東北大学SF小説研究会読書会 
シオドア・スタージョン「輝く断片」


1 作者紹介 シオドア・スタージョン(1918/2/26~1985/5/8)

アメリカ合衆国のSF作家。元々は空中ブランコのりに憧れていたが紆余曲折あって1938年SFでも幻想小説でもないなにかを雑誌に売ってデビュー。のちにアスタウンディング誌にて初のSF作品Ether Breatherを掲載。当時はE・ウォルドー・ハンターと名乗っていた。1950年代にはSFアンソロジーというと大体スタージョンが参加しており、この時代が絶頂期だという意見が多い。また、エリスンやディレイニーに影響を与えているとされ、ブラッドベリは影響の受けた作家に彼の名前を上げている。意外なことにスタートレックやトワイライト・ゾーンの脚本を書いていたりする。エラリー・クイーンのゴーストライターをしたこともあったり。

2 1.スタージョンの法則

スタージョンと言えば、スタージョンの法則が有名なので独立した項目として解説。
正式にはスタージョンの黙示と云われる。実は2つあり、そのうちのひとつが、
「常に絶対的にそうであるものは、存在しない」("Nothing is always absolutely so.")
であるが、あまりにも、もう片方が有名のためほとんどは、
「どんなものも、その90%はカス(crud)である」
の事を指す。そもそも1972年のデイヴィッド・G・ハートウェル(David G. Hartwell)との対談で初めて言及され、ある雑誌にその様子が掲載された。引用すると、
私はスタージョンの黙示を繰り返す。これは、私が20年というもの、SFを人々の攻撃からひぃひぃ言って守ってきた経験から絞り出されたものである。奴ら(訳注:SFを攻撃する人々)はこの分野における最低の作例を引っ張り出しては叩き、SFの90%はカスだと結論付けた。
その後ほかの機会に、このようにも発言している。
「最低の作例を引っ張り出しては叩く」という悪意の攻撃に対して、自分から直接反撃しているのだ。90%のSF作品をゴミカス扱いするのと同じ基準を用いれば、映画、文学、消費材などその他あらゆるものの90%も同様にゴミである。言葉を変えれば、「SFの90%がカスだ」という主張ないし事実のもつ情報量はゼロである。なぜならば、SFは他の芸術/技術の産物と同様の質的傾向を示しているに過ぎないからである。
これを見ればわかるように、ただSFの90%をあえてカスと言っているわけではなく、世間や文壇でのSF批判を受け「どんなものも、その90%はカス(crud)である」と結論付けたのである。だが現代では割と拡大解釈がされがち。
また、現代文芸に関するパネルディスカッションに参加した際、某大学英文学の教授が、面と向かって「SFの90%はガラクタだ」との発言に対し「どんなものでも9割はガラクタ(crap)だ。」と言い返したことを初出だという意見も存在する。

3 ストーリ-


取り替え子

子供のいない若い夫婦に亡くなった伯母から莫大な遺産が転がり込んできた。しかし、相続するためには条件があったのだった。それは「赤ん坊の面倒を見られる」というもので、二人は伯母の妹ジョンクィルに実際に赤ん坊の面倒を見られると証明しなくてはいけなかった。だが夫婦がすぐに赤ん坊を用意できるわけでなく途方に暮れていたその時。川から一人?の赤ん坊がどんぶらこっこどんぶらこと流れてきたではありませんか。

取り替え子

英語だとチェンジリング、映画のあれと同じです。
本来はヨーロッパ圏の伝承のひとつで妖精のブラウニー(日本でいう座敷わらし)が赤ん坊を妖精の国にさらって、その代わりにそっくりな赤ん坊を置いていくというものである。そして、連れ去られた赤ん坊は妖精の国で永遠の命を得るが代わり身のほうは病弱ですぐに死んでしまう。みわける方法はオーブンに突っ込む、木ノ実のから(卵のから)でビールを醸す、シャベルに乗せて火で炙る、ジギタリスを煎じた風呂に入れるなどがある。これによっていく人かの本物であろう赤ん坊が実際に亡くなった。
伝承なだけバージョンが多数あり、代わり身がただの木の切れっ端だったり、むちゃくちゃ頭がよかったり、トロールの娘で普通に成人したりする。

