の時代。何らかの理由で、皆が宇宙へと飛び出した時代。この時代に、AHEAD時代に生まれた新技術を徐々に自分の物にしていきました。自動人形と騎が生まれたのもこの時代です。さらに最も注目すべき点は、流体の登場です。都市世界に至るまでのエネルギーの主力としての流体は、この世界で生まれました。その後、ある一つの星系の反乱から始まった戦争によって、EDGE時代は終わりを告げます。
大基盤の時代。原因は不明ですが、この時代になると旧技術の使用が不可能になりました。それによって、AHEAD時代に生まれた新技術を完全に己のものとします。世界は一度暗黒時代まで退化しましたが、徐々にもとに戻っていきました。その後、EDGEを終わらせる原因となった戦争の再開により、GENESISは終焉を迎えます。GENESISの終焉の際の詳細は不明ですが、FORTH~EDGEまでの様な一時代区分の終了ではなく、基礎世界という枠組み自体を崩壊させる出来事とは一体どんなものだったのか? 語られる日を待ちたいと思います。
大障壁(害)の時代。元々は一つの世界だと考えられていた世界です。しかし今では、この時代に無数の世界が興亡していたことが判明しています。OBSTACLEはそれら誕生し、滅んでいった世界群の総称です。一つ一つの世界の寿命は基礎世界と同等程度あったと考えられています。世界観はそれぞれ、基礎世界の各要素に対し追加・選択を行ったものですが、それら実験的につくられた全てがことごとく滅びました。とはいえ、都市世界誕生に大きな影響を及ぼしたであろうその経緯から、「価値ある迷走時代」などとも呼ばれます。
都市の時代。都市世界。世界観としては、基礎世界の要素、OBSTACLEで生まれた全ての要素をまるごと含みます。あまりに世界が滅びまくることに業を煮やした何者かが創った、絶対に壊れることのない世界。世界を滅びに導く力を討つことができる世界。それがCITYです。実際にCITYは、これまで幾度も遭遇した危機を乗り越えて、存在し続けている模様です。
ぶっちゃけこの世界設定なんか、作品を読む上ではまったく必要ない。某五星物語のように、まだ作者の作品では描かれてないけど設定はあるよ、ってなものである。
個人的川上観
川上作品の特徴はまず、なんでもあり、である。ロボットが出てきたと思いきや竜が出てきて魔女が出てきて狼男やそういったものも出てきて・・・といった。そしてもう一つ特徴としては味方側のみならず、敵キャラもひたすらに問い、悩むということ。正直ここが長くて冗長なときもある。が、ここを超えたときのキャラ達の爆発力が読んでいて凄まじく気持ちがいい。終わクロ7巻はあの厚さのくせにこの爆発力が延々と続くため実際どこで切ればいいんだろうと思う。まあ最近ノリで厚くしすぎだろとは思うけど。
巴里感想
都市シリーズの中でもイレギュラーな作品。(というか都市はそれぞれ特徴的すぎるのだけれども)細かいとこにアラを感じることもあるけれども、川上作品の重要な要素の一つである、自動人形というものについてもっとも深く書かれている作品でもある。詞認筆とか加認筆とかわけわかんねえ?そんなのどうでもいい。ロゼッタかわいいよロゼッタ。
参考:川上稔作品大全
最終更新:2011年02月10日 19:56