2006年 4月21日 東北大学SF・ラノベ研レジュメ
映画 「宇宙戦争」 ―――なぜ今「宇宙戦争」か?―――
原作と作者について
- ハーバート・ジョージ・ウエルズ 1866~1946
小説家・歴史家・思想家 ジャーナリズムから物書きになり、空想科学小説と呼べる初期の小説を書く やがて社会主義へ傾倒して文明批評へとうつる。
代表作「タイム・マシン」「透明人間」など。
- スティーブン・スピルバーグ 1946~ 映画監督 からカメラを握り自主制作をしていたがTV映画「激突!」で評判を呼び、これが 以来さまざまなジャンルを手がける。
最新作「ミュンヘン」では賛否を呼んでいる。異星人との遭遇を描くのは「未知との遭遇」「ET」に続いて3度目。
原題「WAR OF THE WORLDS」の“WORLDS”がなぜ「宇宙戦争」に?
複数形のSなので「世界全て」ではなく世界同士の戦い、「世界間戦争」とでも訳すのが本当は正しい
「世界(の)戦争」ならWORLD ’ S 地球人の世界と火星人の世界、二つの「世界」がその生存をかけて戦う戦いを示す、とされる。でもインパクトある「宇宙戦争」と訳した人はスゴイ。
(追記)実は「前日談」がある?
ウエルズの短編「水晶の卵」がそれ。古物商で手に入れた水晶球には異形の景色が写っており、これはどうやら火星人らしい。こちらにあちらの景色が見えると言うことは
火星人も地球を観察をしているのではないか、と考察するのだが結局水晶の玉は行方不明になってしまう。
関連自信は特にないが、派生作品ではこれを利用しているものが多い(例:「シャーロック・ホームズの宇宙戦争」 「第二次宇宙戦争 マルス1938」 etc)
メディア |
小説 |
ラジオドラマ |
映画 |
映画 |
発表年 |
1898 |
1938/10/30 |
1953 |
2005 |
監督/執筆 |
H・G・ウエルズ |
オーソン・ウエルズ |
バイロン・ハスキン |
スティーブン・スピルバーグ |
主演 |
― |
オーソン・ウエルズ |
ジーン・バリー |
トム・クルーズ |
形式 |
日記風 |
偽ニュース+日記 |
? |
パニックアクション |
主人公 |
とある人物 |
とある人物 |
クレイトン・フォレスター |
レイ・フェアリー |
主人公の職業など |
詳しくは不明だが教養ある人物 |
詳細不明 |
物理学者(定番の万能科学者風人物) |
港のクレーン・オペレーター |
ヒロイン(?) |
? |
とくになし |
現場で知り合った教師 |
娘? |
おもな舞台 |
イギリス |
アメリカ |
アメリカ |
アメリカ |
第一次降下地点 |
田園地帯 |
ニュージャージー |
カリフォルニア |
ニュージャージー |
侵略してきたのは |
火星人 |
火星人 |
火星人 |
出所不明の異星人 |
侵攻兵器 |
トライポッド |
トライポッド |
エイ型の飛行兵器 |
トライポッド |
毒ガス |
○ |
○ |
× |
× |
電波妨害 |
× |
× |
○ |
○ |
バリア |
× |
× |
○ |
○ |
火星植物 |
○ |
× |
× |
○ |
密室での攻防 |
○ |
× |
○ |
○ |
主人公の目的地 |
ロンドン |
ニューヨーク |
なし(いつの間にか合流) |
ボストン |
人類の戦果 |
砲兵1台、艦船で2台*2 |
被弾した爆撃機が特攻かまして1台 |
原爆まで使用するも効果なし |
大阪で2台撃破?*3 |
特徴 |
徹底的な一人称で語られる淡々とした恐怖 |
前半のドッキリ展開が全てと言ってもよい 後半を聞いていた人はいないとか |
ご都合主義が多いのはこの時代だからご愛嬌 原作以上に「神」のモチーフが強調 |
親子の愛を強調。展開はかなり原作に忠実 |
ラスト |
どの作品も同じ。 |
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注1. トライポッド=直訳で「三脚」 火星人の三脚型歩行兵器のこと。おそらく史上初めて文学に登場した「科学的手段」による歩行機動兵器。
ラストシーンなどで鳥がたかっているシーンなどがあることから生きている一種の「生体」パワードスーツだろうか。小説では建設・土木作業に使う別の
マシーンが存在しているほか、最後のほうで飛行機械の存在が示唆される。用途に応じて使い分けているらしい。
小説の挿絵などにより、イメージもまったく異なる。超有機系メカであったり、メタリックで機械であることを強調していたり。
私には小松崎茂画伯の挿絵が印象深いです。
注2. 「衝角駆逐艦」と訳された 「サンダーチャイルド」。英国海軍ポリフィーマス級がモデルらしい。主兵装は砲・魚雷、そして船首の衝角(ラム)
一発も撃たずに接近し、零距離射撃で一台、その後、体当たりでもう一機を道連れに沈没した。人類が通常兵器で火星人の兵器を撃破した少ない例。
海外ウィキペディアにはわざわざ専門ページ(しかも「艦船」としてのページ+「テムズ川の戦い」なる戦史?)まであるのだ。イギリス人も好きだねぇ。脱帽。
ちなみに「第二次宇宙戦争 マルス1938」では生存者が居たことになっており、後継艦も建造。かの銀河連邦においても「U.S.S ThunderChild」が存在するだとか。
注3. 「大阪は多くの怪獣と戦っているから」とは監督の弁だが、それが何を示すのは不明。「ゴジラの逆襲」か昭和ガメラか「怪獣殿下」(ウルトラマン)か?