ミドリザルとの情事

社会復帰の専門家のフリッツとその妻アルマが散歩をしていると、半殺しに
されている人物を発見。ただちに確保し病院に連れていこうとアルマが言うのだが専門家として断じてならぬとフリッツが言い張り二人の自宅で養良をすることになる。フリッツが主出張している間にすっかり回復し、その勢いでアルマといい雰囲気になるのだが。

ミドリザル

サバンナモンキーの別名。アフリカ南にはウジャウジャいるので実験動物として利用されている。ミドリザルといっても、消して緑ではなく普通のサル。強いて言えば、学名で日焼けしたサルというだけ顔が黒い。
緑色のサルはいないのかと思ったら、ちゃんといました。中国で緑色蛍光タンパク質をもったサルが遺伝子組み換え技術で誕生、ちょうど今月頭くらいです。まさにミドリザル、野生に出たらいじめられることでしょう。ちなみに発光した姿がデスラー閣下にそつくりだとのもっぱらの噂。

旅する巌

文芸エージェントのクリスは、巷で話題の傑作「旅する巌」の作者ワイスに会うため、はるばるワイスの自宅までやってきた。あれだけ高尚な作品を書くのだから相当善良な人物であるだろうと思っていたのだが、彼の自宅に着くやいな、狙撃されかける。銃を構えていたのはワイス本人。そこにはただ醜悪な男が一人孤独な暮らしをしていただけだった。

文芸エージェント

日本ではないであろう職業の一つ。出版社と作家の仲介をする職業である。簡単に言うと作者つきのマネージャーで、まず作家志望の人は文芸エージェントと契約をむすび、作品を書く。そしてエージェントが構成をし、出版できるレベルであれば出版社に売り込みにいくという仕事ないようである。

君微笑めば

たまたま歩いていると、懐かしい奴にあった。昔いじめていたヘンリーだ。こいつはバカで考えることもできず、これといって運動もできるわけじゃない。正に穀潰し。まあ、そんなやつだからこそ、何をあいつに話しても問題ない。誰にも言わないし考えてもろくな答えもでてきやしない、一方的にしゃべりっぱなしで構わないんだ。久しぶりにあったんだ、今夜は取っておきの話を話してやろうじゃないか。

ニュースの時間です

本日もニュースの時間がやってまいりました。今日のトピックスは、本日逮捕された殺人犯マクライルの過去に迫るです。彼は、4人を殺害し逃亡した殺人犯として本日づけで逮捕されました。関係者の情報によると、この彼は妻子持ちの会社務めで趣味はニュースを聞くことと、そして毎日届く新聞。家族はもちろん他人にも好かれるような非常に善良な性格だったそうです。そんな人がなぜ4人もの人を殺すことが出来たのでしょうか、その彼になにが起こったのか。我々は彼がかかっていたという精神科医にコンタクトすることに成功しました。それでは、VTRをどうぞ。
「おかしくなった彼を直してほしいということで私のところに依頼が来ました。話を聞くところによると、ある日を堺に消息がつかめなくなったということでした。どうやら、消息を絶つ以前から少しおかしなことをしていたようです。たしかニュースに異常なほど関心を示していただったかな。まあ、そんな話を聞いているとこれは一代の大仕事だという気がしてきまして彼を捜索することにしたのです。あらゆる手段を駆使し、ついに見つけた彼のもとに私は向かったのですよ。そうしたら、そこは断崖絶壁縁に立った小屋でした。彼はそこで音楽を楽しみ、陶芸をし、ある種理性と言えるような生活をしていましたよ。ただ彼は会話ができなかった。言葉を発することが出来なかったのです。なので、私は暗示を施し彼を以前の状態に、話せるし善良だったころの彼に戻してあげました。そう彼はちゃんと正気になったはずです。ああ、結局なぜ彼がそんな生活をしていかはわかりませんでしたよ。こんなことになる前にどうにかしてやりたかったものです。そして、あんなことをする前にもね。」

