ウロボロスの波動 林譲治 by セイコーマート
作者略歴
1962年北海道生まれ。臨床検査技師を経て、1995年、『大日本帝国欧州電撃作戦』(共著)で作家デビュー。『焦
熱の波涛』シリーズ、『兵隊元帥欧州戦記』シリーズなど、確かな歴史観に裏打ちされた架空戦記小説で人気を
集める。2000年以降は、科学的アイデアと杜会学的文明シミュレーションが融合した作品を次々に発表し、新
時代ハードSFの旗手として期待を集めている。
代表的なSF作品:『記憶汚染』『機動戦土ガンダム MSイグルー 1年戦争秘録』
本策の続編にあたる『ストリンガーの沈黙』
「林の項」
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各話あらすじと登場人物
ウロボロスの波動 A.D.2123
人工降着円盤開発計画の第一歩となる<チャンドラ・セカール・ステーション>を建設するため、<カーリ
ー>の周囲に設けられた半径2025kmの環状構造物<ウロボロス>。そこで予想外の事故が発生し、一人の
科学者が命を落としてしまった。事故の原因は、彼白身が<ウロボロス>を司る人工知能<シヴァ>に施し
た改変にあるらしい。やがて隣接する宇宙ステーション、<アムピスバイナ>に対する一連のトラブノレに端
を発し<シヴァ>は人間に理解できない行動を取り始めた。そこでキャサリン原因究明に動く。人間とAI
の知性のすれ違いを描いている。
キャサリン システム管理部門
チヤツプマン博士 トロッコで死んだ人
達也 <アムピスバイナ>乗員。チーフ。
黒川 <アムピスバイナ>乗員。
小惑星ラプシヌプルクルの謎 A.D.2144
人工降着円盤からのエネルギー転送実験のため、小惑星ラプシヌプルクルの表面にマイクロ波受信アンテナ
が構築された。だが、実験開始からほどなく、ラプシヌプルクルが突如不可解な回転を始めたのだ。予期せ
ぬ回転によって生じた遠心力で、アンテナモジュールは破壊されてしまった。しかも、ラプシヌプルクノレか
らは正体不明の電波が発信されていた。そこでAADDの危機管理部門ガーディアンが調査に向かう。結局は
初期の探査ミッションの影響だとわかる。
ヒドラの氷穴A.D.2145
火星とその衛星ダイモスを結ぶ軌道エレベーター<通天閣>の厳重な警戒を突破し、地球からのテロリス
ト・ラミアが火星に降り立った。その目的はAADD総裁の暗殺だと思われたのだが、ラミアはなぜか標的の
到着するダイモス宇宙港から遠ざかり、<ヒドラ氷穴>へと向かって行く。その真の狙いがわからないまま、
神田紫蘭率いるAADDの警備チーム<ガーディアン>はラミアを追跡するが
ミステリ仕立ての作品。また、ラミアと神田紫蘭それぞれの視点から交互に描かれることで、地球圏と
AADDの対立構造や価値観の相違が明確になっていく。
神田紫蘭 AADDガーディアンチーフ
ラミア テロリスト
落合哲也 AADD総裁
エウロパの龍 A.D.2149
<ウロボロスの波動>にいた黒川がまた登場する。ようやく完成しつつある人工降着円盤からのエネルギ
ー転送システム。その実験の一環として、木星の衛星エウロパを覆う氷に直径100mの孔が穿たれた。氷の
下の海中で、生命の存在を探し求めるという計画なのだ。だが、送り込まれた潜水艇<ソードフィッシュ>
は、龍のような巨大生物に襲われ、消息を絶ってしまった。直ちにもう一隻の潜水艇<コバンザメ>が探索
に向う。地球外文明探査ロボット<サケ>と龍の正体のコロニーとのやり取りから生命と意識について考え
ている。
エインガナの声A.D.2163
冥王星の軌道よりも外側、太陽から90天文単位離れた場所で、宇宙船<シャンタクニ世号>は倭小銀河
<エインガナ>の観測を行っていた。だが、地球圏との戦争の危機を告げるメッセージが送られてきたのを