大阪人がどう倒したかについてでは「日本だから(劇中のトム君より先に)特攻を思いついた説」 ・「護国聖獣or正義の味方説」
「大阪のメシ(道頓堀)に当たった説」 「EDF(地球防衛軍)隊員説」 などがある。
(※移行者注 なお、これ自体電子妨害・情報錯そう下での発言なので、「単なる希望的観測のデマ」という方が濃厚 とも。
山本弘氏は「日本人がカミカゼ攻撃を遂行」という観測をしていた)
「宇宙戦争」の構造
実在した人物、実際の土地と情勢を丁寧に織り込み、当時の科学的知識を持ってできるだけ正確に再現された世界観。
(例:発光体を観測したのは実在の天文学者や観測所 破壊されるのは実在の建物など
「ネイチャー」に掲載されたと言うなぞの発光体の論文は実在する)
近代兵器そのすべてをもってしても対抗できない圧倒的戦力差とそれゆえに虐殺される人々、無政府状態の発生による暴徒の発生。ささやかなものをめぐる醜い争い
昔のバージョンでは馬車、今では車。(しかし映画だとフェリーに車を持ち込めた運のいい奴が居たような)
ウエルズはイギリスを始めとする列強各国の拡大を別の形で警告したと俗に言われる。圧倒的科学力で原地人をねじ伏せ(火星人は熱線と毒ガスで)、
それを搾取する(火星人は人間の血液を吸う)。あのラストもそれを踏まえている。
(未開の地に足を踏み入れた結果… 最近もありますね。 エイズとかエボラとかSARSとか。 <ネタバレ注意)
「神」や「異国の野蛮人」などとはまったく異なる存在との「種の生存」をかけた闘争。
ありとあらゆる侵略物はここから始まると言ってよい。(のちの「空飛ぶ円盤」ブームとつながる)
→メディア化の際には必ず「製作時の年代を舞台に」作られる。これは原作の上記の要素が今も重視されているからか?
それゆえにバリアだの電波妨害だのと、異星人の戦力もパワーアップしている。
(ラジオドラマ版・・・第二次大戦前 欧州でのファシズムの台頭と戦争の恐怖 53年版・・・大戦後の「第三の戦争」の恐怖 05年版・・・911テロ後 「テロの世紀」の到来 )
一方、派生作品は必ずと言っていいほど19世紀末~20世紀初期に火星人が現れると言う設定を好む。
→スチームパンク・伝奇SF もしくは「実在した出来事としての」宇宙戦争 メタ的構成 「仮想」仮想戦記?
こういう形での本格的映像化もいずれ期待したいところ。(昔、キューブリックが狙っていたらしいが結局ならず。)
アメリカの映画会社、Pendragonが原作に忠実にヴィクトリア朝の「宇宙戦争」を撮影したとのこと。まぁ、努力はわかる出来。でも、作ってくれたことが重要。
公式サイトはこちら 予告編はこちら
(追記)今回の映画版について
- いきなり日常に出現した「無慈悲な死」については原作をかなり踏まえているだけでなくそれ以上に「過激」に映像化してくれちゃってますが
今回のメインテーマは「家族愛」。
- 911を髣髴とさせるシーンは多い。家の前の国旗の列に始まり、安否確認の写真、(人間の)灰で白く染まる人々、煙で覆われたボストン、墜落した(?)旅客機など。
- ダコタ・ファニング 通称「ダコたん」演ずるところの娘レイチェルは10歳という設定だが、年のわりにはまだ幼い もしくはいわゆるパニック障害?