以上がVTRでした。コメンテーターの高梨さん?はい、精神科医なんてまゆつば物だと。ふむ。ありがとうございました。それではCMのあとも引き続き真相を解明していこうと思います。

オフィクレイド

金管楽器で1800年頃から作られた。この楽器が改良され続けた結果がチューバである。現在入手しようとすると需要がないのでむちゃくちゃ高価。新品を作っているところも一箇所だけある。ビンテージものだと60万円近いが楽器なら高価な楽器レベルではある。


誰が為に鐘はなる

ヘミングウェイの小説ではなくイングランドの詩人であり後にカトリックの司祭となったジョン・ダンの詩をもした説教。ヘミングウェイも彼の詩からタイトルを頂戴した。

マエストロを殺せ

バンドラッチ・クロフォードのMC謙ミキサーのフルーク。彼はリーダーであるラッチを憎んでいた。何もかもたやすく手に入れてしまうラッチ。そしてそれを誇ることもない。他人にチャンスを譲り自分は常に一歩引いていた。何もかもが完璧。そんなラッチをフルールは恨んだ。醜悪な姿が故、徴兵をまぬがれたフルークには憎くて仕方なかったのだ。そしてある日ラッチを殺してた。殴って錨をつけて水底へと放り込む。誰にもバレることはなくそつなくやって退けたのだった。ラッチからの開放を喜ぶフルークだったが、ラッチはいまだ彼を縛り付けていた。バンドはラッチそのものだったし、死んだあとでも誰もがラッチ、ラッチとつぶやいていた。


ルウェリンの犯罪

ルウェリンは現在一人の女性と同棲している。ただそれは恋人でもないし、ただ一度過ちを犯しただけの関係はあるけど、一緒にいたほうが便利だからいるだけ。日常生活もなにもなくただ毎日同じことの繰り返し。あいつは経験なんてないんだぜと会社の後輩からばかにされるしまつ。それでも良いと思っていた、それは一回の罪があったから。しかし、なんということか彼には罪なんてなかったことが判明した。これを機に一念発起。黒い箱とその部下の4枚の紙に惑わされながら、なんだかわからないけど罪というものををつくろうとするのであった。頑張れルウェリン、君なら出来るさ。

黒い箱

すべての元凶にしてルウェリンを苦しめた4枚の紙が封じ込められてる。

婚姻届

知らないうちに結婚してることがあります。また、結婚していたと思っていたら実はしてなかったということもままあります。とりあえず重婚は悪いことだからやめましょう。

有価証券

非常に価値のあるものです。しかし、人のものを持って行くと怖い人がやってきます。

小切手

小さい額をいちいち切ってると店長にきれられます。当座口座にお金を移さないとやっぱりきれられます。

死亡診断書

これがあると法的な証拠になります。水には溶けないのでトイレには流さないようにしましょう。

輝く断片

醜い姿に要領の悪さ、用なし用なしの罵られた齢53の男が一人。ある日、外で血を流しながら倒れている女性を発見する。部屋に運び介抱しようとするが明らかにヤバい傷。いまさら救急車なんて呼べないので、独断と偏見と要領が悪いながらも器用な手先で手術を決行する。その後も辛抱強く介抱しつづけた結果、なんと女性が起き上がるまで回復した。そのあとから始まる新生活に胸がドキドキ!

サルファ・チア・ジアなんとかウム

多分サルファ薬のなにか。サルファ薬は合成抗菌剤・化学療法薬の総称。ハンセン病に用いられるものもある。サルファ軟膏が手術で詰め物に使われるという記事があったので、割と間違ってなかったのかもしれない。

6 感想

まとまったテーマがある短篇集です。大森が言うように後半のにつれそのテーマが浮き彫りになっています。真面目がゆえに異常であるという点で一貫した主人公。特にルウェリンの犯罪に関しては、やっていることはまるっきりコメディなのに切り口は斬新、ばかばかしくもメーッセージが込められたものになっています。
作風はSFというより幻想小説とSFを足して二で割った感じですが、過去においてのSFの地位向上、影響を与えた作家などを見てみるとたしかにSFといえるではないかと思います。
最終更新:2011年02月09日 02:51