東北大学SF研究会 読書部会
『復活の日』 小松左京

著者紹介

 言わずと知れた日本SF界の巨匠が一人。
 代表作に『日本沈没』『復活の日』『さよならジュピター』『首都消失』など。 
 1931年大阪市に生まれ、4歳で兵庫県西宮市に転居しそこで育つ。第一神戸中学校(現・県立神戸高校)、旧制三高(ただし学制改革により一年で終了)、京都大学イタリア文学科卒業。大学在学中日本共産党に入党するがソ連の核兵器開発に不快感を示し離党。大学在学中は漫画も発表しており『おてんばテコちゃん』『イワンの馬鹿』等を雑誌に掲載している。 
 ハヤカワSFマガジン創刊号で知ったロバート・シェクリイ『危機の応酬』に衝撃を受けSF作家を志向。1963年の日本SF作家クラブ創設に参加、後に第三代会長。会長を務めていた時には徳間書店「日本SF大賞」を創設。 
 SFに限らず多くの作家団体、政治運動等に所属した事でも知られる。ヘビースモーカーで健康な時には一日2~3箱空けていたという。2011年に肺炎のため死去。享年80歳。 
 作風としてはかなり多岐に亘るためここでは割愛するが、個人的には当作品や『日本沈没』のようなパニックSFもの(?)が特に有名であり、その描写力、またその描写のための資料収集・調査の緻密さが凄まじいと感じる。

主要登場人物

 吉住周三 
 主人公で、日本の南極探検隊員。地震学に精通し、高精度な地震予測理論に則って北米での巨大地震を察知する。ARSによる第二の「世界の死」を防ぐためワシントンD.C.に赴くが失敗、その後徒歩で北南米を縦断し南米大陸南端の地で生き残っていた人類の元へ帰還する。 

 カーター少佐 
 米軍少佐。ホワイトハウスに精通する人物として吉住と共にワシントンD.C.に赴く。 

 ガーランド将軍 
 狂気的な反共軍人。ARSを開発・配備し、死の間際にARSを起動させる。 

 カールスキイ教授 
 BC兵器を開発する科学者。MM-80系列の恐ろしさに戦慄し、自らの師であるライゼナウにワクチンの開発を依頼するため、MM-88を裏取引に託そうとするが・・・ 

作中用語解説

 MM-88(リンスキイ・バクテリオウイルス) 
 人類を絶滅寸前へと追いやった生物兵器(ウイルス兵器)。一般には「チベットかぜ」として認知される。宇宙空間から採取されたウイルスを元にカールスキイ教授によって開発された。ブドウ球菌様細菌(WA5PS)に寄生し、核酸(ライゼナウ核酸)の状態で増殖、感染する。 

 ARS(Automatic Revenge System) 
 熱狂的な反共主義者であったシルヴァーランド・元合衆国大統領とガーランド将軍によって開発された全自動報復装置。ソヴィエトの核攻撃或いはそれに類する脅威を検出したとき自動的にソヴィエト領内へ核ミサイルを発射する。ソヴィエトにも同様なシステムが存在し、それらの一部は軍事転用の可能性が高かった南極の米国基地を向いているということが明かされた。 
 

あらすじ

第一部:災厄の年 
  • 第一章 冬 
リンスキイ教授は自ら研究していたB兵器、MM-80系列のワクチン開発を師であるライゼナウに依頼するためウイルスを闇取引しようとするが決裂。ウイルスは取引の材料として持ち出されてしまう。そしてウイルスを輸送する木製飛行機がアルプス山中に墜落してしまう。 
  • 第二章 春 
感冒(流感)の流行、小児マヒの流行、「ポックリ病」・・・少しずつ生物兵器の脅威は人々に迫ってくるが、気づく人は少ない。 
  • 第三章 初夏 
生物兵器研究者をはじめとした人々は何が起こっているかに気付き始めるが、時すでに遅く、事態は破滅へと向かっていく。それは南極探検隊基地へも伝わっており、彼らと日本最後のハムとの交信はあるコールサインを呼んでくれという言葉で途切れる。その無線局からは南極における対応会議が吹き込まれていた繰り返しテープが聞こえたのであった。 
  • 第四章 夏 
ホワイトハウスはついに首脳の全滅を目前にして、大統領がARSの廃棄を決意するが、熱狂的反共軍人であるガーランドによって阻止、ARSのスイッチは入れられてしまう。そしてついに、南極の人々を残して人類は絶滅し、騒がしかった地表は数万年前の静寂へ戻った。

  • インテルメッツォ 
南極で生き残った人々は、南極で独自の共同体を成立させ、食糧問題、性の問題・・・さまざまな問題を乗り越えながら共同生活を開始していた。 
 
第二部:復活の日 
  • 第一章 第二の死 
地震学者である吉住によって、北米での巨大地震発生を察知する。そして米軍属であったコンウェイ提督・カーター少佐によってARSシステムの全貌が語られ、ソ連軍属によってそれに対抗するシステムの存在、そしてそれが南極の米国基地を向いているという公算が高いという衝撃のシナリオが明かされていく。吉住はワシントンD.C.のARSシステムを巨大地震発生前に停止させる決死隊に志願し、くじ引きによって決定された。 
  • 第二章 北帰行 
ワシントンD.C.へ向かう原子力潜水艦の中で、吉住はド・ラ・トゥール博士よりリンスキイ核酸を駆逐し無毒である可能性が高いMM-88変種を発見したとの報告を受ける。それを注射し、ワシントンへ向かうが、地震によるARS作動を止めることはできず、カーターは蝮に噛まれた毒が回り死亡する。吉住は核ミサイルのワシントンへの着弾を、カーターの亡骸と共にじっと待つのであった。
 
エピローグ:復活の日 
件の変種のお陰か、吉住は生きていた。徒歩で北南米大陸を縦断した吉住は、南米大陸南端に移住した人類と再会する。

所感

 いわずと知れた日本パニックSFの傑作である。特に、ただ単純に人類の滅亡過程を描くのではなく、はじめ鳥類が死滅することでワクチン用の鶏卵が不足するという伏線、ただのインフルエンザだろうという油断が引き起こす対応の遅れ、特に日本の描写においては無駄だとわかっていても病院に並ぶ人々、感染に怯えながらも出社する姿の描写などは社会派小説といっても差し支えないような鋭い観察と描写が凄まじいと思った。「人類が軽視したインフルエンザが人類を死滅させ、人類が恐れおののいた核兵器が人類を救う」という結末は第一章最後のラジオ講義の中にもに現れているような「何でも見通せると思っている人類に対する批判(というより皮肉)」のように受け取られた。 

平野
最終更新:2017年11月10日 23:08