2005/02/04 ラノベ研読書会レジュメ
「眠り姫」 貴子潤一郎 富士見ファンタジア文庫
<作者について>
富士見ファンタジア文庫 第14回ファンタジア長編小説大賞受賞作家。14回の歴史の中で大賞受賞作は、五代ゆう「はじまりの骨の物語」(第4回)、滝川羊「風の白猿神」(第6回)、 貴子潤一郎「12月のベロニカ」(第14回)の3作のみ。
既刊は「12月のベロニカ」(2003/01)と「眠り姫」(2004/10)。
あとがきによれば「投稿時代にはファンタジー、中間小説、純文学と色んなところに投稿」したらしい。特にジャンルに拘らないその姿勢は、本作の「バリエーションの豊かさ」に反映されている。
<各作品について>
Ⅰ.「眠り姫」
前作である「12月のベロニカ」の外伝。眠り続けるヒロイン、それを待つ主人公という枠組みを現実世界に持ち込んで描いている。
バラードは「結晶世界」しか読んだ事が無いので、「濃縮小説」についてはパス。調べた所によると「残虐行為展覧会」という作品がその手法で書かれているらしい。内的風景とテクノロジー社会の風景が重畳交錯するメタフィクション、ということになっているが、本作とどう関連するのかはよく分からない。ブツ切りで書いてあるということだろうか?
「ジェニー神話」との関連性。
バセドウ病:原因は甲状腺刺激ホルモン受容体に対する自己抗体によって、甲状腺ホルモンの分泌が上昇すること。ブラック・ジャックにも登場した事がある。症状は本文にもある振戦や、易疲労感、微熱など。特徴的な所見として、眼球突出、甲状腺の肥大、頻脈がある。しかし、過度の傾眠傾向は見られない筈。むしろ不眠が見られる。この場合の診断名は反復性過眠症が適当だと思う。反復性過眠症は食事とトイレの時には覚醒するのだが…。
Ⅱ.「汝、信心深き者なれば」
ヒューゴのキャラはサド風味。瀆神行為をするのも、その辺りが由来の様な気がする。
アンナがルイに与えたものとは何だったのだろう。身体ではないのなら、悪魔に対する信心なのだろうか?最後のオチは森奈津子っぽい。
徐々に、現実が侵食されていく様子の描き方が巧みである。机、順位、エルマ、王の変化。
ルイはインキュバスである。澁澤龍彦の「黒魔術の手帳」によれば、ラテン語のcuboは「寝る」という意味で、インキュバスは「上に寝る者」、「サキュバス」は下に寝る者の義である、とのこと。
Ⅲ.「さよなら、アーカイブ」
架空の書評というアイディアには、レムの「完全な真空」だとか、ボルヘスの「ブストス・ドメックのクロニクル」といった前例がある。すみません、どちらも未読です。架空の書籍ということなら、民明書房の方が馴染み深いか。本の内容と作品がリンクする訳ではないので、その点にツッコミを入れている人もいた。
えーと、例の思考停止ワードを言ってしまえば終わりですか。「R.O.D.」だとか、「委員長お手をどうぞ」の図書委員長であるとか…。
Ⅳ.「水たちがあばれる」
「ドグラ・マグラ」な「結晶世界」。「ブーン」が出てきた時点で、ラストは大体予想できる。
ところで、「もう一つの理由」とは何なのだろう?
ちなみに成人だと、水はおよそ60%。
Ⅴ.「探偵真木」
ここからはガラリと作風が変わって、ハードボイルドである。ただ、ひたすらに回りくどく書くのが良いのである。実は「星界の紋章」の会話も同じだったりすることに最近気づいた。
音楽談義はスルーの方向で。トーヤさんなら分かるのだろうか。
映画に関しては、いかにもな感じである。キューブリックだったり、ベネックスだったり。オシャレ系。
「絵を描く」、「風呂に沈める」、「カタにハメる」いずれも「ナニワ金融道」よりの引用と思われる。
.「ヘルター・スケルター」
趣味の合うヤクザ橋爪との出会い。
.「カム・トゥギャザー」
麻雀を富士見ファンタジアでやったことには驚かされた。「カナリヤ」も「虚無」も未読。読んでいて、一番面白かったかもしれない。
.「孤独のRunaway」
ヤクザの親父を嫌う娘が家出して…。「ロミオとジュリエット」も普遍的とまでは行かないが、よくある話。
<まとめ>
非常に如才ない作家だと思う。大抵のジャンルは書けるし、文章も上手い。今後、器用貧乏となってぱっとしないまま終わるのか、それともオールジャンルに活躍する作家となるのか、注目である。
ドラゴンマガジン昨年12月号の「眠り姫」記事左下の囲みのコメントを孫引きする。「長編執筆中で、あまりお待たせしない」とのこと。取り敢えず、とっとと働け貴子潤一郎、ということで。
「名前自体に意味はない。アルファベットを使った記号的なものにしたかった。音感が良かった」というのが定説。しかし「すべてを内包する」という意味でAからZ、 A'zとしたが、発音が「エイズ(AIDS)」と同じになってしまうのでB'zとしたらしい。現在は「ビートルズのBとレッドツエッペリンのZ」や「松本が蜂(bee)好きだから(B'zのロゴに蜂のマークが使われたとき)」など、TVやラジオで質問されるたびに答えを変えているようだ。
最終更新:2019年02月24日 12:45