「鏖殺の凶鳥 1945年ドイツ・国籍不明機撃墜事件/凶鳥”フッケバイン" -ヒトラー最終指令」
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1.作者紹介:佐藤大輔

石川県出身の小説家で漫画原作者。日本帝国陸軍中尉にして陸上自衛隊3等陸佐。騎士十字章を賜った武装SS義勇兵でもあり、『御大』の名で親しまれている。

書かない作家として有名。とにかく遅筆で、今まで完結させた長編は「征途」ただ1作だけ。漫画原作者としては90年代のミリタリー雑誌で活躍した他、現在も「月刊ドラゴンエイジ」誌で連載されている「学園黙示録HIGHSCHOOL OF THE DEAD」の原作を担当。いつ投げだすのかとファンを冷や冷やさせている。「皇国の守護者」の前例があるので何とも言えない。働け、御大。

2.時代背景

WWⅡ末期、何時まで待ってもやって来ないシュタイナーに総統閣下が激怒する少し前。

ドイツ第三帝国はまさに滅びようとしていた。西からは圧倒的物量の米英軍、東からは復讐に燃えるソ連軍が首都ベルリンに迫っている。各地で繰り返される絶望的な防衛戦。帝国を守るべき国防軍、武装SSは次々に擦り潰され、遂には老人や子供までもが前線に投入されていく。まさしく帝国の落日、神々の黄昏。

3.登場人物

  • マクシミリアン・〝マックス〝・フォン・グロスマイスター大尉
主人公。騎士道精神に満ちたプロイセン貴族の軍人。
「女性と子供に武器を待たせぬためであれば、差別主義者の汚名を甘受しよう」

  • ハラルト・〝ハル〝・オスター曹長
グロイマススターの部下。戦前は哲学を学ぶ学生だった。
下士官止まりなのは、家族に共産主義者がいたため。

  • レイラ・ウィンターボーン
イギリス人女性。グロスマイスターに気を持つ。

  • ヘルムート・ゲルトマン
ユダヤ人の学者。ドイツの核兵器開発に協力させられていた。
ノイホルスト会議の出席者。

  • ルーパート・キャロウェイ・ジュニア中尉
アメリカ人。ペーパークリップ作戦のメンバーで、《フッケバイン》を探索していた。
ロズウェル事件後に設置されるMJ-12委員会委員ハンセイカー教授の弟子。

  • ヨセフィーヌ〝ペピ〝・クニッケ
カッツェボルンに暮らす少女。ナチスの人種政策で産まれた子ども。
最終的には記憶を失い、レイラとグロイマイスターの養子になる。

  • ヴェッセルSS中尉
実質的な監視役。空気の読めぬ男。熱烈なナチ信奉者で宇宙人に心身を売り渡す。

  • ハイムマンSS少佐
ティーゲル戦闘団の指揮官。戦後はリア充ライフを送る事になる本作で一番の勝ち組。

4.ストーリー

プロローグ

1945年、ヒトラーはアイヒボルン教授を総統官邸に召喚する。空軍が正体不明機《フッケバイン》を撃墜したためだ。ヒトラーは戦局を一気に逆転できる鍵として《フッケバイン》の回収を望み、アイヒボルンもそれに同意し調査を希望する。かくて絶望的末期戦の最中、貴重な戦力を動員しての回収作戦が開始される事になった。

第1章 墜落地点


南東ドイツの田舎町カッツェンボルン。連合軍からも見逃されている平穏なこの街にユダヤ人を連れた親衛隊が迷い込んでくる。彼らを放置しておいては災いを招くと考えた民間防衛隊長は彼らが求める燃料を渡す代わりに郊外に墜落した機体の確認を頼み込む。しかし、機体を偵察に行った彼らはどこか異常な様子で帰ってくるとユダヤ人の技術者や住人を連れて再び機体のあった場所に戻ってしまった。

帝国本土。グロスマイスターは降下猟兵を率いてソ連軍から兵站路を守っていた。幾度かの攻勢を跳ね返しても何時かは全滅する外ない状況だったが、危ういところで転進命令が入る。その裏には親衛隊の陰謀があった。新たな命令は、SS隊員と共にカッツェンボルンに墜落した航空機を確保する事。輸送ヘリでの移動中に犠牲者を出しつつもグロスマイスターらはカッツェンボルンに進出する。

第2章 回収作戦


グロスマイスターらは町長や住人からSS隊員の失踪と彼らの奇妙な挙動を知る。さらに回収対象である航空機は通常では有り得ない動きをしていたという。そして、墜落現場に赴いた彼らが見た物は、航空力学を無視した皿型の奇妙な機体だった。ヴェッセルSS中尉はグロイマイスターの忠告にもかかわらず不用意に機体に接近し、ゾンビ化したSS隊員やユダヤ人に捕まってしまう。彼らを敵と見なした降下猟兵は軽機関銃で異形者を攻撃するも効果は薄く、回収を断念して街に撤退する。