兄貴が彼女を落ち着かせるシーンから見るに可能性は高いかもしれない。いつも面倒見てあげてるんだろうか(もちろん、他意はないので念のため)
- 父親像の変化については逃亡開始初期のダメ親父っぷりを発揮して空回りしているところはなんと考えればいいのやら。
- 普段ならやりそうなドンパチは少ない。F-22A・F-16C・F/A-18Eのオールスター勢ぞろいとか攻撃ヘリの一斉発射とか派手ではありますが当然主役ではありません。
- 最後にトム君がトライポッドを倒しちゃうのは当然原作にはないシーンだが、どうも「華」がないから付け加えたんじゃないかという気がしないでもない。
- ラストシーン。感動の再開だがトム君の居場所は・・・という演出は悲しいけれども
ハリウッドマジックで強引にハッピーエンドにされて居るような気がして、見ているこちらは騙されてる気もしないではない。
が、まぁ変な解釈加えたり「それでは今から人類の総反撃だぁ」とやるよりはずっとすっきりとしてるんじゃないでしょうか。
ラストのオチについては、予備知識程度に知っている人はあまり多くないかもしれませんが。(かなり知らない人からは不評だったらしい)
私は昔見た図鑑に載ってました。よく見るとOPのシーンにつながります。
「神が与えたもっとも小さなもの」と言うモチーフは53年版でも使用されてました。
派生作品(日本)
- 「清太郎出初式」 梶尾真治 SFマガジン78年11月号 短編集「もうひとりのチャーリィ・ゴードン」他多数に掲載
1900年の設定。九州に落下してきた降下部隊に家族を殺された鳶の男が、生き残りの人々と知り合い、やがて火星人に対して一世一代の「賭け」を挑む
実話であったことを強調させるラストの演出もにくいが、最近の作品のキーワード「家族の絆」についても出てくる。
- 「火星人類の逆襲」 横田順彌 新潮文庫 1910~1912年の設定
超能力者、御船千鶴子が「念写」した印画紙には、謎の円筒形の物体が描かれていた。それから数ヵ月後、大森海岸に不振な物体が漂着・・・
日本の冒険・SF小説の先駆者、押川春浪と、日本野球の出発点ともいえる「天狗倶楽部」のメンバー、吉岡信敬らが第二次降下部隊である
火星人に挑む痛快冒険小説。登場人物から風土まで、すべてが実在!明治版「ゲーム脳」である新渡戸稲造の「野球害毒論」なんてものも登場、
主人公たちには火星人以上の脅威として立ちはだかる(何
ちなみに続編「人外魔境(ロストワールド)の秘密」は天狗倶楽部の面々が南米奥地、古代生物の跋扈する「失われた世界」に挑む!というこれまた痛快冒険活劇。
- 「第二次宇宙戦争 マルス1938」 伊吹秀明 KKベストセラーズ 1916~38年の設定
宇宙戦争の後日談のみならず、前半は冒険活劇、後半は仮想戦記という一粒で三度おいしい一冊。火星人全滅後、残った火星人の兵器が
世界のミリタリーバランスに与える影響と、火星人による第2次侵攻作戦を描く。第一次大戦で戦車が初登場したとき、秘匿のために「タンク」(水槽)
と名づけたことにひっかけて、トライポッドの名称を「ターレット」(やぐら)としちゃうなど、ミリタリーでもわかってらっしゃる。
実在の人物はもちろん、1938年のかのラジオ放送まで登場。(ラジオドラマでやろうとしてた矢先に今度はホントになる)
どれも明治時代中期にかけて火星人が日本に襲来するさまとそれに立ち向かう人々を描く。
デザインだけの例だと「宇宙戦艦ヤマト」における暗黒星団の三脚戦車や「SIMPLE2000 THE地球防衛軍」「同2」の歩行戦車ダロガ・ディロイ
のデザインはまさしくトライポッド。第9使徒?あれのモデルは「ザトウムシ」ですね。
派生作品 海外作品
- 「エジソン火星を征服す」 G・P・サービス (翻訳なし)
天才発明家たちの報復艦隊による火星征伐を描く。
いうなら「平行世界」もの。火星人の攻撃を目の当たりにした世界の人々は、別次元の世界に対し警告を発するのだが・・・
名探偵S氏とその助手W博士もなぜかご登場。
- 「シャーロック・ホームズの宇宙戦争」 マンリー&ウェイド・ウェルマン 創元社
ホームズが古物商で手に入れた「水晶の卵」に映し出される奇怪な影。彼はすぐさま変人科学者・チャレンジャー教授に鑑定を依頼した!