最後に、太陽系からの通信が突然途絶えてしまったのだ。船内では、AADDのメンバーと地球圏から派遣さ
れた科学者たちとの間の緊張が次第に高まっていく。極限状況の宇宙船内で何が起きるのか、異なる価値観
の間での比較。話の流れ上AADD側の視点のみ描かれているのが残念。ついに本格的なニュータイプが出て
くる。
翔鳥 ガーディアン幹部
アトウッド博士 プロジェクトリーダー。アグネス・マフィア。
ウェイトリィ 博士地球側科学者。
マリア寺西 上に同じ。
キャリバンの翼 A.D.2146~2171
とりあえず、読み進めていくうちに<ヒドラの氷穴>のラストでのラミアの選択がわかる。2146年、<カ
ーリー>エルゴ圏に500兆個のナノマシンを打ち込み、エルゴ圏内部のデータを収集するという実験が行わ
れた。得られたデータは意外なものだったが、プロジェクトに支障を来すという理由で再実験は見送られ、
実験を計画した17歳のアグネスは<ガーディアン>の紫怨に不満をぶっけ、密かに暴走しようとする。だ
が、それを止めたのもまた紫怨だった。そして25年後、有人恒星間探査が実現に近づいてきたその時、ア
グネスの弟子のアグリが構成間宇宙船をのっとりただ一人旅立っ。最後のエピソードは単発の事件ではなく、
25年の長きにわたってAADDの科学者アグネスを迫い続ける作品。いままでの作品のストーリーがすべて
帰結する。
アグネス AADDの科学者。
紫怨 見事砂漢を走破し、改心後のラミア。
アグリ アグネス・マフィア。紫蘭の娘。
考察
どこがそんなに画期的なのかよくわからないが作者は強調したがっている節が随所に見られる。管理や意
思決定も」つの仕事として他と変わりないというのは単にビジネスライクなだけじゃないかと。宗教がない
というのもお決まりのパターン。宇宙に個人として向かい合うときそ二に神は存在しない。ただ、作者は仮
想戦記ばかり書いているのでその辺現実を折り合いがっいていないのはしょうがない気がしないでもない。
毎日、太平洋戦争を戦っていたら軍隊組織以外の組織は珍しいのかもしれない。ただ、軍隊でもある^DD
がこれほど柔軟性をもった組織であるというのは特筆すべきことといえなくもないかもしれない。ただ、全
体主義的な感じもする。
地球人とんへDDの人間との違いを大きくしているアイテム。地球人はコレを使って通信されるとすこぶる
気分を害されるらしい。この機器からのアクセスも^DDの組織の特徴の一端になっている。
随所に知性というものについての考察があるが、ウロボロスの波動の「シヴァ」やエウロパの龍の「サケ」
とコロニーの関係、そしてアグネス・マフィアを代表とする人間の知性の変化が随所にちりばめられていて
時系列に作品が配置されているのはそれを効果的にするためでもある。
解説に古くて新しいSFなんてあるが、各話は大体元になった話があるようで、結局作者はこの話で何が
やりたかったかというと最初はAIと人間のすれ違いかとおもいきや全編読むとそれらはすべてニュータイ
プについて書きたかったためにガジェットであるとわかる。作者略歴にもあるがガンダムの小説もいくつか
書いているらしい。宇宙に出て人間はどう変わるのかは昔から不変的なテーマではあるがAADDの活動を通
して時には地球人と絡ませながら描いている。序盤の作品はそれほどニュータイプ的な感じはせず、その違
いの強調が不自然に映るほどだったが、アグネス・マフィアの登場により本格的にニュータイプ化した人類
が描かれている。アトウッド博士の地球人側の陰謀をすべて看破していたにもかかわらずAADD側のスタッ
フに教えなかったりする感じが代表例。ただ残念ながらガンダム的なドンパチ強かったりするニュータイプ
は出現していない。
最終更新:2019年03月26日 00:02