第3章 街


グロスマイスターは異形者がソ連軍の使用した細菌兵器の犠牲者と町長に説明し、住人を修道院に避難させようとする。しかし街に入り込んだ異形者が避難民を襲ったため、生きて修道院に辿り着いた者はわずか。降下猟兵も異形者との戦闘で数を減らす。無線が繋がったスコルツェニーからティーゲル戦闘団到着までの現状維持を命じられたグロスマイスターは窮余の策として生き残りの住人に武器を武装させて異形者を迎撃、夜が明ける頃には一時の小康状態を得る。

第4章 フッケバイン


キャロウェイとゲルトマン教授から、《フッケバイン》の正体が宇宙人の乗物であると明かされる。宇宙船が故障した彼らは修理のための資源を求めてカッツェンボルンを訪れたのだ。彼らとの友好的接触は不可能と断言するゲルトマン教授は《フッケバイン》の破壊をグロスマイスターに懇請。合衆国軍人であるキャロウェイも協力を申し出たため、グロスマイスターは彼を伴って墜落現場に出発する。

降下猟兵を支援するために移動していたティーゲル戦闘団が現場付近に到着するが、同じく異星人のテクノロジーを狙っているソ連軍と交戦。しかし、彼らはキャロウェイの要請で飛来した爆撃機ともども《フッケバイン》の攻撃で壊滅してしまう。さらに《フッケバイン》回収は困難と見た親衛隊はカッツェンボルンにV2号を打ち込み目撃者の抹殺を図る。

混沌とした状況の中、グロスマイスターは単身《フッケバイン》に乗り込む。そこにいたのは奇妙な姿の宇宙人とヴェッセルSS中尉だった。異星人は今までの行いを謝罪し賠償について話し合う用意があると語りかけてくるが、グロスマイスターは精一杯の皮肉と拒絶でそれに応じた。

エピローグ 後日


主人公らの戦後が語られる。ドイツは敗北しカッツェンボルンが復興する事はなかった。そして「フッケバイン作戦」に関する資料は1962年以来行方不明になっている。

5.用語

  • 《フッケバイン》

シベリアに墜落した宇宙船の救命艇。宇宙人が乗り込んでおり、修理に必要な資源を求めてカッツェボルンを訪れる。常識を超えた機動力と武装を有する。

  • UFO

未確認飛行物体の略。一般的には『宇宙人の乗り物』の意で使用される。WWⅡにおいて、連合軍は「フーファイター」と呼称。ドイツが円盤状の航空機を開発していたと主張する歴史修正主義者もいる。詳細は801先生を参照のこと。2009年、イギリス軍は有益な情報が寄せられてこないとの理由でUFOホットラインを閉鎖した。

  • 〝異形者〝

宇宙人の機械によって個人の意思を吸い取られ、電気的な信号でコントロールされている人間。とにかく丈夫で力が強く、頭を潰すまで動き続ける。労働力としてカッツェボルンの人間を襲う。要はゾンビ。

  • 秩父の事件

詳細不明。日本軍が宇宙人と交戦、何らかの方法でUFOを破壊したらしい。

日本軍においてUFOは『発光体』と呼ばれており、陸軍登戸研究所が研究を担当した。1945年には、関東において大規模な『発光体』捕獲作戦が実施されたが、失敗。戦後、GHQが生き残った関係者を尋問したものの、その最中に関係者が自殺したため作戦の詳細は闇の中である。

  • マジェスティック‐12

ロズウェル事件後、米軍内に設置されたとされる委員会。キャロウェイの師匠ハンセイカー教授はこの委員を務める事になる。グレイを装ったミ=ゴとも取引しているらしい。

  • オットー・スコルツェニー

親衛隊の将校。映画のような人生を送った人。ムッソリーニ救出やグライフ作戦などを手掛けた特殊作戦の専門家で、仇名は『ヨーロッパ一危険な男』。全くの出鱈目だが、アイゼンハワーの暗殺を計画しているとも噂された。戦後はUFOに乗って民間人の前に降り立ち、パンを買ってくるよう頼んだとの逸話がある。

  • アドルフ・ヒトラー

ドイツの独裁者。野菜しか食べない草食系男子。愛称は『伍長閣下』

6.感想

佐藤大輔が佐藤大輔の作品で部会をやってみたかった。反省はするが後悔はしない。

ミリタリー+SFで、かなり楽しめた。あちこちに挟まれる小ネタが楽しい。究極まで科学を進歩させた宇宙人がSSと意気投合する描写は作者らしい皮肉ではなかろうか。

これだけ楽しい作品が書けるのだから、佐藤大輔はとにかくもっと書くべきである。
最終更新:2011年01月25日 21:33