コナン・ドイルの名物コンビ(ホームズ&ワトソン、チャレンジャー&マーロウ)二組が火星人に立ち向かう。原作で出てきた矛盾の考察や
オーバーテクノロジーの解析などウエルズ作品評としてもなかなか。でも、ワトソン君の描き方はちと・・・
- 「巴里の火星人」 ディヴィッド・ブリン&グレゴリイ・ベンフォード SFマガジン98年11月号
フランスにも火星人が降下。ここにフランスきっての「空想科学小説」の生みの親、ジュール・ヴェルヌと巴里っ子たちが「科学知識」で
トライポッドに立ち向かう!ハードSFの二人による短編。主兵器熱線砲の波長を分析していたりと芸が細かいが、メイントリックについては??
- 「リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン(続)」 コミック アラン・ムーア&ケビン・オヴニル
「リーグ・オブ・レジェンド」として映画化されたコミックの続編。「奇人同盟」の皆がそれぞれの特殊能力で一致団結(?)してロンドンを目指す火星人と戦う。
- 「トリポッド 1~4」 ジョン・クリストファー 侵略者に占領された地球を舞台とするジュヴナイル。侵略者が使うのはおなじみ三脚歩行兵器
アメリカでは宇宙戦争関連作品アンソロジー、なんてものもあるそうでこれからもファンの創作は増えていくでしょう。
派生映像作品
1938年のラジオドラマの騒動を映像化。
- 「エイリアンウォーズ 新・宇宙戦争」 ドラマ 全20回
53年版の映画に対する続編的テレビシリーズ。この作品世界では、1953年にホントに侵略があったということになっている。
ニュージャージー州・グローヴァーズミル( かのラジオドラマでの火星人が降り立った地点とされた場所 )で、火星人の撃退記念祭が
開かれようとしていたころ、残された火星人の装備を研究していた軍の施設で異変が・・・ 彼らは死んでおらず、化学廃棄物による汚染でよみがえったのだ!さらに、
彼らは実は火星人ですらなく、第2次部隊も地球攻撃の準備を固めていた。人々を乗っ取り、すり替わる宇宙人に対し特別チームが立ち向かう。
って、それは「宇宙戦争」というより「インベーダー」や「ボディ・スナッチャー」ですな。
こらむ
- 「インデペンデンス・デイ」は1953年版へのオマージュといわれるシーンがいくつかある。
平和的コンタクトを諮ろうとする人々を抹殺する異星人、円盤のバリア展開、生体機械「バイオメカスーツ」で身体機能を補う宇宙人、
起死回生を狙った人類最強の兵器、原爆投下シーンとそこで登場する爆撃機 (YB-49→B-2 どちらも翼だけが飛んでいるように見える全翼機)、
世界各国の惨状や一致団結しての反抗作戦など。また、円盤のバリアを消すための秘策はもちろん原作からずっと続くラストのオチを基にしている。
「マーズ・アタック」もいってみれば本作品のパロディ。
- 1953年版でトライポッドが出てこないのは「空飛ぶ円盤」がブームだったことに加え、当時の特撮技術・操演では無理だったから。
また代わりに登場したエイ型飛行機械のデザインは日系人のアル・ノザキ。あれはちなみに原作を踏襲してか宇宙船ではない(はず)。
今回のスピルバーグ版では、主人公とヒロイン役の二人が実はラストシーンのボストンの老夫婦として出演している。気がつくかな?
- CBSによるラジオドラマ版は劇中に何度もドラマであると述べていたにもかかわらず、多くの人が「本当の」侵略だと勘違いしたことは有名。まずは音楽の生演奏番組を装い、
次々にニュース速報が入って中断されるという仕掛け。当時の不況や第二次大戦前夜の不穏な情勢、そして火星への興味が重なる形でこのような事件が起きたといわれる。
もちろん、ドキュメンタリー・タッチの原作の存在も忘れてはいけない とはいえ、当時そこまでSFが浸透していたわけではなかったのだが・・・ 火星人最初の降下地点とされた
ニュージャージーのグローヴァーズ・ミルには今もこの騒動を表す記念碑が立っている
さらに今度はエクアドルで同じ放送を行ってみたところ、やっぱり大パニックが発生。ウソとわかると今度は放送局が襲撃され死者多数。
以来、同じことを試みるものはないという。
「偽ドキュメンタリー」と言う分野はあるし、毎日日にち偽知識を視聴者に叩き込んでいく番組はあるんですがね。
- 火星人は数字の「3」を基調にしているとされることがある。三脚兵器に三本の手足、三本指は映画版では共通。53年版では円盤は三角形、
さらに触手についていた視覚素子も三色にきれいに分かれていた。今回では異星人のデザインはまったく異なるがやっぱり三本指で、脚もたしか3本あったはず。
参考サイト
最終更新:2019年02月24日 13:55